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【天使編開始!】黄昏のウェルガリア【累計100万PV突破】  作者: 如月文人
第六十八章 猫フィスター再生計画
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第四百七十九話 育まれる愛情


---ラサミス視点---



 バルデロン、ジュリー、そしてジウバルト。

 この三人を加えて、ウチの連合ユニオンの冒険者は、

 再び八人となったが、メイリン、マリべーレ、ジウバルトの三人は、

 学生であった為、八人揃って活動するのは、

 三人が休み期間の時のみとなった。


 尤もオレ、エリス、ミネルバ、バルデロン、ジュリー。

 この五人だけでもパーティバランスが良かったから、

 休日にはちょくちょく冒険したり、

 討伐依頼もこなしたが、基本的に本業を優先した。


 オレの教官としての仕事は、

 まあ特に可も無く不可も無いという日々が続いた。

 少し刺激が足りない気もするが、

 前大戦でオレは限界まで冒険して、死闘を演じたからな。

 だからこういう平凡な日々も悪くないと思っている。


 そして気が付けば三ヶ月が過ぎて、

 今日は6月25日の休日。

 ちなみに来月の7日は俺の誕生日だ。


「来月のラサミスの誕生日プレゼントを一緒に買いに行きましょう」


 と、エリスに誘われたので、

 今日は二人でリアーナの各所を見回る事にした。

 まあオレ自身は、誕生日プレゼントなんて何でもいいんだけどな。


 でもエリスがせっかくプレゼントを買ってくれる、

 というので一緒に行くことにした。


 ちなみにオレとエリスは、

 正式に付き合ってもう二年になる。

 まあそしてアレな話だが、半年前に男女の仲になった。

 これに関しては、気が付いたらそういう関係になっていた。


 とはいえオレは最初はミネルバとの事があったから、

 エリスとそういう関係を結ぶことに躊躇いを覚えていたが、

 ミネルバ本人が――


「私の事は気にしないで、貴方の好きなようにして!

 どういう結果であれ、私は貴方の決断に賛成するわ。

 そして貴方がエリスを選んだら、

 私は「暁の大地」の団員として、

 貴方とエリスを祝福するわ」


 と、とても真っ直ぐな意見を述べてくれた。

 まあミネルバとしても悩んだ末の決断だろう。

 でも彼女はもうオレ等の仲間。


 だからこれからも団長と団員という形で付き合っていくつもりだ。

 まあそんな感じで正式な彼女も出来て、

 仕事も連合ユニオンも順調な日々を送っていた。


 そして拠点ホームの食堂で昼食を終えたオレとエリスは、

 リアーナの商業区へ向かった。

 オレは去年ミネルバから貰った漆黒のバンダナを頭に巻いて、

 シルク製の半袖シャツに青いズボン。

 それと黒い革のブーツという格好。


 エリスはいつものように白い法衣姿で、

 その首元に銀の十字架ロザリオという格好だ。


「ラサミスは今日の予算どれくらいなの?」


「ん? ああ、とりあえず十五万グラン(約十五万円)程だよ」


「意外と持ってきたのね。 何か買いたい物でもあるの?」


「いや、でもいざという時の為に金だけは用意している感じさ」


「そっか、教官のお給金も悪くないんでしょ?」


「まあな、そこそこは稼いでるよ」


「私の教会の仕事はほぼボランティアなのよね。

 まあ冒険者で稼いでるから、お金には困ってないけど」


「そうだな、ここ数年で結構荒稼ぎしたよな」


「うん、だからお金の心配はしなくていいわ」


 オレ達はそう言葉を交わしながら、

 中央広場の露天市場へ向かった。

 相変わらずここの露天市場は人が多いな。


「あっ、この青いシュシュ可愛いわ!」


「お、お嬢さん。 お目が高いニャン」


 露天商の白猫の猫族ニャーマンがエリスに声をかける。

 青いシュシュか。

 エリスは基本的に赤いシュシュをつけてるからな。


「それおいくらですか?」


「五百グラン(約五百円)だニャン」


「お値段も手頃ですね。 ちょっと待って――」


「あ、金はオレが払うよ。 はい、五百グラン」


「毎度ありニャン。

 シュシュはそのまま渡すかニャン。

 それとも何かに包んだ方がいいニャン?」


「そうだな、エリスはどうなんだ?」


「えっと……何かに包んで欲しいかな?

 というかラサミス、お金は……」


「いいって、いいって!

 いつも世話になっている御礼さ」


「そう、ありがとう……」


「んじゃ白い布に包んで渡すニャン」


「はい、ありがとうですわ」


 エリスが白い布に包まれた青いシュシュを受け取る。

 そしてそれを見ながら、うっとりした表情を浮かべていた。


「ラサミス、本当にありがとうね」


「喜んでもらえて何よりさ」


 まさかこんなにも喜んでくれるとはな。

 たった五百グランだぞ? 五百グラン。

 でもこういうのは金額ではなく、真心が大事のようだ。


 その後も何店か、露天を見回ったが、

 オレは特に欲しい物がなかったので、

 特に何も買わなかった。


 エリスがしきりに――


「私もラサミスに御礼させて!」


 と、色んな物を見せて買おうとしたが、

 何か悪い気がしたので、全て丁重に断った。

 そんな感じで瞬く間に時間が過ぎた。


 そして広場の屋台で、

 肉と野菜の串焼きを買って、

 それを食べ歩きながら、

 職業区のテラス付きのカフェへ向かった。


 オレとエリスはテラスのテーブル越しに向かい合う形で、

 椅子に腰掛けて、アイスティー二つを注文した。

 するとエリスがオレの顔を見据えながら微笑んだ。


「ど、どうかしたか?」


「ううん、ただなんか幸せだなあ、と思ったのよ」


「確かにあの大戦から比べたら、

 とても平和で暖かい日々を送れてるよな」


「うん、あの頃のラサミスはとても勇敢で

 格好良かったけど、なんか遠い人になった気がするわ」


「そう言えば前もそんな事言っていたよな?

 オレはただ必死だっただけさ」


「うん、でも今はまた私の近くに居てくれてるわ」


「ああ、幼馴染みだからな。

 今更、遠くに行こうとしてもこの縁は切れないよ」


「……本当?」


「ああ」


 いつも思うんだが、女って結構聞き返すよな。

 でもこういう間も含めての恋愛なんだろうな。

 オレも今とても幸せを感じているよ。


「しかし気が付けば、オレももう二十歳はたちかあ。

 長かったようで、あっという間だったな」


「うん、多分あと数年もすれば、

 結婚なんかもするんでしょうね」


「……そうかもな、兄貴とアイラも結婚まで早かったからな」


「このままこの平和な日々が続いて欲しいわ」


「ああ、多分大丈夫さ。

 もう魔族とも和解したし、これ以上戦う相手も居ないだろう」


「うん、そうだといいわね」


「ああ、オレも戦いはもうこりごりさ」


「うん、だからずっと私の傍に居てね」


「ああ……」


 そしてオレ達はしばらく無言で見つめ合っていた。

 何というかこういうのを幸せと言うんだろうな。

 それから飲み物を飲んで、

 店を出てから、二人で手を繋いで拠点ホームまで帰った。


 だがそこに望まぬ来訪者がやって来た。


次回の更新は2024年6月20日(木)の予定です。


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― 新着の感想 ―
[一言] 更新お疲れ様です。 「もう魔族とも和解したし、これ以上戦う相手も居ないだろう」 とんでもないフラグですね。 今後何か起こるしかない。 そう思った矢先にやってきたのは望まぬ来訪者。 まだ章…
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