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第二百八十九話 傲岸不遜(ごうがんふそん)


---ラサミス視点---



 翌日の3月16日。

 オレと兄貴は朝七時に起きて、身支度を整えた。

 お袋が「何か作ろうかしら?」と云ってくれたが、

 オレと兄貴は「いや飲み物だけでいいよ」と返した。


 これからハイネダルク城で会談が行われるからな。

 恐らく何処かの会議室で長時間に渡る会談が開かれるだろう。

 その際にトイレに行くのは、少しカッコ悪いからな。

 だから今日の会談が終わるまでは、飲料水以外は口にしない予定だ。


 そしてオレ達は風呂場でシャワーを浴びて、身を清めた。

 それから軽い運動や両親と会話して時間を潰した。

 

「じゃあ母さん、行って来るよ」


「うん、じゃあ親父もお袋も元気でな」


「ああ、行って来い!」


「仕事が終わったら、また戻っておいでよ!」


 オレ達は両親とそう言葉を交わして、ハイネダルク城へと向かった。

 なんかお袋が随分心配性になった気がする。

 まあ息子二人が家から居なくなったからな。

 単純に寂しいのかもな。 まあでも今は目の前の仕事に専念しよう。



 そして二十分後、ハイネダルク城に到着。

 相変わらずどでかい城だな。

 城門を護る屈強な門番がこちらを見ていた。

 案の定、不審者を見る目でこちらを見据えている。

 まあ一々相手するのも面倒だからな。


 とりあえずオレは門番に自分の冒険者の証と書状を見せる。

 すると門番の男は「失礼しました!」と敬礼ポーズを取った。

 そしてもう一人の門番が城の中へ入って行った。


 大方、アポがあるかどうか確認しに行ったのだろう。

 まあ門番としては、それぐらいの警戒心を持っていた方がいい。

 そして待つこと、五分余り。


「お待たせしました。 どうぞお通りください!」


「いえいえ、お勤めご苦労様で~す」


 と、オレは会釈して入城する。

 そしてオレ達が入城するなり、初老の執事と数人のメイドに迎えられた。


「お久しぶりです、『暁の大地』の団長ラサミス様と副団長ライル様。 この執事長のロアンがこの度、案内役を勤めさせていただきます。 このまま客室にご案内したいところですが、念の為に身体検査をさせていただきますが、よろしいでしょうか?」


「ええ、構いませんよ」


 そういえばこの人――ロアンさんには前に一度会っていたな。

 そしてオレ達は身体検査を受けた。

 また今回に限っては武器の所有を認められた。


 まあ今回の会談は各種族の首脳が集まるからな。

 この状況下でヒューマン側が馬鹿な真似をするとは思わんが、

 いざって時の為に、武器の所有は認めたのだろう。


「問題ありませんね。 では私の後について来てください」


「「はい!」」


 オレ達は言われるまま、ロアンさんの後について行った。

 時折すれ違う侍女や城の兵士達が好奇な視線でこちらを見て来た。


「アレが噂のカーマイン兄弟か。 随分と若いな」


「でも確かに見るからに強そうだ」


「ええ、それに二人とも良い男ですわ」


 と、聞こえよがしに周囲の者達が囁いた。

 兄貴はともかくオレがこんな風に云われる日が来るとはな。

 嬉しいというよりかは、なんか背中がむず痒くなる。

 そしてそれから十分くらい歩いた。


「ではこちらの客室でお待ちください。

 各国の首脳陣が集まれば、私が呼びに来るのでそれまで自由にお過ごしください」


「ああ、ありがとうございます」


「いえいえ、それでは失礼します」


 オレ達は云われるまま、客室に入った。

 そしてロアンさんは用件を伝えると部屋から出て行った。

 オレ達に用意された客室は想像していた以上に豪華な部屋だった。


 真紅の豪華な絨毯。 キラキラ輝いたシャンデリア。 

 大きなベッドにシャワーボックスもある。

 調度品も一通り揃っている。


 オレと兄貴は装備品を外して、少しラフな恰好になった。

 さて会談が始まるまで時間がありそうだな。


「なあ、兄貴。 暇だし、誰か知り合いが居るか探してみない?」


「ああ、構わんよ。 だがラサミス、今回の会談はかなり重要だぞ?」


「うん、分かっているよ。 オレもヒューマンと猫族ニャーマンの上層部がやり合っているという話は聞いている。 まあ個人的には猫族ニャーマンの上層部には恩があるけど、今回の会談ではどの種族、派閥にも肩入れせず、とりあえず傍観者の立ち位置で居ようと思う」


「ああ、それが良いだろう」


「うん、オレ達はヒューマンだからね。 本音を云えばオレ個人はヒューマンの首脳陣は、あまり好きじゃないが、今後の事を考えると彼等とも仲良くしておいた方がいいと思う」


「うむ、お前もその辺の事情が分かるようになってきたんだな」


「まあね、これでも一応、団長だからね」


「……それじゃ少し外を歩こうか」


「うん」


 オレ達はそう言葉を交わして、客室から出た。

 しかしこうして内部から見ると、このハイネダルク城がいかに広いか思い知らさせれた。

 ニャンドランド城も広いが、ハイネダルク城の方がもう一回りほど広くて大きい。


 なんか少し肩身が狭いな。

 誰か知っている人は居ないかな、あっ!?


「ライル、ラサミス。 お前達も来ていたのか」


「アイザックさんも来ていたんですね」


 前方からアイザックがこちらに向かって歩いて来た。

 ほっ、なんか知り合いが居て安心したよ。


「俺だけでなく、レフ、それと族長も来てるぞ」


 と、アイザックが後ろを指差した、

 すると竜騎士団の騎士団レフと族長アルガスの姿があった。

 オレは周囲を少し見渡した。


 すると少し離れた場所にエルフの一団が居た。

 巫女ミリアム、ネイティブ・ガーディアンの隊長のナース、

 それと赤いローブを着た賢者セージベルロームが立っていた。

 というか巫女ミリアムも来てるのか。


 他にも猫族ニャーマンの一団には、

 マリウス王子を囲むようにそのお供のガルバンとジョニー。

 それと山猫騎士団の団長レビンと副団長のケビン。

 また白い絹のシャツに黒い礼服という格好の第一王子アーベル王太子の姿もあった。


 ヒューマンの一団は、『ヴァンキッシュ』の団長ヨハン、それとアーリア、クロエ、そしてカリンの女性陣の姿があった。

 また王国騎士団長アームラックと副団長ハートラーの姿も見えた。

 その二人の真ん中で派手な白銀の鎧姿の茶髪の青年が自信ありげな表情で談笑していた。


「アレはヒューマンの第三王子ナッシュバインだ。 ここのところ、あの王子がしゃしゃり出て来て会議が荒れている。 どうやらヒューマン側は勝ち戦と見て、王族や貴族を連合軍の上層部に置いて、今後の戦いの主導権を握ろうという腹づもりだ。 正直、我々も迷惑してるよ」

 

 と、アイザック。


「あ~、噂では聞いてましたが、ヒューマンと猫族ニャーマンの上層部がやり合ってるという話は事実のようですね。 でもこれは下手に関与しない方が良さそうですね。 下手すりゃ双方から恨まれそうですからね」


「ほう、ラサミス。 流石はその若さで新団長になっただけはあるな。

 そう、こういう問題にはあまり関わらない方が身のためだ」

 

 アイザックは感心するようにそう頷いた。

 まあ族長アルガスは別として、アイザックやレフ団長は信用できるからな。

 オレ達もアイザックと同じようにしばらくは傍観者に徹するべきだ。

 と思った矢先にマリウス王子がこちらにやって来た。


「やあ、ラサミスくんにライル副団長。

 お久しぶりだニャン、元気にしてたかニャ?」


「え、ええ……」


 マリウス王子は白い絹のシャツに薄い緑色のファー付きのコートを羽織り、

 下は黒いズボンといういつもと同じ姿だ。


「ニャルララ迷宮では敵の幹部を倒したらしいね。

 いやあ、キミ達カーマイン兄弟は本当に凄いだニャン」


「いえいえ、それ程でもありません」


 まあこの王子、悪い奴じゃないんだよな。

 というかそこそこ良い奴と思う。

 でもなあ、この場においてはあくまで中立ポジションで居よう。


「おや? キミ達が噂のカーマイン兄弟かね?」


 と、近くから声が聞こえてきた。

 その声に釣られて、オレと兄貴は声の聞こえた方に視線を向ける。

 するとそこにはヒューマンの第三王子ナッシュバインが立っていた。

 見た感じ年齢は二十歳前後に見える。


 顔はまあ良いとも云えなくないが、人を見下したような雰囲気を全身から放っている。

 なんか好きになれそうにないタイプだな。

 でもこんな奴でも一応は王族、表面上の礼儀は尽しておこう。

 とりあえずオレと兄貴はその場で頭を軽く下げた。


「ほう、礼節も弁えているようだね。

 感心、感心、キミ達のような人材が我がヒューマンに居ることをボクは誇りに思うよ。 まあこの世界を動かすのはやはり我々ヒューマンだね」


「……ムッ!」


 第三王子のこの云いように、マリウス王子だけでなく、お供のメインクーン二匹もムッとした表情になる。 だが第三王子は更に言葉を続けた。


「……キミ達もヒューマンならば、付き合う相手は考えた方がいいよ。

 まあエルフ族や竜人族は構わないが、猫相手に頭を下げるとキミ達の価値も下がるよ」


「ニャッ! ニャンだとぉっ~!?」


 この言葉にマリウス王子が怒りを露わにした。

 だが第三王子ナッシュバインは怯むどころか、更に煽った。


「何か文句でもあるのかね? 私は事実を云ったまでだよ?」


「ニャニャンッ! それは許せない侮辱だニャン!」


「そうですニャン、仮にも猫族ニャーマン王家の第二王子に向かってそのような

 物言いをするとは、ヒューマン王室は礼節を弁えてないようですな!」


「まったくです! 我々を猫扱いするなど、少し口が過ぎませんかね?」


 マリウス王子だけでなく、

 お供のジョニーとガルバンも怒った様子でそう抗議した。

 だが第三王子ナッシュバインは態度を改めるどころか、

 露骨に見下した感じでニヤニヤと微笑を浮かべていた。


 あ~。

 コイツ、あかん奴だ。

 というかぶっちゃけ嫌いだわ、こういう奴。

 絵に描いたような傲岸不遜な態度だ。


「ニャー、ニャー、五月蠅いな。

 ここは動物小屋じゃないんだよ?」

 

 と、ナッシュバイン。


「くっ! 貴様、そこまで云うか!?」


 マリウス王子が眦を吊り上げて、ナッシュバインを睨み付けた。

 まさに一触即発の空気だ。

 だがそこで――


「各種族の代表も集まったようなので、

 これより四大種族による会談を開こうと思います。

 それでは各代表の皆様は会議室へ移動してください」


 と、燕尾服を着たヒューマンの初老の男がそう語りかけてきた。

 ああ、あの男は確かヒューマンの宰相。 名前は忘れたな。

 でもグッドタイミングだ、おかげでこの場の空気も若干和らいだ。


「……では我々は行くとするか。 騎士団長、副団長ついて来たまえ」


「「はっ!!」」


 そう云って第三王子ナッシュバインはこの場から去った。

 するとマリウス王子は地団駄を踏んで、悔しがった。


「許せないニャン、許さないニャン、この恨み忘れないだニャン!!」


 まあマリウス王子の気持ちは分かるけどな。

 でもここはあくまで中立の立場を貫こう。


「ラサミス、俺達も会議室へ行くぞ」


「うん、そうだね」


 とりあえず今は目の前の会談に集中しよう。

 でもこりゃ多分ヒューマンと猫族ニャーマンで一悶着ありそうだな。

 ……ヤレヤレだぜ。


次回の更新は2021年9月25日(土)の予定です。


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― 新着の感想 ―
[良い点] 久々のアイザックさん登場\(^-^)/ 落ち着く。ヨハン達も呼ばれたのは当たり前ですねぇ。そして、ラサミスが団長なのも既に知れ渡っている。流石だ……。 第3王子。すっごい見下しかた。あれ…
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