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第五百三十四話 特異点


---三人称視点---



「「……」」


 天使長の言葉に押し黙る熾天使してんし二人。

 ミカエルはその反応を見て「ふっ」と笑う。

 それを見てウリエルが天使長に問いかけた。


「仮に彼奴きゃつが特異点として、

 あの世界――ウェルガリアでどのような影響力を及ぼすのだ?」


「……まず我々は、あの世界の魔族を監視対象にしていた。

 あの魔族という種族は、

 約一千年周期で一つの世界を滅ぼし、

 時魔法や転移を使い、また新たな世界へ移住していた。

 だから我々は魔族という種族を危険視していた」


「嗚呼、我々が課せた異世界、他天体の侵略に

 該当する行為だ、だが連中は他種族と和解した。

 となればあの世界――ウェルガリアも平和になるのでは?」


「嗚呼、だがそれが問題なのだ」


 ラファエルの問いに首を左右に振るミカエル。

 その反応にラファエルも少し渋い表情をする。

 そして天使長は、そんなラファエルを軽く諭した。


「他種族と融和した事によって、

 魔族は恐らくウェルガリアに長く留まるであろう。

 今は問題ないが、いずれ人口増加により、

 あの惑星が手狭になるであろう。

 その時、恐らく連中は時魔法と転移を使って、

 異世界、他天体へ進出するであろう」


「確かにそうなるであろう」


 天使長の言葉に納得するラファエル。


「魔族は約一千年周期で一つの世界を滅ぼしていたが、

 文明レベルはそれ程高くなかったので、

 科学力で異世界、他天体へ進出する事はなかった。

 だがあの世界の他種族と融和した事により、

 文明レベルも上がり、

 更には時魔法や転移も進化する危険性が出て来た。

 基本、科学力が高い惑星は、

 魔法などの超自然能力が低い傾向にあるが、

 魔法力と科学力を有した文明は、

 我々の立場からすれば、少々厄介な存在だ」


「……成る程、そしてあの世界がそうなりつつあるのも、

 全ての原因は彼奴きゃつ――銀髪の小僧にあるという訳か」


「同士ウリエル、その通りだ。

 彼奴きゃつがあの魔王と戦い、

 そして説き伏せた事によって、

 あの世界の歴史は大きく変わった。

 そういう意味では、彼奴きゃつは間違いなく特異点だ」


「そしてついこの間に、

 我等、天使と連中が邂逅した。

 その結果、アーク・エンジェルが辛酸を舐めたようだな」


 と、ラファエル。


「うむ、奴は仮にも大天使。

 その大天使相手に真正面から抗うとは……。

 奴等の戦闘力も侮れんな……」


「嗚呼、だがガブリエルの介入で何とか事なきを得た。

 同士ガブリエル、聞こえているか?

 貴公もこの場に居るのだろう?」


 天使長がそう呼びかけた。

 するとこの真っ黒い広い空間――てんが静寂に包まれたが、

 三十秒後にコツコツと床を鳴らして、

 熾天使してんしガブリエルが現れた。


 身長は170前後。

 透き通った水色のロングヘア。

 白い肌に金色の瞳。


 白い羽衣の上に水色の軽鎧ライト・アーマーを纏い、

 その背中には二枚一対の純白の美しい翼が生えていた。

 あのグラフェルの塔に現れた者と同一人物である。


「ええ、天使長ミカエル。

 私にも貴方達の話は聞こえていたわ」


 ガブリエルは凜とした声でそう答えた。

 すると残り三人の熾天使してんしの視線が自然とガブリエルに向いた。


熾天使してんしガブリエル、貴公が連中を無力化したのだな?」


「ええ、同士ウリエル。 その通りよ」


「それ自体はお手柄だが、

 熾天使してんしである貴公が異世界の住人に、

 接触するのは少々越権行為ではないか?」


 ラファエルはそう云って、

 キッとガブリエルを睨め付けた。

 だがガブリエルは逆に表情を緩めた。


「私も接触する気はなかったのよ。

 でもアーク・エンジェルが追い詰められてたから、

 仕方なく地上に降臨したのよ」


「本当にそれだけか?」


 疑いの眼差しを向けるラファエル。

 だがガブリエルはあくまでマイペースに――


「ええ、そうよ」


 と、淡々と答えた。

 すると天使長が不意に会話に割り込んだ。


「まあ貴公は天使にしては、

 女性的部分が強いからな。

 慈悲の心で異世界の生物に接したのであろう。

 そう言えば、貴公はあの水の星でもよく干渉していたな」


「……そうだったかしら?」


「嗚呼、あの惑星のあの男の生誕にも関与してたであろう。

 それ以外にも時々、あの世界の住人に啓示を与えていた」


「……そう言えば、そんな事もあったわね」


 あくまでしらを切るガブリエル。


「そう言えば、あの水の星はその後どうなったのだ?」


「ウリエル、途中までは興味深い成長を遂げていたが、

 ある段階からは、他の惑星同様に、

 ごく普通の文明を築いていた筈だ。

 だがその後、どうなったかは忘れたな。

 あの水の星はもう滅んだのであろうか」


 と、ラファエル。


「ラファエル、それ自体は大した問題ではない。

 だがガブリエルよ、今後はあまり地上の生物に干渉するな。

 所詮、貴公がどんな啓示を示そうが、

 肉体という牢獄に囚われた魂には限界がある。

 だから多少の変化は与えられても、

 生物そのものの根幹を変える事は出来ぬ」


「……そうね」


 ガブリエルは、天使長の言葉に小さく頷いた。


「それで天使長、ウェルガリアをどうするつもりなのだ?」


「ウリエル、私も悩んでいるのだ。

 このまま問答無用に制裁を加えて良い気もするが、

 そうするのは厳しすぎるという気持ちもある。

 だがいつでも地上に降臨出来るように、

 天使騎士エンジェル・ナイトの大量生産。

 それと天空てんくう方舟はこぶねメルカバーも発進準備を整えておけ!」


「天使長、天空てんくう方舟はこぶねメルカバーを使うつもりなのか?」


「同士ラファエル、いざウェルガリアを制圧するとなれば、

 こちらもそれ相応の戦闘準備が必要だ。

 そして制圧するのであれば、

 こちらも全力を尽す、ただそれだけの話だ」


「……そうか、だがすぐには準備出来ぬぞ。

 生命せいめいで、

 生産・管理する天使騎士エンジェル・ナイトの数を揃えるにも、

 それ相応の準備が必要だ」


 と、ラファエル。


「分かっているさ、まあそう急ぐ問題でもない。

 我々はゆっくりと準備すればいいのさ。

 この天界では、時間という概念はない。

 だから焦らず、入念に準備すれば良い」


「……分かった」


「うむ、私も天使長の意向に従おう」


 と、ラファエルとウリエル。

 そして天使長は眼前のスフィアを見据えた。

 スフィアの中には、

 ウェルガリアの世界が映し出されていた。


「……特異点か。

 この特異点はどのような変化を生じさせるか。

 それが楽しみでもあり、不安でもあるな」


 だがそう言う天使長の声は、

 何処か楽しげであった。



次回の更新は2024年10月22日(火)の予定です。


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― 新着の感想 ―
更新お疲れ様です。 ラサミス、主人公らしく命を狙われていますね。 そして、登場人物を見るに魔王と天使長にも主人公補正がかけられる予感。 これは、主人公力を競う戦いが期待できますね!
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