第五百三十一話 五里霧中(中編)
---ラサミス視点---
その後、特に問題なく、
ドラゴニアの冒険者区に無事、転移した。
「今日はもう遅い。
だから族長の屋敷に泊まるが良い」
レフ団長に言われて、
オレ達は北部の居住区にある族長の屋敷へ向かった。
するとオレ達を出迎えた族長アルガスは――
「皆様、ご無事のようで何よりです。
詳しい話は明日以降に聞きますので、
今日はこの屋敷の客間にお泊まりください」
と言ったので、
この場は素直に厚意に甘える殊にした。
だが肉体的にも精神的にも疲労してたので、
殆どの者が夕食を摂らず、
浴室で入浴、あるいはシャワーを浴びたら、
客間のベッドに潜り込んで爆睡した。
翌日の8月22日。
多くの者が疲れていた為、
起床時間は午前の十時くらいであった。
そして食堂で軽い朝食を摂ってから、
「それでは皆様、戻って早々ですが、
午後の十四時に大広間にお集まりください。
今回の任務について、お互いに話し合いましょう」
と、族長アルガスが言ったので、
オレ達も彼の言葉に素直に従う事にした。
そして時間ギリギリまで客間で休憩してから、
オレ達は族長が待つ大広間へ向かった。
すると部屋の中には、
前回の会議で使った部屋の中央に、
配置された長テーブルの左側に――
族長アルガス、レフ団長、ロムス副長。
それとカチュア、キルラール団長。
更にはクロエとカリンが既に椅子に座っていた。
そして右側の席に、
オレ、ミネルバ、メイリン。
更にはグリファム、エンドラ、デュークハルトの三人が座った。
重要な会議になりそうだったので、
ミネルバ、メイリン以外の団員には、
この会議に参加する事は控えてもらった。
ジュリーとバルデロンはまだ比較的新しいメンバーだし、
そしてマリベーレとジウバルトはまだ子供だからな。
とりあえずこの面子で会議する事となった。
「では今回の調査結果を報告します。
実は――」
オレは要点を絞って、
事のあらましを族長アルガスに伝えた。
すると彼の表情が見る見るうちに険しくなった。
まあこの反応も無理はない。
何せ天使だけでなく、熾天使まで出てきたんだからな。
そりゃ驚くな、という方が無理な話だ。
「成る程、これは由々しき事態となりましたな。
正直、ワシの一存では決められない話です」
沈痛な表情でそう言う族長アルガス。
さて、本来ならばオレも報酬さえ貰えば、
政治的な問題には、口出ししない所だが、
今回のようなケースでは、
流石に何も云わない訳にはいかない。
「まあ族長のお立場ならそうでしょう。
ですが事は竜人族だけでなく、
他の四種族にも及ぶ問題でしょう。
故にこの問題を何処までおおやけにするか。
アルガス族長の方針を決めて頂きたいです」
オレがそう言うと、
族長アルガスはしばしの間、沈思黙考する。
そして考えがまとまったのか。
ぽつりぽつりと意見を述べ始めた。
「今回の調査対象は天使。
この事実は我等、竜人族だけで情報を独占するには、
少々荷が重いでしょう。 ですがこの情報を
他の四種族と共有するのも問題が生じると思います」
「ですが私を含めたここに居る魔族は、
今回の一件を魔王陛下にお伝えしますよ」
グリファムが両腕を胸の前で組みながら、
毅然とした口調と態度でそう告げる。
「ええ、アナタ方は現場に居合わせたので、
当然、その事実を魔王陛下に伝えるべきでしょう。
しかし竜人族、魔族を除いた三種族には、
天使の存在を伝えない方が良いと思われます」
「アルガス族長、それはどういった理由でしょうか?]
女性錬金術師のクロエが族長にそう問い質した。
この理由はオレも気になるところだ。
なのでこの場は族長の意見に耳を傾けよう。
「一言で申し上げるならば、
この一件がおおやけになれば、
五大種族の為政者や王、その側近が
大きく動揺するのは、火を見るより明らかです。
だがいくら騒いだり、警戒心を高めても、
相手は天使です。 正直、我等の手に負える相手ではない。
とワシは思いますので、
今回の任務に参加した魔族を除いた連合の方々にも、
各種族の為政者や代表に黙っていて欲しいのです」
「……」
族長のこの言葉で周囲が静寂に包まれた。
要するにこの件は、内々に処理しろ、という話だ。
まあ竜人族らしい保守的なやり方だと思う。
だが族長の言うことも一理あると思う。
今回の件を仮に各種族の代表に伝えたとして、
それで代表やその側近はどういう反応を示すか。
少なくとも多少は動揺するであろう。
でも天使達の正体に関しては、まだ謎のままである。
要するに上層部が知ったところで、打つ手はないのだ。
ならば事前に情報を隠蔽して、
余計な混乱が起きないようにする。
という族長の考えは分からなくもない。
「私はアルガス族長の考えに賛成だわ。
下手に上へ報告しても、
混乱するのは目に見えている。
但し連合内では、情報を共有させてもらうわ。
それさえ許可して頂けたら、
この件に関しては、情報を外部に漏洩させないわ」
クロエが凜とした声でそう言う。
オレも基本的に彼女と同意見だな。
ならばオレもこの場は彼女と同意見、同じ立場でいこう。
「ええ、クロエ殿。 それで構いません」
「分かったわ、カリン。 アナタもこれでいいわよね?」
「ええ、あたしもクロエ姉さんの方針に従うわ」
これでヴァンキッシュの面々は賛同した。
だがグリファムは難色を示した。
「我々、魔族はこの件を魔王陛下に伝えて、
魔王陛下と幹部連中を集めて、対策会議を行うつもりだ。
だが事が事だ。 我等、魔族だけではやれる事が限られる。
だから私としては、竜人族だけでなく、
残りの三種族の助力が欲しい、というのが本音です」
このグリファムの意見は至極真っ当だ。
しかし魔族は魔王レクサーを中心として、
固い結束力で幹部達とも結ばれているが、
四大種族は、魔族のようにはいかないだろう。
「グリファム殿の言い分はよく分かりますが、
ワシの一存では、決められない重要事項です。
とりあえず今は様子を見ませんか?」
「……とりあえず我々は魔王陛下に報告して、
魔王陛下のご判断を仰ぐ事にしよう」
「ええ、それに関してはお止めしません」
「……その後の話し合いの場も一席設けたいですな」
「……必要あれば、そう致します」
「……前向きな返答を期待してますよ」
その後もアルガス族長は、
のらりくらりとグリファムの意見を躱した。
まあコレに関しては、
オレはあくまで中立の立場を護りたい。
正直、事が事だからな。
そして事前の約束通り、
オレ達「暁の大地」にも前金500万グランに加えて、
成功報酬300万グランを銀行振り込みしてもらった。
合計800万グラン(約800万円)だが、
一人頭にすれば100万ちょいってとこか。
正直、今回の件の報酬としては微妙だな。
そして数時間に及ぶ会議が終わり、
日も暮れていたので、
オレ達は族長の屋敷の客間に二日族けて泊まった。
兎に角、疲れたぜ。
だから今夜はゆっくり寝るぜ……。
次回の更新は2024年10月14日(月)の予定です。
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