第四百五十話 時節到来(じせつとうらい)
---三人称視点---
12月14日。
四大種族の代表が魔大陸のハドレス半島に到着した。
ヒューマンの代表は宰相のバロムス。
猫族の代表は国王ガリウス三世と大臣のニャルドーム。
エルフ族の代表は巫女ミリアム。
そして竜人族の代表は族長アルガスが務めていた。
各種族の代表は数名の護衛を引き連れていた。
ヒューマンの護衛は若手の数名の騎士数達。
これに関しては誰も護衛役を務めたがらなかったので、
ヒューマンの上層部が数名の若手騎士に護衛役を無理矢理押しつけた形となった。
猫族の護衛役は、
山猫騎士団の騎士団長ケビン。
それとその部下の戦乙女ジュリーと銃士ラモン。
エルフ族はナース隊長と賢者ベルロームと女魔導師のリリア。
竜人族の護衛役は竜騎士団の騎士団長レフとその部下ロムスとカチュアといった顔ぶれであった。
その代表の案内役を魔将軍グリファムとデュークハルトが務めた。
とはいえ魔王軍側としては、四大種族の代表に魔大陸の地形と都市を知られたくなかったので、魔王城アストンガレフまで、転移魔法陣や転移石を使って移動する事にした。
まずはハドレス半島から都市カームナックに転移魔法陣で移動。
更に転移石で古都バルガルッツへ向かった。
一日に数回に及ぶ瞬間移動を使ったので、
四大種族の代表とその護衛は、
この日はバルガルッツで一夜を過ごした。
翌日の朝。
特に身体に異常がなかったので、
この日も転移魔法陣や転移石を使って移動する事となった。
まずはラインラック要塞まで転移魔法陣で瞬間移動。
更にそこからナーレン大草原まで転移石で転移。
転移した時に何人かが体調不良を訴えたので、
グリファムはこの日は、
ナーレン大草原で野営する、と周囲に告げた。
翌日の12月16日。
ぐっすりと睡眠を取った為、
四大種族の代表と護衛の体調も無事回復した。
そして再び転移石を使って魔王城に向かった。
魔王城に着くまで三回も転移石を使用したので、
魔王城に到着した頃には、また体調不良者が増えていた。
そこで魔王レクサーは、四大種族の代表とその護衛を客人として扱い、
魔王城の客間に泊まらせる事を決意。
彼等としてもそれを拒む理由はなかったので、魔王の厚意に甘えて、
客間に泊まって長旅による身体の疲れを癒やした。
翌日。
魔王レクサーは四大種族の代表との和平会談を
二日後の12月19日に行う事を正式に発表した。
こうして魔王城で魔王と四大種族の代表による和平会談が
行われようとしていた。
そしてその日の夜二十一時半。
魔王は私室に客人扱いのラサミス・カーマインを呼びつけた。
魔王の意図は分からないが、
ラサミスとしてはレクサーの許へ向かうしかなかった。
「ラサミス、気をつけろよ。
魔王は何か意図を持ってお前と話すつもりだろう」
「分かってるよ、兄貴」
「なんだか城内が騒がしいですわ。
これはこの城内で何かが行われる前触れでしょう」
と、エリス。
「ええ、だからラサミスは最大限に用心すべきだわ」
と、ミネルバ。
「エリス、ミネルバ。 それも重々承知さ。だがこれはある意味転機かもしれない。オレ達もこの魔王城での軟禁状態が続いてるからな。だから今回の魔王との対話で今置かれた状況を変えれるなら、変えられるように尽力するよ」
「うん、でもあまり無理はしないでね」
と、メイリン。
「お兄ちゃん、気をつけてね」
と、マリベーレ。
するとラサミスは笑顔で言葉を返した。
「皆、心配してくれてありがとうな。
でも心配は無用さ。 恐らく現時点では、
レクサーがオレ達を殺す事はないだろう。
だからまたレクサーの心を揺さぶるように努力するよ。
まあ兎に角、皆はここで待っていてくれ」
「ああ」「「「「うん」」」」
すると扉が開き、案内役の三人の男性魔族が部屋に入って来た。
そしていつものように両手を拘束されたまま、
ラサミスは案内役に連れられて、部屋の外へ出た。
足取りから見るにまた魔王の私室に向かうようだ。
どうやらラサミスの予想通りの展開と思われる。
――さてレクサーとの対話は久しぶりだな。
――これは恐らく連合軍との戦いで大きな変化があったな。
――いずれにせよ、これは望ましい展開とも云える。
――とはいえ油断は禁物。
――とりあえずレクサーの言葉に真剣に耳を傾けよう。
---ラサミス視点---
「魔王陛下、カーマイン殿をお連れしました」
「うむ、御苦労であった。 卿等はもう下がるが良い」
「御意っ!」
魔王レクサーがそう云うと、
オレを連れてきた魔族達は踵を返して部屋を出た。
レクサーはいつものように向かい合ったソファーに座っていた。
「貴公も座れ」
「あ、ああ……」
オレはレクサーと向かい合う形でソファに腰掛けた。
レクサーは毎度ながらの漆黒のコート姿だ。
だがその表情はいつになく真剣であった。
「……」
「……」
オレ達は無言のまま互いの目を見据え合う。
するとレクサーがゆっくりと口を開いた。
「端的に云おう。 我が魔王軍は連合軍に勝利した。
その結果、四大種族の代表とこの魔王城で和平会談する事となった」
「な、なっ!?」
オレは思わず絶句した。
何てことだ、連合軍が魔王軍に負けるとは……。
その事実にオレは少なからず衝撃を受けた。
「驚いてるようだな」
「そりゃあな、オレも連合軍の一員だったからな」
「まあそうであろうな。 だが貴公にとっては好機になるであろう」
「……好機? どういう意味で?」
「連合軍が敗北した事によって、
余の客人となった貴公を咎める者も居なくなるだろう」
「ああ、そういう意味か。 確かにな……」
オレはレクサーの言葉に小さく頷く。
確かに連合軍が負けた事によって、
オレやオレの仲間の立場がこれ以上悪くなる事はなくなった。
それ自体は悪い事じゃないが、
連合軍の敗北という事実に驚きを隠せなかった。
「まあそれは貴公等の問題。
余が問題とするのは、和平会談に関してだ」
「まあアンタの立場ならそうだろうな」
「嗚呼、とはいえ相手は四大種族の代表。
恐らく奴等は舌先三寸で自己保身を図るであろう。
そうなれば余としても奴等相手に譲歩するつもりはない」
「まあ十中八九そうなるだろうな」
「だが余の本心としては、これを機に四大種族との関係を改善したいのだ。 余としてもこれ以上戦い続ける状況は避けたい。 とはいえ戦勝者である余が敗者に譲歩するつもりもない」
「……難しい問題だな」
「嗚呼、だから余は貴公にアドバイザーとして、
和平会談に参加してもらいたいと思ってる」
「えっ……?」
予想外の言葉にオレは一瞬思考停止状態になった。
オレが和平会談にアドバイザーとして参加?
レクサーの奴、どういうつもりだ。
「貴公としてはどうするつもりだ?」
「逆にこちらが聞きたい。 アンタの目的は何だ?」
「そうだな、余が望みは、貴公に四大種族の代表を説得して欲しいのだ。 余を説き伏せた貴公だ。 四大種族の代表を説得する事も充分可能だろう」
「……オレは只の十八歳の小僧だぜ?
そんなオレに四大種族の代表を説得しろ、と云うのか?」
「だがそんな貴公が余と互角以上に戦った。 更には弁舌でも余を納得させた。 そんな貴公ならば、今回の和平会談でも奇跡を起こせるかもしれん」
「……奇跡か」
「無論、簡単にはいかないだろう。だが貴公が余と戦った時のように、全身全霊で会議に臨めば、余だけなく四大種族の代表も説得できるかもしれん」
「……」
あまりオレを買いかぶらないで欲しいな。
と、思いつつもレクサーの言葉にオレの心が揺さぶられる。
そうだな、確かにこれは絶好の機会かもしれない。
このままいつまでも客人として、魔王城に居座る訳にもいかない。
オレは確かにこの魔王を認めているが、
オレや仲間達はあくまで四大種族の一員。
いずれはこの魔王城を去る時が来る。
ならばこの和平会談で魔王と四大種族の代表の間に入り、
双方が納得できるような結果に持っていく。
と、いうのが今のオレに相応しい選択肢なのかもな。
「どうする? 嫌なのであれば無理強いはせぬが……」
「そうだな、その大役を引き受けさせてもらうよ」
「そうか……」
「ああ、オレもこのままいつまでも魔王城に居座るつもりもない。 とはいえオレもアンタや魔族に完全に服従する気もない。ならばオレとしては、魔王と四大種族の代表の間に入り、魔族も四大種族も納得できるような会談にしたい、と思う」
「そうか、貴公ならそれも可能かもしれんな」
「まあもう一度戦場でアンタと戦う。
という選択肢に比べたら、楽なものさ。
だけどオレもやる限りは、全力を尽くすよ。
だからオレはこの和平会談に参加させてもらうよ」
「嗚呼、そうするが良い」
こうしてオレは魔王と四大種族の代表による和平会談に、
参加する事となった。 恐らくここが正念場だろう。
この会談を成功させるか、
させないかでオレやオレの仲間の未来が大きく変わるだろう。
ならばオレとしても未来を掴む為に全力を尽くすぜ。
そしてオレは魔王とその護衛に引き連れられて、
魔王城の作戦会議室へ向かった。
次回の更新は2022年10月23日(日)の予定です。
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