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第二百五十三話 金に糸目を付けぬ


---ラサミス視点---


「以上をもちまして、ミスリルの鎧はグラン金貨80枚で落札です!」


 既にオークションが始まって二時間以上が過ぎていた。

 だがオレのお目当ての吸収の盾(サクション・シールド)はまだ展示されてない。

 ドラガン曰く「そろそろ出る頃だ!」との事らしいが、

 そう云われてから既に五件以上のオークションが行われた。

 こうなって来ると、次第に弛緩した空気が流れ始めた。


 ちなみにエリスとメイリンに関してだが、

 二人はきん猫族ニャーマン像なる品物を巡って、

 同じ連合ユニオンの団員同士で激しく競り合っていた。

 結局はエリスがグラン金貨60枚(約六十万円)で落札した。


 つうかこういった可能性は考えていたが、本当にやるとはな。

 オマエ等、どんだけ猫族ニャーマン好きなんだよ!?

 というかオークションの最中にカリンやクロエがこちらをチラチラ見てたぞ。

 わりと恥ずかしかったので、今後こういう真似はやめて欲しいなぁ。

 などと思ってると、次のオークションが始まった。


「それでは、次のオークションを開催いたします。

 次なる商品は吸収の盾(サクション・シールド)です!

 こちらの商品は超高級かつ高純度の吸魔石で作られた盾でございます。

 その名の通り魔力や魔法を吸収する盾ございます。

 これさえあればモンスターや魔族の魔法攻撃も怖くありません!

 では価格はグラン金貨200枚(約二百万円)からまいりましょう!」


 進行役のヒューマンの男が価格を提示しオークションが始まった。


「……ラサミス、焦るなよ。 ゆっくりと競って行け!」


 ドラガンがこちらを向いて、小声で囁いた。

 ようやく来たか、よしここからが本番だぜ。

 

「金貨210枚!!」


「金貨220枚だ!」


「金貨320」


 価格が瞬く間に釣り上がった。

 仕方ねえ、ここは一度競っておくか。


「金貨330枚!!」


 オレは右手の人差し指と中指を伸ばしたハンドシグナルで10万グランアップさせた。 このオークションにはルールがあり、一番最初に提示された最低価格の金額を上回る金額を提示しなければいけない。 また価格の上昇幅は最低でも金貨1枚単位。 それ以外であればルールは特になく、価格上限もない。


「金貨340」


「金貨341枚だ!」


「金貨441枚」


 もう金貨400枚(約四百万円)超えか。

 何故か知らないが、先程までのオークションより値段の上がり幅が早い気がする。

 とはこういう時は焦ったら、負けだ。 落ち着いて行こう。

 

「金貨442枚」


 オレは右手の人差し指を伸ばしたハンドシグナルで1万グランアップさせた。


「金貨542枚だ!」


 くっ、もう金貨500枚(約五百万円)超えか。

 想像以上に値段の上がり方が早いぜ。

 しかしまだ上限に余裕はある。


「金貨552枚だ!」


「金貨563枚」


「金貨564枚」


 オレは再び右手の人差し指を伸ばしたハンドシグナルで1万グランアップさせた。 オレの手持ちの上限は金貨1000枚(約一千万円)。 それ以上払う気はないし、周囲のライバルにそれを悟られる訳にもいかない。


「金貨664枚!!」


 瞬く間に金貨600枚を超えた。

 すると次第に周囲のライバル達も金額のつり上げを止めた。

 

「現在金貨664枚です。 他はありませんか」


「金貨665枚」


 オレはとりあえずまた1万グランだけアップさせた。

 すると観客の視線がこちらに向いた。

 これは気のせいではない、明らかにこちらを見ている。

 そして再び金額の釣り上げ合戦が始まった。


「金貨675枚」


「金貨685枚」


「金貨785枚だ!」


「……」


 遂に金貨700枚を超えた、というかこりゃ確実に800枚を超えるな。

 だがここは辛抱すべきだ。 とにかく上限の1000枚まで粘り強く行くんだ。


「現在金貨785枚です。 他はありませんか」


 ……いやここはもう強気に攻めるか。

 そうだな、こっちが本気という事を周囲に示そう。

 そしてオレは右手の人差し指と中指と薬指を伸ばして、高らかに叫んだ。


「金貨885枚っ!」


 ここで強気の金貨100枚。

 ここまで来るともう引くに引けない。

 こりゃ手持ちの全財産つぎ込むつもりでやるぜ。


「金貨895枚!」


 と、恰幅の良いヒューマンの壮年の男がそう告げた。

 まさかここまで釣り上がるとはな。

 完全に計算外だ。 だがここで諦める訳にはいかない。

 よし、これが最後だ!



「金貨995枚っ!!」



 オレは右手の人差し指と中指と薬指を伸ばしたハンドシグナルで100万グランアップさせた。

 もうこれ以上はつぎ込めない。 だが恰幅の良いヒューマンの壮年の男はそれ以上は、金額を上乗せしなかった。 どうやらあちらさんも資金の限界点に達したようだな。


「さぁ、現在金貨995枚です。 他はありませんか? ありませんか?」


 進行役のヒューマンの男が煽るが、それ以上は誰も金額を提示しなかった。


吸収の盾(サクション・シールド)は金貨995枚で落札です!」


 ふう、なんとか競り落とせたぜ。

 でもこれで魔族の幹部討伐の報奨金は殆ど使っちまったぜ。

 正直金貨995枚もするとは思わなかったな。

 まあでもこれも必要経費と思って割り切るか。

 そして手持ちの金を殆ど使ったオレ達は、

 早めにオークションを切り上げ、落札品を受け取りに行った。


---------


「次に落札品のご確認を。 こちらが落札品の吸収の盾(サクション・シールド)となります!」


「あ、はい。 ちょっと見せてくださいね」


「どうぞ!」


 オレは眼前の礼服を着た銀髪の男エルフから、落札品である吸収の盾(サクション・シールド)を受け取った。吸収の盾(サクション・シールド)の見た目は白水晶のように盾の表面が透明だった。 盾の裏側は金細工や銀細工で加工されていた。 

 ふうん、見た目は結構カッコいいな。

 

 でも問題は性能だ。

 じゃなきゃ金貨995枚も払わない。


「この盾ってどう使うんですか?」


「はい、少しその吸収の盾(サクション・シールド)をお貸しください」


「はい」


 オレは銀髪の男エルフに吸収の盾(サクション・シールド)を手渡した。

 すると銀髪の男エルフは吸収の盾(サクション・シールド)は左手に持ちながら、軽く掲げた。


「基本的に盾を持ちながら、魔力を篭めると周囲の魔力を吸収します。

 戦闘の場合では、敵の魔法攻撃を受け止める前に強く魔力を篭めれば、

 殆どの魔法攻撃を魔力ごと吸収します、例えば――」


 そう云って銀髪の男エルフは右手の指をパチンと鳴らせた。

 すると近くに居たヒューマンの女性のバニーガールがこちらを向いて、

 右手の指から小さな火の玉を放出した。


「――フンッ!」


 銀髪の男エルフが軽く鼻を鳴らすと、

 放たれた火の玉が吸収の盾(サクション・シールド)に吸い込まれた。

 ほう、成る程。 確かにこれは使えそうだ。


「へえ、それじゃさ。 敵の魔力を吸収して、溜まった魔力を放出できるかな?」


「ええ、可能ですよ」


「その放出した魔力を他の仲間が吸収できたりするかな?

 例えば魔法戦士の「魔力吸収マナ・アブソーブ」とかでさ!」


「ええ、可能でございますよ」


「へえ、団長。 これ上手く使えばあの女吸血鬼の使い魔の猫がやっていたように、吸収した魔力を仲間間で受け渡しできそうだよ!」


「あっ! 成る程、確かにそれは名案だ!」


「アンタよくそんな事思いついたわね!」


 ドラガンとメイリンがが感心したようにそう云った。

 こりゃ使い方によっては、アイラの水色の盾(ブルーミラーシールド)より使えそうだな。

 まあ大枚をはたいた価値はあるようだ。


「んじゃこれ約束の代金。 お釣りはちゃんとくれよ」


 オレは腰のポーチから革袋からグラン白銀貨を10枚取り出して、銀髪の男エルフに手渡した。


「ありがとうございます、ではこちらがお釣りのグラン金貨5枚となります」


 オレは銀髪の男エルフから吸収の盾(サクション・シールド)とお釣りの金貨5枚を受け取った。

 やれやれ、一千万グラン(約一千万円)を一日で使うとはな。

 オレの金銭感覚も随分と壊れてきたな。

 まあでも自分で稼いだ金だし、問題ねえよな?


「じゃあ無事落札したし、もう帰ろうぜ!」


「そうだな」「「うん!」」


「またのお越しお待ちしております!」


 そしてオレ達はオークション会場から出て行った。

 もう空が夕焼け色に染まってるな。

 思ったより、時間を食ったな。 まあいいや、とりあえず拠点ホームへ帰るぜ!



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― 新着の感想 ―
[一言] 吸収の盾、性能が凄いけど、 めちゃくちゃ高いですね! 果たしてラサミスの思惑通りに、 使用可能なのか? いやはやそれにしても、 金持ちになりましたね!
2021/08/20 21:57 退会済み
管理
[良い点] 更新お疲れ様です。 目的の物が手に入って安心出来ましたね。一気に値段を上げると周りも合わせてしまいますから。強気で行く所と、様子を見ながらと大変だったと思います。 しかも、団長のスキルも…
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