第五百十八話 グラフェルの塔(前編)
---ラサミス視点---
「この塔は三十階建てなんだよな?」
オレは塔を見上げながら、そう言う。
外から見ても天井がかなり高い造りだ。
「ええ、でも一度踏破した階は、
入り口にある転移魔法陣で任意で
転移する事が可能です」
と、団長キルラール。
それに関しては便利だな。
これは一気に三十階を登りきらず、
十階ごとに外へ出た方がいいかもな。
「まあとりあえず中へ入りましょう」
オレはそう言って、
塔の入り口の扉を両手で開けた。
……意外に固い扉だな。
こりゃ開け閉めが大変そうだ。
「……結構広いんですね」
「ああ、この大人数でも問題ない広さだよ」
団長キルラールの言うとおりだ。
塔の一階は、がらんどうとした空間が広がっていた。
この塔がいつ建てられたかは知らんが、
塔の内部や内壁、外壁も少し風化気味だ。
何処を見渡しても赤みを帯びているが、
外観よりかは色合いが薄くて目が痛む事もなかった。
「どうやら全員中へ入ったようです」
「キルラール団長、そうですか。
なら隊列を決めましょう。
とりあえずここは――」
三分ほど、話合って隊列が決まった。
前列は左からミネルバ、オレ、グリファム。
そしてデュークハルトに団長キルラール。
中列はジュリー、バルデロン、エスティーナ。
更にエンドラとクロエという並び。
後列はカリン、ラモン、メイリン、マリベーレ、ジウバルト。
それに各部隊の荷物持ちが合計六人。
合せて合計二十一人。
この人数でこの赤い塔を登る事となった。
とりあえず索敵役のジウバルトとバルデロンが
周囲に罠がないか、探りを入れる。
「罠の類いはなさそうだな」
「この階はあそこの転移魔法陣。
そして二階に続くあの螺旋階段以外は、
特に仕掛けらしい仕掛けはないですね」
ジウバルトとバルデロンがそう言う。
「そのようだな。
とりあえずあそこの転移魔法陣を見てみよう」
オレ達は転移魔法陣に近づいた。
「ここで行きたい階を言えば、
自由に各階に行き来できます。
例えば「転移、何階」みたいに言えば良いです」
「了解です、キルラール団長。
あの螺旋階段を登れば、
上の階に行けるんですよね?」
「ええ、すると二階の入り口へ行きます。
入り口付近に水晶があるので、
それに手をかざせば踏破した事になります」
と、キルラール団長。
「成る程、とりあえず一階は問題ないようだから、
皆で二階に登りましょう。
一応、最初に登るグループと、
最後に登るグループは周囲に気をつけるように!」
オレがそう言うと、
周囲の者達も「はい」や「嗚呼」と返事した。
それからオレ達はゆっくりと螺旋階段を登った。
ちょっとくねくねしているから、
登り降りに注意する必要があるな。
そして三分後。
全員が二階へ昇りきった。
すると二階の入り縁付近に、
台座にのった透明の水晶が見えた。
「それが踏破を記録する水晶です。
では皆で水晶に手をかざしていください」
「ああ……」
オレ達は言われるまま、
右手、あるいは左手を台座の水晶にかざした。
……すると水晶が一瞬輝いた。
「どうやら無事に踏破印を刻めたようですね。
我々が前回登った時は、
二十階まで魔物らしい魔物は出ませんでしたが、
今回は用心して、一回ごとに探索。
そして罠の類いがあるか調べましょう」
「そうですね。
じゃあジウバルトとバルデロン!
頼んだぞ!」
「ああ」「ハイ」
……。
五分ほど二階を調べたが、
特に罠らしい罠もなかった。
「……この人数だから一階一階に
時間をかけると、かなり時間を食いそうだ。
敵や魔物の居ない階は、
そこまで念入りに調べなくてもいいのでは?」
「……私は念の為に調べた方が良いと思います。
私達が塔を登った時とは事情は異なりますから。
キルラール団長はどう思いますか?」
「エルティーナ、私も君と同じ意見だ。
カーマイン殿、少々時間がかかりますが、
ここは念入りに一階一階調べていきましょう」
「……了解ッス」
まあ用心するにこした事ねえか。
ならばここは時間を掛けて、
念入りに各階層を調べて行こう。
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その後、十五階層まで問題なく進めた。
だがそこに行くまで、
四時間以上の時間がかかった。
毎回の階層の調査。
水晶に踏破印を刻む。
そして螺旋階段を登る。
六、七人のパーティならすぐに済むが、
今は総勢二十一人に及ぶ大所帯。
だから魔物や魔獣が出なくても、
結構な時間がかかるのが難点だ。
「……今は朝の十一時か」
オレは竜皮の青いシャツの懐から、
銀の懐中時計を取り出して、
今の時間を確認した。
「意外とここまですんなり来れたわね」
と、メイリン。
「ですが階を上がる事に階層の魔力濃度が上がってます」
「バルデロン、そうなの?」
と、ミネルバ。
するとバルデロンが首を縦に振った。
「ええ、正確な数は分かりませんが、
この階層の上から、魔力反応も感じます。
ですのでそろそろ魔物や何かが出てもおかしくないです」
「念の為に魔力探査してみる?」
「メイリン、無理にしなくてもいいぞ。
どうせ最上階には、
天使が居る可能性が高いから、
今のうちから無駄な魔力は使わずにいこう」
「まあラサミスがそう言うならいいけどね~」
「カーマイン殿、まだ時間的余裕がありますが、
一度塔の外へ出て休憩しますか?」
キルラール団長がそう言ってきた。
う~ん、どうしようかなあ~。
でもまだ一度も戦闘してないしな。
だから今は休まなくていいだろう。
「キルラール団長、今は休む必要はないでしょう。
このまま上の階へ進みましょう」
「……了解です」
そしてオレ達はそのまま上の階層に進んだ。
十六階、十七階と相変わらず敵は居なかったが、
十八階層でようやく魔物と魔獣と遭遇した。
「ようやくお出ましか。
ゴブリンにコボルト、それに一角兎か」
オレは前方を見据えて、そう言った。
それと同時に周囲の仲間も武器を片手に身構えた。
だがなんか魔物の様子が変だ。
よく見ると魔物の目が赤く充血していた。
「魔物の様子が少し変ね。
あの赤く充血した眼……洗脳状態っぽいわね」
エンドラが緋色の鞭を両手に持ちながら、そう呟いた。
「洗脳か、誰がそれを実行したのやら……」
「とりあえずアタシがそれを探ってみるわ」
エンドラはそう言って、
差手に緋色の鞭を持ち替えた。
良し、とりあえずこの場は彼女に任せてみよう。
次回の更新は2024年9月15日(日)の予定です。
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