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第三百三十六話 正面突破(後編)



---三人称視点---



 連合軍による激しい砲撃が続いたが、

 大賢者ワイズマンシーネンレムスが張った黒い障壁(ノワール・バリア)によって、城壁は護られて、激しい砲撃に対して、無傷な状態であった。


 その間に魔王軍は城門を開けて、魔族兵を要塞の中に撤退させた。

 代わりに魔導師、術士が生成した数百体に及ぶゴーレムの集団を城門の外に出して、城門の周囲の護りを固めた。


 大賢者ワイズマンは張った黒い障壁は、魔帝級まていきゅうだ。

 個人の魔導師が生み出すレベルの障壁バリアでは、最高クラスのものであった。

 だがこれ程の障壁バリアを維持するには、それ相応の対価が必要だ。


 シーネンレムスは護衛に護られながら、 

 障壁バリアを維持すべく膨大な魔力を放出していた。

 だがいくら最高クラスの障壁バリアと云えど、いずれは破られる。


 しかしそれにはまだ数時間程の猶予があった。

 魔王軍はこの機会を生かすべく、リッチ・マスターのカルネスが中心となって、

 魔王軍の各部隊が連動及び連携して、陣形を再び整えた。


 まず空戦部隊は、獣魔王ビースト・キンググリファムが司令官を務めながら、

 エンドラ率いるサキュバス部隊、それと魔元帥が派遣した龍族、竜魔部隊と

 連動して、連合軍の空戦部隊である竜騎士団と制空権を握るべく戦った。


 戦いの序盤は竜騎士団がやや有利であったが、

 龍族、竜魔部隊が戦線に加わると、形勢は互角に戻った。

 竜騎士団の騎士団長レフは得意の電撃魔法で敵を一掃するが、

 敵も同様に攻撃魔法で応戦。


 騎士団長レフ、副団長ロムス、切り込み隊長のカチュア等が

 獅子奮迅の働きを見せたが、敵もレフ相手には三体一で挑んできた。


 それでもレフは多対一の戦いでも、相手と互角以上に渡り合っていたが、

 戦いが進む度に次第にその表情にも疲れの色が見え始めた。

 結果、両軍共に制空権を奪うには至らず、激しい消耗戦を余儀なくされた。


 また地上では、カルネスが各部隊の指揮官との調整役を務めて、敵の猛攻で崩れていた陣形を見事に再編成させた。 下層にはデュークハルト、レストマイヤーやアグネシャールの部隊を置き、中層にカルネス率いる不死生物アンデット部隊、そして上層に待機していた魔元帥も部下を引き連れて、中層まで降りて来た。 とりあえずこれで最低限の陣形の再編成と各部隊を連動させる事に成功した。


 城門の前にはゴーレムの大群を配置して、

 肉の壁ならぬ、土の、石の壁として敵部隊の攻撃と侵攻を食い止めた。

 だがしばらくすると連合軍側も再びゴーレムを大量に生成した。


 そして両軍のゴーレムが大橋の中央付近で、激しく押し合う。

 その間に連合軍は態勢を整えて、魔法部隊が味方のゴーレム共々、

 氷と風魔法のコンボを喰らわせて、魔力反応『分解』が発生させた。

 すると前方のゴーレムの大群の身体が硝子のように砕け散った。


「よーし! 今のうちだニャン。 もう一度大砲で城壁を狙うだニャン!」


 マリウス王子がそう命令を下すなり、

 砲撃部隊も城壁に目掛けて、激しい砲撃を再開させた。

 だが放たれた砲弾は、黒い障壁バリアにまたしても弾かれる。

 

「もっとだ、もっと撃つニャン!

 いくら凄い障壁バリアでもいずれは破れる。

 だから砲撃を中心に、魔法や遠隔攻撃で城壁を撃ち破るニャン!」


 マリウス王子の命令は単純なものであったが、

 この場においては正しい判断であった。

 確かに大賢者ワイズマンが張った障壁バリアは超一級品だ。

 だがいくら何でも無制限に相手の攻撃が防げる訳ではなかった。


 そしてこうして攻撃を受ける度に、

 僅かながらだが、黒い障壁バリアも徐々にだが傷がつき始めていた。

 

「よし、ここからは力押しで攻めよう。

 吟遊詩人バード宮廷詩人ミンストレルの方々、『覚醒のソナタ』を頼む!」


「了解です、さあ、楽器を奏でて、みんなを支援するんだ! 

 『覚醒のソナタ!』!」


「了解だニャン! 『覚醒のソナタッ!』 !」


 賢者セージベルロームがそう云うなり、

 周囲の吟遊詩人バード宮廷詩人ミンストレルが手にした楽器を奏でながら、美声で歌を歌った。 これによって周囲の仲間達の攻撃魔力が大幅に向上した。


「よし、私の後に続くんだ! 我は汝、汝は我。 我が名はベルローム。 

 ウェルガリアに集う光の精霊よ、我に力を与えたまえ! 

 『レイジング・サンシャインッ』!!」


 ベルロームは素早く呪文を紡ぎながら、両腕で持った杖を大きく引き絞った。 そこから両手に持った杖をを前に突き出すと、杖の先端の赤い魔石から光の波動が放たれた。 そしてベルロームの放った帝王級ていおうきゅうの光の波動が漆黒の障壁バリアに着弾。


 物凄い爆音と共に周囲の景色が揺れた。

 更に追い討ちをかけるべく、メイリンが右手を頭上にかざして、呪文を唱えた。


「我は汝、汝は我。 我が名はメイリン。 

 ウェルガリアに集う炎の精霊よ、我に力を与えたまえ! 

 ハアアアァッ……! 『スーパーフレアッ』!!」


 メイリンは呪文を紡ぐなり、彼女の右掌に緋色の波動が生じた。

 そして「行くわよ!」という掛け声と共に、右手を前方に向けて緋色の波動を放射する。 やや時間差を置いて、緋色の波動が着弾。


 すると「ドガアァァァァァァン!!」という爆音と共に世界が揺れた。

 ベルロームの帝王級ていおうきゅうの光魔法に合わせるように、

 放ったメイリンの帝王級の炎魔法。

 光属性と炎属性が交わり、魔力反応「核熱」が発生。


 更に「覚醒のソナタ」で魔法攻撃力が上がった一撃。

 この一撃で城門前の敵は完全に沈黙。

 だが連合軍の攻撃はこれで終わらない。


 黒い障壁バリアを破るべく、砲撃及び魔法攻撃が城門目掛けて再び放たれた。

 砲撃による爆発が、魔法攻撃による衝撃が容赦なく黒い障壁バリアに襲い掛かる。

 次第に黒い障壁バリアにも皹が入り始めた。


 そこからまた尋常でない砲撃及び魔法攻撃が繰り出された。

 そして一時間四十五分後、とうとう黒い障壁バリアは打ち破られた。

 流石の大賢者ワイズマンもこの強力な障壁バリアを張った為に、

 大量の魔力を消費して、その顔は憔悴しきっていた。


 城門の前にはもう敵の姿はなかった。

 恐らく要塞内の戦いに専念すべく、兵を城門の中に引き上げたのであろう。

 ならばやる事は一つ、実力行使で城門を破るまでだ。


「よし、今だ! 城門を打ち破るぞ!!」


 そう叫んで破城槌はじょうついを持った工作兵の部隊が城門に激突する。

 間を置かず、時間差をつけて、第二陣、第三陣の部隊が交互に城門に槌を何度も打ちつける。

 その間、城壁の矢狭間やざまから矢が放たれたが、

 戦士ファイター聖騎士パラディンなどの防御役タンク職が破城槌を持ったの部隊を護った。


 破城槌はじょうついを持った工作兵の部隊は、何度も何度も城門に突撃する。

 そして十数回に及ぶ突撃でとうとう城門は打ち破られた。

 執拗な突撃によって、城門の扉は半開き状態になっていた。

 周囲の兵士達は仲間の魔導師や僧侶プリーストに補助魔法をかけてもらうなり、


「中に突入して、要塞内を制圧せよ!」


 と、気勢を上げながら城内に突入する連合軍の兵士達。

 だが主力部隊である「ヴァンキッシュ」、「暁の大地」、傭兵部隊はすぐには突入せず、回復薬ポーション魔力回復薬マナ・ポーションで体力と魔力を補充した。 そして十分程、小休止。


「そろそろ突入しますか?」


「そうですね、そろそろ頃合いですね」


 剣聖ヨハンはアイザックの言葉に小さく頷いた。

 ここから先の戦いは、本当の意味での死闘になるであろう。

 だからこの場は功を焦らず様子を見よう。


 ヨハンもラサミスもアイザックも似たような事を考えていた。

 そして十分な休憩により、体力と魔力もほぼ回復した。


「さあここからが本番だ。 苦しい戦いになるだろが、皆で頑張ろう!」


 と、剣聖ヨハン。


「ええ、悔いのない戦いをしましょう」


 と、相槌を打つライル。

 そして「暁の大地」の団長であるラサミスも「嗚呼」と頷き――

 

「――では皆、行くぞっ!」


 と、叫んで城門の中に入っていった。

 こうしてラインラック要塞における攻防戦はいよいよ佳境に入った。

 この戦いに勝つか、負けるかで、

 連合軍と魔王軍の命運を大きく分ける事になるであろう。


 だが戦場で戦う兵士達は、そんな事を考える余裕などなく、

 ただひたすら眼前の敵と命の限り戦い続けるのであった。


次回の更新は2022年1月12日(水)の予定です。


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― 新着の感想 ―
 ついに要塞に入れましたね。  でもここからが正念場でしょう。  全体的に見ればラサミスたちは端役に見えます。一騎打ちはともかく戦争を丁寧に書いてます。ではまた。
[一言] ついに、場内に侵入。 ラサミスの徹しの後に、ミネルバが助太刀に来るのも水入らず(?)でいいですね。
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