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【天使編開始!】黄昏のウェルガリア【累計100万PV突破】  作者: 如月文人
第五十四章 旭日昇天(きょくじつしょうてん)
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第三百三十八話 不撓不屈(中編)


---三人称視点---



「どうしたっ!? テメエ等の力はこの程度か!!」


 デュークハルトは、迫り来る敵を一人で蹴散らしながら、声高らかにそう叫んだ。 既に一人で二十人を超える連合軍の兵士を素手で倒していた。 鍛え抜かれた胸板、割れた腹筋、しなやかで太い両腕。 限界まで鍛えられた肉体。 その肉体を見せ付けるようにデュークハルトは、大股で前へ一歩進んだ。


「くっ……コイツ、徒手空拳だが異常に強い。

 さては名のある幹部だな?」


 先程までデュークハルトと戦っていた傭兵ボバンが肩で息しながら、そう云う。

 

「残念ながらオレは只の幹部候補生よ。

 まあ実力は幹部級かんぶクラスだと思っているけどな。 

 だからオマエもそんなに気落ちする必要はねえぜ?」


 と、デュークルトが白い歯を見せて嗤った。

 この台詞は大言ではなかった。

 単純な戦闘力では、デュークハルトは魔族の中でもかなりの上位の位置に居る。


 彼が幹部の座に就いてないのは、

 まだ若いという理由で、魔王レクサーが周囲に忖度しているからに過ぎない。

 だが結果的にそれがデュークルトの競争心を煽って、実力以上の力を発揮していた。


「……此奴こいつは口だけではないな。

 ヨハン殿、それとラサミスとライル。

 ここは妙な自尊心プライドを捨てて、多対一で此奴を倒すぞ!」


 傭兵隊長アイザックが周囲にそう云って同意を求めた。

 だが剣聖ヨハンもラサミスとライルも素直には同意しなかった。

 彼等もまた誇り高き戦士であった。


 こうして敵が一人で戦っている姿を見ると、

 胸の内に熱い感情が自然と沸き起こってくる。


「アイザックさん、貴方の云う事は正しい。

 でも正しい事が必ずしも良い選択肢とは限らない。

 少なくともボクにも剣聖としての自尊心プライドがある。

 だからこの状況下で多対一でこの金狼きんろうの男と戦うつもりはない」


 剣聖ヨハンは歯に衣を着せず、そう言い放った。

 するとラサミスとライルもそれに便乗する。


「オレもヨハンさんに同意するッス」


「……同じく」


「……ならどうするつもりだ?

 まさか奴と一騎打ちするつもりか?」


 アイザックが険しい表情でそう問うた。

 するとラサミスが右手で自分の顎を摩りながら、一つの意見を述べた。


「まあ馬鹿げているかもしれませんが、個人的にはそうしたいッスね。 奴とは前に一度戦いましたし~。 とはいえ馬鹿正直に一人ずつタイマン張るのも面倒なので、ここは奴の勝ち抜き式のタイマン勝負という事にしませんか?」


「……勝ち抜き式のタイマン勝負だとっ!?」


 アイザックの表情が更に険しくなった。

 だが剣聖ヨハンもラサミスの意見に賛同した。


「それ悪くないアイデアだね。

 ボクはその案に賛成だよ」


「……自分もです」


 ライルもさりげなく同意する。

 するとアイザックは表情を険しくしたまま、しばらく黙り込んだ。

 

「……アイザックさんは不服ですか?」と、ヨハン。


「当然ですよ、だが皆の云わんとする事も分からなくはない。

 いいでしょう、馬鹿らしいがその話に乗りましょう。

 ……それで先鋒は誰が行くのだ?」


「あ~、やっぱここは下っ端のオレが行きますよ。 相手も幹部候補生みたいだし、ここで剣聖や傭兵隊長が出るのは時期尚早でしょう?」


 ラサミスはそう云って、自ら名乗り上げた。

 するとラサミスの前方に立つデュークハルトがニヤリと笑った。


「お? オマエはこの間の銀髪の小僧じゃねえか?

 こりゃ良いわ、このリベンジの機会を逃す手はねえな」


「生憎リベンジをさせるつもりはねえよ。

 オレも少しは名が売れてきたからな。

 ここでオマエを倒して、更に名を上げてやるぜ!」


 ラサミスはそう云うなり、刀を鞘に収めた。

 そして吸収の盾(サクション・シールド)を背中に背負い、

 両手を握りしめて、ファイティングポーズを取った。


「なんだ、小僧。 一騎打ち、しかも素手で戦うつもりか?」


「ああ、オマエが素手で戦うなら、オレもそうさせてもらうよ!」


「ほう、小僧。 オマエ、ヒューマンにしては漢気おとこぎがあるじゃねえか。

 いいよ、いいよ、いいよ。 オレもこういう展開大好きだわ。

 でもやるからには本気でやらせてもらうぜ、はあぁっ!!」


 デュークハルトがデモンストレーションとして、突きと蹴りを繰り出した。

 鋭くて速い突き。 此奴は素手でもかなり強い、油断は出来んな。

 ラサミスはそう沈思しながら、再び身構える。

 それを愉悦な表情で眺めながら、右手でくいくいと挑発するデュークハルト。


「……やってやんよ!」と、ラサミスは口を真一文字に結ぶ。


 拳を構えたまま、デュークハルトはラサミスを見据えている。

 互いに殺気を放ち、にらみ合う両者。――先手を打ったのはデュークハルト。

 変幻自在に打ち込まれる拳と蹴り。

 だがラサミスも体術には心得がある。


 繰り出される数多の拳と蹴りを紙一重の動作で躱す。

 互いに距離が近まる。 前方から一直線に突きが来る。


「……大した腕だ。だが――」


 と、ラサミスは打ち出された手刀をかわし、懐に入った。


「この程度なら何とかなるっ!」


 そう口にしながら、ラサミスは強烈な掌底をデュークハルトの胸部と顎に連続で叩き込んだ。


「がはっ!」


 強烈な衝撃でデュークハルトの肺から空気と胃液が漏れる。

 顎を揺らされたので、視界が泳ぐ。

 だが幹部候補生として意地と矜持がその痛みを耐えさせた。


 息をつく間もなく、ラサミスが至近距離から左右のフックを連打する。

 脇腹、鳩尾と入り、更にはテンプルに命中。


「……やるじゃねえか!」と呻き声をあげて、よろめくデュークハルト。


「……オレが強いんじゃない、オマエが弱いんだ」


「……云うじゃねえか……だがオレにもプライドと意地がある」


 デュークハルトはそう云うなり、全身に風の闘気オーラを纏った。

 太い二の腕と首周り、発達した胸筋、八つに割れた腹筋。

 まるで一流の格闘家のような肉体。


 そしてその身体の節々に、戦士の証としての傷跡が刻まれていた。

 デュークハルトはその見事な二の腕を見せ付けるように構えた。

 ラサミスも警戒心を高めながら、摺り足でジリジリと間合いを詰めた。


 睨み合う両者。

 距離が中間距離へと移る。 互いの射程圏内に入った。

 デュークハルトは「ハアー」と大きく深呼吸する。


 ラサミスが双眸を細めた。 先に仕掛けたのは――デュークハルト。

 高速の手刀を繰り出す。

 まるで死神の鎌のような鋭い連撃。


 ラサミスはガードせず、身体をすいすいと動かし、その死神の鎌から逃れる。 続いて相手の左足が上がる。 神速の速さのローキック、跳躍して躱すラサミス。 それと同時に放たれるデュークハルトの右足のハイキック。 ラサミスは咄嗟に防御ガードしたが、強い衝撃で身体がぐらついた。


「ハアハアハア、ハアハアハアハアッ――アタァァァァッ!」


 気勢を上げながら突きと蹴りを放つデュークハルト。

 両腕で防ぐラサミス。 だがデュークハルトの連撃は更に加速する。

 速く――速く――ひたすら速く、

 相手の足をローキックで止めて、ガードの隙間を掻い潜り、脇腹に突きを数発。


 強引に防御ガードをこじ開けるように、強くて速い突きを連続して打ち込む。

 怯むラサミス、だがデュークハルトは容赦はしない。 殺気と戦意。

 それと高揚感に包まれながら、

 デュークハルトが己の力と肉体を駆使して、ただ標的に攻撃を仕掛ける。


 だが標的――ラサミスは倒れない。

 突きを繰り出す拳、蹴りを放つ足に痛みと重さが伝う。

 だがそれでも手を止めない。


 何度かラサミスも打ち返すが、クリーンヒットには至らず、相手をやや押し返す程度。

 次第に目に見えて優劣がハッキリと浮き彫りになる。

 肉体強度と精神力、忍耐力――それらの要素にも限界がある。


「フッ、流石のオマエも限界のようだな。 剣士であるオマエにはオレを倒せない。 その剣を捨て、相手と同じ舞台に立って戦う姿勢と精神は賞賛に値するぜ。 ……だが美徳は時としてあだになるのさぁっ!」


 そう叫びながら、デュークハルトは身体を捻り、

 強烈な回し蹴りをラサミスの上体に叩き込んだ。

 両腕でガードするも蹴りの衝撃で吹っ飛ぶラサミス。

 その衝撃でラサミスは体勢を大きく崩す。


「――勝負あった!」


 勝ちを確信したデュークハルトが愉悦の笑みを浮かべる。

 九分九厘、勝利を確信した。 後は頭部に突きを入れて、止めにハイキックを叩き込む!

 閃光のような突きを突き出し、白い歯を見せるデュークハルト。


 だが次の瞬間、その表情が豹変する。

 バランスを崩したラサミスの身体が地を這うように滑空して、大きく弧を描く。


「……こ、これはっ!?」


 そう口にした瞬間、身体に穴が開くような強い衝撃と痛覚に晒された。


「――肝臓打ち(リバー・ブロウ)のジョルト・ブロウさ。

 魔族も人間と同じく右脇腹に肝臓があるようだな。」


 ラサミスの放った大きく弧を描く左フックがデュークハルトの右脇腹を抉った。

 目を大きく見開き、口をあけてパクパクさせるデュークハルト。

 鍛えられた戦士でも耐えられない強烈な一撃。


 身体の機能が破壊される衝撃。

 意識が朦朧とする。

 だがラサミスは冷然たる表情で敵を見据えている。


「……これで終わりじゃねえ……よな?」


「――舐めるなよ!!」


 そう言うとデュークハルトは一端後ろに下がり、「ハアアアアァァ」と大きく息を吸い込んだ。 そして眉間に力を篭めて魔力を解放する。 するとデュークハルトの身体の周辺に目映い光が渦巻いた。 


「……どうやら、貴様の実力は本物のようだな。

 ならばオレも本気を出すぜ、――我は汝、汝は我。 

 我が名はデュークハルト。 暗黒神ドルガネスよ!

 我に力を与えたまえ! ――『オメガ・ドライブ』!!」


 そう呪文を詠唱するなり、デュークハルトの身体が風の闘気オーラで包まれた。

 ――これは確かスピードを向上させる風属性の強化魔法だ。

 ――敵さんもいよいよ本気という訳か。

 ――だがオレも引くつもりはねないぜ。


 ラサミスはそう思いながら、再び身構えた。

 ラサミス対デュークハルト。

 その戦いは佳境を迎えようとしていた。


次回の更新は2022年1月16日(日)の予定です。


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― 新着の感想 ―
[良い点] 更新お疲れ様です。 アイザックさん、プライドを捨ててと言ったけどとラサミス達はそのプライドの為にと引かない所。引き際が難しい……。 こういうのを見るとメイリン達は、「やっぱ男って」とか言っ…
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