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第三百九十七話  死中求活(中編)


---三人称視点---



「――光流斬こうりゅうざん


「ギョ、ギョエエエェェェッ!!」


「俺達も後に続くぞ! ――ファルコン・スラッシュ!」


「了解よ! ――トリプル・スラストッ!!」


「ぎゃ、ぎゃああァ……アアァッ…」


 前衛部隊の先陣で次々と敵を斬り捨てるラサミス達。

 突如、内堀を氷結された為、魔王軍も予想外の展開に動揺していた。


 だが数の上では魔王軍が連合軍を勝っている。

 相手が冷静さを取り戻す前に、勢いで押し切る。

 それを実行すべくラサミス達「暁の大地」の面々。

 剣聖ヨハン率いる「ヴァンキッシュ」の団員達が最前線で大暴れする。


「よし、敵が怯んでいるっ! 魔導師部隊、今のうちに攻撃魔法を唱えるんだァっ!」


 剣聖ヨハンがそう叫ぶなり、前衛部隊も左右に散らばり、中央部分がぽっかりと空いた。

 それと同時に魔導師達が呪文の詠唱を始めた。


「さあ、みんなで撃つニャン! 我は汝、汝は我。 我が名はニャラード。 ウェルガリアに集う光の精霊よ、我に力を与えたまえ!  ――『ライトニング・ダスト!!』」


 ニャラード率いる魔導猫騎士達が次々と魔法攻撃を仕掛ける。

 それに続かんとメイリンも両手で杖を持って呪文を唱えた。


「我は汝、汝は我。 我が名はメイリン。 ウェルガリアに集う炎の精霊よ、我に力を与えたまえ! 行くわよ! 『クリムゾン・ファイア』!!」


 するとメイリンが持った両手杖の先端の翠玉エメラルドに荒ぶる炎が生じた。

 そしてメイリンは両手杖を握る両腕を大きく引き絞った。

 次の瞬間、翠玉エメラルドから迸った荒ぶる炎が高速で星形要塞に迫った。


 数十秒後、荒ぶる炎が要塞の城壁に着弾。

 そして光属性と炎属性が交わり、魔力反応「核熱」が発生。

 光と炎が交わり、光炎フレアと変貌を為し遂げた。

 だが爆風が消え去ると、星形要塞の城壁はほぼ無傷であった。


「う、ウソでしょ?」


 自身の最強の魔法を放ったのにほぼ無傷という事実に、

 メイリンも驚きを隠せなかったが――


「狼狽えるニャ、向こうにも神帝級の魔法を使える魔導師が居るのだろう。 ましてや標的は難攻不落の要塞だニャン。 だからボク達は魔力が枯れるまで魔法を撃ち続けるニャン」


 と、ニャラード。


「りょ、了解です。 ニャラード団長」と、メイリン。


 その後もニャラード達は魔法攻撃を続けた。

 だが要塞内に籠もる大賢者ワイズマンシーネンレムス。

 それと幹部候補生のレストマイヤーやアグネシャールも全力で対魔結界を張った。


 だが連合軍の魔法攻撃は、東西南部エリアの三方面から仕掛けられた。

 それに対してシーネンレムス達は、星形要塞の出入り口に設置された半月堡はんげつほに籠もりながら対魔結界を張り続けた。


 しかし連合軍の魔法攻撃は留まる事がなかった。

 三方面から炎、氷、風、土、光、そして無属性の魔法攻撃が放たれて、その都度、対魔結界を張ったが、シーネンレムス達の魔力はみるみるうちに枯渇していった。


「くっ、シーネンレムス卿。 このままでは魔力が枯渇します」


 レストマイヤーがシーネンレムスにそう告げた。

 だがシーネンレムスは慌てる事無く、彼の問いに淡々と答えた。


「心配するな、既に多くの魔力回復薬マジック・ポーション万能薬エリクサーを用意している。 敵の攻撃の合間を見て、それらを飲むのだ。 あるいは周囲の味方から魔力を受け渡ししてもらえば良い」


「……魔力に関してはそうでしょうが、こうも魔力を消費していると精神の方が持ちません」


「そうか、ならば卿は後方に下がっているが良い」


「え?」


 シーネンレムスの予想外の言葉にレストマイヤーは呆けた声を出した。

 するとアグネシャールが彼を軽くフォローした。


「ここで彼に下がられたら、この先もっと辛くなります」


「そんな事は分かっておる。 だが卿等けいらは今の自分の状況を理解しておらん」


 シーネンレムスは突き放すようにそう云った。


「……状況を理解してないとは?」


 と、アグネシャール。


「云うならば今の戦いは、魔族と四大種族の天下分け目の大決戦なのじゃ。 ここで奴等の侵攻を食い止めるか、どうかで戦いの流れが変わる。 だから我々、魔導師は意識ある限りに敵の魔法攻撃を防がねばならんのじゃ!」


「……確かに仰る通りですね。

 分かりました、私も覚悟を決めて任務に挑みます」


 レストマイヤーが表情を引き締めてそう云った。

 するとアグネシャールも彼に同調する。


「どうやらわたくしの考えが浅はかであったようです。

 故にこの場はシーネンレムス卿の云う通りにします」


「うむ、分かってくれたらそれで良い。 良いか、敵を要塞内に侵入させるとしても、敵を限界まで疲弊させるんじゃ、そうでなければ我が軍は負ける。 とりあえずレストマイヤーは一度後退して魔力を補給せよ。 その間にわしとアグネシャールで敵の魔法攻撃を防ぐっ!」


「「はいっ!!」」


 シーネンレムス達は、改めて、覚悟を決めて要塞の防衛に専念する。

 だが連合軍の魔導師達も全力で魔法攻撃を仕掛ける。

 数と数による激しい魔法戦が繰り広げられる。


 両軍の魔導師達は、ひたすら魔法攻撃、あるいは対魔結界及び障壁バリアを張り続ける。

 そして落ち着きを取り戻した魔王軍は、星形要塞の東西南部の正門に設置した簡易転移陣かんいてんいじんから、飛行能力を持つ魔物、魔獣。 大量に生成されたゴーレムの集団が解き放たれた。


 その数は優に数千、いや万単位であった。

 すると連合軍側の魔導師は、要塞狙いから前方の敵集団に狙いを定め直した。

 

「要塞から新たな敵部隊が出現したニャン。

 とりあえず要塞狙いから前方の敵部隊に狙いを変えるニャン」


「了解ッス、ニャラード団長」と、メイリン。


 その後はまさに空前絶後の戦いが繰り広げられた。

 ひたすら攻撃魔法を放つ連合軍の魔導師部隊。

 魂を持たない故にゴーレムの大群は、死の恐怖に恐れる事無く、ひたすら前進して来た。


 数十時間に及ぶ激戦の末、連合軍の魔導師部隊は前方の敵集団の半数を撃破した。 だがその代償に魔力の大半を使い果たした。


 そこでマリウス王子は、一度、魔導師部隊を後退させて彼等に魔力補給を命じた。 それを待ちわびていた、と云わんばかりに魔王軍側が前衛部隊を最前線に押し上げた。


 東西南部エリアの各地で激しい白兵戦が始まった。

 連合軍の第一軍はカーマイン兄弟や剣聖ヨハンとその仲間で敵部隊を次々と各個撃破していった。


 だが第二軍のエルフ族部隊。

 第三軍の猫族ニャーマン部隊は、予想外の苦戦を強いられた。

 迫って来る敵兵を斬っては斬り続けるが、星形要塞の東西南部の正門に設置した簡易転移陣かんいてんいじんから、次々と敵の増援部隊が送られ続けた。


 それでも連合軍は退かず、真正面から敵を迎え討った。

 そして三日三晩戦い続けて、明けた翌日の9月26日。

 連合軍は敵部隊を八割方壊滅させた。

 それと同時に自軍の戦力の二割近くを喪失。


 残された戦力は全軍合わせて約四万。

 対する魔王軍は恐らく八万近い戦力が控えていた。


 更には北部エリアから増援部隊が派遣されている状況。

 このままでは連合軍に勝機はない。

 それを悟ったマリウス王子は強攻策を敢行した。


「よし、三方面の部隊はそのまま攻め続けよ。 そしてレフ団長率いる竜騎士団は、制空権を奪う為に全力で闘うように告げよ。 制空権を奪ったら、飛竜に各部隊の主力を相乗りさせて、星形要塞に降下させよ、皆苦しいだろうがここが踏ん張りどころニャン」


 マリウス王子の命令を受けたレフ団長は――


「総司令官も勝手な事を云いなさる。 現状の戦力差では制空権を奪うのは難しい。 とはいえこのままだと空戦部隊も地上部隊も共倒れだ。 ならば我等、竜騎士団でこの戦局を変えようではないか!」


「そうですな」と、副団長ロムス。


「了解です」


 と、切り込み隊長カチュア。

 そして竜騎士団は一度後退してから、全団員が一日ほど休暇を取った。


 この戦いで自分は死ぬかもしれない。

 などと色々思い悩んで故郷の家族、恋人に手紙を書く者。

 あるいは自分は必ず生き残る。

 という根拠のない自信を持つ者は、酒や御馳走を食べて、しばしの休暇を楽しんだ。


 そして翌日の9月27日。

 東西南部エリアから三百人を超す竜騎士達が制空権を奪う為、再び空の戦いに挑もうとしていた。


次回の更新は2022年6月4日(土)の予定です。


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