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第三百五十八話 捕虜交換式

累計350000PV達成!

これも全て読者の皆様のおかげです!


---三人称視点---


 ウェルガリア歴1602年6月23日。

 ラインラック要塞で連合軍と魔王軍の捕虜交換式が行われた。

 連合軍からはマリウス王子が、

 魔王軍からは幹部の一人グリファムが代表として出席して、

 お互いに捕虜のリストを交換し、証明書にサインをした。


『四大種族連合軍及び魔王軍は、軍規と人道に基づき、

 お互いに拘留する捕虜を交換し、将兵達を故郷に帰還させるべく、

 両軍の名誉にかけて、それを実行するものである』


 ウェルガリア歴1602年6月23日、

 ――四大種族連合軍代表マリウス・ニャンドラン

 ――魔王軍代表グリファム


 サインを終えたマリウス王子とグリファムは、

 お互いに向き合いながら、右手で握手を交わした。


「連合軍と猫族ニャーマンの名誉にかけて、

 将兵達は必ず故郷に返します」


「我々、魔王軍も同じです」


「捕虜の数はアナタ方、魔王軍の方が多いですが、捕虜移送用の馬車を大量に用意するので、捕虜の移送に関しては心配する必要はないです」


「それは助かります」


 と、グリファム。


「次会う時は敵同士ですが、

 この場においては、お互いに紳士に行きましょうニャン」


「……そうですね」


 こうして捕虜交換式は無事終わり、

 早速、両軍の捕虜の移送が行われた。

 だがそれらが全て公平に行われた訳ではない。


 連合軍、魔王軍共に程度の差はあるが、

 捕虜の中にも序列があり、序列が高い順から移送された。

 連合軍側は貴族や上級騎士の子息が、

 魔王軍側は魔族社会における階級を優先した。


 そしてライラック要塞から捕虜移送用の馬車が出発された。

 御者ぎょしゃとその護衛役だけでも結構な人数となったが、

 魔王軍側も誘導役を兼ねた魔族兵が多く居た。


 もしこの場で何かが起こり、

 急に戦いが始まったら、両軍の被害は大きなものになるであろう。

 そういった緊張感を感じながら、両軍は警戒しながら捕虜を移送させた。


 連合軍側が魔王軍の捕虜を移送するのは、

 ラインラック要塞から西へ二十キール(約二十キロ)までと決まっていた。

 これ以上先に進むと連合軍側に魔族領の情報が漏れる。

 故に捕虜の輸送は二十キール(約二十キロ)までとする。 

 という取り決めが捕虜交換式で結ばれた。


 だがここでこの取り決めを破るほど、愚かな者は居なかった。

 両軍共に秘密裏に捕虜に対して尋問を行っていた。

 捕虜から敵軍の情報を聞き出していたが、

 それに関しては両軍の上層部も該当者を咎めるつもりはなかった。

 

 連合軍にも魔王軍にも優れた魔導師はたくさん存在する。

 それらの魔導師の催眠術によって、

 尋問された捕虜が口を割るのも仕方ない事であった。

 だが捕虜の移送に関しては、階級や序列カーストを優先させた。


 そして例の半人半魔部隊は、移送される順番が最後であった。

 大量の捕虜の移送で要塞内も非常に忙しかったので、

 ラサミスは半人半魔部隊の世話係をまた務める事になった。


 本音を云えば、あまりやりたくなかったが、

 ジウバルトの事が気にならないと云えば嘘になる。

 そしてラサミスはジウバルトに食料を届けるべく、

 木のトレイに牛乳の入った木のコップ、

 豆スープの入った木皿と林檎一個を乗せて、

 捕虜達の投獄先の城の地下室へと向かった。


「……何だよ、またお前かよ」


 ラサミスの顔を見るなり、ジウバルトが露骨に不機嫌そうな表情になった。


「ほらよ、飯だ。 ちゃんと味わって食えよ」


 ラサミスは牢獄の配膳口から、食事が載ったトレイをそっと牢屋の床に置いた。

 だがジウバルトは、「ふん」と鼻を鳴らしてラサミスから視線を逸らした。


「……もうすぐオレもこの牢獄から解放される。 そしたらまた戦場にとんぼ返りだ。 今度会うとしたら戦場だが、オレは一切手加減しないぜ」


「……まあお前の立場としたらそうするしかねえよな」


「ふんっ、余裕かましやがって!

 そういう所がマジでムカつくぜ……」


「はい、はい、それより飯を食えよ?」


「……シカトかよ、後で食うさ」


「まあその辺は好きにすると良いさ」


「そういやアンタ、ラサミスって名前らしいな。

 噂じゃ魔王軍の幹部を二人殺ったらしいが、本当なのか?」


 ジウバルトはそう云って、探るような視線を向けてきた。

 何だ、コイツも知ってたのか。

 気が付かないうちにオレの名前も売れてきたようだな。

 でも嬉しいという気持ちはない。

 なんだか面倒臭い、それがラサミスの本音であった。


「ああ、一応そうだよ……」


「ふうん、そういう風には見えねえな。 いや……よく観察すると、この状況でもやんわりとした闘気オーラを纏っているな。 強すぎず、弱すぎず、実に絶妙なバランスだ」


「あまり過大評価するなよ?

 オレはほんの二年前は最底辺の冒険者だったんだからさ」


「……その話、本当なのか?」


「ああ、そうだよ」


 するとジウバルトは双眸を細めて、ラサミスを見据えた。


「だとすればお前は非常に危険な存在だ。

 たかが二年でオレ達、魔族の幹部を二人も倒せるようになったんだからな。

 お前が秘める潜在能力は、オレ達にとって驚異になる。

 だから今度戦場で会ったら、オレが真っ先に殺してやるよ!」


 そう云ってジウバルトは表情を強張らせた。

 その表情から察するにどうやら本気のようだ。

 だがラサミスは、何故かこの少年に悪感情を抱く事はなかった。

 ラサミス自身、その原因がよく分からなかった。


「まあそりゃお互い敵同士だし、

 戦場で再会すれば戦う間柄だけどさぁ~。

 そういつもいつもカリカリする必要はないんじゃね?

 なんかお前を見ていると、ある男を思い出すよ」


「ほう、そいつはどんな男だ?」


 どうやらジウバルトの好奇心に火をつけたようだ。

 ここで奴――マルクスの事を語るべきか。

 いやどうせ語った所でこの少年との関係性が変わる事はないだろう。

 だが気が付けば、ラサミスはジウバルトの質問に答えていた。


「腕も立ち、頭もキレる男だったが、

 自分以外の者を一切信じなかったよ」


「ふうん、オレはそういう奴嫌いじゃないね」


「でも死ぬ間際にはオレと兄貴を羨んで死んだよ……」


「ああ、そう云えば幹部殺しは兄弟という話だったな。

 成る程、という事はお前の兄貴が魔将軍を倒したのか?」


「魔将軍? ああ、ザンバルドの事か?」


「……どうやら噂は本当のようだな」


「……魔王軍にどういう噂がたってるかは知らねえが、

 兄貴は別として、あまりオレを過大評価しない方がいいぞ?」


「いやお前は充分強い。 オレにもそれくらい分かるさ」


「……んじゃオレはそろそろ行くよ」


 ラサミスはそう云って踵を返した時、

 ジウバルトが背後から語りかけてきた。


「……次会う時は容赦しねえぜ、

 でもここでは世話になった、一応礼を云っておくよ。

 ……ありがとさん、だからお前を殺す機会が訪れたら、

 楽に死ねるようにしてやるよ。 それがオレの恩返しさ」


「……そうかい、まあじゃあその機会がないように祈っておくよ」


 二人のこの邂逅は果たして、どのような結末を迎えるのか。

 それは現時点では誰にも分からなかった。


 そして翌日。

 頭目ワイズシャールを初めとした半人半魔部隊の移送が開始された。

 これによって連合軍が捕縛した捕虜は全て解放された事になる。

 

 こうして両軍の捕虜交換は無事に終わった。

 そして6月28日から一週間後の7月5日まで休戦状態となるが、

 両軍の指揮官の視線は、次なる戦いへと向いていた。


次回の更新は2022年3月5日(土)の予定です。


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― 新着の感想 ―
捕虜も無事交換出来ましたね。捕虜はいるだけで食費が嵩むから仕方ないです。  ジウバルトとラサミスは再会するか楽しみですね。  ではまた。
[一言] 無事に捕虜交換式も終了。 飛竜が殺されて、このままvsグリファムが始まると予想していたが違うっぽい? さて、ジウバルトはいつ再会するのか楽しみですね。
[良い点] 更新お疲れ様です。 無事に捕虜の護送と交換が済んだ上、ラサミスがまたも世話係にっ。お互いに話をしつつ、マルクスの事をちょっと話す所にニヤニヤ。 そして、ジウ君はマルクスの性格を聞いて好きと…
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