第三百三十七話 不撓不屈(前編)
---三人称視点---
湧き起こる怒号と悲鳴。
連合軍の兵士達は、要塞内に居た魔族兵に容赦なく襲い掛かり、怒号をあげてたくさんの冒険者部隊、傭兵部隊、連合軍の兵士が、自ら手に武器を取り、「要塞を陥落せよ!」と怒涛の進撃を続ける。
「クソッ! これ以上先には進ませるな!」
「このラインラック要塞を何としても死守するのだ!」
「そうだ、そうだっ! 魔族万歳、魔王陛下万歳っ!」
要塞内の魔王軍の隊長や兵士達が声を荒げて叫ぶ。
ラサミス、ヨハン、アイザックは兵を率いて、最前線で魔族兵を次々と蹴散らしていく。
「諸手突きッ!!」
「ピアシング・ドライバー!」
「パワフル・スマッシュッ!」
「ごはあっ!!」
ラサミス、剣聖ヨハン、アイザックが剣技を繰り出して、前方の敵を次々と斬り捨てて行く。 既に数十人以上倒したが、周囲にはまだまだ魔族兵がたくさん居る状態だ。
「クソッ……次から次へときりがないぜ」
ラサミスがうんざりした表情でそう吐き捨てた。
この戦場における魔王軍の総兵力は約二万。
対する連合軍の総兵力は二万二千人と数字の上では勝っていたが、急遽派遣された兵士及び冒険者も多く、兵士の練度はイマイチな部分もあったが、高い給与と報奨金が保障されていたので、彼等は給与以上の働きをした。
「進め、進め! 敵は怯んでるぞ!」
「何としてもこの要塞を落とすんだ! そうすりゃ大金が手に入る!」
至る所に火の手があがり、連合軍の兵士達は声を荒げて叫んだ。
連合軍の兵士と魔族兵が至る所で入り乱れ、激しい戦いを繰り広げていた。
魔族兵の何割かは、この要塞都市に以前から住んでいた住人であった。
彼等は古びた剣、槍、斧、あるいは使い古された農具を武器にして、
迫り来る連合軍の兵士と正面から勇敢に戦った。
彼等は魔族社会では一般市民に該当するが、元が戦闘種族の魔族なので、戦闘に関してはそれなりの訓練を受けていた。
だがそれ以上に彼等には「自分の住む街を護る」という使命感があった。
それ故に戦闘と死を恐れず、手にした武具を振るい眼前の敵と力の限り戦った。
とはいえ彼等には、寄せ集めな集団ならではの弱点もあった。
闘志や士気は高いが、単純に戦闘における経験が不足していた。
ラサミス達はある段階でそれに気付いた。
そして周囲と示し合わせて、その寄せ集め集団を狙い撃ちした。
「せいっ! 一の太刀っ!!」
ラサミスは間合いを詰めて、手にした日本刀を振るい、眼前の敵を瞬く間に切り捨てた。
「ぎゃあああ……あああっ!!」
相手が驚いているうちにヨハンとアイザック、ライルも間合いを詰めて、手にした片手剣で手前の魔族兵の頚動脈を切り裂いた。 半瞬程間を置いて、断末魔の叫びが周囲に木霊する。 だが敵も必死だ。 死を覚悟して、先陣をきるラサミス達を必死に食い止める。
「うおおおっ!!」
雄叫びをあげて襲いかかって来る魔族兵。
「甘いっ!」
ラサミスは突貫してきた魔族兵の顔面に左ジャブを叩き込んだ。
たまらず後退する魔族兵。
そこから右回し蹴りを側頭部に喰らわせて、眼前の魔族兵を吹っ飛ばした。
「やるじゃねえか、ラサミスの小僧」
傭兵ボバンがそう云って口笛を鳴らす。
「ボバンさん、小僧呼ばわりは止めてくださいよ?」
と、ラサミス。
「あいあい、どうやら敵の一部に素人集団が混じってるようだな。
団長、ここはこの素人集団から倒そうぜ。
此奴ら、度胸と根性はあるが、根本的に戦い方が素人だ」
「……そうだな、ヨハン殿も宜しいですかね?」
「うん、ここは少しでも多くの敵を倒すべきだ」
アイザックの提案に、ヨハンも納得した表情で同意する。
そこからは一般市民上がりの魔族兵を徹底して狙い撃ちした。
一般市民上がりの魔族兵も意地を見せたが、意地だけでは戦いに勝てない。
気が付いた時には劣勢に追いやられていた。
その状況を変えるべく、敵将デュークハルトが仲間に助力を請うた。
『レストマイヤー、アグネシャール!
悪いが力を貸してくれ、敵はこちらの穴を見つけたようだ。
このままじゃ負ける、だからお前等の魔法で何とかしてくれ!』
デュークハルトは念話で二人にそう呼び掛けた。
『了解だ、だがあまり期待しないでくれ。
こちらも手一杯なんだ、敵の勢いが凄い』
と、レストマイヤーも念話で返す、
『でもやるしかないでしょ?
とりあえず私達、白魔導師部隊は回復と補助に回るわ』
『悪いな!』
と、三人は念話で意思の疎通を図った。
そしてレストマイヤー率いる暗黒詠唱者部隊は、攻撃魔法と対魔結界を、アグネシャールの白魔導師部隊は回復と補助に回った。
三部隊の息の合った連携にラサミス達も最初は苦しんだ。
だがしばらくすると相手の攻撃パターンも読めてきたので、まずは一般市民上がりの魔族兵を中心に攻めながら、暗黒詠唱者部隊の魔法攻撃には、剣聖ヨハンの職業能力の『魔封陣』で対抗した。
そして『魔封陣』から『ゾディアック・スティンガー』という必勝パターンに繋いで、一般市民上がりの魔族兵だけでなく、幹部候補生三人組の部隊も蹴散らした。 『魔封陣』の蓄積時間の間には、ラサミスの職業能力の『黄金の壁』で敵の攻撃と魔法を防いだ。
そこからは両軍が再度、真正面からぶつかり、激しい白兵戦を展開。
一般市民上がりの魔族兵は、この状況でも闘志が弱まる事はなかったが、戦闘力と戦闘技術の差が浮き彫りになり、次々と各個撃破されていった。 だが真っ向正面の戦いに連合軍の兵士も疲労困憊であった。
「まだだ! 皆、耐えるんだ。 ここが勝負の分かれ目だ! 我は汝、汝は我。 我が名はラサミス。 我は力を求める。 母なる大地ウェルガリアよ! 我に大いなる恵みを与えたまえ! 『ライジング・サン』!!』
するとラサミスが仲間を救うべく、職業能力・『ライジング・サン』を発動させた。 職業能力を発動するなり、ラサミスの居る位置を中心に目映い光が生じて、周囲の仲間を優しく包み込んだ。 すると兵士達の体力と傷が一瞬にして回復及び癒えた。
「ナイスだ、ラサミスくん!」
と、剣聖ヨハン。
「ヨハン殿、貴方の『魔封陣』とラサミスのこの職業能力を合わせて使えば、こちらの体力も維持出来た上に、敵の魔法攻撃を無力化出来ます。 なのでここは下がらず、前へ出て強気で相手を攻めましょう」
周囲の状況を見据えて、アイザックがそう進言する。
するとヨハンは数秒ほど考えてから、「そうだね!」とアイザックの提案を素直に呑んだ。
そこからはしばらく一方的な戦いが続いた。
ラサミス達は一般市民上がりの魔族兵に的を絞り込んで、攻め立てた。
度重なる攻撃で一般市民上がりの魔族兵達も次第にその動きが鈍くなる。
気力や闘志だけで戦場で勝つ事は難しい。
彼等はそれを身を持って体感する事となった。
次第に一般市民上がりの魔族兵は防戦一方となり、陣形も大きく崩した。
ラサミス達はそこから乱戦状態に持ち込んで、
敵味方含めて攻撃魔法が撃てない状況を作り上げた。
『これは不味いな。 このままだと消耗戦だ。
だがそれだとオレ達が不利だ。 だからここはオレが敵を食い止める。
レストマイヤー、アグネシャール。 お前等の部隊はその間に後退しろ!』
『デュークハルト、それは有り難い提案だが、
敵も強いぞ? お前達の部隊だけでは防ぎ切れんぞ』
デュークハルトとレストマイヤーは念話で意思の疎通を図る。
『そうよ、残念ながら敵はかなりの凄腕集団よ。
レストマイヤーの云うように貴方の部隊だけでは持たないわ』
と、アグネシャールも念話で会話に参加する。
だがデュークハルトは落ち着いた口調で二人を諭した。
『まあな、だからお前等二人の部隊は後退した後に、
中層で陣取るリッチ部隊、あるいは魔元帥閣下に助力を請うて欲しい。
なあに、救援が来るまでの間くらいなら、なんとか持たせられるさ』
『……そうだな、ここで三人とも討ち死にするよりかは良いだろう。
カルネス卿は別として、魔元帥閣下には借りを作りたくないが、
そんな事も云ってられん状況だ。 ……アグネシャールもそれでいいな?』
『そうね、そうしかなさそうね。
でもデュークハルト、くれぐれも無理しないでね?』
『おうよ、オレもこんな所で犬死にするつもりはねえさ。
まあお互いに生き残ったら、高い酒でも奢ってくれや』
『嗚呼、分かった』『そうね』
『んじゃそう事でここはオレに任せな!』
するとデュークハルトは前に出て、腰帯に携帯した鉤爪を両手に嵌めた。
それから首をこきりと鳴らして、鉤爪を嵌めた右手を前へ突き出した。
「よーし、お前等。 ここからしばらくは辛抱の時間だぜ。
でも心配するな、このオレ様が敵を引きつけてやるよ。
戦いたい奴はオレと一緒に戦え、死にたくない奴はさっさと逃げろ!
これがオレ様がお前等に下す命令だ」
デュークハルトは意気揚々とした様子で周囲にそう告げた。
すると周囲の部下達の大半は、彼と共に戦うという選択肢を選んだ。
そして『お前等行くぞ!』という指揮官の言葉と共に、自ら進んで死地に飛び込んだ。
次回の更新は2022年1月15日(土)の予定です。
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