第二百九十七話 猫族爆撃隊(ニャーマン・ボンバーズ)
---三人称視点--
ハドレス半島の上空。
竜騎士達は飛竜に猫族を相乗りさせながら、
いつでも降下できる状態を保っていた。
その数、およそ百以上。
そして主力部隊の中央に陣取る騎士団長レフが左手をゆっくりと上げて号令を出した。
「――よし、では突撃開始!
奴等に嫌という程、魔法攻撃を喰らわせてやれっ!!」
「了解」
「了解だニャンッ!!」
号令と共に飛竜の軍勢が地上目掛けて急降下を開始。
「さあ、さあ、狩りの時間だニャン! 基本的に火炎属性か、
光属性で攻めるニャン! それじゃ行くだニャンッ!!
我は汝、汝は我。 我が名はニャラード。 ウェルガリアに集う炎の精霊よ、
我に力を与えたまえ! 『シューティング・フレア!!」
「ニャニャニャッ! ニャニャッ! 我は汝、汝は我。 我が名はニャーラン。
ウェルガリアに集う光の精霊よ、我に力を与えたまえ!
ニャンニャン、ニャオーンッ! 『ライトニング・カッター!!』」
「おいどんもやるニャンす! 我は汝、汝は我。 我が名はツシマン。
ウェルガリアに集う炎の精霊よ、我に力を与えたまえ!
――ふんはぁッ! 『フレア・ブラスターッ!!』」
王国魔導猫騎士団の騎士団長ニャラードが先陣を切り、
それに続くように他の魔導猫騎士達も一斉に魔法攻撃を開始。
だがそれを迎え討つ魔王軍の地上部隊も全力で応戦する。
「……まさか飛竜に猫族を相乗りさせるとはな。
だが慌てる事はない。 こちらも対魔結界を張って応戦するんだ」
「はいっ!」
魔王軍の暗黒詠唱者部隊の隊長であるレストマイヤーは、
即座に状況を読み取り、周囲の部下達にそう命じた。
「我は汝、汝は我。 我が名はレストマイヤー。 暗黒神ドルガネスよ!
我に力を与えたまえ! 『シャドウ・ウォール』ッ!!」
「隊長に続けっ! 『シャドウ・ウォール』ッ!!」
「了解だ! 『シャドウ・ウォール』ッ!!」
すると魔王軍の地上部隊が陣取る防壁や岩陰の上に漆黒の壁が生み出される。
どおおおん、という轟音を立てながら放たれた緋色の炎や白光を漆黒の壁が呑み込んだ。 レストマイヤー率いる暗黒詠唱者部隊は、炎属性や光属性に対しての闇属性の対魔結界を張った。
その策自体は妥当であった。
だが飛竜に相乗りした猫族の魔導師、魔法使い達はそれを力でねじ伏せるべく猛攻に出た。
「――ここは力押しで行くだニャン! 我は汝、汝は我。 我が名はニャラード。 ウェルガリアに集う炎の精霊よ、わ、我に力を与えたまえ! 『フレア・ブラスターッ!!』」
「了解だニャーンッ !我は汝、汝は我。 我が名はニャーラン。
ウェルガリアに集う光の精霊よ、我に力を与えたまえ!
『ライトニング・ダスト!!』」
「分かったでニャンす! 我は汝、汝は我。 我が名はツシマン。
ウェルガリアに集う風の精霊よ、我に力を与えたまえ!
――にゃにゃんはぁッ! ……『アーク・テンペスト』!!」
「にゃあッ! フレイムボルトッ!」
「にゃにゃんッ! ウインドソード!」
ひたすら魔法攻撃を詠唱する猫族の魔導師達。
魔族側も対魔結界を張るが、猫族の魔導師達の火力と魔力がそれを勝った。
その姿は例えるならば、ネズミを全力で狩る猫のような有様であった。
そして飛竜という機動力を得た猫族達は空飛ぶ爆撃隊と化した。
「ニャニャニャッ!! もっとやれだニャン!!」
「ニャーッ! 竜騎士さん、もっと近づいてニャン!」
「あ、ああっ……分かった!」
「ニャー、ニャー、なんだか楽しくなってきたニャンッ!!」
「そうだニャン! さあ、まだまだ行くだニャン!」
「「「ニャーンッ!!」」」
それからは文字通り怒濤の攻撃が続いた。
対魔結界を張る相手には集中砲火で強引にねじ伏せた。
防壁や岩陰に隠れる敵は狙いを定めて、確実に一人ずつ仕留めて行く。
また定期的に上昇して、後方に控える猫族の回復役や魔法戦士に
傷の癒やし、または魔力の補充を懇切丁寧にしてもらった。
そして長時間に渡る魔法攻撃で精神と肉体が消耗した者は、
同乗する竜騎士に飛竜を海岸に浮かぶ味方艦隊の甲板上まで運んでもらう。
それから甲板上に着艦して、疲労した魔導師の代わりに無傷の猫族の魔導師が飛竜に騎乗する。
それを何度も繰り返すこと、五時間余り。
度重なる上空からの魔法攻撃によって、魔王軍の地上部隊の動きが鈍り始めた。
何せ上空から何度も何度も魔法攻撃を浴びせられるのだ。
比較的に肉体的にも精神的にも強い魔族と云えど、この怒濤の攻撃は堪えた。
だがそれでも投石機やヴァリスタなどを使って、上空の竜騎士部隊を狙い撃つが、彼等の進行を食い止めるまでには至らなかった。
その間にもハドレス半島の付近の海岸に連合軍の艦隊が集まり始めた。
だが魔王軍の地上部隊も意地を見せる。
暗黒詠唱者部隊の隊長レストマイヤーは、
上空の敵を魔法攻撃で狙うことを止め、敵の魔法攻撃を防ぐ事に専念し始めた。
それでも何人かの負傷者、死者は出たが、
白魔導師部隊を率いるアグネシャールは負傷者を回復魔法で癒やした。
体力と体力、魔力と魔力、精神力と精神力を摩耗する戦いが続く。
次第に魔王軍の地上部隊が後退を始めた。
それは魔王レクサーから予め命令されていた作戦通りでもあったが、実際、上空からの執拗な魔法攻撃に肉体的にも精神的にも疲弊していたのも事実。 そして最後の追い込みをかけるべく、上空の竜騎士団は後退する魔法軍を狙い撃った。
『敵が後退し始めて居るぞっ!
もっと攻撃を仕掛けて、奴等を更に後退させるんだ!
そうすれば上陸部隊が上陸しやすくなる。 ここが辛抱どころだ!』
『了解だニャン、レフ団長。 ならば我々、王国魔導猫騎士団としては、
一人でも多く上陸させるべく、敵の地上部隊を攻め続けるだニャンッ!!
さあ、皆っ! 残る魔力を振り絞って、最後の一押しと行くだニャンッ!』
『了解だニャーン! さあまだまだ頑張るだニャンッ!」
『分かったでニャンす!』
騎士団長レフとニャラードが耳錠の魔道具越しにそう指示を飛ばした。 そして周囲の竜騎士達や猫族の魔導師、魔法使い達はその指示に素直に従った。
「皆で一斉攻撃ニャン!! 我は汝、汝は我。 我が名はニャラード。
ウェルガリアに集う炎の精霊よ、我に力を与えたまえ! 『シューティング・ブレア』!!」
「ニャニャッ! 了解ニャッ! 我は汝、汝は我。 我が名はニャーラン。 ウェルガリアに集う光の精霊よ、我に力を与えたまえ! ニャン! 『ライトニング・ダストッ』」
「――もう一踏ん張りでニャンす! 我は汝、汝は我。 我が名はツシマン。
ウェルガリアに集う炎の精霊よ、我に力を与えたまえ! 『フレア・ブラスター』」
王国魔導猫騎士団の騎士団長ニャラードが雄叫びを上げながら魔法攻撃を放つと、他の魔導師や魔法使いも一斉に魔法攻撃を唱えた。
だが魔王軍の地上部隊も気力を振り絞り、闇属性の対魔結界を張って対抗する。
「――猫風情が調子に乗るなっ! 我は汝、汝は我。 我が名はアグネシャール。
暗黒神ドルガネスよ、我に力を与えたまえ! 『シャドウ・ウォール』!」
「――我々も隊長に続くわよ! シャドウ・ウォールッ!」
「シャドウ・ウォールッ!」
すると魔王軍の地上部隊の前方に長方形型の漆黒の壁が生み出される。
そして上空の魔導師や魔法使い達の放った魔法攻撃がやや間を置いて着弾する。
だが対魔結界を完全に打ち破るまでには至らず、爆音と爆風が地上に鳴り響いた。
そのような攻防が何度も何度も続き、両軍の魔導師部隊の魔力が次々と浪費されていく。
そして気が付けば、連合軍の多くの艦隊が島に着岸していた。
「よし、無事に着岸させましたよ!
今のうちに上陸してください」
キャプテン・ガラバーンが望遠鏡で前方を見据えながら、そう叫んだ。
「了解です、じゃあ兄貴、ミネルバ、エリス、メイリン、マリベーレッ!
オレ達はとりあえずこの六人で一組になるぞっ!
敵の魔法攻撃には基本的にメイリンが対魔結界を張ってくれ!」
「分かったわ!」
団長ラサミスの言葉にメイリンは元気よく返事する。
「オレと兄貴、ミネルバが攻撃役をしながら、
眼前の敵を蹴散らしていくから、エリスは補助及び回復を頼む!
マリベーレは基本的に後方に居てくれ。 但し邪魔な敵が現れたら、
長距離狙撃で排除してくれっ!!」
「「「「了解」」」」
「よーし、ならばここから先は進むも地獄、引くも地獄。
だがオレ達ならば必ずこの地獄も乗り越えられるっ!!
だからオレを信じてついて来てくれっ!!」
ラサミスが力強い声でそう叫ぶなり、他の団員達も力強い声で呼応した。
そしてそして作戦は第三段階へと移り、
『大君主作戦』の主目的である上陸戦が今、始まろうとしていた。
次回の更新は2021年10月13日(水)の予定です。
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