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第二百八十四話 深謀遠慮(しんぼうえんりょ)



---ラサミス視点---



 二日後。

 ドン・ニャルレオーネから手紙が届いた。

 手紙には「先日の件で少し話をしたい」とだけ書かれていた。

 

 先日の件とは云うまでも無くあの知性の実(グノシア・フルーツ)が絡んだあの一件だ。

 約三週間前に会って以来、ドン・ニャルレオーネとは連絡を取ってなかった。

 正直オレとしてはあまりマフィアとは関わりたくない。


 だがこうして向こうから連絡コンタクトしてきたからには無視する訳にもいかない。

 マフィアは面子を大事にするからな。

 とはいえ今のだらけたエリスやメイリン、マリベーレは連れて行けないな。


 ならばここはオレと兄貴、アイラ、それにミネルバの四人で行くとするか。

 と思ったがどうやらアイラは体調不良らしい。

 だからオレ、兄貴、ミネルバの三人でドン・ニャルレオーネていへ向かった。



 そしてオレ達は邸の正面玄関で黒服の警備員に手紙を見た後、

 ボディチェックを入念に受けてから、邸の中へ入った。

 それから竜人とエルフの黒服の組員に前回と同じ応接間に案内された。 


 向かい合った黒革のソファに、その間に置かれた黒いテーブル。 

 壁には風景画。

 前に来た時とほぼ同じ景観だ。 

 違いがあるとすれば前回と違い既にドン・ニャルレオーネが対面の黒革のソファに座っていた点だ。


 ヒューマンとエルフ族の妙齢の美女がボスであるニャルレオーネの両脇に座り、両肩を揉んでいた。 そしてニャルレオーネはオレ達の存在に気付くと「よう、まずは座れや!」と右手を上げて応じた。 オレ達は云われるまま、黒革ソファに兄貴、オレ、ミネルバという順番で座った。 するとニャルレオーネは双眸を細めて、オレの顔を露骨にジロジロと眺めた。


「噂じゃ前団長のドラガン・ストラットが冒険者を引退して、オマエさんが――ラサミス・カーマインが新団長になったという話を聞くが、それは本当なのか?」


「ええ、事実です。 自分が『暁の大地』の新団長ラサミス・カーマインです。

 以後お見知りおきを!」


「へえ、噂はホントだったんだなぁ~。 でもオマエさん、随分と若いな?

 歳はいくつなんだぁ?」


「……十七歳です。 後、数ヶ月もすれば十八になりますが」


「ほう、ホントに若けえな。 だがオマエさんが全身から醸し出している闘気オーラは本物だ。 鋭すぎず、それでいて柔軟性を持ちながら芯が強い。 そんな感じの闘気オーラだ」


 ニャルレオーネは右手で自分の右側の髭を引っ張りながらそう云った。 

 まあドラガンに比べたら、オレはまだまだ色々と足りない部分があるからな。

 だからニャルレオーネなりにオレを試して居るんだろうな。


「であの噂は本当か? オマエ、また敵の幹部を倒したという話だが、

 本当のところはどうなんだ? ん?」


 流石はマフィアのボスだ。

 地獄耳、というか情報の入手に関しても一流のようだな。

 でもここで威張るのもアレだしな、ここは謙虚な姿勢で行こう。


「ええ、まあ一応そうなりますね。

 とはいえ敵の幹部に勝てたのは、自分一人の力によるものじゃないですが……」


「ほう、やっぱり噂は本当だったのかよ!?

 という事はオマエは噂通り敵の幹部を二人倒したのか?」


「え、ええ……一応そういう事になります」


 するとニャルレオーネは大袈裟に両手を広げて「オー」と軽く叫んだ。

 周囲の黒服の組員達も「マジかよ」とか「マジだったニャン」とヒソヒソ声で話していた。 なんだか周囲の視線がオレに集まっている気がする。

 

「そうか、ならばニャルレオーネ・ファミリーとしてもオマエさん方に礼を返さないとな」


 ん? 礼だって?

 いやいやいや、マフィア相手に借りを作ると後が面倒だ。

 オレはそう思って、丁重に断るつもりだったが、ニャルレオーネは強引に話を進めて来た。


「ああ、別にオレ達に借りを作るとか、そんな事を気にする必要はないぜ? 実は云うとあの件でオレ達ニャルレオーネ・ファミリーも猫族ニャーマン王室と軽いコネが出来てな。 おまけに敵の幹部を倒す為に一役買った、という事でウチのファミリーの株はまた上がった。 だからその辺を含めてウチのファミリーとしても、オマエさん方に礼がしたいのさ!」


 ……。

 ここで断るとニャルレオーネの面子を潰す事になりそうだな。

 仕方あるまい、とりあえず話だけでも聞いてみるか。


「……礼と申し上げますが、具体的にどのような形でのお礼になるんでしょうか?」


「だからその辺もオマエさんが注文つけていいわけよ。

 現金キャッシュでも良いし、宝石でもいい、あるいは戦闘に役に立ちそうな武具でもいい」


「……武具もあるんですか?」


 オレはニャルレオーネにそう聞いてみた。

 金はもう結構あるからな。 だからこの場合欲しいのは武具の類いだ。

 するとニャルレオーネは口角を吊り上げて、ニヤリと笑った。


「ほほう、現金キャッシュや宝石より武具を望むとは、

 オマエさんは根っからの冒険者だな。 そうさ、オマエさんが望むなら、

 ニャルレオーネ商会で管理している聖剣や魔剣などを譲ってやってもいい」


「……聖剣や魔剣ですか?」


「おうよ、他じゃ滅多に手に入らないようなお宝だぜ。

 どうせオレ達が持っていても、仕事シノギの取引材料にしかならねえ。

 その分、オマエさんやそこの雷光らいこうにいさんに渡せばまさに虎に翼よ!」


「……兄貴、どうする?」


「……団長はお前だ。 お前が決めろ!」


 兄貴は無表情のまま、そう返した。

 ……。 まあ確かに兄貴の云うとおりだな。

 ならばここは団長として、ニャルレオーネ氏の好意に素直に甘えることにした。


「ではニャルレオーネさん、我々のためにニャルレオーネ商会で管理している武具をお譲りください」


「おう、いいぜ。 聖剣でも魔剣でも何でも好きに持っていけや、ニャハハハッ!!」


 ニャルレオーネはそう云って愉快そうに笑った。

 この男……なかなか器がデカいな。

 でもオレも馬鹿じゃない。 マフィア相手に何の代償もなしにこんな良い話を受け入れると後が怖い。


「……でも我々としても貴方の厚意に甘えるだけでは、面目が立ちません。

 なので交換条件として、我々もニャルレオーネ・ファミリーの為に何かしたいと思います」


 するとニャルレオーネは笑うのを止めて、その双眸をすっと細めた。 

 見た目こそ猫族ニャーマンだが、

 その眼光の鋭さからも彼がマフィアのボスという事が如実に物語られていた。


「……オマエさん、本当に十七、十八の小僧か?」


「え? もしかしてご不快になられたのでしょうか?」


 オレがそう云うと、ニャルレオーネは首を左右に振った。


「逆だよ、逆! そんな小僧のような年齢なのに、オレの意図する事を正確に捉えている。 ラサミス・カーマインだったな? オマエさんは将来は大物になるぜ? だからオレとしては早い段階から、オマエさんに唾をつけとくぜ。 所謂青田買いというやつさ」


「はあ……」


 オレはニャルレオーネの言葉に曖昧に頷いた。

 いやさ、高く評価してくれていること自体は悪い気はしないんだが、

 あまり必要以上に買いかぶられても困る。

 まあいい、とりあえずこの場はニャルレオーネの要求を聞いておこう。


「それでニャルレオーネ・ファミリーとしては我々に何をお望みになりますか?」


「ああ~、そうだな。 とりあえずまたオマエさん方のコネクションを生かして、ヒューマンのお偉いさんと顔を繋いでくれや。 そうすればオレ達は今度の魔大陸上陸作戦で、必要となる武器、弾薬、食料、衣料、医療品などを連合軍に売りつける事が出来る。 また連合軍が望むなら、低金利で金を貸してやってもいい、というがオレの目論みだな」


 成る程、そういう事か。

 この男やはり只者じゃないな。

 戦争という状況を利用して、必要物資を売りつけて大儲けするつもりか。

 そしてその稼いだ金を連合軍に貸し付けるて恩を売る、実に合理的な考えだ。


「我々のやれる範囲でやってみますが、我々はヒューマンの上層部とはそれ程強いコネクションはありませんよ。 ご期待に応えられるか少し自信ありません」


「いやその辺は難しく考えなくていいぜ、でもオマエさん方は敵の幹部を倒した連合軍の若き英雄ヒーローだ。 当然すり寄ってくる偉いさんも居るだろうさ。 そしてそういう連中をニャルレオーネ・ファミリーに少し紹介してくれるだけでいいのさ。 後はこのオレ様が上手くやるからさ。 そう難しく考えんなって!」


「……微力を尽します」


 流石はリアーナの黒幕フィクサーと呼ばれる男だ。

 何重にも網を張って、先の先の手まで打っているとはな。

 ならばここは辺に遠慮するのも馬鹿馬鹿しいな。

 だからこっちとしても貰える物は貰っておくか。


「ではドン・ニャルレオーネさん。 

 我々に貴方の商会が管理する武具をお譲りください」


「おうよ、まあアレだ、どうせなら今回だけでなくオマエさん方をうちの商会のVIP待遇にしてやるよ。 とりあえずオマエさん方の拠点ホームにウチの商会のプラチナ会員証を送らせてもらうよ。 そのプラチナ会員証を持って、ウチの管轄内の武具屋に来たら、一億グラン(約一億円)までなら、武器でも防具でも好きな物を持って行っていいぜ!」


「「い、一億グラン(約一億円)!?」」


 これにはオレだけでなく、ミネルバは驚きの声を上げた。

 なんというかこの男はスケールがデカいな。

 露骨に取り入る気はないが、今後の事を考えると

 ドン・ニャルレオーネとはそれなりに仲良くしてた方がいいな。


「おう、まあそういう事だからよ。 話はこれまでだ。 

 また何かあれば遠慮無く連絡してくれや! んじゃ解散、解散」


 そしてオレ達はニャルレオーネ邸を後にした。

 翌日、ドン・ニャルレオーネの署名が入った紹介状と共にプラチナ会員証がウチの拠点ホームに送られて来た。

 流石はニャルレオーネ商会、仕事が早いぜ。

 んじゃ最近皆だれていたから、ここで武具を買い換えて少し気合いを入れ直すか。


「よし、ドン・ニャルレオーネからプラチナ会員証が送られて来た。

 なので今から冒険者の団員全員でニャルレオーネ商会へ行くぞ!

 これは団長命令である!」


 と、オレは高らかな声で宣言した。

 すると殆どの団員が「はい」と返事したが、アイラだけは――


「団長、すまない。 私の方はまだ体調が悪いから、行けそうにない。

 だから私を置いて皆で行って来てくれ!」


「ん? ああ、そうか。 というかアイラ、体調大丈夫なのか?」


「軽い目眩と吐き気がするが、なんとか治してみるよ」


「そうか、お大事に!」


「ああ、色々と迷惑をかけてすまない」


 アイラの体調不調は少し気になるが、

 とりあえず今はニャルレオーネ商会へ行こう。


「んじゃ早速行くぞ!」


「ああ」「「「「はい」」」」


 そしてオレ達は身支度して、リアーナの商業区へ向かった。


次回の更新は2021年9月15日(水)の予定です。


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