第三百九十八話 死中求活(後編)
---三人称視点---
空の戦いは地上に混戦状態であった。
空の上で戦う竜騎士達のその強さは、まさに一騎当千ではあった。
何倍、何十倍もの敵を相手に怯む事なく、戦い続けて、次々と敵の空戦部隊を蹴散らしていく。 その中でも騎士団長レフの強さは群を抜いていた。
「――我は汝、汝は我。 我が名はレフ。 竜神ガルガチェアよ、我に力を与えたまえ! ……『トニトゥルス』!!」
レフがそう呪文を唱えると、前方に雷鳴が響き渡った。
次の瞬間、敵の頭上に雷光が発生して、凄まじい轟音と閃光が前方の敵空戦部隊に衝撃を与えた。
「ぐ、ぐ、あああぁっ……あああァァッ!!」
電撃を浴びた敵の空戦部隊が絶叫して、地面に落下して行く。
今の一撃だけで、三十体以上もの敵を倒した。
だがレフは間髪入れず再び電撃魔法を放った。
「――我は汝、汝は我。 我が名はレフ。 竜神ガルガチェアよ、我に力を与えたまえ! 『トニトゥルス』!」
「ぎゃああァ……アアァッ!!」
再度放たれる英雄級の電撃魔法。
先程とほぼ同様に数十体に及ぶ敵が今の一撃で感電死する。
瞬く間に五十体以上もの敵を倒す騎士団長レフ。
だが彼はそのような状況にも関わらず、平常心を貫いた。
そして左手で腰帯のポーチから万能薬を取り出す。
左手で万能薬の栓を抜いて、ぐいっと中身を飲み干す。
すると失われた魔力が見事に補充された。
この日だけで既に二度も万能薬を飲んでいた。
だが万能薬を過度に摂取すると魔力の燃費が悪くなり、最悪の場合は魔力暴走状態なるという弊害がある。
それ故に万能薬を飲むのは、後一、二回にすべきだ。 とレフは気を引き締めた。
「団長ばかりに良い思いをさせるなァッ!! 我は汝、汝は我。 我が名はロムス。 竜神ガルガチェアよ、我に力を与えたまえ! 『竜巻』!!
レフに負けじと副団長ロムスも英雄級の風魔法を放つ。
すると周囲に竜巻が渦巻いて、前方の敵集団を乱暴にシェイクする。
敵集団は悲鳴を上げながら、身体を上下左右に揺らされた。
「――今だ! ワール・ウインドッ!!」
「おお! 『ワール・ウインド』!」
「ウインド・ソードォッ!」
ロムスに続くように、他の竜騎士達も風属性の攻撃魔法を唱える。
旋風が巻き起こり、風の刃が敵部隊に目掛けて放たれる。
するとグリフォンやコカトリスに乗っていた騎乗者達は、魔法攻撃の直撃を受けて、騎乗する魔獣の鞍から落ちて地上へ落下して行った。
そして騎士団長レフが次なる一手を打った。
レフは頭上に左手をかざし、掌を大きく開きながら呪文を唱え始める。
「我は汝、汝は我。 我が名は竜人族レフ。 我は力を求める。 偉大なる水の精霊よ、我が願いを叶えたまえ! 嗚呼、雲よ! 全てを押し流し、あらゆるものを包み込め!」
呪文を紡ぐなり、レフの頭上の雲が突如曇り、その直後に暴風が吹き荒れる。
レフは眉間に力を篭めて、更に呪文を唱える。
「天の覇者雷帝よ! 我が名は竜人族レフ! 我が身を雷帝に捧ぐ! 偉大なる雷帝よ。 我に力を与えたまえ!」
すると黒い雨雲が、急速に縮まり一点に集約され始めた。
そして圧縮された雲が、激しい稲光を放った。
次の瞬間、雲が急激に縮小していく。
それと同時にレフは右手に膨大な魔力を蓄積させて、大声で砲声する。
「――雷光!!」
レフの砲声と共に、圧縮された雲から雷光が迸り、
前方の敵空戦部隊を綺麗に命中した。
「あ、ぎゃあああッ……あああァッ!?」
「な、なんだァ……うあァ……うぎゃあああ……あああっ!!」
放たれた雷光は一瞬で、前方の敵部隊の周囲一帯を焼き尽くした。
レフは電撃魔法によって、敵部隊を一瞬で六十人近く戦闘不能に追いやった。
そして黒焦げになった魔族兵達が無残にも地上へ落下して行く。
レフの帝王級の電撃魔法が見事に決まった。
この短期間でレフは、百体以上もの敵を一人で倒していた。
この大戦に参加する前は、竜騎士のレベルは72であったが、この大戦で数々の敵を倒した為、今ではレベル77まで上がった。
それ自体は喜ばしい事だが、レフ一人に掛かる負担が大きかったのも事実。
だがそれでもレフは弱音一つ吐かない。
竜騎士団の騎士団長であるが故に、常に強い自分を演じ続ける。
それがレフ・ラヴィンという男の生き様であった。
「……こうして再び戦場で相まみえるとはな。
竜騎士レフよ」
そう云って前方からグリフォンに乗った獣魔王グリファムが現れた。
するとレフが急に押し黙った。
魔帝都や星形要塞攻略戦でも両者は、顔を合わす事があったが、レフは基本的にグリファムを避けていた。
仮に戦うとしても多対一で挑んでいた。
そしてこの場においては言葉すら交わさず――
「我は汝、汝は我。 我が名はレフ。 竜神ガルガチェアよ、我に力を与えたまえ! ……『サンダーボルト』!!」
と、間髪入れず不意打ちで電撃魔法を放つ。
だがグリファムもすぐで左手で印を結んだ。
「フンッ! こすい真似を! ハアァァァッ!!」
次の瞬間、強力な風属性の対魔結界が前方に張られて、レフの現撃魔法を綺麗に弾き返した。
「貴様がそういうつもりなら、こちらも容赦せんわァッ!!」
グリファムはそう叫んで、愛獣のグリフォンを前進させた。
そして左手で二本の手綱を片手で握りながら、残った右手で竜骨で出来た戦斧を振るう。
「――ヴォーパル・スラストッ!」
レフも咄嗟に上級槍術スキルを放つ。
戦斧と斧槍の斧刃がぶつかり合い、激しい火花を散らす。
その直後に二人は一合、二合と切り結ぶ。
どちらの動きも無駄がなく、それでいて素早い。
「流石だな、動きにまるで無駄がない」
「……貴様もな」
グリファムとレフは顔を見合わせながら、そう言葉を交わす。
「どうやら貴様は俺との戦いを避けているようだな?」
「……それがどうした?」と、レフ。
するとグリファムは「フフ」と鼻で笑う。
「一部隊の指揮官としては正しい判断だ。
この状況下で俺とやり合うのは色々とリスクが生じるからな」
「……何が云いたいのだ?」
「いや貴様の判断は正しい。
だが貴様は俺から逃げた、それは事実だ」
「……逃げてなどはいない!」
レフが僅かに語尾を強めた。
するとグリファムは口の端を僅かに持ち上げた。
「そう、貴様は逃げてはいない。
ただ上の命令に従ったまでだ」
その言葉を聞くなり、レフは僅かに笑みを浮かべた。
――くだらん、実にくだらん。
――そこまでして俺と戦いたいというのか?
――よかろう、その莫迦げた余興に付き合ってやるさ。
「……フッ、お前も見かけによらず底意地が悪いな。 成る程、そこまでして俺と戦いというのか、ならばその馬鹿げた申し出を受けてやろうっ!」
レフはそう云って、右手で斧槍を構え直し、前方を見据えた。
グリファムもまた右手で戦斧の柄を握りしめる。
「自惚れるな。 俺としても貴様と戦いたくない訳ではないが、あくまで敵の頭目を叩き潰すというのが主目的だ」
「そうか、だがそれは俺も同じ!」
「そうか、ならばかかって来るが良いっ!」
「嗚呼、そうさせてもらおう!」
そして二人はそれぞれ乗った愛竜、愛獣の手綱を引き、前進させた。
騎士団長レフと獣魔王グリファム。
両者の一騎打ちが再び始まろうとしていた。
次回の更新は2022年6月5日(日)の予定です。
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