第三百八十話 一進一退(中編)
---ラサミス視点---
翌日も翌々日も激しい消耗戦が続いた。
基本的に敵は人型の魔物や魔獣、そしてゴーレム軍団を帝都の外に放ち、オレ達連合軍の進軍を食い止めた。
こちらも大量に召喚したゴーレムを最前線に投入。
するとゴーレム同士の大乱戦が始まった。
その間にも人型の魔物や魔獣が狙撃手目掛けて突貫して来るが、そうはさせまいと前衛の防御役や攻撃役が前方に出て、敵を斬り捨てて、狙撃手達を護る。
そして狙撃手達は、土壁や氷壁の鉄砲狭間から、銃口を突き出して、スコープを覗き込む。 だが敵も学習したようだ。
先日までのように、クロスボウや弓を持った魔族兵の姿は見当たらなかった。
時折、ゴーレムを操る術士らしき者の姿は見えたが、それらの連中は建物の遮蔽物に上手く身を隠していた。 これでは狙撃しても、標的を正確に狙い撃つ事は難しい。
「駄目だわ、敵が遮蔽物に隠れているわ。 これでは狙撃したくても狙撃出来ないわ」
「どうやら敵も学習したようだな。 よし、マリベーレ。 少し休憩してもいいぞ。 今オレがマリウス王子と連絡を取ってみる」
「うん、分かった」
そしてオレは懐に右手を入れて、携帯石版を取り出した。
オレは右手に持った携帯石版に魔力を篭める。
すると石版に刻んだ魔力刻印から、マリウス王子の声が聞こえてきた。
『どうした? ラサミスくん』
『司令官閣下、どうやら魔帝都の敵が隠れ潜んでいるようです。 この状況では、狙撃手による遠距離狙撃は無理です』
『成る程、敵も考えたようだな。 ……で君としてはどうしたいんだ?』
『そうですね、このままだと消耗戦が続きます。 だから敵味方を含めたゴーレムの集団を連携魔法で吹っ飛ばして、我が軍はもう少し前進して、魔導師による魔法攻撃で魔帝都を攻めましょう』
『……』
しばしの静寂が流れる。
恐らくマリウス王子はガルバンやジョニーと相談しているんだろう。
するとやや間が合ってから、またマリウス王子の声が聞こえてきた。
『そうだな、この状況ではそうすべきかもしれん。 とりあえずボクが各部隊のリーダーと連絡を取る。 そして各部隊のリーダーと連絡を取り終えたら、君の云う作戦を実行するだニャン。但しボクが良いと云うまで、君達も動くなよ?』
『はい』
……まあマリウス王子が総司令官だからな。
だからこの場は彼の云うとおりにしよう。
その間にもオレ達は周囲の魔物や魔獣を斬り捨てる。
ふう、こう三日近く化け物と戦っていると気が滅入るな。
とはいえこの戦いは敵味方による総力戦。
この後も更にその先も肉体と精神を削る戦いになるだろう。
だから今は無理する時じゃない。
三十分後。
懐に入れたオレの携帯石版が激しく振動する。
オレは右手を懐に入れて、携帯石版を取り出して右耳を当てた。
『ラサミスくん、聞こえているか?』
『はい、聞こえてます』
『周囲の了解は得られた。 今から各魔導師部隊がゴーレムや魔物、魔獣を魔法で攻撃する。 君達、攻撃役は撃ち漏らした敵を叩いてくれ」
『了解です』
オレはそう答えると、携帯石版をまた懐に入れた。
さあて、これで上の了承取れたぜ。
「よし、マリウス王子からもゴーサインが出た。 メイリンは魔法攻撃で、攻撃役は撃ち漏らした敵を! エリスはマリベーレと一緒に土壁の中で隠れるんだ」
「「「了解」」」
「「うん」」
そしてそこから魔導師部隊は、魔法攻撃を怒涛の勢いで仕掛けた。
主軸となるのはやはりニャラード率い魔導猫騎士や猫魔導師であった。
ゴーレムを破壊すべく、氷と風属性を操り魔力反応『分解』を発生させる。
また魔物や魔獣に対しては、炎属性と光属性で攻め立てた。
ニャラード達が魔法を唱える度に、ゴーレムの身体に放射状の皹が入り、硝子が割れるように砕け散った。
魔物や魔獣は炎で焼かれ、光で身体を照らされる。
すると物凄い勢いで魔物や魔獣が死んでいった。
「うはァっ……こう観ると凄い光景だな」
「嗚呼、猫族の魔導師達はやはり凄いな」
と、兄貴も感心したように頷く。
「猫族だけじゃないわ。 ヒューマン、エルフ族も負けじと果敢に攻めてるわ。この場合は競争意識が良い方向、結果に繋がってるわね」
「ええ、でも少し飛ばし気味と思いますわ」
と、ミネルバとエリス。
「ああ、うちのメイリンも張り切ってるぜ。 でも確かに飛ばしすぎるのは危険だな。 何せ先が長い戦いだ、だからここで無理はすべきじゃない」
だが魔導師部隊の猛攻は更に続いた。
三時間後には敵のゴーレムや魔物、魔獣をほぼ壊滅状態に追いやった。
『よし、各部隊のリーダーに告ぐ! 各部隊の防御役や攻撃役も前進して、周囲の魔導師達を護衛せよ、そして魔帝都との距離が詰まったら、魔導師部隊による魔法攻撃で魔帝都を攻め立てるニャンッ!!」
マリウス王子は興奮気味に携帯石版でそう指示を飛ばした。
どうやらあの猫王子も少し興奮気味のようだ。
だが確かに流れはこちらに傾きつつある。
ならばここは強気で攻めるべきだ。
そして連合軍は更に進軍して、魔帝都に接近する。
魔帝都の距離が五百メーレル(約五百メートル)くらいの地点で行進を止めて、魔導師達は手にした杖で地面に魔法陣を描き出した。
次々と描かれる魔法陣。
その魔法陣の上に乗る魔導師達。
そして魔導師達は魔法陣の上から様々な属性の魔法を唱えた。
火の玉、光球、氷塊、土塊、風の刃、念動波。
様々種類の攻撃魔法が魔帝都目掛けて放たれた。
やや間を置いて着弾。
すると魔帝都の周囲を覆った対魔結界が目映く光り出した。
激しい爆音が鳴り響く中、次々と攻撃魔法が命中するが、魔帝都の対魔結界は壊れる気配を見せない。
「おいおいおい、あんだけ喰らっても無傷なのか? おい、メイリン。 あの対魔結界は特殊なのか?」
オレは思わずメイリンにそう問うた。
するとメイリンは肩で呼吸しながら、こちらに向いた。
「え、ええ。 恐らく特殊なタイプの対魔結界よ。 何処かに対魔結界の動力源となる魔石とかが埋め込まれてるのかも? それらの魔石のパワーがある限り、自動的に対魔結界を張り続けるっぽい」
「え? マジかよ?」
「……この状況で冗談なんか言わないわよ? ラサミス、ここはマリウス王子に連絡して、魔法攻撃から弓や大砲、銃による物理攻撃に切り替えるべきと進言して頂戴、今の状態だと魔力の無駄遣いだわ……」
「ああ、分かった」
そしてオレは携帯石版でまたマリウス王子と連絡を取った。
オレは簡潔に趣旨を伝えたが、マリウス王子はすぐには結論を出さなかった。
『君に言われるまでもなく、魔帝都の対魔結界の仕組みには気付いていたよ。 だから今から弓兵や狙撃手、それに砲手を前方に出すというアイデアにも賛成だ。 だけど猫族の魔導師部隊がかなりの興奮状態でね。 この状態でボクが彼等に後退せよ、とは云いにくい状況だニャン』
『興奮状態?』
『ウン、鼠を狩っている時の猫のようなモンだよ。 でもこの攻撃で魔帝都の魔石の魔力は少しずつ減少してると思う。 だからこの攻撃もまるっきり無駄という訳じゃないニャン』
『……了解ッス』
そうか、猫族の猫としての特性が強く出てる状態か。
確かにその状況で後退させるのは難しいな。
仕方ない、ここはマリウス王子の命令に従おう。
その後、オレ達はエリスとマリベーレを護りながら、突撃してくる魔物や魔獣を確実に斬り捨てて行く。 その間にも味方の魔法攻撃は続いたが、対魔結界を破壊するまでには至らなかった。
そして日が沈み、夜を迎えた。
そこでオレ達は信じられないものを目にする事となった。
「ヴア゛―アア゛……ヴ―ア゛―」
そう呻き声を上げながら、
ゾンビと化した魔族兵がこちらに向かってゆっくりと歩いてきた。
「こ、これはっ……!?」
「し、信じられませんわ」
「う、うん……吐き気がするわ」
エリスとメイリンが嫌悪感を露わにする。
そう云うオレも急に怒りと嫌悪感が湧いてきた。
マジかよ、魔族の奴等……味方をゾンビ化しやがる。
し、信じられねえぜ……。
次回の更新は2022年4月24日(日)の予定です。
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