第五百二十一話 天使降臨(中編)
---ラサミス視点---
オレ達は天使を自称する者達の亡骸を
入念に調べて、現状の把握を務めた。
それによって分かった事が幾つかあった。
1.この連中は、純粋な生物ではない。
2.だが人造生物や人工機械人形とも少し違う。
3.首を刎ねたり、心臓部の核を破壊すれば行動停止となる。
とりあえず現時点でもこれだけの事が分かった。
だがそれと同時に感じた事もあった。
それはコイツ等を使役する存在が居る、という点だ。
人造人間にしては、機械的な部分が多く、
人工機械人形にしては、ヒューマノイドに近い気がする。
少なくともそれなりの知能を持っており、
自分で考えて言語を発する事が出来るようだ。
「妙な生き物……存在よね。
人造人間ほど人間っぽくないけど、
人工機械人形よりかは人間っぽいわ」
どうやらエンドラも同じ意見のようだ。
「だが完璧な生物というわけではなさそうだ。
首を刎ねたり、核を破壊すれば死亡。
いや行動停止状態になるのだからな。
それが分かればそれ程怖い存在でもない」
グリファムが淡々とそう言うが、
メイリンは別の意見を述べる。
「確かにコイツ等、単体じゃそれ程怖くないわ。
でもこんな存在が何の理由もなしに産まれる訳がない。
となるとコイツ等を操る親玉がきっと居る筈だわ」
「そうね、そう考えるのが妥当ね」
ミネルバがメイリンに同調する。
コレに関しては、オレも同じ意見だな。
そう考えると、あまり油断しない方がいいな。
「後、コイツ等は時魔法なるものを使ってきたが、
この中で時魔法に詳しい者は居るか?」
するとエンドラが「ハイ」と挙手して答えた。
そして彼女は要点を絞って、
幾つかの時魔法に関して説明した。
とりあえず初歩的及び中級の時魔法は――
1.タイム・クローズ:対象の体感速度を下げる
2.タイム・アクセラレーション:
対象者の体内時計を進める時魔法。
3.クロノ・ダイブ:対象者の体感速度を上げる。
以上の三つが基本的な時魔法に該当するらしい。
「まあアタシは時魔法は一切使えないけどね。
お爺ちゃん……大賢者ならもっと知ってるかもね」
お爺ちゃん……大賢者?
ああ、シーネンレムスの事か。
確かにあの御仁なら色々知ってそうだ。
「時魔法使いは貴重だからね。
各種族の統領、王族に一定数の時魔法使いが仕えているけど、
独特な魔法故に、一般の冒険者とかには殆どいないのが実情よ」
女性錬金術師のクロエがふとそう言った。
「クロエさん、そうなのか?」
「ラサミスくん、そうなのよ。
まあ瞬間移動魔法に関しては、
結構使われてるけど、
アレも回数制限などがあるでしょ?」
「確かにそうだな」
「一部には時を跳躍する時魔法があるという噂を聞くけど、
そんなものが多用されたら、
種族や国の成り立ちがおかしくなるでしょ?
だから時魔法使いは、
基本的に種族や国家に忠誠を誓う者しかなれない。
というのが定説なのよ」
「成る程な」
そう言われると色々と納得がいく話だ。
「あ、でも一部のかなり高レベルの回復魔法は
時魔法も使えないと、高レベルの治癒が出来ないとも聞くわね」
そう言ったのは、「ヴァンギッシュ」のカリンだ。
そう言えば、オレもそう話を聞いた事がある」
「カリン、その話は本当なのかい?」
オレがそう言うと、彼女は控えめに「ええ」と頷いた。
「例えば切断された右腕を切断部に合せて、
回復魔法を使えば、腕は元通りに繋がるわ。
でも欠損した腕がない場合の治療はかなり難しい。
という話はラサミスくんも知ってるでしょ?」
「ああ、冒険者なら誰でも知ってる話だよな」
「そして欠損したパーツにあたる部分がない場合は
身体が正常だった時まで、
限定的に時を戻して、
欠損した指や腕、歯などを治すのよ。
この際には回復魔法だけでなく。
時魔法も合せた合成回復魔法を使うのよ」
ああ、そう言えば何度か聞いた事があったな。
「そしてあの天使を自称する連中の身体は、
基本的に機械仕掛け。
回復魔法は生身の肉体の回復や再生をするけど、
機械相手には効かない筈よ。
でも連中も何らかの回復手段は持ってると思うのよ」
「カリン、つまり奴等は時魔法で治癒する、と言いたいのか?」
「まあその可能性があるという話よ」
「でも充分有り得る話だな。
それに加えて、こうして皆で話し合えば、
奴等の存在もぼんやりとだが分かってきた。
少なくとも奴等は神聖不可侵の存在じゃない。
だから今後も気になる点があれば、
皆でドンドン情報を出し合って、
奴等の情報を共有しよう」
すると周囲の仲間達もオレの言葉に大きく頷いた。
最初は少し戸惑ったが、
手も足も出ないという訳じゃなさそうだ。
とりあえず用心は必要だが、
必要以上に恐れず、こちらもガンガン攻めていくぜ。
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その後、オレ達は二十五階以上を突き進んだ。
すると二十五階以降も天使が現れた。
ただ一階層につき多くて三体までの出現だった。
なのでオレ達は今まで通りの陣形で、
ミネルバ、オレ、グリファム。
そしてデュークハルトに団長キルラールの五人が前衛。
基本的にミネルバ、グリファム、デュークハルトの三人が
特攻して、敵が時魔法を使えば。
オレが「フィジカル・リムーバー」を使って、
時魔法による状態異常を解除する。
中列もジュリー、バルデロン、エスティーナ。
エンドラとクロエという並びは変えず、
状況に応じて、ジュリーとエンドラが前へ出て、
錬金術師のクロエが錬金魔法で、
攻撃、あるいは弱体攻撃、また支援魔法をかける。
後列はカリン、ラモン、メイリン、マリベーレ、ジウバルト。
各部隊の荷物持ちの六人は、
最後方に置くという布陣だ。
カリンやラモン、マリベーレが弓攻撃、射撃。
狙撃で天使の眉間。
あるいは心臓部を狙う。
このように盤石の布陣を敷いて、
時魔法に対する対抗策を打てば、
天使もそれ程怖い相手ではなかった。
そして気がつけば、
塔の二十八階層に到着していた。
「……もう夜の二十時か」
オレは青いシャツの懐から、
銀の懐中時計を取り出して、時刻に目をやった。
今日一日だけでここまえ来れるとはな。
でも最上階には、きっと今まで見た天使より
強い、そして上位種が待ち構えているだろう。
「とりあえずこの二十八階でキャンプしよう。
まずは女性陣が六時間の睡眠を取って、
男性陣がその間に見張り役を。
六時間後には、男女を入れ替えて、
同様に睡眠及び見張りする事にしよう」
オレの提案に反対する者は居なかった。
なんだかんだで皆、疲れているのであろう。
それから荷物持ちの六人が
簡易的なテントや寝袋を用意して、
女性陣が携帯食で軽く腹を膨らませて就寝した。
その後、六時間近く見張りをしたが、
異変らしい異変は起きなかった。
そして日付が変わり、
深夜の二時に女性陣が起きて、
彼女等が見張り番をする中、
オレは簡易的なテントで休む事にした。
……。
今までは比較的順調だが、
最上階ではそうはいかないであろう。
でもまずはちゃんと寝て身体を休めよう。
そしてオレは両眼を瞑り、
ゆっくりと身体を休める事にした。
次回の更新は2024年9月22日(日)の予定です。
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