第四十七話「リアクションが面白い男」
「よし、囚人共は土魔法で作った木の手錠で拘束せよ! 敵の主力は巨人とエルフだ。 それ以外の者は極力傷つけるな。 では第一陣はこのまま先行するぞ!」
レビン団長の言葉に従い、俺達も後に続いた。
すると町の広場で、三体の巨人とエルフらしき人影を発見。
「よし防御役は防御スキルを発動させよ! そして中衛は付与魔法を、基本は炎でいい。 後衛は何部隊かに分かれて、魔法の詠唱を始めろ! 魔法攻撃の際は時間差を置いて、的確に巨人を狙い撃て!」
レビン団長の指示に従い、前衛の防御役達は、
一斉に防御スキルを発動。 アイラも声高らかに――
「ハアアアッ……『鉄壁』ッ!!」
と、凛々しい声で叫んで巨人目掛けて突っ込んでいく。
そしてドラガンが――
「――行くぞ!! 我は汝、汝は我。 我が名はドラガン。 猫神ニャレスよ、我らに力を与えたまえ! 『フレイム・フォース』ッッ!!」
と、素早く呪文を紡ぎ、炎の付与魔法を発動。
すると前衛達が手にした武器を覆うように炎のフォースが宿る。
拳が武器の拳士の俺の両拳にも炎が覆われた。
俺はそこから全身に闘気を纏い、全力で地を蹴った。
すると巨人の近くに立っていた赤髪のエルフが視界に入った。
赤髪のエルフは額に眼装、右手に紫紺の荊の鞭を持っている。
こいつが恐らく巨人を操る魔物調教師だろう。
ならばこいつを倒せば、戦局は有利になる。 ここは全力で攻める!
「な、何だっ!? 何故にゃんころ共の中にヒューマンがっ!!」
赤髪の男エルフはやや驚いたように、目を見開いている。
それを好機と見た俺は奴の両足を払うべく、渾身の足払いを繰り出した。
だが男は軽く跳躍して、足払いを交わす。
俺はそのまま身体を一回転させて、勢いがついた状態で両足で
地を蹴り、右足の飛び膝蹴りを赤髪の男エルフの腹部に喰らわせた。
「ご、ごはあぁっ!?」
赤髪の男エルフは肺から空気を吐き出し、喘いだ。
俺はそこから乱暴に男の赤髪を掴んで、
渾身の頭突きを男の鼻っ柱に命中させた。
「ぶほっ……て、て、てめえぇぇっ!?」
男の鼻から赤い鼻血が迸る。
俺はそこから炎のフォースが宿った右拳を腹部目掛けて、突き出した。 拳に鈍い感触が伝わると、同時にエルフの男が「げふっ!?」という呻き声を漏らして、後方に吹っ飛ぶ。
流れるような速攻が綺麗に決まった。
自分で言うのもアレだが、なかなか悪くない攻撃だったと思う。
だが相手は上級職の魔物調教師。
これで終わりだとは思わない方がいい。
と、俺が思うと同時に赤髪の男エルフは右手の甲で口を拭う。
「て、てめえ……随分戦い慣れしているな。
にゃんころ共に雇われた冒険者、あるいは傭兵か?」
両眼に怒りと疑心を宿らせる赤髪の男エルフ。
なんだかよくわからんが、俺の事を過大評価してくれてるな。
もし俺がほんの数ヶ月前まで、底辺冒険者だったと知ったら、
この男はどういう反応するだろう?
だが戦闘中に相手が余計な疑心にかられているうちに、事実を話す必要などない。 ならばここは徹底してブラフをかます!
「そういうお前等は知性の実を使って、悪巧みを企てたエルフの一派か?」
「なっ!?」
俺の言葉に驚いたように、目を見開く眼前の男。
こいつ、リアクションが面白いな。
なんというか一々大袈裟な反応をするよな。
「どうやら只の雇われ者じゃねえようだな。 腕っ節も立つし、駆け引きにも長けている。 お前、かなり名の売れた冒険者だろ?」
「……さあ、どうだろうな?」
なんかそれっぽい事を言い出したぞ。
拡大解釈が酷い。 戦闘中でなかったら、失笑してただろう。
「……俺もかつてはA級の冒険者だったから分かるぜ。 雰囲気や佇まいで分かる。 お前は一線級の冒険者だ」
アンタ、本当にA級だったの?
俺同様色々吹かしてない? やべえ、少し面白い。
「そいつは過大評価というものさ。 俺はお前の云うにゃんころ共に雇われたしがない冒険者さ」
「ふっ、言う事がいかにも一線級らしいぜ。
雑魚程、自分を大きく見せたがるからな」
ヤバいな、こいつ嫌いじゃないかも。
いや勿論敵だからぶちのめすけどさあ。
コイツ、下手な芸人よりずっと面白いよ。
兎狩りしていた俺に対して、「一線級」だの「雰囲気や佇まいが違う」
って、お前の眼はどんだけ節穴なんだよ、って突っ込みてえよ!
「だが俺達も伊達や酔狂でにゃんころ領に来たわけじゃない。 それなりの成果を出さないと、上に対して面目が立たねえからな」
「へっ、お互い雇われ者は辛いね」
「ああ、全くだぜ。 ふふふ」
ヤバいな、いつの間にか友情が芽生えたようだ。
多分出会いが違えば、俺達は親友になれたかもしれん。
だが残念ながら、俺達は敵同士。 故に戦わねばならん。
「どうやらお前と正面から戦うのは、危険のようだ。
だが俺の本職は魔物、魔獣の調教! だから――」
そう言うと俺の親友候補だった男は後方に跳躍して、
手にした紫紺の荊の鞭で地を叩いた。
「うおおおおおおっ……おおおおおおっ!!」
すると親友候補の近くに居た一匹の巨人が雄叫びを上げた。
視線を移すと、青白い肌をした巨人の首に巻きつけられた漆黒の首輪が、青白い光を放って明滅し始めた。
確か調教した魔物や魔獣に特定の魔道具を装備させる事によって、完全制御下におけるという話を聞いた事がある。
「行け、木偶の坊。 このジーク様の命令のままにあの小癪なヒューマンをぶっ殺せ!」
アンタの名前はジークっていうのか。
覚えておくぜ、ジーク。 来世で友になろう!
「うおおおおおお……おおおおおおぉぉぉ」
などと舐めていると、巨人が咆哮を上げた。
ヤベえ、少し舐めすぎたな。 俺はすかさず間合いを取った。
だが眼前の巨人も物凄い速度で前進してくる。
そこで俺は両足に風の闘気を纏い、踏ん張った。
そして全力で跳躍する。 すると軽く十メーレル(約十メートル)ぐらい
の跳躍して、巨人の頭部付近まで近づいた。
スゲえ、これが闘気の力か!?
確かに全然違う。 人間ってこんなにジャンプ出来たのかよ!?
などと感動している場合じゃないな。 ――行くぜ!
そこから俺はすかさず両手を振り上げて、
一の字を描くように両手を広げた。
すると俺の緑色の闘気で覆われた両手の先から、
風切り音と共に鋭利な風の刃が生み出された。
その風の刃がグルグルと旋回しながら、
巨人の両眼を真一文字に切り裂いた。
「ぐ、ぐおおおおおお……おおおぉぉぉっっ!?」
当然の如く、凄まじい絶叫をあげる巨人。
だが俺は、予め両耳に音波耐性のある耳栓を詰めていたので、
この至近距離でもこの大音声に耐えられた。
相手が巨人という事もあり、ドラガンと兄貴がニャンドランドの城下町で事前に用意していたのである。
だがこの魔力の込められた耳栓は高価な品だったので、俺達六人分以外は、レビン団長とケビン副団長の分しか用意出来なかった。
俺はそこから巨人の左肩に乗り、全身から闘気を放った。
こいつ等の弱点は眉間か、口の中か、喉元の三つ。
ならば拳士の俺が狙うのは、眉間だ!
俺は巨人の左肩から再びジャンプして、巨人の頭部まで接近してから、風の闘気を纏った左拳で眉間を打ち抜いた。 鈍い感触が左拳に伝わる。
だがこれで終わりじゃない!
腹に力を入れて集中力を高めて、右拳に炎の闘気を宿らせる。
そこから渾身の右ストレートを眉間に叩き込んだ。
確かな感触と共に、巨人の額で風と炎の闘気が交わり、魔力反応を起こして、熱風が吹き上がる。
「ぐ、ぐっぐうううっ……ああああああぁぁっ!!」
どうやら上手く成功したらしい。
これが上級者が行う単独連携という高度な戦術だ。
例えば光属性の魔法攻撃、あるいは攻撃スキルを使った後に炎属性の魔法や攻撃スキルを使うと、核熱という魔力反応が起こり、相手に与えるダメージが大幅に増える。
これらの戦闘法を連携魔法や連携攻撃という。
だがやりようによっては、このように単独で連携攻撃を行う事が可能だ。 今回は左手に風の闘気を、右拳に炎の闘気を宿らせて、左右のワンツーパンチで風と炎を混ぜ合わせて、熱風という魔力反応を起こして、単独連携攻撃を成功させた。
額を押さえて、苦しみもがく巨人。
まだ止めはさせてないようだな。
その時、後方から聞きなれた甲高い声が聞こえてきた。
次回の更新は2018年8月18日(土)の予定です。




