第三十八話「見渡す限り猫族(ニャーマン)」
猫族の王都ニャンドランド。
これでこの国を訪れるのは、三度目だ。
最初は猫族ばかりの状況に少し驚いていたが、
流石に三度目ともなると慣れた。
だがエリスとメイリンは相変わらずテンション高い。
「うーん、見渡す限り猫族。 絶景ですわ!」
「ホントですね、エリスさん。 アタシ、生きてて良かった」
どうやらこの二人は三度目でも飽きない模様。
どんだけ猫族好きなんだよ、お前等。
まあ俺も好きな方だけどさ。
「ニャー、ヒューマンだニャ!」
「本当ニャ! 皆、気をつけるニャ! ヒューマンに捕まると、死ぬまでサーカスで働かせられるニャ!」
周囲の子猫達は相変わらず警戒心剥き出しだ。
だがエリスとメイリンは余裕気な表情だ。
「ふふふ、心配ないですわ! 私達は良いヒューマンですわ!」
「その通り! 我等、美少女コンビは永遠に猫族の味方よ!」
エリスとメイリンが自身ありげにそう宣言する。
つうか天下の往来で美少女発言はやめろよ!
こっちが恥ずかしくなるからさ!
「なら証拠を見せてみろニャ!」
「証拠? いいでしょう、ならば見せてあげよう!」
メイリンは芝居がかった台詞と仕草でローブを翻した。
そして懐から何かを包み込んだ紙を取り出し、頭上に掲げた。
「な、何だニャ!? それは!?」
「いい臭いだニャ! うう、身体が引きつけられるニャ!」
「あ、アレは!? タビだニャ! 魔タタビだニャ!」
「う、うおおおおおお! タビをくれニャ! タビッ!!」
次の瞬間、周囲の子猫達がエリス達目掛けて突進する。
子猫にもみくちゃにされながら、エリスとメイリンは幸せそうだ。
もっともこの子猫の懐柔策を提案したのは俺だ。
二度目にこの国に来た時もエリス達は子猫から警戒され、
しょんぼりしていた。 そこで俺がふと――
「なら物で釣れば良くねえ? 例えば魔タタビとかでさ!」
と何気なく口にすると――
「そ、その手があったわ! 流石ラサミス!」
「アタシ、初めてアンタを天才と思ったわ!」
という具合に余計な知恵をつけた美少女二人。
そして餌で子猫を釣り、もみくちゃにされ満足そうな二人。
だがしばらくすると周囲の行商の猫族が近寄ってきて――
「おい、ヒューマンの姉ちゃん達。 魔タタビで子猫を釣るのはご法度だぜ? 子猫が変な酔い方したら、あんた等責任取れるのかい?」
「「ご、ごめんなさい!!」」
と、軽く説教されて即座に謝罪する二人。
まあ当然といえば当然だよな。 大人の猫族からすれば、他種族が餌で子猫を弄んでいるのは、あまり気分良くないだろうからね。
結局、魔タタビで釣る作戦は今回で終了。
そして散り散りになる子猫。
残されたのは、何処か疲れた様子の美少女二人。
するとドラガンが「コホン」と軽く咳払いした。
「もう気は済んだな? お前等が猫族を思う気持ちは、有り難いが、度が過ぎると迷惑だ。 その辺を肝に銘じておけ」
「すみません」「ご、ごめんなさい」
と、頭を垂れるエリスとメイリン。
「まあ彼女達も悪気があるわけではないから」
と、さり気無くフォローするアイラ。
「それはわかっている。 でも今回は遊びではないんだ。 王の前では礼儀作法を通せよ。 恥をかくのは拙者だからな」
「「以後気をつけます、ドラさん!」」
「ドラさんじゃない!!」
「「は、はい、団長!!」」
次回の更新は2018年6月16日(土)の予定です。