第二百八十五話 VIP待遇
---ラサミス視点---
そしてオレ達は商業区の高級店を目指して歩き始めた。
ここへは前に来た事あるけど、やはり何というかハイソサエティーな空気を感じる。
オレ達は普段通りの格好だからな。
何となく場違いな気がして、少し居心地が悪い。
「な、なんか皆、セレブな感じよね」
と、メイリンが周囲を見ながら、そう囁いた。
「ま、まあな。 というかもっと身なりを整えておくべきだったな。
これじゃニャルレオーネ商会へ行っても、邪険に扱われそうだ」
「いやそれは無いだろう。 俺達は云うならばドン・ニャルレオーネの客人。
それに彼の紹介状とプラチナ会員証もあるんだ。 だから皆、もっと堂々としろ!」
流石は兄貴だ。
こういう場でも決して臆する事が無い。
そうだな、オレも団長としてもっと堂々とするか。
そうこう歩いているうちに目的地に到着。
五階建ての黒い建物。
これがニャルレオーネ商会が管理する武器、衣服、防具屋だ。
よく見ると建物の黒い壁から薄らと白い闘気のような物が漂っていた。
これは恐らく強力な耐魔性の素材、更にはこの建物自体に結界が張られているな。
成る程、万が一、何者かに襲撃、
あるいは強盗されても問題ないようにセキュリティー面もしっかりしているようだ。 なんか緊張してきたぜ、まあ良い。 中へ入ろう!
「いらっしゃい……」
オレ達六人が店に入るなり、黒いスーツ姿のヒューマンの女性店員が挨拶を途中で止めて、やや柳眉を逆立てて、素早い足取りでこちらにやって来た。 そして25前後と思われる黒髪のショートのヒューマンの女子店員がこちらを見据えた。
「お客様、当店は完全会員制となっております。 失礼ですが当店の会員証はお持ちでしょうか?」
と、言葉こそ丁寧だがやや険のある声でそう云うヒューマンの女子店員。
まあ当然こうなる……よな。
でも何というか少し感じ悪いよな。
まるで「オマエ等なんかお呼びじゃねえ」という空気をビンビン感じる。
まあだからこその超高級店なんだろうけどさ。
でもオレがプラチナ会員証を見せると、女性店員は目を瞬かせた。
「こ、こ、これは失礼しました!
プラチナ会員のお客様でしたか、大変失礼致しました」
と、女性店員は大慌てで頭を下げた。
まあこういう事もあるから、あんまり見かけで客を判断しない方がいいよ。
……なんてね。
そしてオレが次にこの紹介状を出したら、この場の空気は一瞬で変わる。
「あ~、後コレ……オレ等はおたくらの商会の元締めから、ここに招待された、みたいな感じなんでこの紹介状に目を通しておいて!」
オレはそう云って、ニャルレオーネの署名入りの紹介状を眼前の女性店員に手渡した。
すると女性店員はその紹介状を見るなり、雷に打たれたような表情になった。
そして「……少々お待ちください」と云って奥の部屋へ引っ込んだ。 それから数分もしないうちに、このフロアに居ると思われる男性店員、女性店員が10人ほど、横一列に並んで大きな声でこう叫んだ。
「『暁の大地』の皆様、ようこそニャルレオーネ商会へ! 本店はただいまより『暁の大地』の皆様の完全貸し切り状態となりました。 そういう事ですので、何かあれば我々に何でも申しつけてください」
と、全員が声を揃えて綺麗なお辞儀をする。
……まあアレだ、正直ちょっと良い気分になったよ。
軽い王様気分ってやつ?
でもここで調子乗ると、ニャルレオーネに変な形で借りを作ることになりそうだ。
だからオレは端的に目の前の店員に武器コーナーの場所を尋ねた。
「え~と武器コーナーって何処にあるの?」
「は、はい! 武器コーナーは四階から五階にあります。 ちなみ一階はスーツやコート、ドレスなどの衣類、二、三階は防具コーナーとなっております!」
と、ハキハキと答える眼前の男性エルフの店員。
成る程、武器コーナーは四、五階か。 防具も欲しいけど、
まずは今の雪風以上の日本刀があるか、探したいぜ!
「了解、じゃあエリス、メイリン、マリベーレはしばらくこの辺りで
衣服や防具を見ててくれ。 オレは四、五階へ武器を見に行くわ」
「……ラサミス、俺もついて行っていいか?」
「ああ、兄貴。 勿論いいさ」
「あ、私も行きたいわ!」
と、ミネルバが右手を上げた。
「それじゃ三人は武器を見に行って来るといいですわ。
わたくしとメイリンとマリベーレちゃんは、しばらくここで衣類を観てますわ!」
「おう! じゃあ後で合流しようぜ!
んじゃ兄貴、ミネルバ行こうぜ! あ、店員さん。 案内よろしくッス!」
「「了解」」
「は、はい! では私の後について来てください!」
と、男性エルフの店員がそう云ってオレ達の前を歩いた。
しかしこういう光景を見ると、ニャルレオーネってマジで凄いんだな。
マフィアとはあまり関わりたくないが、
ニャルレオーネとは仲良くしてた方がいいかもな。
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「ほう、コイツはスゲえや!」
オレは周囲に陳列棚に飾られた幾多の武器を観ながら、思わずそう呟いた。
剣、大剣、刀、戦斧、槍、戦槌、弓矢、ブーメラン、銃などの様々な種類の武器がこの広いフロアに並べられている。
値段の方を見ると安くて50万グラン(約50万円)、100万グランを超える品はザラだ。
なかなか悪くない品揃えだが、オレ達もそれなりの武器を有している。
だからこのレベルの武器じゃ物足りない。
なのでオレは案内係を務める男性エルフの店員に聞いてみた。
「すみません、ニャルレオーネ氏から『聖剣や魔剣を持って行ってよい』と云われてるんですけど、聖剣や魔剣の類いは何処に置いてますか?」
すると男性エルフの店員は困った表情で「え~と……」と、曖昧な返事をする。
それからしばらくして「し、少々お待ちください」と云って奥の部屋に向かった。
成る程、上の人間の許可を取りに行った、という訳か。
まあそりゃ聖剣や魔剣を普通の武器みたいにそこら辺に並べられないよな。
それから数分後、男性エルフの店員は、恰幅の良い中年のヒューマンの男を連れてきた。
「どうも、私はこの店の支配人エンリコ・ルーンメルゲです。
ここでは何ですので、奥の客室へご案内させていただきます」
ほう、マジでVIP対応だな。
そして奥の客室に案内されて、オレ達は黒皮のソファに腰掛けた。
エンリコ・ルーンメルゲと名乗った支配人は、オレ達の対面のソファに腰掛ける。
「まさか今をときめく『暁の大地』のカーマイン兄弟を御客人を招くとは、
思いもしませんでした。 これを機にどうか御贔屓なさってください」
「そりゃどうも、んで用件は?」
「ええ、この紹介状とプラチナ会員証は間違いなく本物です。
ですが念の為ですが、皆様の冒険者の証を少し見せていただけませんか?」
「ん、ああ……」
オレはそう云って自分の冒険者の証を眼前の男に見せた。
同様に兄貴とミネルバも自分の冒険者の証を見せる。
すると支配人は「うん、間違いなく本物だ」と云って大きく頷いた。
「では私の後について来てください。
聖剣や魔剣は非常に希少価値が高いですから、
管理場所は少し特別な所に保管しているのですよ」
「……成る程、了解ッス!」
すると支配人は男性エルフの店員に「君も来たまえ!」と云って、
その恰幅の良い身体を揺らしながら、最上階である五階の階段を登った。
オレ達も支配人の後をついて行き、階段をゆっくりと登った。
オレ達は五階の展示フロアをそのまま抜けて、一番奥にある部屋へと向かう。
そして支配人は大きな鉄製の扉の前で止まった。
支配人は腰のベルトから鍵束を取り出して、金色の鍵を取り出す。
それから大きな鉄製の扉の鍵穴に、その金色の鍵を差し込んで外側に回した。
そして「ガチャッ」という音と共に大きな鉄製の扉が開かれた。
するとその部屋の中には、見るからに凄そうな武器や防具が飾られていた。
これは凄い、まるで宝物庫だ、と云っても過言はない。
「これは凄い……」
「え、ええ……本当に」
兄貴とミネルバも目を瞬かせて、一言そう漏らす。
オレ達は至る所に安置された武具に圧倒され、呆然となった。
この部屋にある武具は剣、大剣、刀、槍、戦斧、戦槌、弓、銃といった具合に種類も豊富だ。
「この部屋は特殊な結界が張られており、魔力や闘気の類いは一切使えません。 ですがそれらが使えなくても、貴方方ならここにある武具の真の価値が分るでしょう」
と、支配人がややドヤ顔気味にそう云った。
でもこれだけの武具の管理を任せれているんだ。
それはこの支配人がドン・ニャルレオーネから信頼させれているという証である。
とりあえずオレ達はそれぞれの得意とする武具をじっくりと見据える。
オレは刀、兄貴は聖剣と魔剣、ミネルバは聖槍と魔槍の前にそれぞれ立った。 オレは周囲を見回し、様々な刀を眺めていたが、ある一点で視線を止めた。
オレは部屋の最奥にある金の台座に視点を向ける。
そこの金の台座に一本の日本刀が置かれていた。
鞘に収められている為、刀身は見えなかったが、
黒い柄と黒鞘のこの刀がこのお宝の山の中でも一際輝いて見えた。
「あの刀はヒューマン領の東洋の国・ジャパングの聖剣ならぬ聖刀――正式名称は『征伐剣・顎門』です」
オレの視線に気付いたのか、支配人ルーンメルゲがオレの横に並んでそう述べた。
「征伐剣・顎門……」
オレはそう復唱しながら、喉をごくりと鳴らした。
すると支配人がオレの顔を見ながら、微笑を浮かべた。
「何なら手に取ってみますか?」
「え? ……いいのかい?」
オレの問いに支配人は「はい」と笑顔で応じる。
そしてオレはまるで吸い寄せられるように、台座の上にある聖刀を手に取った。
……重さは程よい重さだ。 軽すぎず、重すぎという絶妙なバランス。
それからオレは聖刀を黒鞘から綺麗に抜いた。
黒鞘から抜いた征伐剣の刀身は見事なまでの白刃であった。
オレは鏡のように磨き抜かれたその刀身に目をやる。
刀身の長さは柄を含めて、90から100セレチ(約100センチ)と云ったところか?
今は魔力や闘気が使えない状態だが、
オレは一目見てこの聖刀の力を見極めた。
これはオレが今まで手にしてきた武具とは格が違う!
欲しい、この聖刀が欲しい!
この聖刀を使いこなせれば、恐らく今後の敵の幹部との戦いでも勝つ事が出来る。
「この聖刀をオレに――ラサミス・カーマインにくれ!
このオレがこの聖刀の力を完全に引き出して見せる! 頼む!!」
気が付けば、オレは大声でそう叫んでいた。
それには支配人だけでなく、兄貴やミネルバも目を丸くしていた。
だが支配人はすぐに笑顔に浮かべて、慇懃な口調でこう述べた。
「はい、その聖刀は貴方に差し上げます!」
「ありがとう、恩に着ます!」
そしてオレはその白刃の聖刀を軽く構えてみた。
その姿を近くの置かれた鏡台で確認する。
うん、悪くない感じだぜ。
オレはそう思いながら、僅かに口の端を持ち上げた。
次回の更新は2021年9月18日(土)の予定です。
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