第五百五十三話 奇策縦横(中編)
---三人称視点---
権天使プリシンパティは、
天馬に引かれた黄金の戦車の御者台に座りながら、
手綱を操って、地上に舞い降りた。
その黄金の戦車を守るように、
五十体の天使騎士が周囲を固めていた。
その光景を目にした大天使アーク・エンジェルは、目を瞬かせた。
対するプリシンパティは、
優雅な仕草で戦車から降りて、
コツコツと白銀の脚甲を鳴らして
アーク・エンジェルの傍まで近づいた。
「大天使アーク・エンジェル。
熾天使ウリエルの命令によって、
私――権天使プリシンパティがアナタに加勢する事となりましたわ」
「……了解しました」
「だけど現場の指揮権はアナタに預けておくわ。
私はここから天使騎士を操って、
敵に目掛けて自爆させるようにするわ」
「……天使騎士を自爆させるのですか?」
「そうよ、そうすれば敵も怯むでしょう。
この件に関しては、アナタも思うところがあるでしょうが、
これは熾天使ウリエルの許可を受けた上での作戦。
だからアナタにも素直に従ってもらうわよ」
「……はい、素直に従います」
アーク・エンジェルは、固い表情でそう答える。
一方のプリシンパティは、
満面の笑みを浮かべていた。
「そう、素直な人は好きよ。
大丈夫、壊れたらまた作ればいいのよ。
じゃあ早速だけど、
強制魅了状態にした天使騎士を前線に派遣するわよ」
「……はい」
一方、その頃。
「猫天使の鎧」を装着した猫族達は、
我が物顔で空を飛び回り、
周囲の天使騎士を撃破していた。
「ニャ、ニャ、今日は絶好調ニャン」
「ニャ、ニャ、オイラも絶好調だよん。
この鎧さえあれば、空中戦じゃ負けないニャ!」
猫族の魔導猫騎士達は、
素晴らしい魔法力と反射神経の持ち主だが、
元が猫、故に、このように有利な状況になると、
急に力を抜いて、相手を舐める悪癖があった。
「お前等、油断するんじゃないニャン!
こういう時ほど、気を引き締めろ!」
「はいニャーン」「はーい」
ニャラード団長がそう叱責するが、
魔導猫騎士の大半は気を抜いていた。
そこにプリシンパティに強制魅了状態にされた
数十体に及ぶ天使騎士が新たに現れた。
「ニャ、ニャ、また来たニャン!」
「大丈夫ニャン、きっちり返り討ちにするニャ」
余裕綽々の魔導猫騎士達だが、
ニャラード団長は、いち早く異変に気付いた。
「あの天使……目が赤く光っている。
それに心なしか、魔力が上がっている気がする。
これは危険な匂いがするニャン。
おい! お前等、気を引き締めろ!
この敵は今までと様子が違うぞォっ!」
「ニャー、団長はいちいち気にしすぎてる……ニャッ!?」
強制魅了状態にされた天使騎士が
魔導猫騎士達の近く寄るなり――
「……自爆開始っ!」
「天よ、我を導きたまえっ! 自爆開始」
「ニャ、ニャンだ……アァァァ……!!!」
強制魅了状態にされた天使騎士の身体が淡く光って、
次の瞬間には、大爆発を起こして、
周囲の魔導猫騎士達を巻き込んだ。
「びゃ、ビャーッ! 誰か助けて――」
「ギワニャーンッ! 火が火がっ!
身体が燃えるだニャン!」
「な、何がどうなってるニャン?」
「じ、自爆だ。 アイツら自爆してるだニャン」
「ニャンだって!?」
「わー、またこっちに来るニャン!?」
その後も強制魅了状態にされた天使騎士達は、
プリシンパティに命じられるまま自爆攻撃を続けた。
自分の命と引き換えてに、
相手を道連れにする非情かつ非道な戦術。
これには多くの魔導猫騎士が恐怖に怯えた。
「ニャー、こんな話は聞いてないニャンッ!!」
「アイツら、おかしいよ! 普通、自爆するか!!」
瞬く間に周囲に恐怖が伝染する。
狩る者から狩られる者に急変。
こうなると猫族は弱い。
「ニャー、無駄死にはしたくないニャン」
「激しく同意ニャン、バイバイニャーンッ!」
「ま、待て! 持ち場を離れるニャ」
周囲の部下を叱責する魔導猫騎士ニャーラン。
だが彼等にはその言葉が届かない。
そんな中でもニャラード団長は、冷静さを保っていた。
「ニャーラン、無駄だニャン。
こうなれば猫族は脆い。
だが我々で連中の動きを食い止めるぞ!」
「ニャラード団長、了解致しましたニャン。
でも具体的にどのように動きを止めるんですか?」
ニャーランは素朴な疑問を抱いた。
それに対して、ニャラード団長は、堂々と答えた。
「難しいが自爆するであろう天使に狙いを定めて、
範囲を最小限にして、強度を最高にした封印結界を張るニャン。
これが上手く行けば、
連中は結界の中で自爆して、こちらは無傷だ」
「ニャ! 流石は団長! 頭良いニャン」
「おいどんも賛成でニャンす!
とりあえずこの面子で三匹一組になりましょうや」
「ツシマン、私も最初からそのつもりだ。
とりえあえずお前等は私の後ろを飛んでくれ!
私が取り逃がした天使を封印結界で閉じ込めるニャ」
「了解ニャン」「了解でニャンす!」
「早速来たニャン。
とりあえず短縮詠唱で試してみるニャ!
ハアァア……アァァァ! ――『封印結界』ッ!!」
ニャラード団長が呪文を唱えるなり、
こちらに向かって来た天使騎士三体の周囲が
ドーム状の透明な結界で覆われた。
範囲は最小だが、強度は最高に設定。
すると突撃して来た天使騎士三体の動きを綺麗に封じた。
「おおっ! 流石はニャラード団長ニャン」
と、ニャーラン。
結界内の天使騎士三体は、
右手に持ったエンジェル・セイバーで封印結界を斬りつけるが、
結界はビクともしなかった。
そして十五秒後。
結界内で天使騎士の身体が爆発して、
近くに居た二体も物の見事に巻き込まれた。
だがそれでも封印結界が破られる事はなかった。
短期間で思いついた戦術だが、
どうやら想像した以上に使える策のようだ。
「良し、まずはこの三人でやって行こう。
成功を重ねねれば、周囲の味方も落ち着くだろう。
大丈夫、向こうもこんな策を連発は出来ないさ」
「ニャー、了解だニャン」
「了解でニャンす!」
こうしてニャラード団長達は、
三匹一組となって、自爆特攻して来る天使達を
次々と封印結界に閉じ込めて行く、
戦いの流れがまたこちらに傾き始めた。
次回の更新は2024年12月5日(木)の予定です。
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