第三百四十一話 魑魅魍魎(中編)
---三人称視点--
「我は汝、汝は我。 我が名はカルネス。 暗黒神ドルガネスの名の元に、
我が眷属、悪霊よ。 我が召喚に応じよ! ――サモン・エヴィルッ!」」
「我は汝、汝は我。 我が名はレディア。 暗黒神ドルガネスの名の元に、
我が眷属、幽霊よ。 我が召喚に応じよ! ――サモン・ゴーストッ!」」
カルネスとレディアがそう呪文を紡ぐと、
彼等の周囲に悪霊型と幽霊型の不死生物が召喚された。 悪霊型が四体、幽霊型が三体の合計七体。
生憎とラサミス達は神職が居ない状態。
なのでこの状況下で無制限に不死生物を召喚されるのは少々辛い。
その事をいち早く理解したヨハンは、
先手を打つべく左手を頭上にかざして、光属性魔法を唱えようとした。
「させないわ! ――シャドウ・ボルトッ!」
そうはさせまいと女リッチのレディアが短縮詠唱で闇属性魔法を放つ。
だがヨハンは慌てず、右側にサイドステップして回避する。
と同時にカルネスが右手を前へ突き出した。
「なっ!?」
カルネスは無詠唱で中級炎属性の攻撃魔法を放った。
不意を突かれたヨハンに燃え盛る炎塊が命中。
無詠唱の中級魔法だが、その威力と精度は高かった。
ヨハンは左膝を地面につけて「うっ」と喘いだ。
カルネスはその間隙を逃すまいと、次なる手を打った。
「――魔封弾っ!!」
今度は短縮詠唱で魔封効果のある弾丸状の闇の塊を放った。
カルネスはこの一撃に魔力の半分を注ぎ込んだ。
故にこの魔封弾はとてもない速度と精度でヨハンの左手の甲を撃ち抜いた。
「ぐっ……ぐっ……身体が痛いっ!」
左手の甲を撃ち抜かれたヨハンは、苦悶の表情を浮かべて悶えた。
そしてヨハンの左手の甲に撃ち込まれた魔封弾の魔封効果が即座に全身に広がった。 この魔封弾には魔封効果に加えて、標的の魔力を奪う効果があった。 するとヨハンは急に苦しそうに呼吸を乱し始めた。
「……身体が熱い。 敵に何かやられたようだ……」
「……恐らく魔封効果のある魔法か、技ね。
ヨハン、ここは私達に任せて、貴方は後ろに下がって!」
本来のヨハンであればクロエの言葉を拒絶したであろう。
だが今のヨハンは魔封状態に加えて、魔力が減少した状態。
更にはこの闇色の結界から生じる瘴気が魔封状態のヨハンの身体を蝕んだ。
「なんかヨハンの様子が変だわ。
ラサミスくん、ヨハンに治療魔法かけてもらえるかしら?」
と、カリンがラサミスにそう指示を飛ばす。
「了解した。 我は汝、汝は我。
我が名はラサミス。 レディスの加護のもとに……『キュアホーリー』!!」
ラサミスは聖人級治療魔法『キュアホーリー』を唱えた。 するとラサミスの右手の平から、神々しい光が放たれて、ヨハンの身体を包み込んだ。 しばらくするとヨハンの呼吸が正常化したが、体調を万全にするには至らなかった。
「ラサミスくん、ありがとう。 どうやら僕の魔封状態は解除されてないようだ。 この状態だと僕は役に立たないから、後方に下がるよ。 この魔封状態はあの魔導師達を倒せば、多分解除される。 だから出来る限り早く敵を倒して欲しい……」
ヨハンの言葉に周囲に居る四人は無言で頷いた。
この状況で一人でも欠けるのは、かなり厳しい。
それを咄嗟に把握したカリンは、
手にした聖弓アルデリートを構えて、反撃の狼煙を上げた。
カリンは聖弓アルデリードを天向けて掲げて、何やら呟いた。
そして彼女が魔力を篭めると、弓と弦の間に、目映い光の塊が生じた。
「――メテオライトッ!!」
カリンは弓の弦を力強く引いて、光の塊を前方に目掛けて放った。
聖弓から放たれた光の塊が目映い輝きを放ちながら、悪霊型と幽霊型の不死生物に命中。
「アアァ……アオ……オァッ――――――ッ!!」
「アアァ……オ……オォッ―――――――ッッ!!」
光の塊を受けた不死生物が激しく呻いて、その身体が浄化された。
今の一撃で全七体中四体の不死生物の浄化に成功。
これで五対六、数の上でも互角の展開になる。
そして更に流れを変えるべく、錬金術師クロエも行動を起こした。
「――行くわよ、シャイニング・パイルッ!!」
クロエは錬金魔法を短縮詠唱で素早く唱える。
次の瞬間、クロエの周囲の大気がビリビリと震えた。
すると彼女の周りに目映い光が生じて、太い杭のような形状になり、鋭い刃と化した。
そしてその光の杭が前方に向けて放たれた。
「なっ!?」
クロエの放った光の杭が前方の死霊使いパスカルの喉元に命中。
パスカルは「ごはっ」という呻き声と共に口から大量の血を吐いて、地面に崩れ落ちた。
完全に不意を突いた一撃が見事に決まった。
「……あの竜人の小娘、なかなかやるようじゃな。
レディア、絶対に油断するなよ。 油断すれば死ぬと思え」
「え、ええっ」
カルネスの言葉にレディアが大きく頷いた。
今度はカルネスが状況を変えるべく、攻勢に転じた。
「我は汝、汝は我。 我が名はカルネス。 傲慢、強欲、嫉妬、憤怒、色欲、暴食、怠惰……七つの大罪を暗黒神ドルガネスに捧げる! 『ファントム・フィアー』ッ!!」
するとカルネスの両手杖の先端の蒼い魔石から、禍々しい黒い思念波が放たれた。
「不味い、兄貴! 盾で防ぐんだァッ!!」
「あ、ああっ!」
ラサミスとライルは咄嗟に盾を構える。
すると水色の盾は黒い思念波を反射、
吸収の盾は思念波を綺麗に吸収した。
だが他の三人はまともに黒い思念波を受けた。
黒い思念波に包まれたヨハン、クロエ、カリンが苦しそうに悶える。
魔王軍の幹部が放った状態異常魔法。
その威力は生半可なものではなかった。
しかしラサミスは慌てる事なく、この場における正しい選択肢を選んだ。
「――『フィジカル・リムーバー』ッ!!」
ラサミスは右手を振りかざし、状態異常解除の職業能力を発動させた。 するとラサミスの右手から放出された白い波動がヨハン達の身体に降り注がれる。 そしてしばらくするとヨハン達は、正気に戻った。
「う、動ける?」と、ヨハン。
「ホントだわ」と、カリン。
「ラサミスくん、ありがとう!」と、クロエ。
ラサミスの機転により、窮地を一瞬にして逃れた。
これには味方だけでなく、敵も動揺した。
その隙を突くべく、クロエが先手を打った。
クロエは腰帯にぶらさげた皮袋に右手を突っ込んだ。
そして皮袋の中から白水晶の欠片を取り出した。
その白水晶の欠片を右手に握りしめて、
敵の頭上に目掛けて投げつけた。
「水晶よ、弾けよっ!!
ハアアァッ……アァッ! 『シャイニング・シャワー』」
クロエがそう叫ぶなり、
敵の頭上に放られた白水晶の欠片が目映い輝きを放つ。
そして白水晶の欠片が砕けると同時に、
刃のような形をした光の塊が敵の頭上から、シャワーのように降り注いだ。
「くっ……小癪な真似をっ! レディア、対魔結界を張るんだ! ――シャドウ・ウォールッ!」
「き、きゃあああっ……ああっ!」
だがカルネスの言葉はレディアに届かなかった。
シャワーのように降り注がれた光の塊は、
レディアだけでなく、残りの不死生物に命中した。
「ギ、ギアアァ……ア……アオォッ―――――――ッッ!!」
降り注ぐ光を浴びた不死生物が激しく悶える。
光や光の塊を浴びた、受けた部分は浄化されて、その肉体が溶け始めた。
一撃で浄化させる神聖魔法と違って、
肉体と魂をジワジワと浄化させられる分だけ苦しみが大きかった。
カルネスは咄嗟に対魔結界を張ったので、軽傷で済んだが
レディアは結構なダメージを、不死生物達はぼほ戦闘不能状態となった。
「――今よ、ライルさんにラサミスくん!
今のうちにあの魔導師二人を仕留めて頂戴!」
クロエの言葉にラサミスとライルは「嗚呼」と云って頷いた。
そして二人は、手にした聖刀・顎門と聖剣を構えた。
「兄貴、ここで一気に決めようぜ。
とりあえずオレはサポートに回るから、兄貴が攻撃役をしてくれ!」
「……了解した」
そう云うなり、ライルはどっしりと腰を据わらせた。
そして手にした聖剣レインバルツァーに光の闘気を宿らせた。
――ここは一気に決めるっ!!
次回の更新は2022年1月23日(日)の予定です。
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