第三百二十八話 各個撃破
---ラサミス視点---
「ファルコン・スラッシュ!」
「ヴォーパル・スラスト!」
「喰らえっ! 諸手突き!」
オレ達は迫り来る敵の集団を次々と斬り捨てた。
オレ達『暁の大地』のメンバーだけで、既に数十体、数十人以上の魔物と魔族と戦っていた。 本来ならばたった六人でこれだけの敵と戦うのは不可能だ。
だがオレ達の手には聖刀や聖剣、魔槍が握られていた。
それも並の聖刀や聖剣じゃない。
伝説級の聖刀や聖剣だ。
更には自動修復機能までついた優れ物。
だから敵を何十体も斬り捨てても、刃こぼれ一つしなかった。
基本的にオレ達は受け身で、敵の魔物、魔獣や魔族兵が向かって来たら、迎撃。
時折、聖刀、聖剣や魔槍に闘気を篭めて、敵目掛けて豪快に振った。
そして次の瞬間、聖刀、聖剣と魔槍から放たれた巨大の炎塊や光の波動が敵目掛けて放たれる。 すると前衛部隊の魔物や魔獣、魔族兵は断末魔を上げて力尽きた。
「こ、此奴ら強すぎるぞ!」
「あ、アレは恐らく聖剣や魔剣の類いだ!」
「それだけじゃない、基本的な能力もかなり高いぞ!」
前方の魔族兵の前衛部隊が驚き、慌てふためいた。
効いている、効いてる。
よしここで一気にケリをつけ――
「我々も後に続くぞ!」
「了解だニャン!」
「了解よ!」
中衛で様子を見ていた山猫騎士団のレビン団長、ケビン副団長。
聖騎士のロブソン、戦乙女のジュリー、銃士ラモン達が相手の間隙を突いて、前へ出て果敢に戦った。
「――レイジング・バスターッ!!」
「――スカル・ブレイク!」
「――スピニング・ドライバー!!」
「オマエの脳天にプレゼントだぜっ!! スナイパーショットォォォッ!!」
次々と技が繰り出されて、魔物や魔族兵がその餌食となった。
やれやれ、猫族の連中もやる気を出したようだ。
でも結果的に敵を倒せているから、良しとしておこう。
「クッ……怯むな! 魔王軍の意地を見せるんだ!」
「でも此奴ら、強いですよ。
お、オレ達も犬死にはしたくねえッスよ」
「クッ、ならばスノーウルフやアイスゴーレム、それと雪熊を前線に押し上げろ!」
「は、はい!」
「おっとそうはさせないわよ! ――アクア・スプラッシュ!!」
メイリンが中衛から飛び出して水属性の魔法を詠唱して、
前方に群がるスノーウルフや雪熊の足元に大量の水を生成した。
急に水をかけられたスノーウルフや雪熊達はビックリして動きを止めた。。
その間隙を突くように――
「はい、みんな転んじゃえ!『凍結』!』
メイリンが凍結魔法を詠唱すると、前方の敵集団の足元が一面の氷に覆われた。
「なっ!?」
「ヤベえ、まともに立ってらんない! うおっ……」
「わ、ワオーンッ!!」
魔族兵や魔物達は氷の地面の上で盛大に滑り、転んだ。
ああ、昔は良くこの手を使ったな。
でもここ魔大陸は冷帯だから、地面があっという間に凍り付いた。
成程、これは今後も使えそうだな。
「せいっ!! 我は汝、汝は我。 我が名はメイリン。 ウェルガリアに集う炎の精霊よ、我に力を与えたまえ! 『スーパーノヴァ!!』」
更にメイリンが素早く呪文を唱えて、
その杖の先端の魔石から紅蓮の炎が生み出される。
そして紅蓮の炎が激しくうねりながら、前方の敵集団に目掛けて高速で放射された。 どおおおんっ! 爆音と共に周囲の景色が激しく揺れた。
「よし、ボク達も続くだニャン!」
「了解だニャン!」
と、王国魔導猫騎士団の連中が前方に飛び出して来た。
「それじゃ行くだニャンッ!! 我は汝、汝は我。 我が名はニャラード。 ウェルガリアに集う炎の精霊よ、我に力を与えたまえ! 『シューティング・フレア!!」
「ニャニャッ! 我は汝、汝は我。 我が名はニャーラン。
ウェルガリアに集う光の精霊よ、我に力を与えたまえ!
ニャオーンッ! 『ライトニング・カッター!!』」
「おいどんもやるニャンす! 我は汝、汝は我。 我が名はツシマン。
ウェルガリアに集う炎の精霊よ、我に力を与えたまえ!
『フレア・ブラスターッ!!』」
騎士団長ニャラードが先陣を切り、
それに続くように他の魔導猫騎士達も一斉に魔法攻撃を仕掛けた。
地面に転んだ敵集団はその魔法攻撃をまともに受けた。
すると瞬く間に敵の魔物や魔族兵の死体の山が築き上げられた。
今の一連の攻撃で五十以上の敵を倒せたと思う。
オレ達はその後も同じ戦術を使って、次々と目の前の敵を蹴散らせた。
こちらの右翼部隊は、オレ達『暁の大地』が中心となって、
山猫騎士団や王国魔導猫騎士団と連動して、
同じ要領で敵を次々と焼け焦げた死体に変えて行く。
左翼部隊の中心は、剣聖ヨハンが率いる「ヴァンキッシュ」だ。
兎に角、剣聖ヨハンの戦闘能力は連合軍の中でも飛び抜けていた。
剣技も攻撃魔法も一流。
そのヨハンを支える仲間達。
基本戦術はヨハンが最前線で戦い、
錬金術師のクロエが状況に適した地形変化を行う。
雨や雪で地面が泥濘んでいたので、敵の周囲に泥沼を発生させて、
身動き出来ない敵を聖なる弓使いのカリンが狙い撃ち。
そしてアイザック率いる傭兵部隊やエルフ族のネイティブ・ガーディアンの
魔法使いや魔導師が光属性を中心に、ひたすら魔法攻撃を仕掛けた。
また状況の応じて、オレ達が左翼に回ったり、
「ヴァンキッシュ」の面々が右翼に回る事によって、
敵部隊を確実に各個撃破していった。
空戦部隊の竜騎士団は、騎士団長のレフが強力な電撃魔法を連発。
そして敵のサキュバス部隊には、カチュア率いる女性の竜騎士達が応戦する事によって、敵の戦力を満遍なく減らして行く事に成功した。
だが魔王軍も意地を見せた。
幹部連中が前線に出て来て、獅子奮迅の勢いで連合軍の兵士達を蹴散らせた。
しかしオレ達は敵の幹部に対しても、複数人で戦いを挑んだ。
オレが戦ったあの金狼や鷲頭の幹部も声を上げて――
「銀髪の小僧、この間の続きをしようぜ!」
「騎士団長レフとの一騎打ちを望む!」
と、一騎打ちを持ちかけてきたが、オレ達はそれを無視した。
正直、此奴等と何度も一騎打ちするのは肉体的にも精神的にもキツい。
だから奴等の要求を無視して、多対一で幹部連中を食い止めた。
「テメエ等、漢ならここはタイマン勝負すべきだろ!?」
「騎士団長レフ! 我が申し出を断るつもりか!」
などと抗議の声を上げてきたが、そんな事は知った事じゃない。
兎に角、今は各個撃破に集中すべきなんだ。
仮に此奴らとタイマン勝負で勝っても、
軍全体の戦いで負けたら意味がない。
だからオレだけでなく、兄貴やヨハン、アイザック達も
小さな自尊心は捨てて、勝ちを拾いに行った。
結果的にそれが功を奏した。
幹部連中はこれらの主力級で食い止めながら、
その間に猫族を筆頭に魔法部隊で敵に猛攻撃を仕掛けた。
次第に戦いの流れがこちらに傾いた。
しかし魔王軍も魔導師達が対魔結界を張り、こちらの猛攻に耐える。
そこからは兎に角、数と勢いに任せて戦った。
オレも征伐剣・顎門を手にして、眼前の敵をひたすら斬り捨てた。
兄貴やヨハン、アイザック、レビン団長も負け時と全力で闘った。
そうして何十時間も戦い続けた。
気が付けば、この魔大陸の中央大陸の東部で、
両軍の兵士が次々と討たれ、死体の山が築かれていく。
すると痺れを切らした魔王軍は、あの龍頭の魔元帥の部隊を前線に投入してきた。 だがオレ達はそれでも焦らず、自分達の戦いに徹した。 聖騎士を中心とした防御役職で龍族部隊の動きを食い止める。
そして攻撃魔法や弓矢、銃弾で龍族部隊を狙い撃ち。
敵の物理攻撃は防御役職が防ぎ、
魔法攻撃は連合軍の魔法部隊が対魔結界で防ぐ。
隙あらば、弓兵や銃士が中間距離から矢や銃弾で攻撃。
それらの戦術を延々と繰り返した。
気が付けば、こちらも損害が出ていたが、魔王軍も予想以上にダメージを受けていた。
そしてとうとう戦線を維持出来なくなり、ラインラック要塞のある西部へ撤退した。
マリウス王子が追撃命令を出したが、
前線の兵士達に追撃する力はもう残されてなかった。
そこでマリウス王子は、追撃する事を諦めて、
この中央大陸の東部の草原地帯に野営の陣を敷いた。
尚、この時には種の保存本能より、睡眠欲が優先された。
もう何というか単純に疲れていた、疲れきっていた。
そして戦いの緊張が解けると、とんでもない睡魔が押し寄せてきた。
正直色々と考えるのも面倒臭い。
とにかく今は眠りたい、皆同じ思いであった。
そしてオレ達は自分の欲求に従って、ただひたすら泥のように眠った。
次回の更新は2021年12月25日(土)の予定です。
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