第四十九話「咆哮(ハウル)」
確かに今は乱戦状態で、数で上回る俺達の方が有利だ。
だが敵には漆黒の巨人という切り札がある。
その切り札が現れる前に少しでも敵の戦力を削ぐ必要がある。
俺は視線を動かして、あの赤髪のジークの姿を探した。
すると奴はまた別の巨人の傍で鞭を振るっていた。
その姿を確認するなり、俺は全身に闘気を纏い、地を蹴った。
「へっ、予想通りこちらに来たか。 おい、奴を叩き潰せ!」
「うおおおおおおっ……おおおおおおっ!!」
調教師に命じられるまま、巨人はこちらに振り向き、その右拳を振り上げて、勢い良く地面に叩きつけた。
すると地面にクレーター状の大穴が開き、土塊や石片が弾丸のような速度で周囲に飛び散った。
「くっ!?」
俺は必死に左右にサイドステップして、飛び散る土塊と石片を躱す。
「――今だ! 咆哮しろ!!」
「う、うおおおおおおっ……おおおおおおぉぉぉ」
間髪入れず放たれる咆哮。
俺は両手を十字に構えて、両足で踏ん張った。
巨人の口内から放たれた衝撃波を寸前の所で躱す。
衝撃波はうねりを生じたまま、地を抉りながら岩壁に命中。
激しい衝突音と共に岩壁から石片がパラパラと崩れる。
なる程、こいつが咆哮による遠距離攻撃か。
確かに凄い威力だ。 だが俺は両耳に耳栓をしている。
でもここはあえて両耳を押さえて、苦しむ素振りを見せた。
「行け、巨人! 奴の耳は咆哮で馬鹿になっている!」
「うおおおおおおおおおっっ!!」
雄叫びを上げながら、巨人がこちらに突貫してくる。
俺は苦しむ素振りを見せている間に、左拳に氷の闘気を。
右拳には風の闘気を宿らせて、巨人をギリギリまで引き寄せる。
――今だっ!!
そして射程圏内に入った瞬間、両足で地を蹴り高く飛翔する。
「なっ!! ば、馬鹿なっ……咆哮を受けて無事だと!?」
悪いな、ジーク。
お前とは気が合いそうだが、俺も任務だから悪く思うなよ。
そして俺は左の掌を前に突き出して、放射状の氷塊を放出。
放たれた氷塊は『アイスバルカン』のように巨人の顔面に着弾。
「ぐ、ぐ、ぐおおおおおおっっ……」
堪らず喘ぐ巨人。
だがこれで終わりではない!
俺は空中で一回転して、巨人の右肩に飛び乗った。 そして更にそこからジャンプして、巨人の喉下に接近した。 今度は右手に宿らせた風の闘気で、巨人の喉下を水平に裂いた。 すると巨人の喉笛から赤い鮮血が飛び散る。
「ぐ、ぐぎゃああああああっっ!?」
即座に悲鳴を上げる巨人。 至近距離だから耳栓ありでも耳に響く。 巨人の返り血を少し浴びた俺は、後方に飛び、空中で何度か身体を回転させながら、華麗に両足から地面に着地する。
「う、うおおお……うぐおおおおおおっ!!」
喉を掻き毟るような仕草で巨人が喘ぐ。
この隙を逃すまいと、後衛の猫族の魔法部隊が一斉に魔法を唱えた。 火属性、光属性、風属性などの様々な属性の魔法が容赦なく巨人を襲った。
そして巨人は両足を地につけて、前のめりに崩れ落ちた。
これで二体倒した。 順調に敵の戦力を削いでいる。
「クソッ……このままじゃやべえな。 ってようやく来たか!?」
と、狼狽していたジークが歓喜の声を上げた。
釣られるようにして、視線をそちらに向ける俺達。
すると視線の先には、十メーレル(約十メートル)を越える漆黒の巨人が右肩にエルフらしき人影を乗せて、立っていた。
遂に本命が来たな!
これからが本当の戦いだ!
俺だけでなく、周囲の者達も表情を引き締めて身構えた。
「遂に奴が来たぞ! 作戦通り防御役は前衛に! 中衛は付与魔法とサポートを、魔法部隊や回復役は後衛から魔法攻撃及び回復せよ!」
俺達はレビン団長の指示に従い、命令通りの布陣を引いた。
しかし周囲の猫族達の表情は固い。
そういう俺も緊張で胸がどくんどくん鳴っている。
今まさにこの瞬間、知性の実に
まつわる戦いの第二幕が始まろうとしていた。
次回の更新は2018年9月1日(土)の予定です。




