第三百三十四話 要塞大攻防戦(後編)
---三人称視点---
「敵に大砲を撃たせるなぁっ!
撃つ前に大砲ごと魔法で焼き尽くせ!」
連合軍に大砲を撃たせまいと、デュークハルトが周囲に大声でそう命じた。
すると魔王軍の魔法部隊が一斉に魔法攻撃を仕掛けた。
だがそれを防ぐべく、ラサミスが前方に出て職業能力『黄金の壁』を発動する。
「――させるかぁっ!! 『黄金の壁』」
ラサミスは勇ましい声で叫ぶなり、彼の周囲に黄金に輝く闘気が渦巻いた。 そしてラサミスはその黄金に輝く闘気を前方に押し出して、障壁を生み出す。
守備範囲はこの大橋の横幅に限定する。
すると大橋を覆うような形で、黄金に輝く障壁が張られた。
それと同時に敵の放った魔法攻撃が命中したが、
黄金の障壁はそれらの攻撃を綺麗に弾き飛ばした。
「メイリン! それと他の魔法部隊も対魔結界、あるいは障壁を張るんだ!」
「わ、分かったわ。 我は汝、汝は我。 我が名はメイリン! ウェルガリアに集う光の精霊よ。 我に力を与えたまえ! 『ライト・ウォール』ッ!!」
「我は汝、汝は我。 我が名はリリア! ウェルガリアに集う光の精霊よ。
我に力を与えたまえ! 『ライト・ウォール』ッ!!」
「我は汝、汝は我。 我が名はベルローム! 母なる大地ウェルガリアよ!
我に力を与えたまえ! 『サイコ・バリア』ッ!!」
メイリンやリリア、ベルロームが素早く呪文を詠唱すると、
前方に長方形型の光の壁と魔法の障壁が張られた。
そして敵が放った闇の炎と緋色の炎がそれらの壁に命中。
爆音と衝撃音が轟き、周囲の大気が揺れた。
だがこのままでは、あまり長くは持ちそうにない。
すると前方に立つラサミスが征伐剣・顎門を頭上に掲げて叫んだ。
「今のうちに聖剣や魔剣で遠隔攻撃するんだぁ!」
「了解した! 行くぞ、ボバン!」
「おうよ、団長!」
傭兵隊長アイザックと狂戦士ボバンがそう言葉を交わして、
前方に躍り出て、手にした漆黒の魔剣と緋色の大剣を勢いよく振り下ろす。
すると剣の切っ先から巨大な炎塊が吐き出されて、前方の敵部隊に命中。
その衝撃で敵の魔法部隊が綺麗に弾き飛んだ。
「俺達も行くぞ! ミネルバ、準備はいいか!?」
「了解よ、ライルさん!」
ライルとミネルバは、城壁から放たれる矢の雨を回避しながら、
手にした聖剣と魔槍を構えながら、前進する。
そしてライルが聖剣レインヴァルツァーを振るうと、
目映い光の波動が敵の魔導師と弓兵、砲兵を綺麗に呑み込んだ。
「あああっ……あああぁッ!!」
光の波動に呑み込まれた魔族兵達は、断末魔を上げて、息絶えた。
魔族の弱点属性である光属性による遠隔攻撃は、想像以上に効果があった。
そして追い打ちをかけるべく、ミネルバが更に攻撃を加えた。
「――これで終わりよっ!!」
ミネルバは手にした漆黒の魔槍カーミルランスを縦横に振るった。
するとその穂先から闇色の炎塊が勢いよく放出された。
そしてライルの放った光の波動と交わり、激しい爆発が起きた。
「よし、今のうちに大砲を前に押し出すんだ!」
「了解だ!」「了解だニャン!」
中年男性のヒューマンの砲兵隊長がそう叫ぶなり、
中列に居た砲兵達がガラガラと音を立てて、数十門に及ぶ大砲を前進させた。
「砲弾、装填完了だニャン!」
と、猫族の砲兵。
「そして狙いを定めろ!」
と、指示を下す中年男性のヒューマンの砲兵隊長。
そして周囲の砲兵達も大砲の照準を城壁に定めた。
するとヒューマンの砲兵隊長は声を張り上げて、周囲の砲兵に命じた。
「今だ、放てぇっ!」
「攻撃ニャ!!」
「大砲発射ニャ!!」
そして轟音と共に全ての大砲から、高速で砲弾が飛んで行く。
飛んでいった砲弾は要塞の城壁に、次々と命中していった。
「撃て、撃て、城壁をぶっ壊すまで撃て!」
「了解だニャン、行くだニャン!」
「了解だニャン、大砲発射っ!!」
砲兵隊長の号令と共に第二射が放たれた。
要塞の内外で砲声が轟き、砲弾が命中する度に城壁が激しく振動する。
「よし、オレ達も後に続くぞ!
こちらの大砲を狙う魔導師や弓兵を聖剣や魔剣の遠隔攻撃で倒すぞ」
「了解だ、ラサミス」
「そうね」
ラサミスの提案にライル、ミネルバが頷いた。
「よし、我々、魔法部隊も後に続くぞ!
基本的に魔法攻撃、そして対魔結界で敵の攻撃を防ぐぞ!」
「了解です、隊長」
「了解ッス、ベルロームさん!」
賢者ベルロームの言葉に女魔導師の二人が大きく頷いた。
そして大砲による砲撃を中心としながら、
他の兵士達、魔法部隊の魔法使い、魔導師が援護及び援護射撃を繰り返す。
だが敵も必死に残った大砲で反撃する。
勢いでは連合軍だが、魔王軍も必死の抵抗を見せた。
その結果、この城塞前の大橋に、死屍累々な光景が広がり、
お互い一歩も引かず、激しい砲撃戦が繰り返されのであった。
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両軍による大砲の撃ち合いは長時間に渡って続いていた。
だが数に加えて、性能でも連合軍の大砲が勝っていた。
それもその筈。
そもそも魔王軍の大砲の多くは、連合軍の旧式の大砲であった。
高い知能を誇る魔族だが、
魔道具や火器、武器の開発に関しては、四大種族に大きく遅れを取っていた。
高い知能と戦闘力を誇る魔族は、火器や銃器に頼る必要はなかったが、
四大種族はヒューマンを中心として、大砲や銃、拳銃の開発を進めた。
その結果、四大種族は強力な銃火器を作る事に成功した。
魔族側はそれらの銃火器を半人半魔部隊などの
斥候、間諜を務める部隊に調達させて、魔大陸に輸送させた。
そうした輸送及び密輸を繰り返して、
本国である魔大陸の拠点にも多くの大砲が配置されたが、
四大種族はその間にも、大砲や銃、拳銃の開発及び量産を進めた。
そして魔族と四大種族によって、
開始された要塞大攻防戦による砲撃戦では、
連合軍側が戦いを有利に進めていた。
「……これは不味い」
要塞内の中層エリアに陣取っていた大賢者シーネンレムスは、事態の深刻さを見抜いて、思わずそう一言を漏らした。 するとその近くで待機していたリッチ・マスターのカルネスが大賢者に視線を向けた。
「シーネンレムス卿、何が不味いのでしょうか?」
と、カルネスが端的に問うた。
「……敵の攻撃が想像以上に強い。
このままでは城壁が破壊されるのも時間の問題だ」
シーネンレムスは低い声でそう答える。
「確かに敵の攻撃、特に大砲による砲撃が想像以上ですね。
我等、魔族は対魔力や耐魔性を上げるのは得意ですが、
物理耐性に関しては、あまり力を入れてませんでしたからね」
「嗚呼、儂もまさか四大種族相手に、ここまで苦戦するとは思わなかった。 このラインラック要塞が陥落すれば、敵は一気に魔帝都に攻めて来るだろう。 それだけは避けねばならん。 だから儂は今から魔力の大半を消費して、城壁を覆う障壁を張るつもりだ。 だからカルネスよ。 その間に儂の警護を、更に不死生物及びゾンビ化させた魔物、魔獣で敵の攻勢を何としても食い止めて欲しい」
普段は寡黙な大賢者がこれ程、多弁になるとは、
それぐらい事態は逼迫してるようだ、カルネスは咄嗟にそれを悟った。
「分かりました、我がリッチ部隊だけでなく、
デュークハルト達の部隊を連動して、敵の攻勢を食い止めます」
「それだけでは持ちこたえる事は出来ん!
空戦部隊のグリファム、エンドラ、そして魔元帥の部隊とも
連動するんだ。 最悪、この要塞が陥落しても構わない。
だがその際には魔王陛下や幹部達を安全な場所に転移及び退去させるのじゃ!」
随分、無茶な要求だ。
カルネスは最初にそう思ったが、
この老魔族がここまで必死に云う姿を初めて見た。
仕方ない。
この場は自分が周囲の調整役、仲介者になるしかなさそうだ。
どうせ元々好かれるような立場には居ない。
ならばここで嫌われた所で痛くもない、そう自分に言い聞かせるカルネス。
「難しい仕事ですが、なんとかやってみせましょう」
「嗚呼、頼んだぞ。 では儂の周囲に腕利きの護衛を十人程用意してくれ。 これから発動する魔帝級の障壁ならば、数時間は敵の攻撃を持ちこたえられるが、その間、儂もずっと障壁を維持する為、魔力を放出せねばならぬ!」
「……分かりました。 デュークハルトの……いや魔元帥の部隊から護衛役を十人用意しましょう。 シーネンレムス卿、何なら私も障壁の維持に協力しましょうか?」
だが老魔族はカルネスの提案を拒否した。
「いやこれは儂の役割じゃ! 卿には先程云ったように、各部隊を連動する調整役になってもらいたい! この場における幹部の中では、儂を除いては卿しか出来ぬ大役だ。 だから苦しいだろうが、卿も自分の役割を果たしてくれ!」
「了解しました。 とりあえず念話で各部隊とコンタクトを取ってみます」
「うむ、頼んだぞ……」
そしてシーネンレムスは護衛を引き連れて、中層エリアから下層エリアへ移動した。 それから両手に持った暗黒樹で作られた両手杖で魔法陣を描いた。 シーネンレムスはその魔法陣の上に乗るなり、全魔力を解放する。 すると非常に濃い魔力が周囲に充満し始めた。
周囲の護衛役の龍族達も思わずごくりと喉を鳴らせた。
そしてシーネンレムスは、魔法陣の上で印を結びながら、呪文の詠唱を始めた。
「偉大なる闇の精霊よ、我が願いを叶えたまえ!
そして母なる大地ウェルガリアに凶暴なる守護をもたらしたまえ!」
シーネンレムスは天に向かって両手を上げる。
するとシーネンレムスの頭上の雲が急に曇りだして、
その直後に闇色の波動が生じた。
「我は汝、汝は我。 我が名はシーネンレムス!
嗚呼、暗黒神ドルガネスよ! この大地を闇で埋め尽くしたまえ!
はああぁっ……『黒の障壁』ッ!!
呪文の詠唱が終わると、何秒間か、間を置いてから黒い障壁が発生。
そして城壁を取り囲むように、黒い障壁が異様な速度で広がった。
「あ、アレは何だニャン!」
後方で指揮を執るマリウス王子が思わず叫んだ。
「分かりませんが、敵の魔法の可能性が高いです」
と、ガルバン。
「ぬぬぬっ……対魔結界か、障壁の類いかニャン?」
「……恐らくそうと思われます」
と、ジョニー。
「くっ、敵もやるだニャン!
アレはとてつもないレベルの対魔結界か、障壁だニャン!」
「王子、どうなさいますか?」と、ガルバン。
するとマリウス王子は胸の前で両腕を組みながら、大声で叫んだ。
「今更、引くことは出来ないニャン!
撃って、撃って、撃ちまくるだニャン!」
「はっ、では全軍にそのように伝えます」
「うむ」
そして再び砲撃が再開された。
だが大賢者が張った黒い障壁は、それらの砲撃にも見事に耐えた。
とはいえ無限大に攻撃を防げる訳ではなかった。
だから時間を稼ぐべく、また正門を開いて多くの魔族兵、魔物、魔獣の大群を放った。
それに対して連合軍も真正面から白兵戦を挑んだ。
こうしてラインラック要塞における大攻防戦は、更に苛烈さを増した。
果たして勝つのは連合軍か?
あるいは魔王軍か?
それは現時点では分からない。
だが砲撃や爆音、爆風が沸き起きる度に、多くの兵士の命が失われていくのであった。
次回の更新は2022年1月8日(土)の予定です。
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