第四十五話「携帯石板」
馬とポニーを飛ばす事、半日余り。
俺達は予想していたより、早く金鉱町レバルに辿り着いた。
作戦通り途中で馬を降りて、徒歩でレバルの周辺に向かう。
斥候役に選ばれたのは、俺と兄貴、それとケビン副団長。
俺達はそれぞれ双眼鏡を首から掛け、周囲に注意を払って、物陰に隠れながら、前へ前へと進む。
兎にも角にも状況がわからないと戦いようもない。
俺は別として、兄貴とケビン副団長は索敵スキルに優れていたので、斥候役にはうってつけといえた。 入念に索敵スキルを駆使しながら、俺達はゆっくりと金鉱町レバルの近くに歩み寄る。
そし首にかけた双眼鏡で前方を見据える。
すると町の入り口付近に二人の見張り番が居た。
見た感じ荒らくれの鉱夫という風貌だ。
見るからに粗野で卑しい表情をしている。
恐らくこいつらが敵に寝返った囚人達であろう。
こいつ等だけなら、俺達で何とかなるが、巨人を従えた連中の姿が見当たらない。 問題はそいつらだ。
「思っていたより、警備が手薄だな。 中の状況が知りたい」
「そうだな、見張りの連中は問題ない。 敵の主力の状態を把握したい。 ライル殿、私が木に登って、上から状況を見るから見張ってくれ」
「わかりました」
ケビン副団長の言葉に兄貴が頷くと、
ケビンは軽快な動きで近くの木を登り始めた。
あれよあれよという間に、木を登るケビン副団長。
凄い俊敏な動きだ。 流石山猫というべきか。
ケビン副団長は、首にかけた双眼鏡を目元に合わせて、しばらく無言で前方を眺めていた。
その間も俺達は周囲に目を配る。
その時、俺の皮製の腰袋が激しく揺れた。
俺は腰袋に手を入れて、長方形型の銀色の石版を取り出した。
この長方形型の銀色の石版は、魔法で作られた魔道具だ。
これを手にして魔力を込めれば、遠く離れた仲間とも魔力を介した念話で連絡を取り合う事が可能だ。
『はい、ラサミスですが』
『ラサミスか、拙者だ! ドラガンだ!』
石版に刻んだ魔力刻印から、ドラガンの声が聞こえてきた。
疑ってたわけではないが、本当に遠距離の仲間と連絡が取れている。
凄えな、コレ。 こりゃ便利だ。
但しかなり高価な品なので、俺達『暁の大地』の団員分しかない。
更には基本的に使い捨ての魔道具なので、コスパも非常に悪い。
だがこういう非常時には、とても役立つ一品だ。
『おい、どうした? ラサミス、拙者の声が聞こえてないのか?』
『あ、すんません。 はい、はい。 聞こえてますよ』
『……で状況はどうだ?』
『町の出入り口に見張りが二人居ます。 多分囚人連中です。 中の状況を探るべく、ケビン副団長が木の上から中の様子を探っているところです、以上です』
『そうか、比較的順調のようだな。 では我々もそちらへ向かう。 また何かあったら、今度はお前から連絡してくれ、以上だ』
これで主力となる山猫騎士団やドラガン達が、
こちらに向かって来るであろう。 とりあえず今のところは順調だ。
すると偵察を終えたケビン副団長が、するすると木を降りて、こちらに近づいてきた。 俺達は顔を合わせて小声で会話する。
「中の状況はどうでした?」と、兄貴。
「ああ、思ったより敵の戦力は少ない。 エルフと思われる連中が、囚人共をけしかけて金塊の運搬作業を行っている。 その近くで噂の漆黒の巨人を筆頭とした巨人達が睨みを利かせている」
「金塊の運搬作業? 奴等の目的は金塊の強奪なんですか?」
という俺の問いにケビンは目で頷いた。
「どうやらそうみたいだな。 この辺りには転移魔術を禁じた魔封結界が張られているから、奴等が金塊を持ち出すには、結界の範囲外まで出る必要がある。 これは好機かもしれん」
「転移魔術を禁じた魔封結界? そんなもんが張られているんですか?」
「ああ、そうでないと金塊を持ち逃げする者が出るだろ?」
ケビンに説明されて、納得する俺。
それもそうだな、何せ金塊だからな。
金塊は、どの種族でも重宝されており、その市場価値は高い。
何せ腐食しない金属だからな。
現代だけでなく古代から愛用されている代物だ。
そりゃ何らかの防犯対策は当然するよな。
「とりあえず我々はこのまま監視を続けて、
レビン団長とドラガン殿達と合流しよう。 話はそれからだ」
次回の更新は2018年8月4日(土)の予定です。