第四百二十四話 輸攻墨守(中編)
---ラサミス視点---
「っ!?」
よし、魔王の隙を突いたぜ。
何せ今のオレは能力値が倍増してるからな。
だから走力も以上に上がり、一気に間合いを詰めれた。
次の瞬間、オレは両肩の力を抜き、腰をどっしりと据わらせた。
「せいやぁっ――――――」
オレは気勢と共に居合斬りを放った。
魔王も即座にオレの居合いに気付き、後方に跳躍して回避を試みる。
しかし完全に回避する事は出来なかった。
気が付けば一の太刀で魔王の胸部に刀傷が刻まれていた。
くっ、首元を狙ったが、魔王は後ろに反れて致命傷を回避した模様。
流石は魔王だ、今の一撃を回避するとはな。
だが魔王の胸部から赤い血が吹き出し、その黒衣を濡らした。
致命傷は回避されたが、軽傷ではないようだ。
ならばここからは一気に攻め込むぜ。
「――乱火風光剣っ!!」
オレはそう叫びながら、独創的技を繰り出した。
まずは顎門の刀身に風の闘気を宿らせて、袈裟斬りを放った。
「くっ……くっ」
袈裟斬りが綺麗に決まり、魔王は右肩口から血を流しながら低い悲鳴を上げた。 そしてオレは更にそこから刀身に炎の闘気を宿らせた。 今度は逆袈裟斬りを放ち、眼前の魔王の身体に×の字を刻み込んだ。
風と炎が交わり、魔力反応『熱風』が発生。
すると魔王が「うっ……」と唸りながら、身悶えする。
だかこれで終わりじゃないっ!
そしてオレは両手に持った顎門の刀身に光の闘気を宿らせる。
「――止めだぁっ!」
「――舐めるなぁっ、――マタドール・ファングッ!!」
ちっ、ここで反撃して来るとは大した野郎だ。
まあ流石にそんな簡単には連撃を喰らわんか。
だがそれならそれで戦い方はあるっ!
「――遅いぜっ!」
オレは咄嗟に左側にサイドステップして、魔王の渾身の突きを回避。
そこから顎門を納刀して、軸足を右足から左足に変えた。
つまり左構え型から右構え型にスイッチした。
そして今度は右拳に光の闘気を宿らせて、魔王の右脇腹に左のボディフックを食らわせた。 オレの右拳が魔王の右脇腹――肝臓を綺麗に撃ち抜いた。
そして光属性が交わり、魔力反応『太陽光』が発生。
それによって魔王の動きが一瞬止まる。
よーし、ここからはオレのターンだぜぇっ!!
「――フィギュア・オブ・エイトッ!!」
オレはそう叫ぶなり、八の字を描くように、身体をウィービングさせた。
そしてオレは十八番の独創的技を全力で放った。
オレはまずは真横から左フックで魔王の右脇腹を再度、強打。
それと同時に「ぐはっ」と呻く魔王。
そこから返しの右フックで魔王の左側頭部を殴打。
次の左フックも魔王の右側頭部に叩き込んだ。
そしてもう一度右フックで魔王の左耳を打ち抜いた。
「……うっ、うっ」
恐らく今の一撃で魔王の左耳の鼓膜が破れたであろう。
だがオレは躊躇しない、しなかった。
これは魔王との一騎打ち。
この戦いには絶対に勝たねばならない。
だからオレは慈悲の心を棄てて、戦いの鬼と化した。
だが相手も魔王、魔王としての意地を見せた。
「――アーク・ヒールッ」
魔王はバックステップしながら、左手を左耳に当てながら、短縮詠唱で回復魔法をかけた。 成る程、この状況下で鼓膜が破れるのはマズい。 と一瞬で判断したか、悪くない判断だ。
でもこれで分かった事がある。
どうやら魔王も無詠唱では回復魔法を使えないようだ。
そうと分かれば、この場においては攻め続けるのが最善の策だ。
「――フィギュア・オブ・エイトッ!!」
オレは再度、身体で八の字を描きながら、独創的技を放った。
もう一度、肝臓打ちを喰らわせるぜっ。
そう思いながら、オレは左ボディフックを放つ。
だが次の瞬間、オレの左拳に激痛が走った。
「――何度も喰らうかぁっ!」
「っ!?」
此奴、咄嗟に右肘でエルボー・ブロックしたのか。
予想外の防御法にオレは一瞬戸惑った。
そして魔王はその間隙を突くように、薙ぎ払いを放った。
「――ブラッディ・ソーンッ!!」
オレは奴がそう技名コールすると同時に、ダッキングする。
すると紙一重の差で魔王の薙ぎ払いを躱す事に成功。
薙ぎ払いを空振りした魔王は僅かな隙を見せた。
よし、ならばこの状態から――
「――サマーソルト・キックッ!!」
そこからオレは反り返るように反転しながら、右足を大きく蹴り上げた。
繰り出したサマーソルトキックが魔王の顎の先端に命中!
我ながら綺麗に決まったぜ、これは顎が割れたか?
「ぐ、ぐふっ!?」
喘ぐ魔王。
今の感触だと顎に皹が入った可能性が高い。
となれば魔王は口述詠唱は使えなくなる。
だがオレの予想に反して、魔王は左手を顎に当てて回復魔法を詠唱した。
「……ア、アーク……ヒールゥ……」
すると魔王の左手から目映い光が生じて、傷ついた魔王の顎を急速に癒やし始めた。 機転の利く奴だ。
やはり此奴は倒せる時に倒しておくべきだ。
オレは口の真一文字に結んで、次なる手を打った。
「はあああぁっ……『黄金の息吹』!!」
オレは魔力を解放して、『黄金の息吹』を発動させた。
そして右腕に魔力を注ぎ、炎の闘気を宿らせる。
顎を砕けば口述詠唱が出来なくなるが、無詠唱の魔法攻撃を防ぐ事は出来ない。
だが肺を潰せば、詠唱どころか、魔力を練る事も出来ない。
だからここは『黄金の息吹』を発動させた。
『徹し』で魔王の胸部を強打して、肺を潰すっ!!
そしてオレは全力で床を蹴って、間合いを詰めた。
――これで決めるっ!
しかし魔王は避けようとも、防ごうともしなかった。
だが魔王が左手を前に突き出すなり、異変が起きた。
「――『吸魔』
魔王が左手を向けた瞬間、オレの右腕に覆う闘気が、魔力が消え失せた。
いや違う。 これは消えたのではない。
魔王は闘気を、魔力を吸収したのだ。
その吸収した闘気をそのまま全身に纏う魔王。
そう云えばあのプラムナイザーの使い魔の猫が似たような事をしていた。
こ、これはマズいっ!
と思った頃には、魔王がオレの懐に入っていた。
そして次の瞬間、魔王は闘気に満ちた掌底打ちをオレの腹部に放った。
「ご、ごふっっ……」
オレがそう喘ぐと同時に、肋骨が何本か同時にへし折られた。
オレは口から胃液と血液を吐き、後方に吹っ飛んだ。
オレは両眼を見開き、気力を振り絞るが、受けた衝撃に体がついていかない。
――や、ヤバい。
――このままだと殺されるっ!?
こ、このままじゃ意識を失いかねない。
ここで意識を失えば終わりだ。
オレは痙攣する身体を起こしながら、右手で腰のポーチを弄った。
魔王が呼吸を乱してながら、こちらを見据えていた。
大丈夫だ、まだ時間はある。
そしてオレは一枚のスクロールを取り出して、頭上に掲げて魔力を篭めた。
次の瞬間、頭上に掲げられたスクロールが眩く輝き、その光がオレの身体を包み込んだ。緊急時に用意していた聖人級の回復魔法に該当する魔法スクロール。 その効果は抜群で、瞬く間に俺の身体の痛みを癒してくれた。
「ふう……はあはあはあっ……間一髪で間に合った!」
オレは腹部に左手を当てながら、心底安堵した表情で思わずそう呟いた。
よく見るとオレの衣服の腹部が大きく破れていた。
素手の攻撃でこの威力かよ……。
オレの背中に悪寒が走る。
だが魔王も少し苦しそうに呼吸を乱していた。
そこでオレは腰のポーチを左手でまさぐり、自分の冒険者の証を取り出して目を通した。「明鏡止水」の発動時間は残り二分半程度か。
この二分半の間に勝負をつけるしかない。
オレも苦しいが、魔王も苦しい筈。
問題はあの魔力を吸収する能力、技にどう対応するかだ。
ここで判断を間違えたら、勝機を失う。
オレはそう胸に刻み込みながら、剣帯に吊るした刀の鞘に右手を添えながら、ゆっくりと間合いを詰めた。
さあ考えるんだ、考えろ、ラサミス・カーマイン!
ここで考えなくていつ考える。
どうすれば眼前の男に勝てる!?
今それを必死になって考えるんだぁっ!!
次回の更新は2022年8月6日(土)の予定です。
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