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第三百九十一話  強襲の竜魔部隊


---三人称視点---



 魔帝都の東、西、南エリアの制圧に成功した連合軍は、星形要塞を完全に包囲する為に、東西エリアから北部エリアへと攻め込んだ。


 だがこれに対して魔王軍も激しく応戦した。

 魔帝都の北部エリアには、魔族の貴族である魔貴族まきぞくが住む魔宮殿があった。


 この魔宮殿を連合軍に抑えられたら、軍事的にも政治的にも大きな打撃を受ける事になる。


 故に魔宮殿直属の近衛兵をはじめとして、魔元帥アルバンネイルの龍族部隊。

 デュークハルト、レストマイヤーやアグネシャール等、

 幹部候補生の部隊も全力で北部エリアを死守した。


 三日三晩、両軍が激しい戦闘を繰り広げたが、北部エリアの護りは、想像以上に固く連合軍は、一旦は兵を退き、北部エリアの制圧を断念した。


 その後、二日ほど両軍は膠着状態に入ったが、8月19日に連合軍のラインラック要塞からナーレン大草原に向けて、派遣された補給部隊が魔王軍の竜魔部隊の奇襲攻撃を受けた。


「ニャ、ニャ、ニャァァァッ!! 敵だ、奇襲だニャン、ボクは只の補給部隊の荷物持ち(サポーター)だニャン。 戦いなんて出来ないニャン! だ、誰か助けてええっ!!」


 茶トラの猫族ニャーマンが恥も見栄もかなぐり捨てて、助けを求める。

 無論、連合軍の補給部隊にも護衛部隊が同行していた。

 飛竜に乗った竜騎士ドラグーンが三十五人。

 軍馬や騎乗竜ランギッツに乗った騎乗兵が二百人。

 それと各地から集まった傭兵や冒険者が三百人近く居た。


 通常の敵ならば、この戦力で問題なかった。

 だが敵は魔王軍の精鋭部隊である竜魔部隊。

 更にはその数は五百人にも及んだ。


「敵の竜騎士りゅうきし部隊を押さえつけている間に、敵の荷馬車や荷車を破壊せよっ!」


 奇襲部隊の隊長を務める竜魔バーナックは高らかにそう叫ぶ。

 彼はまだ幹部候補生の扱いだが、ここで戦果を上げれば、いずれ幹部に昇格出来る。

 という淡い野心を抱きつつも、まずは与えられた任務に専念した。


 竜騎士部隊相手に竜魔三百人。

 そして残り二百人で敵の荷馬車や荷車を次々と破壊する。


「ニャアァ……もう嫌だァ。

 ボク、もう逃げるニャンッ!」


 敵の攻撃を受けて燃え盛る草原を背にして、

 荷物持ち(サポーター)の茶トラの猫族ニャーマンが逃亡を図る。


「き、貴様ァっ! 敵前逃亡は重罪だぞっ!」


 護衛部隊の禿頭の大柄なヒューマンが叱責するが、茶トラの猫族ニャーマン以外の荷物持ち(サポーター)も逃げ出した。 彼等は正規兵ではなく、冒険者や雇われ兵の類いであった。


 それ故に過度な愛国心や種族信仰は持っておらず、危なくなれば逃げ出すという手段を選んだ。


「バーナック隊長、どうやら敵は動揺しているようです。 この機会を生かして、敵の補給物資だけでなく、補給部隊やその護衛部隊も叩きましょう!」


 と、赤髪あかがみの竜魔が進言するが、バーナックは首を左右に振って、その申し出を拒絶した。


「いや我々の任務は、あくまで敵の補給線を叩く事だ。 ここで変な色気を見せれば、敵の思わぬ反撃を受ける可能性がある。 だから敵の補給物資を破壊したら、速やかに兵を退くぞ!」


「しかし今なら敵を叩けます」


「くどい! 二度云わせるな!」


「……はい」


 結果的にバーナックのこの判断は正しかった。

 そして連合軍の補給部隊は補給物資を破壊されて、多数の犠牲者を出して、ラインラック要塞へと逃げ帰った。


 これによってラインラック要塞から、ナーレン大草原への補給が滞り、ナーレン大草原に設置した連合軍の補給基地にも影響が出始めた。


「申し上げます。 ラインラック要塞から派遣された補給部隊が敵の奇襲攻撃を受けたようです」


「何っ!?」


 伝令の言葉に補給基地の防衛司令官バイスロン・アームラックは、思わず大声を上げた。

 

「それで補給部隊はどうなった? 壊滅したのか?」


「い、いえ……大きな損害は受けたようですが、何とかラインラック要塞に撤退したようです」


「そうか」


「はい」


「困った事になったな。 今、味方は魔帝都の三エリアを抑えている状態だ。 これから星形要塞への攻撃を仕掛けるところだが、そう易々と要塞は落とせんだろう。 となると持久戦になる可能性が高い。 だからここで前線の補給が滞るのは、非常にまずい……」


「そうですな、ではどうなさるおつもりですか?」


 と、防衛副司令官のエルリグ・ハートラーが問うた。

 するとアームラックは、渋い表情で暫し考え込んでから、言葉を紡いだ。

 

「……そうだな、最悪の場合はこの補給基地の補給物資を前線に届けるしかないな。 とはいえこの補給基地もそれ程、兵糧や物資に余裕がある訳ではないが……」


「それは出来れば避けたい状況ですね。 我々とて、いつどうなるか分からん状況ですからね」


 と、ハートラー。


「そんな事は分かっている。 だが今、我が軍は勝つか、負けるかの瀬戸際に立たされている。

だからここで補給を怠って負ける。 などという失態を犯すわけにはいかん!」


「……ではどうなさるおつもりですか?」


「そうだな、伝書鳩をラインラック要塞に飛ばして、ナッシュバイン殿下に再度、補給部隊を派遣するようにお願いするしかあるまい」


「団長がそう申すなら、私もそれに従いましょう」


「うむ、では早速、伝令文書を書こう!」


 そしてアームラックは、伝令文書を書いてその日のうちに伝書鳩を飛ばした。

 

 翌日の8月21日。

 伝書鳩がラインラック要塞に到着。

 そしてナッシュバイン第三王子が伝令文章に目を通したが――


「うむ、補給部隊を再度、派遣せよ。 と、アームラック団長が申しておる。 オーフェン、お前はどうすれば良いと思う」


「はっ、ここは団長の要請通りに補給部隊を再度派遣すべきでしょう」


 と、進言する副官オーフェン。


「うむ、しかしまた敵の奇襲を受けてはかなわん。 とはいえこの要塞の警備も万全と云うわけではない。 私としてはあまり余分な戦力や物資を割きたくないな」


「ですが前線の部隊は、敵の本拠地で激闘を繰り広げている最中です。 ここで補給を渋れば、前線部隊が負ける恐れがあります」


「ふうむ、まあ出来ればそれは避けたい状況だな。 よし、ならば護衛部隊を充分につけて、

再度、補給部隊を派遣せよっ! いいか、必ず成し遂げるのだぞ!」


「御意っ!!」


 こうしてラインラック要塞から、

 ナーレン大草原の補給基地に向けて、再度補給部隊が派遣された。

 一千人を超える護衛部隊をつけた為、敵の奇襲部隊の隊長バーナックも補給部隊の攻撃を諦めた。


 そして補給物資は、ナーレン大草原の補給基地に無事届けられた。

 だが敵の奇襲部隊は、次なる手を打った。


 今度はラインラック要塞に向けて、派遣された後方の補給部隊を強襲した。 油断していた連合軍は、ラインラック要塞に派遣する補給部隊の護衛を充分につけていなかった。


「よし、敵にろくな護衛はついていない!

 ここで一気に補給部隊を叩くぞ!」


「はいっ!」


 バーナックの指示に従い、竜魔部隊は獅子奮迅の働きを見せて、連合軍の補給部隊を次々と撃破していった。


 伸びきった補給線が見事に叩かれて、連合軍の補給線は断たたれ、ラインラック要塞とナーレン大草原の補給基地が孤立した状態になった。 

 ナッシュバイン王子は即座に後方の補給基地へ――


「前線の部隊は今まさに極限状態にある。 充分な護衛をつけて、直ちに補給部隊を派遣せよ」


 と、要請したが、前線部隊に各種族、各国の重鎮を割いた為、後方の司令部には、実戦経験のない貴族や貴族の倅、階級やランクだけが高い軍人や冒険者が配置されていた為、的確な行動を起こす事が出来なかった。


 それでも大勢の護衛をつけて、補給部隊を前線の基地に送りつけたが、すると今度は警備が手薄になった補給基地が敵の竜魔部隊の強襲を受けた。


 奇襲部隊の隊長バーナックは臨機応変に動き、時には補給部隊を叩き、時には補給基地を叩いた。 その結果、連合軍の補給線はずたずたに切り裂かれた。


 しかしその状況でも一部の補給部隊と護衛部隊が前線基地になんとか到着して、最低限の補給は果たした。 だが魔帝都攻略部隊の兵糧や物資は持って三ヶ月程度。


 難攻不落の星形要塞を攻略するには、やや不安が残る数字であったが、連合軍の総司令官マリウス王子は、南部エリアの魔帝都の大学施設を占拠して、そこに兵士達、それと捕縛した捕虜を収容した。


 そしてこれから始める星形要塞攻略戦に向けて、各部隊のリーダーや隊長を集めて作戦会議を行おうとしていた。


次回の更新は2022年5月21日(土)の予定です。


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