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第三百七十話 魔元帥の底力(後編)


---三人称視点---



 多々一で魔元帥を追い詰めるヨハン達。

 だが魔元帥アルバンネイルはそれに動じる事無く、漆黒の両翼を羽ばたかせて、宙に浮遊する。


「……どうやら貴様等の事を侮っていたようだ。 

 この龍化したオレと戦えるだけで只者ではない。

 ならばオレも全力を持って貴様等と対峙する!

 ハアアアアアァッ……アアアァッ!!」


 アルバンネイルはそう云うなり、全身に魔力を滾らせた。

 魔元帥の両腕に強力な魔力を帯びた漆黒の波動が生じる。

 

「ぐっ……なんて魔力だ。

 アレを撃たれたら、とんでもない事になる。

 ならばこちらから仕掛けるのみっ!」


 ヨハンは魔力の残量も考えず、魔力を全力で解放する。

 そして剣聖ヨハンが両手を頭上にかざして、呪文を唱えた。


「我は汝、汝は我。 我が名はヒューマン族のヨハン。 我は力を求める。 偉大なる光の覇者よ、我が願いを叶えたまえ!」 


 次の瞬間、ヨハンの両腕に強力な魔力を帯びた眩い光の波動が生じた。

 ヨハンは眉間に力を篭めてに、呪文を更に唱える。


「天の覇者、光帝よ! 我が名はヒューマン族のヨハン! 我が身を光帝に捧ぐ! 偉大なる光帝よ。 我に力を与えたまえ!」


 剣聖ヨハンは魔力を帯びた両腕を大きく引き絞った。

 そしてヨハンは両手に膨大な魔力を蓄積させながら、声高らかに砲声する。


「――聖なる(ホーリー)審判(ジャッジメント)!!」


「ふんっ! ならばこちらも魔法で迎え討つまでだぁっ!」


 アルバンネイルはそう云って、右手で左腕に刺さった矢を引き抜いた。

 そして素早く両手で印を結び、呪文を唱え始めた。


「我は汝、汝は我。 我が名は龍族アルバンネイル。 我は力を求める。 偉大なる闇の覇者よ、我が願いを叶えたまえ!」 


 アルバンネイルの全身から闇の闘気オーラが生じる。

 アルバンネイルは邪悪な闘気オーラに包まれながら、呪文を更に唱える。


「闇の覇者、暗黒神ドルガネスよ! 我が名は龍族アルバンネイル! 我が身を暗黒神に捧ぐ! 偉大なる暗黒神ドルガネスよ。 我に力を与えたまえ! 『闇の(ダーク)断罪(コンビクション)』っ!!」


 迫り来る光の波動目掛けて、魔元帥の両掌から禍々しい漆黒の波動が放出された。

 そして光の波動と漆黒の波動が正面衝突して、激しくせめぎ合う。

 最初こそ拮抗していたが、次第に漆黒の波動が押し始める。


「ぐっ、ぐっ……何という魔力だ」


 思わず歯軋りするヨハン。

 だが彼の窮地を救うべく、メイリンが駆けつけた。


「ヨハンさん、アタシが後押しするので、堪えてください」


「嗚呼、頼むっ!」


「行きますよっ! 我は汝、汝は我。 我が名はメイリン。 ウェルガリアに集う炎の精霊よ、我に力を与えたまえ! ――『クリムゾン・ファイア』!!」


 メイリンが馬上で素早く呪文が紡ぐなり、

 彼女の杖の先端の高純度の翠玉エメラルドに荒ぶる炎が生じた。

 メイリンが使える最高の聖人級せいじんきゅうの火炎魔法だ。

 そしてメイリンは両手杖を握る両腕を大きく引き絞った。

 次の瞬間、翠玉エメラルドから迸った荒ぶる炎が神速の速さで漆黒の波動に迫った。


 ギャワアアアァンッ!

 メイリンの放った聖人級せいじんきゅうの火炎魔法がヨハンの放った魔法を後押しするように、光の波動と荒ぶる炎が交わり、魔力反応『核熱』が発生。

 光と炎が交わり、光炎フレアと変貌を為し遂げた。

 すると次第に漆黒の波動が押し返され始めた。


「ば、馬鹿な、このオレの魔法が押し返されているだとっ!?」


 アルバンネイルの表情も焦りの色が濃くなっていく。

 魔力と魔力による綱引きが続き、徐々に光炎フレアが押していく。


「メイリンくん、限界まで魔力を注ぎ込むぞ」


「ヨハンさん、了解ッス! はああぁっ!!」


 そう言葉を交わして、ヨハンとメイリンは再び魔力を放出した。

 すると新たな魔力を受けた光炎フレアが激しく振動して、眩く光る。

 そして物凄い勢いで、漆黒の波動を押し返して、漆黒の波動を光炎フレアが完全に飲み込んで、そのままの勢いで魔元帥に命中する。


 凄まじい衝撃音が周囲に轟き、大気が激しく揺れた。

 魔元帥は光炎フレアに呑まれて、激しく叫んだ。


「なっ……あああッ!!」


 アルバンネイルの絶叫と共に激しい爆発音と爆風が生じて、周囲の視界が霞んだ。

 ヨハン達は鼻を突く焦げ臭い匂いに、思わず手の甲で鼻を塞いだ。


「や、やった……か?」


「分からないッス。 でも手応えはありました!」


 ヨハンとメイリンがそう言葉を交わす。

 そして爆風が収まると、黒煙の中で魔元帥を身体が揺らめいた。

 視界が正常になると、身体の至る所から黒い煙を吐き出し、煤だらけになったアルバンネイルが充血した双眸を細めて、ゆっくりと両翼を動かして、地に降り立った。


「……ふうっ、今のは少し効いたぞ。 だがこの程度でやられるオレではない。 ……オレは龍君主ドラゴン・ロード、龍族の頂点に立つ存在。 故に引かぬ、だからこの身が果てるまで、戦う。 それが龍族としての矜持!」


 魔元帥は咳き込みながら、そう語りかけてきた。

 見た感じ弱っているが、その眼はまだ死んでいない。

 そして魔元帥は右手に持った漆黒の魔剣を大上段に構える。


 その気迫にヨハン達も思わず鼻白んだ。

 だが次の瞬間、戦いの流れが一変した。

 連合軍が陣取る大草原の東部の上空に飛竜に乗った竜騎士ドラグーンの集団が再び現れた。


「味方よ、味方が再び来たわ」


 メイリンが上空を指差しながら、そう叫ぶ。


「よし、これで再び流れがこちらに傾きそうだ。

 皆、ここが踏ん張りどころだ。

 皆で力を合わせて、敵の騎兵隊を倒そうっ!」


 ヨハンが周囲を鼓舞して士気を高める。


「魔元帥閣下、ここは一旦お引きください」


 周囲の龍族の騎兵隊が主君の危機に駆けつける。

 アルバンネイルの本心としては引きたくなかった。

 だが制空権が握られた上に、上空には魔力の補充を終えた猫族ニャーマンの魔導師部隊が控えていた。 だからここはあえて自尊心プライドより任務を優先させた。


「よし、ここは一旦下がるぞ。

 オレが張った障壁バリアの中で敵を迎え討つぞ。

 そこで敵を食い止めながら、中衛、後衛の部隊を撤退させる。

 殿は……我々、龍族の部隊が務めるぞっ!」


「了解ですっ!」


 龍族の騎兵隊と連合軍の騎兵隊が一進一退の攻防を繰り広げる中、

 アルバンネイルは、冷静に撤退命令を出し、

 自ら殿しんがりを務めて混乱状態にあった魔王軍をなんとか敗走させる。


 だがそれを阻止すべくニャラード率いる王国魔導猫騎士団も上空から果敢に魔法攻撃を仕掛けた。 また剣聖ヨハン及びその仲間、ラサミス達『暁の大地』をはじめてとした冒険者及び傭兵部隊も他の部隊に負けぬと大攻勢を掛けた。


 だが時刻は既に十九時を過ぎていた。

 夜、それは魔族の能力が活性化される時刻。

 逆に連合軍は視界がきかない暗闇の中で、その戦力を完全に生かす事が出来なかった。


 十時間にも及ぶ死闘の中で、両軍は更に多量の血を流した。

 魔王軍は龍族が束となって、味方が撤退するまで身体を張った。

 そのおかげで魔王軍の中衛、後衛部隊はほぼ無傷で撤退する事が出来た。


 悪戦苦闘を続けながら、自軍や味方の被害は最小限に留める龍族の部隊も

 仲間の後を追うように殿しんがりを務めながら敗走する。


 後に「大草原の戦い」と呼称される事となった一連の戦いは、

 魔王軍の全面的な敗退によって決着がついた。


 魔王軍の死者数は、連合軍の3674人に対して、約二倍強の7325人。

 だがこの戦いは、あくまで前哨戦に過ぎなかった。

 本当の戦いは魔帝都での戦いである。


 そして魔王軍はその戦いに向けてちゃくちゃくと準備を整えつつあった。

 対する勝利を収めた連合軍の兵士達は、勝利の余韻に酔い痴れていた。

 例え前哨戦と云えど勝利という結果は、兵士達の士気を高めた。

 だがそれが過剰となれば、慢心に繋がる。


 そして魔王軍はその隙を突くべく、次なる戦いに向けて策を練っていた。

 魔王軍と連合軍の戦いは、いよいよ最終局面を迎えようとしていた。


次回の更新は2022年4月2日(土)の予定です。


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― 新着の感想 ―
[良い点] 更新お疲れ様です。 やっぱり恐ろしい(; ・`д・´) でも、メイリンが駆け付けて魔法同士の掛け合いにより、更なる力を生み出してどうにか押し返す。素晴らしいです! とは言え、今までヨハンの…
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