第四十六話「突撃開始」
十五分後。
俺達は無事ドラガン達と山猫騎士団と合流を果たす。
空には燦々と太陽が照りつき、見事なまでの快晴だ。
「そうか、連中はここレバルにある大量の金塊を持ち出すつもりか。 しかしそれだと少し妙だな。 敵の主力たる漆黒の巨人は、あの知性の実が与えられているのだろ?」
「はい、レビン団長。 恐らくそうだと思われます」
レビンの問いに答えるドラガン。
するとレビンは顎に手を当てたまま「うーむ」と唸る。
「どうにも敵の動きに一貫性がないな。 ガルフ砦を陥落させたが、すぐに砦を放棄して、近郊の金山に向かい金塊の強奪。 もしかしたら敵も厳しい状況なのかもしれんな」
「それはありえますね。 エルフ族としては、せっかく手に入れた知性の実の成果を試したいのでしょうが、万が一の事を考えたら、そうそう派手な荒事はできないでしょう。 奴等としても、こうして隠密部隊を結成して、何かあれば全責任を押し付けて、斬り捨てる腹積もりなんでしょうよ」
と、兄貴がレビン団長の疑問に答えた。
「うむ。 確かにそうかもしれんな。 敵の戦力も思ったより少ない。 奴等に従っている囚人共も打算で結びついた関係。 一度戦闘になれば、囚人共も我が身可愛さに右往左往するだろう。 よし、ならば夜まで待つ必要はない。 まずは弓兵で門番を弓で始末して、正面から中に入り、前衛に防御役を配置して、中衛に副団長やドラガン殿が率いるレンジャーや魔法戦士部隊を配置。 後衛には僧侶と魔法部隊で敵の巨人を狙い打て!」
レビン団長の支持に従い、前衛には、俺達『暁の大地』からはブレードマスターの兄貴、拳士の俺、聖騎士のアイラが選ばれ、中衛にはドラガンが入り、後衛に回復役のエリスと攻撃役のメイリン。
山猫騎士団は、レビン団長が自ら先陣に立ち、ケビン副団長が中衛で前衛と後衛のバランスを取るという布陣。
俺達『暁の大地』六人に二十五匹の山猫騎士団を加えた陣営。 このような大人数での戦闘は初めてなので少し緊張する。
「ラサミス、緊張しているのか?」
「ああ、少しね」
俺はアイラの言葉に軽く頷いた。
「そういう時は肩の力を抜くんだ。 大丈夫だ。 俺やアイラがちゃんとフォローする。 お前はお前の役割を果たせばいい」
「わかったよ、兄貴」
俺は軽く深呼吸して、気持ちを落ち着かせた。
そして弓を構えた弓兵達が一斉に矢を放った。
びゅんっ!
という音と共に矢が命中して、門番二人が力なく地面に崩れ落ちる。
それと同時に俺達前衛部隊は正門へと駆け寄る。
そしてレビン団長は手にした大剣を掲げて、大声で叫んだ。
「――全軍突入開始!!」
レビン団長の掛け声と共に、俺達前衛部隊は正面入り口の扉を蹴破った。
視界には金塊の運搬作業を行っている荒々しい男達が映った。
相手が驚いているうちにレビン団長が間合いを詰めて、手にした黒刃の大剣を振るい、囚人と思われる男達を瞬く間に切り捨てた。
「ぎゃああああああ……ああああああっ!!」
切り捨てられた男達の姿を見るなり、周囲の者が騒ぎ立てた。
「な、なんだっ!? お、お前等!!」
「猫族だ!! 猫族の大部隊だっ!?」
「でも猫族にしては、随分デカいぞ!?」
俺は囚人らしき連中が騒いでいるうちに、間合いを詰めた。
そしてそこから素早くワンツーパンチを繰り出し、
眼前の男の顔面を狙う打つ。 たまらず後退する男。
そこから俺は右回し蹴りを即頭部に喰らわせて、男を吹っ飛ばす。
「な、何だっ!? ヒューマンも居るぞ!!」
「こいつ等、猫族の救援部隊だ!?
ち、ちきしょう……こんな話は聞いてないぜ!!」
「だ、誰かあの連中に知らせて来い! 俺達じゃ勝負にならない」
蜘蛛の子を散らしたように、慌てふためく男達。
どうやらこいつ等は戦いの素人のようだ。 俺でも分かる。
ならばこいつ等は無視していいだろう。
「我々は猫族の誇る山猫騎士団だ! 無駄な抵抗は止めておけ。 大人しく投降すれば、命は取らぬ!」
レビン団長が凛とした声でそう宣言する。
すると周囲の囚人共は、目に見えてパニックに陥った。
「山猫騎士団!? 聞いた事があるぞ!! 確か品種改良された山猫で結成された猫族の戦闘部隊だ!」
「な、なにっ!? や、山猫かよ! どうりで随分ガタいがいいわけだ!」
「ど、どうするよ? 軽くみても二十匹以上居るぜ?」
顔を見合わせて、驚き戸惑う囚人達。
「そこの囚人達! お前等の話は既に聞いている。 本来ならば、この場で問答無用で斬り捨てるところだが、降伏して罪を償うつもりがあるならば、今回だけは大目に見てやろう!」
レビン団長の言葉に固まる囚人達。
その間に第二陣の中衛部隊、後衛の魔法部隊も駆けつけてきた。
すると観念したように、両手を挙げる囚人達。
これで最初の流れは、こちらが掴んだ。
後は敵の巨人部隊を叩き潰すだけだ。
次回の更新は2018年8月11日(土)の予定です。