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【天使編開始!】黄昏のウェルガリア【累計100万PV突破】  作者: 如月文人
第六十一章 器用貧乏の頂上決戦
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第四百二十四話 輸攻墨守(中編)


---ラサミス視点---


 

「っ!?」


 よし、魔王の隙を突いたぜ。

 何せ今のオレは能力値ステータスが倍増してるからな。

 だから走力も以上に上がり、一気に間合いを詰めれた。

 次の瞬間、オレは両肩の力を抜き、腰をどっしりと据わらせた。


「せいやぁっ――――――」


 オレは気勢と共に居合斬りを放った。

 魔王も即座にオレの居合いに気付き、後方に跳躍して回避を試みる。

 しかし完全に回避する事は出来なかった。


 気が付けば一の太刀で魔王の胸部に刀傷が刻まれていた。

 くっ、首元を狙ったが、魔王は後ろに反れて致命傷を回避した模様。

 流石は魔王だ、今の一撃を回避するとはな。


 だが魔王の胸部から赤い血が吹き出し、その黒衣を濡らした。

 致命傷は回避されたが、軽傷ではないようだ。

 ならばここからは一気に攻め込むぜ。


「――乱火風光剣らんかふうこうけんっ!!」


 オレはそう叫びながら、独創的技オリジナル・スキルを繰り出した。

 まずは顎門あぎとの刀身に風の闘気オーラを宿らせて、袈裟斬りを放った。


「くっ……くっ」


 袈裟斬りが綺麗に決まり、魔王は右肩口から血を流しながら低い悲鳴を上げた。 そしてオレは更にそこから刀身に炎の闘気オーラを宿らせた。 今度は逆袈裟斬りを放ち、眼前の魔王の身体に×の字を刻み込んだ。


 風と炎が交わり、魔力反応『熱風ねっぷう』が発生。

 すると魔王が「うっ……」と唸りながら、身悶えする。

 だかこれで終わりじゃないっ!

 そしてオレは両手に持った顎門の刀身に光の闘気オーラを宿らせる。


「――止めだぁっ!」


「――舐めるなぁっ、――マタドール・ファングッ!!」


 ちっ、ここで反撃して来るとは大した野郎だ。

 まあ流石にそんな簡単には連撃を喰らわんか。

 だがそれならそれで戦い方はあるっ!


「――遅いぜっ!」


 オレは咄嗟に左側にサイドステップして、魔王の渾身の突きを回避。

 そこから顎門を納刀して、軸足を右足から左足に変えた。

 つまり左構え型(サウスポー)から右構え型(オーソドックス)にスイッチした。


 そして今度は右拳に光の闘気オーラを宿らせて、魔王の右脇腹に左のボディフックを食らわせた。 オレの右拳が魔王の右脇腹――肝臓リバーを綺麗に撃ち抜いた。


 そして光属性が交わり、魔力反応『太陽光サンライト』が発生。

 それによって魔王の動きが一瞬止まる。

 よーし、ここからはオレのターンだぜぇっ!!


「――フィギュア・オブ・エイトッ!!」


 オレはそう叫ぶなり、八の字を描くように、身体をウィービングさせた。

 そしてオレは十八番おはこ独創的技オリジナル・スキルを全力で放った。

 オレはまずは真横から左フックで魔王の右脇腹を再度、強打。 

 それと同時に「ぐはっ」と呻く魔王。


 そこから返しの右フックで魔王の左側頭部を殴打。 

 次の左フックも魔王の右側頭部に叩き込んだ。

 そしてもう一度右フックで魔王の左耳を打ち抜いた。


「……うっ、うっ」


 恐らく今の一撃で魔王の左耳の鼓膜が破れたであろう。 

 だがオレは躊躇しない、しなかった。

 これは魔王との一騎打ち。


 この戦いには絶対に勝たねばならない。

 だからオレは慈悲の心を棄てて、戦いの鬼と化した。

 だが相手も魔王、魔王としての意地を見せた。


「――アーク・ヒールッ」


 魔王はバックステップしながら、左手を左耳に当てながら、短縮詠唱で回復魔法ヒールをかけた。 成る程、この状況下で鼓膜が破れるのはマズい。 と一瞬で判断したか、悪くない判断だ。


 でもこれで分かった事がある。

 どうやら魔王も無詠唱では回復魔法ヒールを使えないようだ。

 そうと分かれば、この場においては攻め続けるのが最善の策だ。


「――フィギュア・オブ・エイトッ!!」


 オレは再度、身体で八の字を描きながら、独創的技オリジナル・スキルを放った。

 もう一度、肝臓打ち(リバー・ブロウ)を喰らわせるぜっ。

 そう思いながら、オレは左ボディフックを放つ。

 だが次の瞬間、オレの左拳に激痛が走った。


「――何度も喰らうかぁっ!」


「っ!?」


 此奴、咄嗟に右肘でエルボー・ブロックしたのか。

 予想外の防御法にオレは一瞬戸惑った。

 そして魔王はその間隙を突くように、薙ぎ払いを放った。


「――ブラッディ・ソーンッ!!」


 オレは奴がそう技名コールすると同時に、ダッキングする。

 すると紙一重の差で魔王の薙ぎ払いを躱す事に成功。

 薙ぎ払いを空振りした魔王は僅かな隙を見せた。

 よし、ならばこの状態から――


「――サマーソルト・キックッ!!」


 そこからオレは反り返るように反転しながら、右足を大きく蹴り上げた。 

 繰り出したサマーソルトキックが魔王の顎の先端(チン)に命中!

 我ながら綺麗に決まったぜ、これは顎が割れたか?


「ぐ、ぐふっ!?」


 喘ぐ魔王。

 今の感触だと顎に皹が入った可能性が高い。

 となれば魔王は口述詠唱は使えなくなる。

 だがオレの予想に反して、魔王は左手を顎に当てて回復魔法ヒールを詠唱した。


「……ア、アーク……ヒールゥ……」


 すると魔王の左手から目映い光が生じて、傷ついた魔王の顎を急速に癒やし始めた。 機転の利く奴だ。


 やはり此奴は倒せる時に倒しておくべきだ。

 オレは口の真一文字に結んで、次なる手を打った。


「はあああぁっ……『黄金の息吹(ゴールデン・ブレス)』!!」


 オレは魔力を解放して、『黄金の息吹(ゴールデン・ブレス)』を発動させた。

 そして右腕に魔力を注ぎ、炎の闘気オーラを宿らせる。

 顎を砕けば口述詠唱が出来なくなるが、無詠唱の魔法攻撃を防ぐ事は出来ない。


 だが肺を潰せば、詠唱どころか、魔力を練る事も出来ない。

 だからここは『黄金の息吹(ゴールデン・ブレス)』を発動させた。

 『とおし』で魔王の胸部を強打して、肺を潰すっ!!

 そしてオレは全力で床を蹴って、間合いを詰めた。


 ――これで決めるっ!


 しかし魔王は避けようとも、防ごうともしなかった。

 だが魔王が左手を前に突き出すなり、異変が起きた。


「――『吸魔きゅうま


 魔王が左手を向けた瞬間、オレの右腕に覆う闘気が、魔力が消え失せた。

 いや違う。 これは消えたのではない。 

 魔王は闘気オーラを、魔力を吸収したのだ。

 その吸収した闘気オーラをそのまま全身に纏う魔王。


 そう云えばあのプラムナイザーの使い魔の猫が似たような事をしていた。

 こ、これはマズいっ!

 と思った頃には、魔王がオレの懐に入っていた。

 そして次の瞬間、魔王は闘気オーラに満ちた掌底打ちをオレの腹部に放った。


「ご、ごふっっ……」


 オレがそう喘ぐと同時に、肋骨が何本か同時にへし折られた。

 オレは口から胃液と血液を吐き、後方に吹っ飛んだ。

 オレは両眼を見開き、気力を振り絞るが、受けた衝撃に体がついていかない。

 

 ――や、ヤバい。

 ――このままだと殺されるっ!?


 こ、このままじゃ意識を失いかねない。 

 ここで意識を失えば終わりだ。

 オレは痙攣する身体を起こしながら、右手で腰のポーチをまさぐった。


 魔王が呼吸を乱してながら、こちらを見据えていた。 

 大丈夫だ、まだ時間はある。

 そしてオレは一枚のスクロールを取り出して、頭上に掲げて魔力を篭めた。


 次の瞬間、頭上に掲げられたスクロールが眩く輝き、その光がオレの身体を包み込んだ。緊急時に用意していた聖人級の回復魔法に該当する魔法スクロール。 その効果は抜群で、瞬く間に俺の身体の痛みを癒してくれた。


「ふう……はあはあはあっ……間一髪で間に合った!」


 オレは腹部に左手を当てながら、心底安堵した表情で思わずそう呟いた。

 よく見るとオレの衣服の腹部が大きく破れていた。 


 素手の攻撃でこの威力かよ……。

 オレの背中に悪寒が走る。 

 だが魔王も少し苦しそうに呼吸を乱していた。


 そこでオレは腰のポーチを左手でまさぐり、自分の冒険者の証を取り出して目を通した。「明鏡止水めいきょうしすい」の発動時間は残り二分半程度か。


 この二分半の間に勝負をつけるしかない。

 オレも苦しいが、魔王も苦しい筈。

 問題はあの魔力を吸収する能力アビリティスキルにどう対応するかだ。


 ここで判断を間違えたら、勝機を失う。

 オレはそう胸に刻み込みながら、剣帯に吊るした刀の鞘に右手を添えながら、ゆっくりと間合いを詰めた。


 さあ考えるんだ、考えろ、ラサミス・カーマイン!

 ここで考えなくていつ考える。

 どうすれば眼前の男に勝てる!?


 今それを必死になって考えるんだぁっ!!



次回の更新は2022年8月6日(土)の予定です。


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