第二百九十一話 百家争鳴(前編)
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---ラサミス視点---
だが翌日もその次の日も不毛な論争が続いた。
ヒューマン側だけでなく、猫族側もムキになっているように見えた。
これでは無為に時間を浪費しているだけだ。
そう思ったのはオレだけではなかったようだ。
最初に竜人族の族長アルガスが――
「これまでの実績を考えれば、
最高司令官にはマリウス王子が就くべきと思います」
と、切り出すと巫女ミリアムも同意する。
「我々もマリウス王子が最高司令官の座に就くべきと思います」
と、竜人族とエルフ族の代表がそう云ったのがきっかけか、
「ヴァンキッシュ」の団長ヨハン、それにアイザックとレフも同調した。
そこでオレ達もそれに乗る形で「マリウス王子でいいと思います」とやんわりと意見を述べた。
それからも一時間程、不毛な論争は続いたが、
ヒューマンの宰相も痺れを切らしたように――
「分かりました、では最高司令官にマリウス王子を! そしてそれを補佐する形で副司令官にナッシュバイン王子が就くという事で宜しいでしょうか?」
と、妥協的な案が出された。
もうこれ以上不毛な論争はしたくないという事で猫族側もそれに素直に応じた。 これで最高司令官にマリウス王子、副司令官にナッシュバインが正式に就任した。
まあ本当は副司令官にも就いて欲しくないけどね。
どうせ事あるごとにマリウス王子に突っかかるのは目に見えている。
でも相手はヒューマンの統治国ハイネダルクの第三王子。
なのでここはヒューマン側の顔も立てる必要があったのであろう。
だがこの厄介な人事が決まった事によって、
翌日以降の会議は予想以上にスムーズに進むこととなった。
まず最初に戦力の配置が行われた。
ヒューマンの冒険者や傭兵を主戦力とした最前線の右翼部隊に第一軍。
最強の連合「ヴァンキッシュ」やオレ達「暁の大地」はこの第一軍に配置された。 この第一軍の総兵力は約3000人。
続く第二軍が左翼部隊に配置され、総兵力約2500以上。
こちらの部隊は猫族と竜人族の混合部隊だ。
山猫騎士団を初めとした猫族の部隊と、
「竜の雷」の団長アイザックが率いる竜人族の傭兵部隊が加わった混合部隊だ。
第三軍はネイティブ・ガーディアンを主力としたエルフ族のみで構成された部隊だ。 指揮官はナース隊長、副司令官が賢者ベルローム。 それらの部隊にエルフ族のみで構成された冒険者、傭兵部隊が加わる。 総兵力は約2000。
第四軍はハイネダルク王国騎士団の騎士団長バイスロン・アームラックが率いる。
ヒューマン領の各国の王国騎士団で構成されたヒューマンのみの部隊だ。
その総兵力約1500人。
第五軍は連合軍副司令官ナッシュバインが指揮を執り、ヒューマン領の王国騎士団、あるいは冒険者、傭兵で構成された部隊。 その総兵力約3500人。
そして第六軍が最高司令官マリウス王子が率いる本陣。
基本は猫族の王国騎士団で編成された部隊だが、
種族を問わぬ冒険者と傭兵部隊も加わり、その総兵力約4000。
全軍合わせて総兵力約16500人。
これに空戦部隊である竜騎士団が200名、荷物持ちや物資搬送の補給部隊。 更には軍医、医療兵、伝令兵、海賊、海兵も加わる。
四大種族連合軍がこの上陸作戦で投入する予定の総兵力は、約数万人単位になるであろう。 とはいえ不安がないわけではない。 まず敵の領土である暗黒大陸の地理情報が分からない。
大まかな地形は600年前以上の地図や海図である程度は分かるが、
暗黒大陸の内部がどのようになっているかはまるで分からない。
特に魔族がどのような都市を形成しているかは謎である。
だが600年前以上の地図から推察するに、
暗黒大陸の北部は寒冷地であるので、
生物が住むにはあまり適した状況とは云えない。
この作戦の上陸地点は暗黒大陸の最南端の海岸となる。
かつて各種族の船着場や兵士の詰め所などがあった場所だ。
ここに上手く陸上部隊を上陸させたら、北西へ向かって進軍するという計画だ。
とはいえ敵――魔族としても全力で連合軍の上陸を阻止するだろう。
なのでこの上陸作戦が今後の戦いの鍵を握る事になるのは明白だ。
しかし仮に上陸作戦が上手く行ったとしても、
オレ達は未知の大陸を闊歩する事になるが不安要素が多い。
土地勘がない上に大陸全土が冷帯なのである。
上陸作戦は恐らく四月くらいに決行されるであろうが、
戦いが長引けば暗黒大陸全土が更に冬将軍がやって来る危険性がある。
気になったので、オレはその辺のところも意見したが――
「恐れる事はない、我々には勝利の女神がついている!
本格的な冬が訪れる前にこの戦いは終わっているさ!」
と、ドヤ顔で云う第三王子。
何の根拠もない自信にオレだけでなく、周囲の者も呆れ気味だ。
これに対してマリウス王子が防寒対策をしっかり行うように指示を出した。
まず各自、手持ちの荷物に防寒具をきちんと携帯する事。
それと各自に魔力の伝導率が高い魔石を持たせる事。
魔力の伝導率が高い魔石に火属性系の魔力を注げば、
魔石は熱を帯びるので、これである程度の防寒対策になる。
またこの戦いの終着点を何処に持って行くか。
それらについても話し合った。
確かに魔族は闘争を好む戦闘種族である。
だが魔族は絶対悪という存在なのか?
オレ個人はそうは思わない。
あのザンバルドやプラムナイザー、カーリンネイツと戦ったから、
奴等が只の戦闘狂じゃない事もなんとなくだが理解した。
だがそれらの点を上層部に述べるつもりはない。
これらの感情はあくまでオレ一個人の感情。
そして個人間では奇妙な連帯感は持てても、
それが種族となれば別の問題になる事も理解している。
故にこの戦いでは全力で魔族と戦うしかない。
また上層部も大体はオレと同じ意見であった。
だがまたしてもナッシュバインが余計な一言を放った。
「敵の将軍、幹部を倒せば一兵卒でも褒美をつかわす。
また魔王なる存在を討てば、一兵卒でも将軍にしてやろうではないか!」
と、本人は大仰な口調で言い放ったが、周囲はやや白け気味であった。
まあどうせ此奴は後方から偉そうに指示を出すだけだからな。
それにこの戦いの終着点を何処に置くかも重要である。
その辺に関してもマリウス王子、族長アルガス、巫女ミリアムは冷静な意見を述べた。
「確かに魔族は凶悪な種族だが、この戦いで我々四大種族か、魔族が滅びるまで、戦うのはあまり賢い選択肢ではないと思うニャン。 勿論、奴等に屈するつもりはない。 だが現時点でも戦火の拡大により、様々な被害が出ているだニャン。 だから奴等が我々に屈服するのであれば、それなりに寛容な処置を施すべきだと思うニャン」
「確かに一理ありますな。 我々は竜人族はその案に賛成します」
「同じく我々エルフ族もマリウス王子の提案に賛成致します」
マリウス王子の言葉に竜人族とエルフ族の代表が賛同する。
すると当然の如くヒューマンの第三王子が反論したが、
只の感情論に過ぎないその反論は同族のヒューマンの同意すら得られなかった。
それでも自身の考えを曲げまいとする第三王子を宰相がなだめすかした。
「まあ戦後処理の事は勝ってから考えましょう。
まずは今勝つ事が大事、それを最優先にしましょう。
ナッシュバイン王子もそれで宜しいですね?」
ヒューマンの宰相の言葉にナッシュバインはやや不満げに「ああ」と頷いた。
これによってその後の話し合いもスムーズに進んだ。
そして最後はこの上陸作戦の正式な作戦名を考える事となったが――
「……そうだニャン。 『大君主作戦』というのはどうだニャン?」
「!?」
大君主作戦か。
この第二王子、なかなかセンスのある作戦名も考えるじゃねえか。
そう思ったのはオレだけでなかったようだ。
「いいですな、ワシは賛成です」
「同じ私も賛成です」
族長アルガスと巫女ミリアムも同意する。
またこの作戦名に関しては、ナッシュバインも珍しく賛同した。
「『大君主作戦』かあ。 なかなか良い響きだな。
確かにこの戦いは我々四大種族の命運を分ける戦いである!
故に我々は絶対に勝たねばならん! なので諸君、私に力を貸してくれ!」
と、興奮気味に語るナッシュバイン。
でもそれに賛同するのはヒューマンの上層部や騎士団のみであった。
というか此奴、他人のアイデアでデカい顔するなよ。
ともかくこれで正式な作戦名も決まった。
後は細かい打ち合わせや作戦内容を決める事になるだろう。
オレ個人はまあそれに関しては文句を云うつもりもない。
所詮、オレ達は冒険者であり、戦いの駒に過ぎない。
そしてオレ自身それ以上を望むつもりはない。
兎に角目の前の戦いに集中して、確実に勝って行く、ただそれだけだ。
だが幸か不幸か、この『大君主作戦』は魔族だけでなく、オレ達四大種族の命運を分ける戦いになるのであった。
そしてオレ自身――ラサミス・カーマインのその後の人生を大きく左右させる分岐点となった。
だがこの時のオレはそんな事は露知らず、目の前に迫った作戦に向けて、命がけで戦う決意を固めようとしていた。
次回の更新は2021年9月29日(水)の予定です。
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