表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【天使編開始!】黄昏のウェルガリア【累計100万PV突破】  作者: 如月文人
第四十五章 追う者、追われる者
265/714

第二百六十四話 頭の濡れない思案


---三人称視点---



「は、ハアハァ……貴様等、何者だ!?」


 ニャルララ迷宮の警備隊長であるサイベリアンのルドラーは、

 肩で呼吸しながら、眼前の謎の襲撃者達にそう問うた。

 既に迷宮の警備隊の仲間の殆どが戦死していた。


 ルドラーも猫族ニャーマンの中では、腕に覚えがある魔導騎士ルーンナイトであったが、眼前の魔導師と思われる襲撃者達に一方的に嬲られ続けた。

 一匹、一匹、仲間が戦死していく様を見ながら、

 ルドラーは砕けかけた闘争心に怒りと復讐心を注いで、懸命に戦った。


 だが相手が悪かった。

 相手は只の魔導師ではなかった。

 特にリーダー格と思われる薄い水色髪の青いフードケープを着た褐色の肌の女が

 桁違いの強さであった。 この水色髪の女は無詠唱で様々な魔法を唱えてきた。


 猫族ニャーマンだけでなく、ヒューマン、エルフ、竜人を含めた四大種族の中でも、

 無詠唱で魔法を唱える者は殆ど居ない。


「……も、もしや貴様等……魔族かっ!?」


「あら? このニャンコ、猫にしては頭が回るね!」


 と、緑のフードケープを着たジーナが露骨に見下した感じでそう云った。


「……き、貴様等、何を企んでいる?」


 ルドラーは漆黒の刺突剣を右手に持ちながら、ゆっくりと後ずさりする。

 すると青いフードケープを着た褐色の肌の女――カーリンネイツが一歩前へ進んだ。


「わ、私の言葉に答えるんだァ!!」


 眦を吊り上げてそう叫ぶルドラー。

 するとカーリンネイツは首を左右に振って、軽く嘆息した。


「やっぱり猫が喋るなんておかしいわ。

 ヒューマンはこんな倫理に反する事をよく平気でやってのけたわね」


 まるで哀れむような言葉であった。

 周囲の者達もそれに同意するように、頷いていた。

 だがルドラーからすれば、只の侮辱でしかなかった。


「我々、猫族ニャーマンを愚弄するなァッ!!」


「――五月蠅い! お黙り!!」


「なっ……ぐ、ぐにゃにゃん」


 カーリンネイツがそう叫んで、右手を頭上にかざすと、

 念動力サイコキネシスよって、ルドラーの身体が首を強く締め付けられながら、

 空中に浮くように宙吊りにされた。


「……これから私の云う事に素直に答えなさい。 いいかしら?」


「……ヌアアアアァ……だ、だが……断る……」


 ルドラーは顔を真っ赤にしながらも、意地を見せてそう返した。

 そうしている間にもルドラーの首がドンドン絞められていく。

 もう自分は助からないな。


 ルドラーは咄嗟に自分の死期を悟った。

 だから最後の意地として、自分が知る事は此奴こいつには語るまい!

 と、覚悟を決めて、迫りに来る死の恐怖に耐えた。

 だが次の瞬間、ルドラーの首の圧迫感が消えて、身体の浮遊感もなくなり

 気が付けば、迷宮の地面にお尻から落下した。


「ゲホゲホ……ゲフッ」


 激しく噎せ込むルドラー。

 するとカーリンネイツがゆっくりとこちらに寄ってきた。


「……貴方、猫族ニャーマンにしては高潔な精神を持ってるわね。

 気に入ったわ。 だから私達は貴方の頭脳と身体から色々聞かせてもらうわ」


「!?」


 ――マズい!!

 ルドラーは呼吸を乱しながら、全身の毛を逆立てた。

 此奴、恐らく魔法や拷問でオレの口を割るつもりだ。

 いかん、オレの知っている事を此奴に知られるわけには――


「――催眠術ヒプノーシス


 だがルドラーが行動を起こす前に、

 カーリンネイツが右手をかざして、短縮詠唱で催眠術をルドラーにかけた。

 そこでルドラーの意識が暗転した。


---------


「……それでここの地下で知性の実(グノシア・フルーツ)が見つかったの?」


「ウニャニャ……そうだニャン……」


「他に何か秘密はないかしら?」


「そ、それは……」


「云いなさい!」


「……上層部は迷宮の最深部の地下に世界樹があると云ってたニャン」


「……世界樹!?」


 予想外の言葉に、カーリンネイツも思わず驚きの声を上げた。

 それは他の者も同じであった。


「……マジかよ」と、エレクサレド。


「これは凄い事になってきたわね」


 と、ジーナも相槌を打つ。


「これはまだまだ面白い話が聞けそうね。 それじゃ――」



 

 そしてカーリンネイツは催眠術さいみんじゅつを駆使して、ルドラーから粗方あらかたの情報を聞き出した。 だがその情報は部下の魔導師達だけでなく、カーリンネイツの手に余るものであった。 知性の実(グノシア・フルーツ)に加えて、世界樹。


 正直、話のスケールが大き過ぎる。

 現場の判断だけでどう動いていいのかも難しいところであった。

 なので部下達の視線も自然とカーリンネイツに向いた。


 だがカーリンネイツとしても、安易に指示を出せる問題ではなかった。

 とはいえここまで来て何もしないわけにはいかない。

 なのでとりあえず最初は無難な指示を出した。


「とりあえず最深部まで行って、事実かどうか確かめてみましょう。

 私達もここまで来た以上、手ぶらで帰る訳にはいかないわ。

 皆もそれでいいわよね?」


「まあそれは構いませんが、もし本当に世界樹をあったらどうするんですか?」


「ああ、それは私も気になるところです。 実際どうするつもりなんですか?」


 エレクサレドとジーナが他の者達の気持ちを代弁するようにそう云った。

 

「そうね、私も正直どうすべきか、悩んでいるわ。

 だからその件に関しては、実際見つけてから皆で考えましょう。

 皆、それでいいかしら?」


「まあ……そうですね」と、エレクサレド。


「とりあえず私もそれでいいです」


 ジーナがそう云うと、他の者達も同意するように頷いた。

 とりあえず全員の同意が得れた事で、カーリンネイツの決意も固まった。


 ――世界樹か。 正直手に余る代物ね。

 ――とはいえ何もしないで、このまま帰るという選択肢はない。

 ――ならばとりあえずはやれるべき事をやろう。


「それではまずはこの迷宮内に張られた大結界を解除するわ。 

 恐らく最高級の大結界だから、解除するのには相当苦労するわ。

 そして定期的に魔力探査マナ・スキャンして、追っ手が来てないか調べるわ」


 凜とした声でそう云うカーリンネイツ。

 すると彼女の部下達も凜とした声で「はい」と答えて、

 目の前の仕事に集中して、迷宮内に張られた大結界の解除に全力を尽くすのであった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点]  更新お疲れ様です!!  遂に魔族側にも知らせれしまいましたね、世界樹。  とはいえ、この世界樹にはまだまだ謎も多い所なので楽しみな部分ではあります( ゜Д゜)  え、でも……幹部こわっ…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ