第五百十五話 天使(中編)
---ラサミス視点---
今回の竜人大陸の遠征にあたって、
オレ達は港町パイルの定期船に乗った。
その定期船で、
竜人大陸の最東部の東竜人海の西部にあるロムテールの街に向かった。
オレ、メイリン、ミネルバは竜人領ラムローダに行った事があるが、
マリベーレ、ジュリー、ジウバルト。
そしてバルデロンは、
ラムローダに行った事が無かったので、
瞬間移動魔法を使えなかった。
まあオレ達古参の団員も竜人大陸には、
殆ど行った事無いから、
これを機に船旅でも楽しんでみようか。
そんな訳でオレ達は三日ほど船旅を楽しんだ。
だがマリベーレとバルデロンが船酔いしたので、
治療魔法キュアライトを定期的にかけてあげた。
そして船に揺られる事、三日余り。
8月11日。
オレ達を乗せた定期船は最東部の東竜人海に着岸した。
この辺りにも小さな港町があるが、
冒険者や観光客用向けのサービスは提供してなかった。
どうやら竜人領は、あまり発展してにようだ。
ミネルバの話を聞いても、
竜人族はかなり排他的な種族らしいからな。
まあいいや、兎に角ドラゴニアへ向かおう。
そしてオレは小さな港町カーフェルから、
騎乗竜が馬車を引く竜馬車に乗った。
だが七人全員が乗ることは出来なかったので、
オレ、ミネルバ、ジウバルト、バルデロン。
メイリン、マリベーレ、ジュリーの二組に分かれて、
二台の竜馬車に乗って、
まずはロムテールの街へ向かった。
「竜人領って想像以上に開けてないんだな」
「ええ、竜人族は戦闘に特化した種族。
だから基本的に生産的な行動に向いてないわ。
でもロムテールの街、そしてドラゴニアの都は、
竜人領にしては、比較的開けているわよ」
と、ミネルバ。
「そうか、ならばあまり寄り道しない方がいいな」
「ええ、竜人族はよそ者や他種族には、
不親切だから、さっさとドラゴニアへ向かいましょう」
「そうだな」
そして馬車で揺られる事、二日余り。
オレ達は無事にロムテールの街に到着。
「ほう、意外と開けているじゃないか」
「まあロムテールは一応大きな街ですからね。
でも見た目に反して、
冒険者や観光客向けのサービスは良くないわ。
だからここの冒険者区の宿屋で一泊して、
翌日にまた竜馬車に乗って、
さっさとドラゴニアへ行きましょう」
ミネルバが淡々とした口調でそう説明する。
「まあ今回は観光でなくて、
任務だからな。 分かった、そうしよう」
そしてオレ達は、
竜馬車から降りて、冒険者区へ向かう。
このロムテールの街は、
北から居住区、中央部に商業区。
そして南部に冒険者区といった具合に、
三区画に分けられていたが、
街の構造上あまり利便性が良いとはいえなかった。
この辺の不便な街の構造は、
ヒューマンやエルフ族、猫族とも違うな。
噂どおりに信じるのもアレだが、
竜人族は確かに生産的な活動に向いてなさそうだ。
まあどのみちここには長居しない。
そしてオレ達は南部の冒険者区で宿を探した。
だが宿屋の竜人族の主人や女将は、
態度がデカくて、不親切だった。
おまけに微妙にボッた宿泊代。
これにはオレだけで無く、
他の団員もムカついた感じであった。
仕方ないので、
冒険者ギルドの管轄区の宿屋に泊まった。
ここは愛想の良い中年の男性ヒューマンが主人で、
宿泊代も一部屋一晩一万グラン(約一万円)と妥当な値段であった。
だが宿で出された夕食は、正直微妙であった。
マズくもないが、美味くもない料理。
それでも腹が空いていたので、
オレだけでなく、他の皆も一応は完食した。
そして夜が明けて、翌日の8月14日。
オレ達は冒険者区で再び二組に分かれて、
二台の竜馬車に乗り込んで、ドラゴニアを目指した。
だが道中の道は未舗装路が多かった。
おまけに魔物や魔獣もよく出た。
ゴブリンからコボルト、リザードマン。
キラービートル、ジャイアント・ビーといった中級モンスターが
多く現れた為、オレ達は馬車から降りて、
邪魔な魔物や魔獣を駆除した。
「すまねえな、兄ちゃん達。
竜人大陸には、他国や他種族の冒険者が
あまり来ないから、
こんな感じに各所に魔物や魔獣が居るのさ」
竜馬車の男性竜人族の御者さんがそう言った。
まあただ馬車に乗っているのも暇だしな。
だから準備体操代わりに魔物や魔獣を狩るのも悪くない。
そして三日後の8月17日の正午過ぎ。
オレ達を乗せた竜馬車がとうとうドラゴニアに到着した。
竜人族の最高の都ドラゴニア。
竜人大陸のほぼ中央に置かれたドラゴニアの都は、
人口五万人以上を抱える大都市で、
広大な平原に築かれており、
円形状に広がり、南部の冒険者区。
中央部に商業区、そして北部の居住区の三区画で構成されていた。
基本は木造建築の建物が多いが、
時折、レンガ造りの建物も視界に入ってきた。
「思っていたより、随分と栄えているな」
「……見た目はね。
でもリアーナのように娯楽区はないわ」
と、ミネルバ。
「そうなのか?」
オレの言葉にミネルバが無言で頷く。
そして自分の故郷を見据えながら――
「見た目は他の王都や首都に負けないけど、
住んでいる住人の心は、
歪んだ選民意識と差別意識に支配されているわ」
「……成る程」
まあその辺の話は昔聞いたな。
でもここではあまり触れない方がいいな。
そう思いながら、
オレ達は都の南門で、
警備兵に自分達の冒険者の証を提示した。
「こ、これは……少々お待ち下さい」
中年らしき男の竜人族の警備兵が血相を変えて、
右耳に嵌めた「耳錠の魔道具」で誰かと話し始めた。
そして待つ事、五分。
「ラサミス・カーマイン様とそのお仲間の方ですね?」
「ああ、そうだが……」
「北部エリアの居住区でアルガス族長がお待ちしてます。
そこに居る竜人族の兵士が案内役を務めるので、
彼の後について行ってください」
「初めまして、この度、
案内役を務めるジールでございます」
「そうか、宜しくな! ジールさん」
「はい、宜しくお願いします。
では私が居住区の族長のお屋敷まで
案内するので、ついて来てください」
「ああ、じゃあ皆行くぞ?」
「……ええ」「「うん」」「「はい」」「ああ」
とりあえずオレ達は、
案内役のジールの後について行く。
その間にも横目でドラゴニアの街並を見たが、
冒険者区には、ヒューマンやエルフ族の冒険者の姿が見えた。
商業区には、同様にヒューマンやエルフ族。
そして時折、猫族の商人も見かけた。
だが北部の居住区に入ると、
竜人族以外の種族は、殆どみかけなかった。
そして居住区の住人は、
ミネルバの姿を見るなり、ひそひそと内緒話を始めた。
……正直あまり良い気はしないぜ。
でもここは無視で行こう、無視で!
「お待たせしました、ここが族長のお屋敷です」
「……」
木造の屋敷だがなかなかの大きさだ。
だがただの木じゃないな。
魔力や耐魔力の高い聖木を使用しているようだ。
でも種族を代表する族長の屋敷にしては、
そこまで金や労力をかけてない気がする。
「では中へお入りください」
「ああ……」
屋敷の中はあまり調度品を置いてないが、
そのセンスは悪くない。
なかなか良い感じの内装と雰囲気だ。
「アルガス族長、カーマイン様をお連れしました」
「うむ、中へ入ってもらいたまえ!」
そしてオレ達は、
大広間のような部屋の中へ入った。
部屋の中央に配置された長テーブルの左側の席に、
族長アルガス、そして懐かしいな。
竜騎士団の騎士団長レフ、そして副団長ロムス。
また女性竜騎士カチュアの姿も見えた。
それと見慣れぬ赤い鎧姿の男性竜人族。
青い鎧姿の女性竜人も椅子に座ってた。
「カーマイン殿、そしてそのお仲間の皆様。
遠路はるばるご苦労様でした。
皆様はそちらの右側の席にお座りください」
「はい」
オレ達は、オレ、メイリン、ミネルバ。
マリべーレ、ジュリー、バルデロン、ジュバルト。
といった順番で椅子に腰掛けた。
「それで我々を呼んだ理由をお聞かせ願いますか?」
すると族長アルガスが周囲に目配せした。
そしてやや間を置いて、信じられない言葉を吐いた。
「そこに居る「龍の剣」の団長キルラールとエルティーナが
竜人領にあるグラフェルの塔で……。
天使を自称する未知なる生物と遭遇したのです」
次回の更新は2024年9月8日(日)の予定です。
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