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【天使編開始!】黄昏のウェルガリア【累計100万PV突破】  作者: 如月文人
第五十一章 竜戦虎争(りょうせんこそう)
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第三百十九話 勇往邁進(前編)


---ラサミス視点---



 ……。

 薄い水色の肌に深い紫色の鎧を着込んだ眼前の魔元帥は、

 背中に漆黒の両翼が生えており、二メーレル(約二メートル)はありそうな黒刃の大剣を構えていた。


 身長はかなりデカいな。

 オレの身長が176、177ぐらいなのに対して、此奴は230、いやそれ以上ありそうだ。

 フィスティングの試合で云えば、

 ライト級とヘビー級、いやそれ以上の体格差がある。


 力勝負じゃこちらに勝ち目はねえ。

 かと云って技術戦でも勝てるとは思わない。

 ヨハンもよく此奴こいつ相手に五分以上の戦いをしたものだ。


 こうして目の前に立つだけで、

 異様な重圧感プレッシャーを感じるぜ。

 とはいえここで逃げるという選択肢は選ばない、選べない。


 敵味方含めて周囲の視線がこちらに向いている。

 この状況下で逃げ出すほど、オレも臆病者ではない。

 だが如何いかんせん相手が悪い、悪すぎる。


 正直、此奴とまともに戦う自信はない。

 というか多分全力を出しても勝てないだろう。

 それぐらいこの魔元帥の戦闘力はずば抜けている。


 オレもそんな奴を相手にして勝とうと思う程、自惚れていない。

 とは云え周囲の手前、ある程度は良いところを見せないといけない。

 となればここは勝つ事より、生き残る事を優先すべきだ。


「……どうした? かかって来ないのか?」


「……」


 魔元帥が低い声でそう問うて来たが、

 ここで安い挑発に乗る程、オレも馬鹿ではない。

 ……。 さて、どうしたものか?


 力勝負じゃまず勝てない。

 ならばここは攻撃に三、防御に七という割合で、 

 迎撃態勢を取りながら、奴の手の内を引き出す。

 という戦いが一番無難な気がする。


 要するに勝つ気もないが、負ける気もない。

 それでいて敵の手の内を引き出して、今後の戦いの布石とする。

 今のオレに出来るのはそれぐらいの事だろう。

 此奴の相手はヨハン、あるいは兄貴に任せたいところだ。


 だがオレとしても何もしないつもりはない。

 この戦いで奴の戦闘パターンを少しでも多く引き出すつもりだ。

 とはいえそれも楽な仕事じゃない。

 だが今この場で此奴と戦う事がオレに与えられた役割ロールなのだ。

 ならば精々、自分のやれる事をやって見るぜ。


「……貴様の名を聞いておこう」


「ラサミスだ、ラサミス・カーマイン」


「何処かで聞き覚えがあるような、ないような……」


「……見ての通り只の若造さ。

 だがオレにも意地がある。 故にアンタとの一騎打ちに応じよう」


「ほう、ヒューマンにしては戦士としての矜持があるようだな。

 良かろう、ならばこちらとしても全力で戦わせてもらう!」


「……上等だ、やってやるよ!」


 オレはそう答えながら、ゆっくりと前へ歩み出た。

 そして距離が狭まり、お互いの射程圏に入った。

 さあて、ここからが地獄の一騎打ち(タイマン)の始まりだ。

 オレは乾いた唇を舌で舐めながら、摺り足で前へ進んだ。



---三人称視点---



「どうしたァ! どうしたァ! 貴様の力はその程度かァッ!!」


「ぐっ……」


 魔元帥アルバンネイルはそう叫びながら、

 両手に持った魔剣パンヒュアームを乱暴に縦横に振り回した。

 対するラサミスはステップワークを駆使して、

 上下左右に動きながら、魔元帥の猛攻を凌いでいた。


 既に何十回と切り結んでいたが、

 やはり両者の力の差は歴然であった。

 その原因はいくつかあるが、やはり一番の原因は両者の体格差であった。


 ラサミスの身長177に対して、

 アルバンネイルの身長は252セレチ(約252センチ)にも及ぶ。

 両者の身長差は軽く70セレチ(約70センチ)以上の開きがある。

 

 剣聖ヨハンはその体格差を埋め合わせるだけの剣技と技量の持ち主であったが、

 ラサミスはそうではなかった。 いや彼も今では立派な剣士であったが、

 数百年を生きる龍族と互角に渡り合うには、

 まだ経験キャリアと技量が足りなかった。


 だがラサミス自身もその事を痛いほど理解していた。

 ラサミスも今までもプラムナイザーとカーリネイツといった幹部を倒した事は、

 あったが彼女等は女性魔族であった。


 身長的にはラサミスと同じか、それよりやや低いという感じで

 体格差はあまりなかったが、今度は違った。

 兎に角、根本的な戦闘力が違う。


 プラムナイザーとカーリネイツも強かったが、

 この眼前の魔元帥は彼女等よりも確実に強かった。

 少なくともラサミスにはそう思えた。


 ――くっ、これは想像以上に厳しいな。

 ――オレも女幹部を二人倒したが、此奴は器が違う。

 ――多分、此奴はあのザンバルドより強いだろう。

 ――今になって兄貴やヨハンの凄さが分かったぜ。

 ――とはいえ逃げ出す訳にもいかねえ。

 ――ならば受け身に回って、反撃の機会を待つぜ。


「……どうした? 怖じ気づいたか?」


「……」


「……口を聞く余裕もないのか?

 まあ良かろう、だがそれで手を緩める俺ではないぞ!」


「……」


 ラサミスは無言のまま身を翻して、後方に跳躍する。

 ここまで守勢に徹していたラサミスがこの戦いで、初めて自分から動いた。

 ゆったりとしているが、隙のない構えで待ち構えている。


 ラサミスは小さく深呼吸して、呼吸を整える。

 このままジリ貧の打ち合いを続けても、勝機はない。

 ならば多少危険でもここは攻めるべき!

 ラサミスはそう内心で思いながら、刀を構えたまま腰をどっしりと落とした。


「ハアァァ――――――」


 魔元帥アルバンネイルは間合いを詰めて、短い気勢と共に黒刃の大剣を垂直に振り下ろす。

 ラサミスは双眸を細めながら、迫り来る鋭利な刃を凝視した。

 アルバンネイルの斬撃の動作は一寸の隙もなく力と速さに満ちていた。

 だが唯一欠点をあげるとすれば、太刀筋が素直すぎた。


 ラサミスは膝を曲げ、斬撃の軌道を目で追いながら、身を沈み込ませた。

 黒く光った刃がわずかにラサミスの左頬に触れる。

 左頬に鋭い痛みが走ったが、ラサミスは歯を食いしばり耐える。

 そこからラサミスは身体を右側にずらして黒刃の大剣を躱した。

 

「……今だァッ!!」


 一声吼え、ラサミスは全力で地を蹴り、後方に華麗に飛んだ。

 次の瞬間、ラサミスは右手を刀の柄に添えて、腰を沈める。

 ――まずい、何かするつもりだ!?

 アルバンネイルがそう思ったと同時に、ラサミスは神速の速さで居合抜きを放った。


「セイヤアァッ――――――」


 ラサミスの気勢が静寂をつんざいた。

 アルバンネイルもいち早くラサミスの居合いに気付き、後方に跳躍していたが

 気が付くとラサミスの居合抜きで首筋を斬られていた。


 幸いにも致命傷は避けたが、次の瞬間、首筋から血が流れた。

 後、半瞬反応が遅ければ、今の一撃で勝負はついていた。

 

「くっ、ギリギリで躱したか!?」


 ラサミスは心底悔しそうに叫んだ。

 これでもう居合抜きは通用しない。

 此奴程の猛者には同じ手は二度通用しない。


 だが傷こそ浅かったが、アルバンネイルのダメージは小さくなかった。

 後、半歩踏み込んでいたら、今の一撃で死んでいたかもしれない。

 それぐらいラサミスの居合いは完璧であった。


 首筋から血を流しながらも、龍頭の魔元帥は懸命に大剣を構えた。

 だがわずかに全身が震えた。 抑えようとしても幾度となく震える。

 どうやら今の一撃で魔元帥の精神面にダメージを与えたようだ。


 百戦錬磨の猛将でもやはり真剣勝負は怖い。

 精神的に耐えても、肉体は正直である。

 だがアルバンネイルは沸き上がる恐怖を強引にねじ伏せた。


「ぬうっ……これぐらい何とでもないわ!!」


 そう云ってアルバンネイルは左腕を前に突き出した。

 それと同時にアルバンネイルの左掌から漆黒の波動が放出される。

 突如放たれた無詠唱の魔法攻撃。


 だがラサミスはそれを読んでいた。

 この辺はプラムナイザーやカーリンネイツとの戦いの経験キャリアが生きた。

 ラサミスは背中から吸収の盾(サクション・シールド)を取り出して左手で構えた。

 それと同時に吸収の盾(サクション・シールド)に魔力を篭める。


 すると吸収の盾(サクション・シールド)は、

 アルバンネイルが放ったシャドウボルトを綺麗に呑み込むように吸収した。


「なっ……味な真似をしよって!」


 対するラサミスは左手に盾を、右手に顎門を構えながら、

 摺り足でゆっくりと後ろに下がった。

 

 ――思っていたより戦えるな。

 ――これならばもう少し攻めても良いかもしれない。

 ――だが油断は大敵だ、充分に用心しよう。


 現時点では少しだけラサミスが有利であったが、

 それはあくまで現時点においての話であった。

 しかし周囲の者は龍頭の魔元帥とラサミスの互角の戦いを固唾を呑んで見守っていた。

 だが当の本人であるラサミスは強烈な重圧感プレッシャーの中、

 次にどう戦うか、と頭をフル回転させて次の手を考えるのであった。


次回の更新は2021年12月4日(土)の予定です。


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― 新着の感想 ―
[良い点] 更新お疲れ様です。 遂に衝突しましたね。両者の体格差、本当に暴力並み。とはいえ、大会に出ていたからこそ多少なりとも戦えていた部分もありそう。 あの大会も無駄じゃなかった。あの苦しい中、ホン…
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