第四百七十九話 育まれる愛情
---ラサミス視点---
バルデロン、ジュリー、そしてジウバルト。
この三人を加えて、ウチの連合の冒険者は、
再び八人となったが、メイリン、マリべーレ、ジウバルトの三人は、
学生であった為、八人揃って活動するのは、
三人が休み期間の時のみとなった。
尤もオレ、エリス、ミネルバ、バルデロン、ジュリー。
この五人だけでもパーティバランスが良かったから、
休日にはちょくちょく冒険したり、
討伐依頼もこなしたが、基本的に本業を優先した。
オレの教官としての仕事は、
まあ特に可も無く不可も無いという日々が続いた。
少し刺激が足りない気もするが、
前大戦でオレは限界まで冒険して、死闘を演じたからな。
だからこういう平凡な日々も悪くないと思っている。
そして気が付けば三ヶ月が過ぎて、
今日は6月25日の休日。
ちなみに来月の7日は俺の誕生日だ。
「来月のラサミスの誕生日プレゼントを一緒に買いに行きましょう」
と、エリスに誘われたので、
今日は二人でリアーナの各所を見回る事にした。
まあオレ自身は、誕生日プレゼントなんて何でもいいんだけどな。
でもエリスがせっかくプレゼントを買ってくれる、
というので一緒に行くことにした。
ちなみにオレとエリスは、
正式に付き合ってもう二年になる。
まあそしてアレな話だが、半年前に男女の仲になった。
これに関しては、気が付いたらそういう関係になっていた。
とはいえオレは最初はミネルバとの事があったから、
エリスとそういう関係を結ぶことに躊躇いを覚えていたが、
ミネルバ本人が――
「私の事は気にしないで、貴方の好きなようにして!
どういう結果であれ、私は貴方の決断に賛成するわ。
そして貴方がエリスを選んだら、
私は「暁の大地」の団員として、
貴方とエリスを祝福するわ」
と、とても真っ直ぐな意見を述べてくれた。
まあミネルバとしても悩んだ末の決断だろう。
でも彼女はもうオレ等の仲間。
だからこれからも団長と団員という形で付き合っていくつもりだ。
まあそんな感じで正式な彼女も出来て、
仕事も連合も順調な日々を送っていた。
そして拠点の食堂で昼食を終えたオレとエリスは、
リアーナの商業区へ向かった。
オレは去年ミネルバから貰った漆黒のバンダナを頭に巻いて、
シルク製の半袖シャツに青いズボン。
それと黒い革のブーツという格好。
エリスはいつものように白い法衣姿で、
その首元に銀の十字架という格好だ。
「ラサミスは今日の予算どれくらいなの?」
「ん? ああ、とりあえず十五万グラン(約十五万円)程だよ」
「意外と持ってきたのね。 何か買いたい物でもあるの?」
「いや、でもいざという時の為に金だけは用意している感じさ」
「そっか、教官のお給金も悪くないんでしょ?」
「まあな、そこそこは稼いでるよ」
「私の教会の仕事はほぼボランティアなのよね。
まあ冒険者で稼いでるから、お金には困ってないけど」
「そうだな、ここ数年で結構荒稼ぎしたよな」
「うん、だからお金の心配はしなくていいわ」
オレ達はそう言葉を交わしながら、
中央広場の露天市場へ向かった。
相変わらずここの露天市場は人が多いな。
「あっ、この青いシュシュ可愛いわ!」
「お、お嬢さん。 お目が高いニャン」
露天商の白猫の猫族がエリスに声をかける。
青いシュシュか。
エリスは基本的に赤いシュシュをつけてるからな。
「それおいくらですか?」
「五百グラン(約五百円)だニャン」
「お値段も手頃ですね。 ちょっと待って――」
「あ、金はオレが払うよ。 はい、五百グラン」
「毎度ありニャン。
シュシュはそのまま渡すかニャン。
それとも何かに包んだ方がいいニャン?」
「そうだな、エリスはどうなんだ?」
「えっと……何かに包んで欲しいかな?
というかラサミス、お金は……」
「いいって、いいって!
いつも世話になっている御礼さ」
「そう、ありがとう……」
「んじゃ白い布に包んで渡すニャン」
「はい、ありがとうですわ」
エリスが白い布に包まれた青いシュシュを受け取る。
そしてそれを見ながら、うっとりした表情を浮かべていた。
「ラサミス、本当にありがとうね」
「喜んでもらえて何よりさ」
まさかこんなにも喜んでくれるとはな。
たった五百グランだぞ? 五百グラン。
でもこういうのは金額ではなく、真心が大事のようだ。
その後も何店か、露天を見回ったが、
オレは特に欲しい物がなかったので、
特に何も買わなかった。
エリスがしきりに――
「私もラサミスに御礼させて!」
と、色んな物を見せて買おうとしたが、
何か悪い気がしたので、全て丁重に断った。
そんな感じで瞬く間に時間が過ぎた。
そして広場の屋台で、
肉と野菜の串焼きを買って、
それを食べ歩きながら、
職業区のテラス付きのカフェへ向かった。
オレとエリスはテラスのテーブル越しに向かい合う形で、
椅子に腰掛けて、アイスティー二つを注文した。
するとエリスがオレの顔を見据えながら微笑んだ。
「ど、どうかしたか?」
「ううん、ただなんか幸せだなあ、と思ったのよ」
「確かにあの大戦から比べたら、
とても平和で暖かい日々を送れてるよな」
「うん、あの頃のラサミスはとても勇敢で
格好良かったけど、なんか遠い人になった気がするわ」
「そう言えば前もそんな事言っていたよな?
オレはただ必死だっただけさ」
「うん、でも今はまた私の近くに居てくれてるわ」
「ああ、幼馴染みだからな。
今更、遠くに行こうとしてもこの縁は切れないよ」
「……本当?」
「ああ」
いつも思うんだが、女って結構聞き返すよな。
でもこういう間も含めての恋愛なんだろうな。
オレも今とても幸せを感じているよ。
「しかし気が付けば、オレももう二十歳かあ。
長かったようで、あっという間だったな」
「うん、多分あと数年もすれば、
結婚なんかもするんでしょうね」
「……そうかもな、兄貴とアイラも結婚まで早かったからな」
「このままこの平和な日々が続いて欲しいわ」
「ああ、多分大丈夫さ。
もう魔族とも和解したし、これ以上戦う相手も居ないだろう」
「うん、そうだといいわね」
「ああ、オレも戦いはもうこりごりさ」
「うん、だからずっと私の傍に居てね」
「ああ……」
そしてオレ達はしばらく無言で見つめ合っていた。
何というかこういうのを幸せと言うんだろうな。
それから飲み物を飲んで、
店を出てから、二人で手を繋いで拠点まで帰った。
だがそこに望まぬ来訪者がやって来た。
次回の更新は2024年6月20日(木)の予定です。
ブックマーク、感想や評価はとても励みになるので、
お気に召したらポチっとお願いします。




