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第四百話  同心協力(前編)


---三人称視点---



 魔帝都アーラスの星形要塞の上空。

 連合軍の竜騎士部隊と魔王軍の空戦部隊の戦いは、敵将グリファムが敗戦した事によって、戦いの流れが竜騎士部隊に傾いた。


 それでも厳しい状況には変わらなかった。

 上空の至る所に魔王軍の空戦部隊が陣取り、倒しても、倒しても次々と敵が湧いてきた。


 だがそんな状況でも竜騎士団は黙々と戦う。

 騎士団長レフを先頭に、竜騎士達が手にした斧槍ハルバードで暴れ回った。

 更には猫族ニャーマンの魔導猫騎士を相乗りさせて、上空から地上へと魔法攻撃を仕掛け始めた。


「さあ、行くだニャン! 我は汝、汝は我。 我が名はニャラード。 ウェルガリアに集う炎の精霊よ、我に力を与えたまえ!  『シューティング・フレア!!」


「ニャニャッ! ニャンッ! 我は汝、汝は我。 我が名はニャーラン。 ウェルガリアに集う光の精霊よ、我に力を与えたまえ! ニャオーンッ! 『ライトニング・ダスト!!』」


「行くでニャンす! 我は汝、汝は我。 我が名はツシマン。 ウェルガリアに集う炎の精霊よ、我に力を与えたまえ! ――ニャンはぁッ! 『フレア・ブラスターッ!!』」


 上空から魔法攻撃を放つ魔導猫騎士達。

 魔導猫騎士達は、基本的に炎属性と光属性の魔法攻撃を放ち続けた。

 これによって星形要塞内の至るところで、魔力反応『核熱』が発生し、要塞内の魔族兵が苦しめられた。


 だがこれでは戦争である。

 それ故にニャラード率いる魔導猫騎士達は容赦しなかった。


『敵は怯んでいるニャン。 要塞の出入り口にある小さな要塞を狙うニャン。 恐らくあそこで出撃と防衛を行ってるニャン!』


 騎士団長ニャラードは『耳錠の魔道具(イヤリング・デバイス)』で部下達に指示を出す。


『了解です、団長』と、ニャーラン。


『よーし、ここで超弩級の一発を撃ち込むニャンッ!

 ニャーラン、ツシマン! サポートを頼む!』


『了解ニャン』『了解でやんす』


「レフ団長、ニャーランやツシマンが乗る飛竜に近づけてくださいニャン、今から合成魔法を撃つので!」


「……あまり接近すると狙い撃ちされる可能性がありますが、なんとかやってみせましょう!」


「ありがとうニャンッ!」


『よし、ロムス、ガレス。 今からニャラード殿が大魔法を放つようだ。 だからお互いに接近するぞっ!』


『了解』『了解です!』


 そしてレフ達は三角形トライアングルを描くようにそれぞれが配置についた。

 するとニャラードが両手を頭上にかざして、呪文を唱え始めた。


「我は汝、汝は我。 我が名は猫族のニャラード。 我は力を求める。 偉大なる光の覇者と大地の覇者よ、我が願いを叶えたまえ!」 


 ニャラードがそう詠唱すると、彼の両腕に強力な魔力を帯びた光の波動が生じた。 そしてニャラードは全身から魔力を放ちながら、呪文を更に唱える。


「天の覇者、光帝よ! 大地の覇者、地帝よ! 我が名は猫族のニャラード! 我が身を光帝と地帝に捧ぐ! 偉大なる光帝と地帝よ。 我に力を与えたまえ!」


 次の瞬間、ニャラードは両腕を力強く引き絞った。

 攻撃する座標点は、星形要塞の半月堡はんげつほに定めた。

 更に魔力を蓄積チャージすべく、ニャラードはニャーラン達に助力を請う。


『ニャーラン、ツシマン! 君らの魔力を分けてくれっ!』


『了解だニャン』


『了解でやんす!』


 ニャラードの言葉にしがたい、ニャーランとツシマンは両手で印を結んだ。

 すると二人の全身から魔力が放出する。

 その魔力がニャラードにもとに吸い寄せられた。

 それによって、ニャラードの魔力が更に高まった。

 そしてニャラードは両手で素早く印を結んで、声高らかに砲声する。



「大地よ、裂けよっ! ――グランド・クロスッ!!」



 次の瞬間、ニャラードの両手から迸った光の波動が放たれて、半瞬程、間を置いてから大地に十の文字を刻んだ。 ニャラードの光属性と土属性の神帝級しんていきゅうの合成魔法。


 大地に十の文字が刻まれて、耳朶を打つ爆音と爆風と共に、大地震の如く地面が激しく揺れた。 この一撃によって半月堡はんげつほの一つが崩壊した。 更には数百、否、数千に及ぶ敵兵を一瞬で絶命させた。


『ニャー、流石はニャラード団長だニャン!』


 と、ニャーラン。


『全くでやんす!」と、ツシマン。


 だが当のニャラードは気を緩めることなく、新たな指示を出した。


『喜ぶのはまだ早い。 あの小さな要塞は全部で五つある。 残り四つを潰すまでは、油断するな!』


『了解だニャン』『了解でごわす!』


 その後もニャラード達は上空から攻撃魔法を放ち続けた。

 その結果、五つある星形要塞の半月堡はんげつほを二つ潰した。

 しかし星形要塞内の魔族兵も死に物狂いで反撃してきた。


 空に向かってバリスタの矢を放ち、魔導師達は対魔結界を張りながら、攻撃魔法で反撃。 次第に竜騎士ドラグーン猫族ニャーマンを乗せた飛竜が撃墜され始めた。


 だが連合軍も退かなかった。

 ここで退けば戦いの流れが敵に傾く。

 だから死を恐れず、勇敢に戦い続けた。


 そして数十時間に及ぶ激戦が繰り広げられて、夜が明けた翌日の9月28日。

 

 連合軍は制空権を徐々に確保して、東西南部エリアの三箇所から地上部隊で星形要塞を攻撃。

魔王軍も各エリアの正門前に設置した簡易転移陣から、数千、数万に及ぶ増援部隊を送り続けたが、勢いに乗る連合軍が元の部隊と一緒に増援部隊も叩いた。


 だが長期戦、籠城戦となれば連合軍側が不利であった。

 そこで連合軍の総司令官マリウス王子は、星形要塞の上空から飛竜に相乗りさせた各部隊の主力級を地上に降下させて、要塞内部から敵の居城に攻め込む。 という強行作戦を実施する事を決意した。



---------


 星形要塞の降下部隊にラサミス達も選ばれた。

 選ばれたのはラサミス、ライル、ミネルバの三人だ。

 また「ヴァンキッシュ」の剣聖ヨハン、女侍アーリア、曲芸師ジャグラーのジョルディー。

 更には「竜の雷」から傭兵隊長アイザックとその部下達も選ばれた。


 マリウス王子のこの人選自体は無難であったと云える。

 だがそれに異を唱える者達が現れた。

 それは「暁の大地」や「ヴァンキッシュ」の仲間達であった。


「確かに魔法職や回復役ヒーラー狙撃手スナイパーは、この降下作戦に少し不向きと思うッス。 でもここでラサミス達だけ敵の真っ只中に向かわせるのは、同じ団員として見過ごせない問題ッス! だからアタシ達も降下部隊に加えてください!」


わたくしもメイリンと同じ気持ちですわ。 ここに来て私達だけが後方で安穏と戦況を見据える。 なんて真似はしたくありませんわ!」


 メイリンだけでなく、エリスもそう主張する。

 するとそれに乗っかるように「ヴァンキッシュ」の面々も賛同した。


「アタシ達も同じよ。 ここに来て団長達だけに負担を押しつけて、後方で安全地帯に居るつもりはないわ。 アタシ達は仲間であると同時に家族みたいなものだもん」


 と、クロエ。


「わたしもクロエ姉さんと同じ気持ちよ。

 ここまで来れば一蓮托生よ。

 だからその結果死んでも文句は云わないわ」


 と、カリンも同調する。

 だがヨハンがそれを一部否定した。


「いやカリン、ボクはこの戦いで死ぬつもりはないよ。 というか全員生き残る、生き残らなくちゃいけない。 だからボクはその為にならどんな困難に立ち向かうさ」


「……そうね、団長の言うとおりね。

 うん、わたしも勝った上で生き残って見せるわ」


 それぞれが自分の意見を主張して、決意を固めた。

 マリウス王子としても、こうなれば彼等、彼女等を止める事は出来なかった。


「うん、君達の気持ちはよく分かったニャン。 ならばボクとしてもこれ以上、君達に意見を云うつもりはない。 ウン、但し今日一日はゆっくりと休むが良いさ。 とりあえずは君達は作戦本部に戻り、豪華な食事を摂るなり、家族、恋人に手紙を書くなり、好きにしたまえ。 そして降下作戦は明日に行う、云うならばコレは最後の晩餐さ」


 ラサミス達もマリウス王子のこの命令には素直に従う事にした。

 とりあえずここから一旦、作戦本部がある帝立アーラス大学へと向かう事にした。

 だがその道中でお互いの気持ちを確認し合う。


「ヤレヤレ、ウチのお嬢様方は案外男より男らしいな」


 と、ラサミス。


「まあね、ただ帰りを待つだけ、なんてなんか嫌よ」


「うん、わたくしもメイリンと同じですわ。

 大丈夫、私達ならば必ず勝てますわ」


「おお、凄い自信だな。 ある意味あやかりたいぜ、なあ兄貴?」


「……嗚呼、でも俺も覚悟を決めたよ。

 全員生き残らせた上で、この戦いに勝つ。

 俺はその為に全身全霊を尽くすよ」


「ライルさんがそういうと頼もしいわ」


 と、ミネルバ。


「ああ、オレも自分の出来る事なら何でもするさ。

 だからお前等も絶対に最後まで諦めるな」


「「「「うん」」」」」


「いい返事だ、これは団長命令だぜ?」


「うん、アタシも最後まで諦めないわ」


「だわさ、アタシもやれる事は何でもするよん」


 マリベーレと妖精フェアリーのカトレアも力強くそう云った。

 とりあえず決意は固まった。

 だが彼等、彼女等には休息も必要であった。

 そしてアーラス大学に到着すると、各自、二人一組で部屋が割り振られた。

 

「それでは良き休暇をお送りください」


 と、作戦本部の壮年の男性ヒューマンの現場指揮官にそう云われるなり、ラサミス達は静養する為、各々の部屋へと向かった。 明日になれば、また戦いが始まる。


 だが今この時だけはゆっくり休もう。

 その気持ちは皆、同じであった。

 そして各自自由行動を取り、最後の休暇を楽しむのであった。

 

次回の更新は2022年6月11日(土)の予定です。


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