第二百六十九話 ニャルララ迷宮の大決戦(前編)
---ラサミス視点---
「いよいよ最深部だな。 それにしても疲れたぜ。
もうゴーレムも不死生物も人工機械人形も見たくねえよ」
「アタシもラサミスに同意。 つ、疲れたァ~」と、メイリン。
「本当にね、正直お腹いっぱいって感じ」
「ええ、ワタクシもしばらく浄化したくないわ」
と、ミネルバとエリスも相槌を打つ。
するとドラガンが緩んだ空気を変えるべく、一渇した。
「オマエ等、気を抜くな!
この最深部の戦いが一番重要なんだぞ!?
だからこの戦いが終わるまで、気を緩めるな」
まあそれはそうだけどさ。
こうも連戦が続くと流石に嫌になるぜ。
と思いつつも、オレはとりあえず「はい!」と返事した。
そしてオレ達は迷宮内の奥へと進んだ。
しばらく進むと目の前に長い回廊があり、今までと違った景色と地形が見えた。
天井の高さも五メーレル(約五メートル)程度だったが、
今は少なく見ても十五メーレル(約十五メートル)はあった。
迷宮の壁面や床にも苔が生えており、長い回廊を越えると地面も
短い草の生えた草原のような風景になっていた。
そしてその草原の中央部から強烈な魔力が放たれていた。
「ここで止まるぞ! メイリンは魔力探査を!
エリーザは精霊を召喚、ミネルバとマライアは
ブルーとミスティに周囲の索敵、探索さをせるんだ」
「了解ッス! 『魔力探査』開始っ!!」
「我は汝、汝は我。 我が名はエリーザ。 神祖エルドリアの名の元に、我が眷属、火の妖精よ。 その力を顕現せよっ!!」
エリーザがそう呪文を詠唱すると、魔法陣が現れて、目映い光を放った。
白、赤、青、黄色、緑、紫という順に光の色が変わり、魔法陣が明滅する。
「ギャオオオンッ!」
叫び声と同時に魔法陣の中から、体長四十セレチ(約四十センチ)くらいの蜥蜴が現れた。 恐らく火の精霊――サラマンダーだろう。
「ブルー、周囲に異変がないか、探りなさい」
「了解シタ、今カラ調ベル!」
「ミスティ、この辺りを探って!」
「ワン!」
ミネルバとマライアがブルーとミスティにそう指示を出した。
恐らく敵は近くに居るだろうから、すぐに見つか――
「!?」
その時にオレの全身に強烈な魔力の波動が駆け抜けた。
そして瞬く間に、周囲が赤みを帯びた結界で覆われた。
「あぁっ!? こ、これは敵の強力な結界よ!!
み、皆……すぐに戦闘態勢に入って!!」
後方からメイリンがそう叫んだ。
「凄イ魔力ダ……コノ辺リニ強烈ナ結界ガ張ラレタ!!」
と、ブルーが慌て気味にそう吠えた。
「ガルルルッ……ワンワンッ!」
ミスティも低い声で前方に向かって吠える。
「……まさかここに閉じ込めれたのか!?
後方の誰か後ろに下がれるか、試してくれ!」
オレは後ろに振り返り、そう叫んだ。
すると後方に居たエリスがこの赤みに帯びた結界から出ようとしたが、
エリスが突き出した左手が鈍い音と共に弾かれた。
「だ、駄目だわ。 この結界から出れそうにないわ!」
と、エリス。
クソッ……どうやら物の見事に嵌められたようだな。
「仕方あるまい、この状況では逃げるという選択肢はない。
とりあえず前列にライル、ラサミス、ミネルバ。
中列にアイラ、エリーザマライア、ギラン、拙者。
後列にエリスとメイリン、マリベーレという陣形を組むぞ!」
皆が動揺するなか、ドラガンが的確にそう指示を出した。
そしてオレ達は言われたままの陣形を組んだ。
でもなんだろう、この結界に居るとなんか異様に疲れる。
と思った矢先に前方に急に人影が見えた。
「なっ!? 急に前方に敵が現れたぞ!?」
「……恐らく今まで隠形の魔法か、スキルで身を隠していたのよ。 でも慌てる必要はないわ。 敵は……五人。 こちらは十一人よ! 一人に二人が掛かりの戦いを挑めば、充分に勝機はあるわ!」
オレの疑問にメイリンが即答でそう答えた。
ああ、そう言えば前の戦いの時もマルクスの仲間が隠形を使ってたな。
だがこうして姿が見たら、なんか落ち着いてきたぜ。
そうだ、メイリンの云うとおりだ。 数の上ではこちらが有利なんだ。
「よし、とりあえず陣形を崩さず、敵を迎え討つぞ。
敵は恐らく魔導師の集団だ。 だから距離を取りつつ、相手の出方を見るぞ」
ドラガンがそう云いと、皆が無言で頷いた。
よし、ここはドラガンの云うとおり様子を伺いながら、反撃の機会を待つぜ。
---------
「我は汝、汝は我。 我が名はミラン。 暗黒神ドルガネスよ。
我に力を与えたまえ! 『ダークネス・フレア』」
「我は汝、汝は我。 我が名はテス。 ウェルガリアに集う炎の精霊よ!
我に力を与えたまえ! 『フレア・ブラスターッッ』!!」
前方に陣取る敵の魔導師二人が呪文を紡いで、闇の炎を発生させた。
そして右手から闇の炎と緋色の炎をこちらに目掛けて放った。
「メイリン、エリーザ! 対魔結界だぁっ!!」
オレは即座にそう叫んだ。
「了解よ! 我は汝、汝は我。 我が名はメイリン。
ウェルガリアに集う光の精霊よ。 我に力を与えたまえ!
『ライト・ウォール』!!」
「我は汝、汝は我。 我が名はエリーザ。
ウェルガリアに集う光の精霊よ。 我に力を与えたまえ!
『ライト・ウォール』!」
メイリンやエリーザが素早く呪文を詠唱すると、オレ達の前方に長方形型の光の壁が張られた。 そして敵が放った闇の炎と緋色の炎が光の壁に衝突する。
ガアァァァン!! ガアァァァァァァン!!
凄まじい衝撃音が轟き、オレ達の周囲の大気が揺れる。
闇の炎と緋色の炎が光の壁にメキメキと練り込んだ。
だが光の壁を破壊するには至らず、二つの炎はそのまま光の壁に呑み込まれた。
よし、とりあえず敵の攻撃魔法は防げそ――
「うっ……なんか魔力の消耗が激しいわ」
「そ、そうね。 なんか魔力だけでなく、体力の消耗も激しい気がするわ」
メイリンとエリーザが口を揃えて、そう云った。
そう云えば云われてみれば、なんかこう立ってるだけで軽い疲労感を感じる。
「気ヲツケロ! コノ結界デ体力ト魔力ノ消耗ガ激シクナッテイル!
長時間ノ戦イハコチラガ不利ダッ!!」
と、ミネルバの近くで宙に浮遊するブルーがそう叫んだ。
そうか、恐らくブルーの云うとおりだろう。
まさかこんな結界を張ってくるとはな、誤算だぜ。
「ブルーの云うとおりなら、確かに長期戦は危険だ。
とはいえ敵は魔導師、迂闊に近づく事も出来ん。
ここはマリベーレの狙撃で敵を狙うべきだな」
と、ドラガンが横目でマリベーレを見た。
するとマリベーレが銀色の魔法銃を構えながら、軽く反論した。
「アタシが狙撃する事自体は賛成だけど、
狙撃だけで五人を倒すのは厳しいわ。
だから最低でも前衛の皆で一人は倒して欲しいわ」
「それもそうだな。 しかし奴等も凄腕の魔導師。
迂闊に接近も出来ん。 これは厳しい戦いになりそうだな」
「なんとかやるしかない。 ドラガンはとりあえず光属性の付与魔法を!
アイラは『アルケイン・ガード』を頼む!」
「了解だ、「我は汝、汝は我。 我が名はドラガン。
猫神ニャレスよ、我らに力を与えたまえ! 『ライトニング・フォース』ッッ!!」
「分ったわ! ――『アルケイン・ガード』」
兄貴に云われるまま、ドラガンとアイラは強化魔法、職業能力を発動させた。
これによって最低限の準備は整ったが、このまま敵に突撃するにはまだ不安がある。
「兄貴、アイラから水色の盾を受け取るんだ!
ここはオレと兄貴で突撃かけて一人でもいいから、敵の魔導師を減らそう」
「そうだな、アイラ!」
「了解よ、ライル!」
アイラは兄貴とそう言葉を交わして、水色の盾を受け渡した。
「よし、とりあえずオレが奴等に突撃するから、
頃合いを見てミネルバとマライア、ギランも支援及び攻撃をしてくれ!」
「「「了解」」」
「よし、じゃあ兄貴! 敵に向かって突撃するぞ!」
「分った、ラサミス。 落ち着いて敵の攻撃を見るんだぞ!!」
「分ってるさ!」
「それじゃ突撃開始っ!!」
「ああ!!」
オレと兄貴は「うおおっ!」と気勢を上げながら、前方目掛けて突貫した。
とりあえずオレの『吸収の盾』は限界まで使わないぜ。
そして僅かな隙を突いて、敵を倒す。 それしかない!




