第三百三十二話 要塞大攻防戦(前編)
---三人称視点---
「くっ、いくら何でも数が多すぎる」
「確かにこの数は厳しい。 魔法部隊、まだなのかい?」
傭兵隊長アイザックと剣聖ヨハンがそう云って、後ろへ振り向いた。
前方の大橋の前を防ぐように、大量のゴーレムが押し寄せていた。
連合軍側もをウォーロックや魔導師、精霊使いが数百体のゴーレムを召喚したが、魔王軍はその倍以上のゴーレムを召喚していた。
流石にこの数相手に戦うのは厳しい。
だから前方を戦士や聖騎士など防御役で固めて、後方の魔法部隊にゴーレムの破壊を任せた。
「我は汝。 汝は我。 我が名はメイリン。
ウェルガリアに集う水の精霊よ。 我に力を与えたまえ!
行くわよっ! 『シューティング・ブリザード』ッ!」
「我は汝。 汝は我。 我が名はリリア。 ウェルガリアに集う水の精霊よ。
我に力を与えたまえ!『シューティング・ブリザード』ッ!」
「我は汝、汝は我。 我が名はベルローム。 ウェルガリアに集う風の精霊よ、
我に力を与えたまえ! 消え去れっ!! 『アーク・テンペスト』!!」
中衛に待機していた魔法部隊が前線に躍り出て、
氷属性から風魔法のコンボを繰り返した。
そして魔力反応『分解』が発生。
ゴーレム達の身体が砕けて周囲に飛散する。
だがそれでもゴーレムの軍団は前進を止めない。
元々が心を持たない操り人形。
だから死の恐怖を感じる事も無く、大橋を護るべく前進を続けた。
前線の兵士達が悪戦苦闘するなか、
後衛で指揮を執るマリウス王子は冷静に状況を把握した。
「やはり敵の狙いは、長期的な籠城戦だニャン。 でもボク達がそれに付き合う必要はないだニャン。 よし、竜騎士部隊の飛竜に猫族の魔導猫騎士達を相乗りさせて、上空からゴーレムを狙い撃ちにするだニャン!!」
マリウス王子は状況を読み取り、的確な指示を下した。
すると竜騎士の飛竜に相乗りした猫族の魔導猫騎士達が
上空から地上のゴーレム部隊に向かって魔法攻撃を放った。
魔導猫騎士達の怒濤の魔法攻撃により、次々と撃破されていくゴーレム部隊。
「よし、手を緩めちゃ駄目ニャンッ!
兎に角、今はゴーレムを撃破して、大橋を確保するニャン。
魔法部隊が魔力切れを起こさないように、
魔法戦士は『魔力パサー』を、
吟遊詩人や宮廷詩人も魔力回復の歌・楽器スキルを!」
この場におけるマリウス王子の采配は実に的確であった。
地上及び空中の魔法部隊はひたすら全力で魔法攻撃をゴーレムに放つ。
そして魔法戦士や吟遊詩人や宮廷詩人が魔法部隊をサポートする。 すると気が付けば、前方の敵ゴーレム部隊の数が激減していた。
「好機だ! 今のうちに味方のゴーレム部隊を押し上げるんだ。
そして大橋を確保しよう、そうすれば戦いがぐっと楽になる!」
「ヨハン殿の云うとおりだ! 全員で大橋を奪うぞ!」
剣聖ヨハンと傭兵隊長アイザックがそう指示を飛ばすと、
近くに居たラサミス達『暁の大地』、山猫騎士団の猫騎士達も「おおっ!」と叫んだ。 そこからは激しい消耗戦が続いた。
ゴーレムとゴレームによる戦い。
それを補助及び妨害する両軍の魔法部隊。
激しい消耗戦が三時間以上続いた末に、連合軍がようやく大橋を確保した。
「よし、大橋を確保したぞっ!
いいか、何としてもこの大橋を護るぞ!」
剣聖ヨハンが云うまでも無く、
連合軍の前衛部隊はゴーレムを盾にして、大橋を確保した。
それを後方で見ていたマリウス王子は、
「良い感じだニャン!」と云ってから、新たな指示を下した。
「よし、全軍に告ぐだニャン!!!
大橋を護りながら、敵の正門を落とすだニャン!!」
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攻める、守る、進む、後退する、といった一連の動作が繰り返される。
剣聖ヨハンが聖剣サンドライトを縦横に振るいながら、次々と死体の山を築き上げる。
剣聖に負けじと傭兵隊長アイザックも手にした漆黒の魔剣で敵と斬撃を繰り返す。
同じくラサミスも敵に勝るとも劣らない勢いで、白刃の日本刀を振るう。
その後に狂戦士ボバンが緋色の大剣で敵兵の頭部を叩きわり、猫騎士の戦乙女ジュリーが高速回転の突きで敵兵の喉下を串刺しにする。 次第に粘りのある攻防を見せていた敵の前衛部隊の動きがやや遅まった。
「我らも遅れをとるな! ――功を奪われたら名誉ある王国騎士団の名が泣くぞ。 敵兵に疲労の色が見え始めている、突撃して敵兵を蹴散らせ!」
ハイネダルク王国騎士団の騎士団長アームラックがそう叫ぶと、
ヒューマンの騎士達は、激しい斬撃を繰り返して、
敵兵を次々と肉隗へと変えて己の剣を血で赤く塗装する。
要塞の前の大橋で敵味方が入り交じって激戦を繰り広げた。
数の上で不利になった魔王軍の前衛部隊はゆっくりと後退を始めて、
それと入れ替わるようにデュークハルトが率いる漆黒の甲冑に身を包んだ精鋭部隊が、連合軍の前にさっそうと立ち塞がった。
幹部候補生デュークハルトを主力として、暗黒詠唱者部隊のレストマイヤー、白魔導師部隊のアグネシャールが攻撃魔法と回復魔法を駆使して、前線の前衛部隊を全力でサポートする。
剣聖ヨハンが聖剣を振り下ろし、切り払い、魔族兵を次々と切り倒す。
それに負けじと若き団長ラサミスも縦横無尽に戦場を駆け回り、次々と敵兵を斬り捨てた。
それに対応こうすべく、敵将デュークハルトも最前線に立ち暴れまくった。
一時間以上、両軍の激しい攻防が続き、次第に数の差が出てきたので、
デュークハルト率いる精鋭部隊も大攻勢を受けて、じんわりと確実に後退し始めた。
数の上で一気に有利になった連合軍は押しつ、押されつつを繰り返して戦局の変化が訪れつつあった。 激しい消耗戦が繰り返され、要塞の前の大橋に、連合軍と魔王軍の旗が翻る。 人数の劣勢で魔王軍は踏みこたえながらも、ジリジリと後退する。 それと連動するように連合軍は更なる戦力を投入して、敵陣深くまで攻め込んだ。
「……ムムム。しかし今回の魔王軍は妙に慎重というか消極的だニャン。
やはり敵の狙いは籠城戦なのか?」
マリウス王子はそう云いながら、首を傾げていた。
すると王子の左隣に立つ白銀の鎧姿のメインクーンのガルバンが丁寧な口調で語りかけた。
「そうですね。 敵は意図的にこちらを疲弊させるように仕向けていますね。
こちらとしては、それにわざわざ付き合う必要はないですが、
敵の動きにも隙がない状態です」
「ここは多少厳しくとも、攻勢に出るべきでしょう」
と、王子の右隣に立つ白黒のメインクーンのジョニーがそう進言する。
「うむ、そうだニャン。 多少の犠牲を覚悟して、このまま攻めるニャン!」
マリウス王子はそう口にして小さく頷いてから、全軍に前進するように命じた。
要塞前の大橋では、相変わらず激しい戦いが続いていた。
剣聖ヨハン、女侍のアーリア、傭兵隊長アイザック、幹部殺しのラサミス、雷光のライルが先陣を切り、次々と網膜に映る敵兵を斬り捨てていく。
外様の傭兵及び冒険者部隊に、連合軍の正規軍である各国の騎士団の騎士達が負けじと、血しぶきの竜巻をあげて剣を縦横に振りながら、敵兵を黄泉の世界へと送り、アームラック団長が率いる王国騎士団がハイエナのように勢いを失った敵兵に怒涛の攻勢をかけた。
すると魔王軍の前衛部隊のデュークハルトは、
無理せず兵を後退させて、代わりにゴブリンやコボルト、蜥蜴人間などで
構成された魔物、魔獣部隊を前線に送り出した。
だがそれらの部隊で連合軍の精鋭と相対するには、少々力不足であった。
結果、魔物、魔獣部隊達は連合軍の猛攻の前に死に絶えた。
連合軍としては、このままの勢いで城塞の正門を落としたかった。
だが中層エリアから下層エリアに降りて来たカルネス率いる死霊使い及びリッチ部隊が前線で死に絶えた魔物、魔獣部隊の亡骸をゾンビ化させて、文字通り肉の壁として連合軍の進撃を阻んだ。
長時間に及ぶ激闘で連合軍の勢いにも陰りが見え始めた。
するとレストマイヤーの暗黒詠唱者部隊、
アグネシャールの白魔導師部隊が再び大量のゴーレムを召喚。
そしてゾンビ部隊を後押しするように、
ゴーレムの大群を前方に押し出して、数の暴力で連合軍の進撃を食い止めた。
結果、連合軍の進撃は食い止められて、夜を迎えた。
夜は魔族の時間。
数が有利と云えど、夜中に魔族と戦うのは賢い選択肢ではない。
マリウス王子は「仕方ないニャン」と悔しさを滲ませながら、
連合軍の進撃部隊を一旦、大橋の外まで後退した。
こうしてラインラック要塞における初日の戦いは、
泥沼の消耗戦という無残な結果に終わった。
次回の更新は2022年1月2日(日)の予定です。
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