表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
355/714

第三百五十三話 危言覈論(きげんかくろん)


---ラサミス視点---



 6月2日。

 ここ数日は特に仕事もなく、オレやその仲間も城内や要塞内をブラブラして時間を潰していたが、急遽、本日の午後十五時にラインラック城の三階の会議室で会議が行われる事になった。


 この会議の参加者は、マリウス王子とその臣下である猫族ニャーマン達。

 それと傭兵隊長アイザック、竜騎士団の騎士団長レフ。

 冒険者からは剣聖ヨハンとその仲間。

 そしてオレ達『暁の大地』からオレと兄貴が参加する事になった。


 またエルフ族のネイティブ・ガーディアン。

 更には副司令官のナッシュバイン王子とその臣下である王国騎士団の騎士団長アームラックと副団長ハートラーも参加するようだ。


 会議の議題はまだ分からないが、

 一部で噂になっている和平交渉と捕虜交換が主題になりそうだ。

 まあオレとしては、和平交渉をするのも一つの手だとは思うが、

 この件に関しては、ヒューマンの首脳陣は強く反発するだろうな。


 となると会議が荒れる可能性は高いな。

 とすればオレとしては、とりあえず傍観者の立場に徹するべきだろう。

 兄貴もこの件に関しては「それが無難だろう」と同意してくれた。

 

 そしてオレ達は会議の始まる十分前に、城の三階にある会議室に入った。

 なかなかの広さの部屋だな。

 部屋を見渡すと、既に多くの者が席についていた。


 会議の形式はいつものように円卓会議形式。

 大きな四角いテーブルを囲んで、円卓会議っぽく演出している感じだ。

 壁を背にして猫族ニャーマンのマリウス王子が上座に座り、

 その右隣に王子のお供のメインクーンのガルバン、

 左隣に水色のローブを着た真っ白な猫族ニャーマンが座っていた。


 あの品種は多分ヴァンキャットだな。

 というか戦場でもよく見た顔だ。

 確か王国魔導猫騎士団おうこくまどうねこきしだんの騎士団長だ。

 名前は……ニャラードだったと思う。


 マリウス王子の右手側の席にエルフ族のネイティブ・ガーディアンのナース隊長、賢者セージベルローム。 竜人族の傭兵隊長アイザックと騎士団長レフが座っていた。


 マリウス王子の左手側の席に「ヴァンキッシュ」の剣聖ヨハン、女侍アーリア、クロエの三人が座っていた。 とりあえずオレと兄貴は、クロエの右隣の空いている席に座った。 そして下座にはヒューマンの首脳部が陣取っていた。


 左から騎士団長アームラックと第三王子ナッシュバイン、副団長ハートラーという席順だ。 どうやらこの会議室に、連合軍の主力及び首脳部が集結したようだ。 室内には独特の緊張感が充満している。 そしてマリウス王子が凜とした声で沈黙を破った。


「では会議を始めたいと思う」


 会議の主題は和平交渉についてであった。

 とりあえず現時点では、連合軍が優勢状態である。

 だからこの機を生かして、魔王軍と和平交渉を行ってみる。


 と、言うのがマリウス王子の考えだ。

 まあ相手は魔族だ。

 そう簡単に和平交渉に応じるとは思わんが、試してみる価値はある。


 だがこの件に関して、ヒューマンの首脳陣が激しく反対した。

 まあ不毛な会話なので、細かい経緯は省くが要約すると――


 1.魔族相手に和平交渉などあり得ない。

 2.これを機に魔族を徹底的に叩き潰すべきだ。

 3.だから和平交渉などもっての他だ。


 というのがヒューマンの首脳陣、というか馬鹿第三王子の意見だ。

 まあ言わんとする事は分からなくもないが、

 自分は戦闘に参加せず、安全圏の後方で政治工作していたからな。


 だからマリウス王子もその辺りについて、軽く触れると猫族ニャーマンだけでなく、アイザックやレフ。 更にはナース隊長や賢者セージベルロームもマリウス王子の意見にやんわりと同意した。


 剣聖ヨハンは場の空気を読んで、

 軽々しい発言は控えたが、猫族ニャーマン寄りの意見を何度か述べた。

 そしてオレと兄貴もヨハンの意見にやんわりと同調した。


「魔族相手に譲歩するなんて馬鹿げている!」


 と、ナッシュバインが云うと――


「我々も魔族相手に譲歩するつもりはない。 だがこのまま魔族が滅亡するまで、この戦いを続けると云うのかね? それはあまり賢い選択肢とは云えないね。 だから魔族との交渉の場を設ける必要があると思う」


 と、マリウス王子が正論で反論する。

 うん、これに関しちゃオレも同意見だな。

 確かに魔族はえげつない連中だ。


 だが奴等も血も涙もない連中だとは思わん。

 少なくとも奴等は奴等なりに仲間を大切にする。

 そして高い知能を持ち、オレ達、四大種族とも意思の疎通を図る事が可能だ。


 だから何処かで交渉の場を設ける必要があるだろう。

 そしてオレだけでなく、この場に居る各部隊の隊長やリーダー達も

 マリウス王子の意見に徐々に同意し始めた。


 するとナッシュバインは、不機嫌そうに眉間に皺を寄せた。

 いやホント、コイツ分かりやすい性格だな。

 だがマリウス王子も場の空気を読んだのか、

 落ち着いた口調で意見を述べた。


「まあホントを云うと、ボクも魔族相手に本気で和平交渉をする気はないんだ。 でも和平交渉と同時に捕虜交換を行うつもりだから、捕虜交換の前にとりあえず和平交渉をしてみようという感じだニャン」


「……成る程、それならば我々もある程度は譲歩しても構いません」


「……そうして貰えると助かるだニャン」


 二人がそう言葉を交わすと、場の空気も少し和らいだ。

 と思った矢先にナッシュバインがまた一方的な要求を突きつけた。

 まあ端的に云えば、捕虜の中にこの馬鹿第三王子の知己が居るので、捕虜交換の際には、それらの人物の救済を最優先せよ、との話だ。


 まあ物凄く個人的な、それに加えて馬鹿馬鹿しい話だが、何でもこの馬鹿王子の知り合いは、有名な貴族の次男坊らしい。 所属はアームラックが率いる王国騎士団の一員らしいが、『大君主作戦オーヴァーマインドさくせん』の際に敵に捕まったらしい。


 それ自体は仕方ない面もあるが、

 馬鹿王子は――



「彼はハイネダルク王国の将来を担う人物だ。

 彼のような人材を失うのは、国の損失である!

 故に私としては、何としても彼を救いたいっ!」


 と、声高らかに叫んだ。

 すると場の空気がまた違う意味で変わった。

 まあ要するに――


「ボクのお友達を優先して助けてね!」


 と、公の場で云っている訳だ。

 これにはマリウス王子だけでなく、

 アイザックやレフ、ナース隊長、ヨハン達も白けた感じの表情になった。


「……どのみち捕虜は、全員を助けるつもりですニャン。 幸いこちらの捕虜は百人前後。 対する魔族側の捕虜は一千人を超える。 だから捕虜交換の際は、我々に分があると云えるでしょう」


「……兎に角、彼を――ファンベルク子爵を最優先に助けてください」


「……はい、善処するだニャン」


 マリウス王子がややウンザリした感じでそう答えた。

 だがこれで一応はヒューマンの首脳陣も納得したようだ。


 とりあえず今後の予定としては、この要塞から敵の本拠地と思われる魔帝都がある西部に使者を送り、和平交渉及び捕虜交換を申し出るという流れになった。


 まあ魔族がどう出るかは、分からないところもあるが、向こうも一千人近い捕虜を見捨てるような真似はしない、と思う。 いずれにせよ、この和平交渉と捕虜交換を行えば、ある程度の時間稼ぎが出来る。


 その間に人員の補充と物資の運搬。

 兎に角、時間があって困る事はない。

 またそれは魔族側も同じだろう。

 だから魔族側が捕虜交換には応じる可能性が高い。


 そんな感じで今回の会議はお開きとなった。

 なんだか随分と疲れた気がする。


 捕虜交換か。

 となるとジウバルトも捕虜交換の対象になるな。

 まあ兄貴の云うように、奴にはあまり関わらないでおこう。


 でも戦場で再び奴と会えば、戦わざる得ない。

 その時、オレは奴に止めを刺す事が出来るだろうか。

 ……。


 みたいな事になるから、あまり捕虜に肩入れするな。

 というのが兄貴の意見なんだろうな。

 まあいいや、今日は疲れた。 

 とりあえず自分の部屋へ戻って、シャワーでも浴びるか。


次回の更新は2022年2月20日(日)の予定です。


ブックマーク、感想や評価はとても励みになるので、

お気に召したらポチっとお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 更新お疲れ様です。 300話以上の物語を読んでいると、思うわず「おぉ……」と思わず感動している自分がおります。こうして長く続けていくのも大変ですが、逆に広がっていく世界観が嬉しい……。 …
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ