第三百八十三話 硝煙弾雨(中編)
---ラサミス視点---
……。
オレは左手で盾を構えながら、摺り足で相手との間合いを測る。
だがデュークハルトも同様に摺り足で、時計回りに円を描くようにゆっくりと回る。
攻撃が届きそうで届かない絶妙な間合い。
流石に戦い慣れているようだな。
するとデュークハルトは僅かに後ろに下がり――
「――お見合いは飽きたぜ。
だからこっちから動くぜ! ――アクセル・ドライブッ!!」
そう云って、中級の風魔法を唱えた。
この魔法は確か移動速度を増す加速魔法だ。
と思うと同時にデュークハルトが突っ込んで来た。
「――ライガー・クロウ」
「――させるかぁっ! 二連斬りっ!」
オレは鞘から聖刀を抜刀して、高速で二連撃を放つ。
オレの聖刀と金狼の漆黒の鍵爪が衝突して、周囲に火花を撒き散らした。
……加速魔法を使ったからか、先より随分と早い。
これだと此奴の攻撃を食い止めるだけで精一杯だ。
なんとかして此奴の動きを一瞬でもいいから止めないと。
「せい、せい、せい、せいやぁっ!」
デュークハルトの猛攻は更に続いた。
オレは左手の盾で、あるいは右手の刀で眼前の金狼の攻撃を防ぐが、徐々に衣服や腕の皮膚などが裂かれ始めた。
……長時間戦えばこちらが不利だな。
ならばここは状況を変えるべく、策を弄するべきだ。
「ハアアァ……――ライガー・ランページッ!!」
デュークハルトは再び大技を繰り出した。
だがオレはそれと同時にバックステップして攻撃を回避。
そして刀を素早く鞘に収めて、腰の剣帯から聖木のブーメランを取り出して、右手に持った。
「――ふんっ!」
オレは全力で聖木のブーメランを擲った。
回転しながら風を切るブーメランがデュークハルトに迫る。
それと同時にデュークハルトは左にサイドステップ。
よし、今だぁっ!
「――軌道変化っ!!」
オレはそこで投擲スキル『軌道変化』を発動させた。
するとブーメランは、垂直に落ちて眼前の金狼の左足の大腿部に命中。
「ぬうっ!?」
不意を突かれたデュークハルトが悲鳴を上げる。
オレはそれと同時にステップインして、右手を前にかざした。
「――零の波動!!」
するとオレの右手から白い波動が迸り、デュークハルトに命中。
これで奴の加速魔法は解除できた。 ならば――
次の瞬間、オレは両肩の力を抜き、腰をどっしりと据わらせた。
――ここからは一手も間違えられん!
――だから全神経を集中して行動するっ!
「イヤアッ――――――」
オレは気勢を上げて、高速で居合抜きを繰り出した。
風の闘気で覆われた聖刀が眼前の金狼の額を綺麗に割った。
「ぐぬっ……」
くっ、本当は両眼を狙ったんだがな。
瞬時で回避するあたりは流石と云うべきか。
だがオレの攻撃はこれで終わりじゃない。
「――諸手突きっ!!」
オレはそこから左手に持った盾を地面に投げて棄てた。
そして聖刀に炎の闘気を宿して、刀の柄を両手で握りしめて、渾身の突きを繰り出す。
不意をついたおかげか、聖刀の切っ先が眼前の金狼の胸部に命中。
奴が纏った漆黒の鎧の胸甲を貫通して、聖刀の切っ先が奴の胸部に突き刺さる。
だが止めを刺すには至らない。
そこでオレは聖刀を奴の胸部から抜き去り、右手から左手に持ち替えた。
それと同時に左構え型から右構え型にスイッチする。
「『黄金の息吹』!!」
オレは全魔力を解放して、『黄金の息吹』を発動させた。
そこから右腕に全魔力を注いだ光の闘気を宿らせて、
デュークハルト懐に入り込んだ。
そしてオレは「ハア――」と大きく呼吸して、
右手を開いたまま、大きく前へと突き出して、眼前の金狼の胸部を強打する。
次の瞬間、凄まじい衝撃が右手に伝わった。
光の属性が加わり、魔力反応が『熱風』から『太陽光』に変化する。
するとデュークハルトの胸部が目映い光で包まれた。
「あ、ああああぁっ……ぬうううおおおぉっ!!」
野獣のような呻き声をあげて、デュークハルトが後方にぶっ飛ぶ。
石畳を転がるように十五メーレル(約十五メートル)程、後ろに吹っ飛んだ。
鋼の肉体を持つデュークハルトも内部を破壊する衝撃に耐えれず、口から血泡を吹いて、地面に大の字になって倒れた。
「ハア、ハア、ハアァッ……」
今の一撃で全魔力の八割が失われた。
だがこれでデュークハルトを倒す事に成功した。
かなりしんどかったが、これで周囲の士気も上がる――
「何をしてる!? すぐにデュークハルト隊長を助けるんだァっ! それ以外の者は壁になって、敵の前進を食い止めるんだァっ!」
「は、はいっ!」
前方の犬頭の魔族がそう叫ぶなり、
周囲の魔族兵達がオレ達の前に立ち塞がった。
……やれやれ、この状態で戦うのは厳しいぜ。
「よし、我々も前へ出るぞ!
山猫騎士団の底力を見せてやれ!」
「はいニャンッ!」
レビン団長がそう叫ぶと、猫騎士達も前へ出て手にした武器を構えた。
……ここは彼等に任せようか。
オレはとりあえず魔力を補給する必要がある。
そしてオレは腰のポーチから魔力回復薬を取り出して、
一気に中身を飲み干した。 ふう、コイツは効くぜ。
そしてオレは空瓶をポーチの中に入れた。
その時に誰かがオレの右肩を掴んだ。
「よくやったな、ラサミス。
後はオレ達に任せて、お前は少し休めっ」
「あ、兄貴」
「お前一人に良い思いはさせないさ。 俺達にも見せ場は残しておけ」
「そうそう、何でも一人で抱え込むのは良くないわ」
と、ミネルバ。
「うんうん、とりあえずアタシやエリス、マリベーレちゃんは、後方に陣取るから、アンタは魔力補給しながらアタシ達を護って!」
「……分かったぜ、メイリン!」
「ラサミス、ちゃんと護ってね!」
「エリス、もちろんさ!」
「あたしも隙を見て、狙撃するわ!」
「マリベーレ、敵の魔導師を重点的に狙ってくれ」
「了解!」
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そこから先は真正面からの白兵戦が行われた。
突進、そして後退。
それを交互に繰り返して山猫騎士団と前方の魔族兵が激突を繰り返す。
勢いに乗る猫騎士達も前方の魔族兵の予想外の反撃に押し返されて、なかなか前進することができない。 だが彼等を後押しするように、アイザック率いる傭兵及び冒険者部隊。 更には剣聖ヨハンが率いる「ヴァンキッシュ」もこの場に現れた。
「レビン団長、我々も参戦します」
「同じく自分も参戦します」
「アイザック殿、ヨハン殿、かたじけない」
「いえいえ、我等は同じ連合軍ですから!」
と、アイザック。
そして山猫騎士団に、傭兵及び冒険者部隊とヨハン一党が加わり、物凄い勢いで前方の魔族兵達を蹴散らして行く。
オレは後方で魔法戦士に『魔力パサー』を受けながら、魔力回復薬の入った瓶に口をつけながら、周囲を見渡して、エリス達の護衛を務めた。
おかげで魔力が六割くらいは回復したと思う。
だが前方の魔族兵達に敵の魔導師部隊も加わり、回復魔法で前衛を癒やし、後方から魔導師部隊が攻撃魔法を仕掛けて来た。
こちらも負けじと対魔結界や障壁を張るが、完全に防御するには至らず、次第に前衛の部隊も徐々にやられて行く。 だがアイザックやヨハンが魔剣や聖剣を振って、敵部隊の前進を押し返した。
そのような戦いが三時間以上続いた。
気が付けば空が黄昏色に染まりつつあった。
時刻にすれば夕方の十六時過ぎ。
勢いに乗る連合軍の主力部隊の快進撃は続いた。
こちらの勢いに呑まれた敵の前衛部隊はじわりじわりと後退する。
このままの勢いで敵を蹴散らす。
誰もがそう思った時、前方に新たな敵集団が現れた。
身長は300セレチ(約300センチ)。
纏ったの鎧を締め付けるような筋骨隆々な肉体。
頭部には龍頭。
釣り上がった口から覗く鋭い牙。
そして漆黒の両翼、臀部に生えた太くて長い尻尾。
この連中は龍族部隊。
糞っ、この状況で此奴らが現れるとはな。
更には既に変身した状態。
ヤバいな……。
「デュークハルトはやられたようだな。 レストマイヤー、アグネシャール! ここは我等、龍族部隊に任せて、卿等は支援に回れ」
「「……御意」」
そう言葉を交わして、龍族の魔元帥が前へ一歩進んだ。
そして右手に持った漆黒の大剣の切っ先をこちらに向けて、自身と周囲を鼓舞するように大声で叫んだ。
「連合軍の兵士共よ! ここからは我等、龍族部隊が相手してやる! 命が惜しければ今すぐ退散せよ、それを拒む者は我が剣であの世に送ってくれよう……」
一難去ってまた一難。
だがここで引くわけにはいかない。
ならばここは危険を覚悟して、相手を迎え討つしかない。
オレはそう思いながら、舌で乾いた唇を舐めた。
魔帝都における攻防戦は佳境を迎えようとしていた。
次回の更新は2022年5月1日(日)の予定です。
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