第三百九十三話 竜驤麟振(前編)
---三人称視点---
ウェルガリア歴1602年8月29日。
マリウス王子が率いる南部エリアの第一軍は、剣聖ヨハン、傭兵隊長アイザック、カーマイン兄弟などの名うての冒険者と傭兵が冒険者及び傭兵部隊一万五千人を率いて、前線部隊として敵の前線部隊を食い止める。
本陣であるマリウス王子の軍には、ニャラード団長を初めとした魔導猫騎士及び猫騎士が五千名が参戦。 合わせて二万の兵を持って南部エリアから、星形要塞へ攻め込む。
東部エリアには、ネイティブ・ガーディアンのナース隊長が率いる第二軍がエルフ族の穏健派で構成された五千人の兵力。 それにエルフ族の冒険者や傭兵で構成された一万人の兵が加わり、合計一万五千の兵力。
西部エリアには、山猫騎士団の団長代理ケビンが三百名の猫騎士を本陣として、猫族だけでなく、ヒューマン、竜人族も加わった冒険者及び傭兵部隊一万五千人。 これを第三軍として、西部エリアから星形要塞へ攻め込む。
東西南部エリアの全軍合わせて約五万の大軍。
この五万の大軍を持って、星形要塞へ攻め込み、外堀、内堀を埋めてから、本格的に要塞の攻略にかかる。
以上のような戦術を持って連合軍は、東西南部エリアから第一軍から第三軍を進軍させた。
それに対して魔王軍側も鳥人、半人半鳥、ガーゴイル、調教したブルテッシュ・リザードや翼竜などの飛行能力を有した魔物、魔獣の集団を星型要塞から一斉に放った。
「――諸手突きっ!」
「ファルコン・スラッシュ!」
「ヴォーパル・スラスト!」
「パワフル・スマッシュ!」
「一の太刀っ!」
最前線で剣を刀、槍を振るうラサミス達。
一体あたりの戦闘力はそれ程でもないが、いかんせん敵の数が多すぎる。
だがそれでも一体づつ確実に止めを刺して行く。
一方その頃、空の戦いも激しさを増しつつあった。
この星形要塞攻略戦に参加する竜騎士と飛竜の数は三百にも及んだ。
騎士団長レフの部隊が150名。 副団長ロムスの部隊が130名。
そして切り込み隊長アチュア率いる女性の竜騎士が20名。
レフとロムスの部隊が敵の主力である獣魔王グリファムの部隊と交戦して、サキュバス・クイーンのエンドラ率いるサキュバス部隊をカチュアが率いる女性の竜騎士達が必死に食い止める。
レフとロムスは交互にグリファムに戦いを挑んで、グリファムに行動の自由を与えなかった。
だが二人の狙いに気付いたグリファムは、レフとロムスの攻撃を完璧に防ぎながら、周囲のグリフォンやコカトリスに乗る獣人部隊にレフとロムスを狙い撃ちするように命じた。
「――ダブル・スラストッ!」
「ぎゃああァァァッ!!」
「まだだ! あの黄金の鎧を着た竜騎士を攻め続けるんだァッ!!」
「くっ、これではきりがない」
「団長、ここは一旦後退しましょう」
と、副団長ロムス。
「そうだな、ここは一旦退こう」
そしてレフとロムスは一度後ろに下がり、それと同時に他の竜騎士部隊が前線に躍り出る。 そこから戦槍や斧槍、大剣、戦斧などで激しい斬撃の応酬を繰り広げる両軍。
そのような消耗戦が二日間によって行われた。
このままでは兵士や兵糧を無駄に浪費するだけだ。
それを悟ったマリウス王子は各部隊の隊長に――
「このままだと消耗戦に突入するだニャン。 それは出来れば避けたい状況だニャン。 だから戦闘能力の高い各部隊のリーダーや主力が前線で大技や大魔法を使って敵を撃破する作戦に切り替えるだニャン」
との命令を下した。
そして翌日の8月31日。
マリウス王子のこの作戦は見事に嵌まった。
特に主力部隊が集う第一軍では大きな戦果が上げられた。
「ボクの魔法で一気に決めるっ!
周囲の者はサポートしてくれっ!」
剣聖ヨハンがそう云って両手を頭上にかざした。
「我は汝、汝は我。 我が名はヒューマン族のヨハン。 我は力を求める。 偉大なる光の覇者よ、 我が願いを叶えたまえ!」
ヨハンが呪文を詠唱するとその両腕に、強力な魔力を帯びた眩い光の波動が生じた。
ヨハンは眉間に力を篭めてに、呪文を更に唱える。
「天の覇者、光帝よ! 我が名はヒューマン族のヨハン! 我が身を光帝に捧ぐ! 偉大なる光帝よ。 我に力を与えたまえ!」
そしてヨハンは両腕を大きく引き絞った。
それと同時にヨハンは両手に、莫大な魔力を蓄積させて、声高らかに砲声する。
「――聖なる審判!!」
次の瞬間、ヨハンの両手から迸った光の波動が神速の速さで、前方の敵部隊目がけて放たれた。 光の波動が着弾。
それと同時にとんでもない爆音が鳴り響き、地面が激しく振動する。
「ぎ、ぎゃあああ……あああっ!!」
「う、うぎゃああァッ!!」
あちこちで上がる魔物や魔獣、魔族兵達の断末魔の悲鳴。
まさに地獄絵図だが、当のヨハンは涼しい表情をしていた。
「爆風が止むまで少し時間がある。 その間に自分、あるいは味方に強化及び補助魔法を使うんだ」
「は、はい」
そして第一軍の最前線部隊は、ヨハンの指示に従い、それぞれが強化及び補助魔法を使った。
その後もヨハンだけでなく、錬金術師のクロエなどが錬金魔法を駆使して、敵に攻撃、あるいは敵に対して妨害行為を行う。
それによって南部エリア側の敵部隊の動きが鈍り始めた。
それを待っていたと云わんばかりに、ヨハンが大声で周囲に指示を飛ばした。
「今だ、ボク達が最前線で敵を食い止めている間に、魔導師部隊は土魔法で土を生成して、外堀を埋めるんだ!」
「了解だ」「了解ッス!」
騎士団長ニャラードとメイリンが声を揃えて返事する。
そしてニャラード達、魔導猫騎士団、それとメイリンや他の魔導師達が一斉に土魔法で土を生成する。
「――クリエイト・アースッ!!」
「じゃんじゃん土を作るだニャン!
魔力の補給は魔法戦士に任せろっ!
行くだニャン、クリエイト・アースッ!」
「クリエイト・ストーン」
第一軍の魔導師達が一斉に土魔法を唱えて、南部エリアの外堀をドンドン土や石で埋め立てて行く。 それを食い止めるべく、魔王軍の前衛部隊も果敢に前へ出る。
だが剣聖ヨハンが再び「聖なる審判」で敵を一掃。
復讐心に燃えた敵部隊が一斉に魔法攻撃を仕掛けるも、ヨハンは職業能力『魔封陣』を発動させて、敵の魔力を奪い、そこから神帝級の剣術スキル 『ゾディアック・スティンガー』を放った。
太いビーム状黄の緑色の衝撃波は、その進行方向上に居る敵を容赦なく次々と貫いて行く。
気が付けば、敵軍の前衛部隊の中央が綺麗に空白地帯となった。
今の一撃で恐らく百人近くの敵兵を撃破した。
「スゲえ、流石は剣聖だぜ」
「ラサミス、感心している場合じゃないぞ。
俺達も後に続くぞっ!」
「分かってるよ、兄貴」
そしてヨハンに負け時とカーマイン兄弟を初めとした第一軍の最前線部隊も手にした武器を振るい、敵を斬り捨てる。 その間にも中衛、後衛の魔導師達は土魔法で外堀を埋めていく。
敵もゴーレムや不死生物を大量に放ち、第一軍の埋め立て作業の妨害を試みるが、ゴーレムにはメイリン達、魔導師が魔法で迎撃。
不死生物には、エリス達、神職が神聖魔法で対抗する。
そのような戦いが四日ほど、続いて五日目の9月5日。
連合軍の第一軍は、南部エリアの外堀の埋め立て作業を完了させた。
予想外に早く埋め立て作業を終えたが、マリウス王子は油断する事なく、ラサミス達に新たな命令を下した。
「よし、とりあえず南部エリアの部隊はそのまま前進して、魔法の射程圏内に入ったら、魔法攻撃で要塞を攻めるだニャン。 そして前線部隊はアイザック殿だけを残して、ヨハン殿達「ヴァンギッシュ」、「暁の大地」の面々は、竜騎士部隊の飛竜に相乗りして、西部エリアの援軍に向かうだニャン」
そして「ヴァンギッシュ」からは、剣聖ヨハン、アーリア、ジョルディー。
「暁の大地」からカーマイン兄弟、ミネルバの三人が竜騎士の飛竜に相乗りして、西部エリアに向かった。
ラサミス達は、「羽根つきの靴」を装着して、低空飛行状態になった飛竜から飛び降りて、地面に着地する。 すると剣聖ヨハンが右手に握った聖剣サンドライトを頭上に掲げた。
「よーし、ここでも派手に暴れるぞ。
こちらも苦しいが、敵も苦しい。
だから皆で力を合わせて、任務を全うしよう!」
「「ああ」」「「「はい」」」
そして各々が手にした武器を構えて、
敵部隊と交戦する第三軍と合流すべく、全力で地を蹴った。
次回の更新は2022年5月25日(水)の予定です。
ブックマーク、感想や評価はとても励みになるので、
お気に召したらポチっとお願いします。




