第二百四十四話 絶対絶命!?
---三人称視点---
ラサミスは左手に水色の盾を持ちながら、
右手で雪風の柄を掴みながら、ゆっくりと間合いを詰める。
そしてアイラも左手に黒い円盾を持ちながら、右手で白銀の片手剣を構えた。
対するプラムナイザーは右手で短めの黒刃の片手剣の柄を握りながら、
悠然とした仕草で、ダンスでも踊るように軽やかなステップを刻んだ。
「――どうした? 来ないのか?」
「……」
プラムナイザーの問いにラサミスもアイラも黙っていた。
するとプラムナイザーは再び「ふん」と鼻を鳴らして、溜め息を漏らす。
「やれやれ、ここに来てようやく力量の差を理解したか。
だったら最初から大人しくしてれば良いのに、
無駄な自尊心が勝ち目のない戦いを引き起こす。
魔族でも居るが、貴様等、人間は本当に愚かだな」
だがラサミスとアイラは安易な挑発には乗らなかった。
そしてけして戦いを放棄したわけでもない。
しかし色んな状況を想定して、自ら仕掛ける事は出来なかった。
すると二人のそんな姿を見て、プラムナイザーは「やれやれ」と両肩を竦めた。
「ふん、もう良い。 興が冷めたわ。
これ以上、問答しても無用だ。 では行くぞ!
――『ランブリング・ローズ 』ッ!!」
すかさずステップインして距離を零にするプラムナイザー。
そして右手に持った黒刃の片手剣を高速で縦横に振るう。
「うっ……!!」
アイラが黒い円盾を掲げてガードする。
構わず上下左右から攻撃を浴びせ続けるプラムナイザー。
次第にアイラの反応がじわりじわり遅れていく。
その間隙を突くように、プラムナイザーは黒刃の片手剣を振り上げて、前進する。
そこからは強引に乱打、乱打、乱打の連打。
力任せに黒刃の片手剣を縦横に振り回して、ひたすら乱打。
アイラも歯を食い縛りながら、乱打を弾き、払い、躱すがその表情に余裕はない。
「――大人しく散れっ!」
両者の剣が交錯する。
そして激しい鍔迫り合いをする。
「ハアアアッ――――」
鍔競りながら、両者は距離を取り、更にもう一度距離を詰め合う。
プラムナイザーから切り込んで、斬撃の応酬が繰り広げられる
上段、中段、下段、と激しい剣線が縦横無断に駆け巡り、硬質な金属音と火花が飛び交う。
剣の勢いではプラムナイザーがアイラを上回った。
次第にアイラの表情に徐々に焦りの色が浮かび始めた。
それを読み取ったプラムナイザーは次第に斬撃で応酬せず、軽い身のこなしでアイラの放つ斬撃を確実に躱す。
アイラの表情から焦りの空気を読み取り、プラムナイザーは攻勢に転じた。
相手の放つ刃をよけて、がら空きになった顔に目掛けて、握り締めた左拳で顔面を殴りつける。
鈍い衝撃と確か感触がプラムナイザーの左拳に伝わった。
「ぐっ!?」
アイラはその衝撃でバランスを大きく崩した。
その好機を逃さんとプラムナイザーはアイラの左腕にめがけて黒刃の片手剣で一閃する。
「き、きゃあああぁ……あああぁっ!!」
その直後にアイラは金切り声で悲鳴をあげた。
アイラは悲鳴を上げながら、黒い円盾を地に落とした。
その左手首からは血が止まることなく、流れ落ちていた。
勝敗がほぼ決まり、プラムナイザーは愉悦の笑みを浮かべた。
「終わりだぁっ! 重力波ぁっ!!」
プラムナイザーが短縮詠唱すると、左手の平に強い重力反応が生じた。
そして次の瞬間、プラムナイザーの左手の平から物凄い勢いで重力の波動が放たれた。
瞬時に危険を察知したアイラは余力を振り絞っては散開して、その重力の波動から逃れようとするが――
「何っ……逃げても追って来る!? 自動追尾式か!!
う、うわあああ……あああぁぁぁっ!!」
そして自動追尾した重力の波動がアイラの胸部に命中。
すると胸部に身につけたアイラのミスリル製の胸当てに放射状の皹が入った。
それと同時にアイラは口から鮮血を吐いて、
後方に十メーレル(約十メートル)程吹っ飛んで、背中から教会の壁に衝突。
するとアイラの両眼が虚ろになり、力なく床に崩れ落ちた。
「あ、アイラ!!」
ラサミスは思わずそう叫んだ。
だが気が付けば、眼前にプラムナイザーが立っていた。
その眼が「次は貴様の番だ」と物語っていた。
ラサミスは喉をごくりと鳴らしながら、耳錠の魔道具でナース隊長とドラガンに語りかけた。
『ナース隊長、アイラの回復を頼む! あるいは団長が介抱してくれ!!』
『……了解した!』
ラサミスは咄嗟にそう指示を出した。
この時点で彼が出した指示は間違ってなかった。
しかし眼前の女吸血鬼は彼等の行動を許すほど、甘くはなかった。
「甘いわ! 『炎の呪縛』!!」
すると次の瞬間、プラムナイザーの左掌から縄状の炎が生み出され、ドラガンに目掛けて放たれた。
「ぬ、ぬうううぅ……あ、熱い、熱い、熱いニャンっ!!」
魔力の込められた縄状の炎が、ぐるぐるとドラガンの身体を巻きついてその動きを封じた。
ドラガンの青いコートと肌を少々焦がしながらも、縄状の炎がドラガンの身体に食い込んだ。
「ど、ドラガン!?」
「ドラガン殿!?」
「まだ終わりではないわ! 我は汝、汝は我。 我が名はプラムナイザー。
暗黒神ドルガネスよ。 我に力を与えたまえ! 『悪魔の誘惑』!!」
「!?」
そう呪文を紡ぐとプラムナイザーの緋色の瞳が妖しく光った。
すると彼女に魅入られたナース隊長が苦しそう呻いた。
「な、ナース隊長!?」
「あ、あああっ……あああっ!!」
そう妖しく呻くナース隊長。
「や、ヤバい! ナース隊長が魅了された!?」
『ラサミス君、落ち着いて!! ここで慌てふためいたら全てが終わりよ。
とりあえず今アンタが出来る事をしなさい!』
と、クロエが耳錠の魔道具越しにラサミスに語りかけた。
すると混乱気味だった頭も少し落ち着いた。
そしてラサミスはふととある事を思い出した。
そうだ、この状況を打破する方法を思いついた。
しかしそれには万が一でも失敗が許されない。
残された前衛は自分一人、後衛のクロエとメイリンは優れた術者だが、
魔法に特化したタイプなので、プラムナイザーとの相性は悪い。
故にこの場でプラムナイザーとまともに戦えるのはラサミスだけだ。
「う、うううっ……あああっ……」
ナース隊長が喘ぎながら、剣帯から片手剣を抜剣する。
そして抜剣した銀色の片手剣の柄を握りしめながら、ラサミスの許に歩み寄った。
「ふふふ、同士討ちか。 貴様等、下等な人間の末路には相応しい」
プラムナイザーは完全に勝ち誇った表情でそう云った。
しかし土壇場に追い詰められて、ラサミスは逆に腹を括った。
――絶体絶命のピンチ!?
――と思いきや、ここからの打開策がないわけじゃない。
――そしてその打開策を講じたら、あの女吸血も一瞬戸惑うだろう。
――その間隙を突いて、一気にラッシュをかける!
――但しそれを成功させるには、一手も間違う訳にはいかない。
――だがこの場でそれが出来るのはオレだけだ!
――だからオレは全力で自分の役割を果たすぜ!!
次回の更新は2021年6月16日(水)の予定です。
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