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第二百四十一話 女達の戦い(前編)


---三人称視点---


「我は汝、汝は我。 我が名はナース。 神祖エルドリアよ!

 我が友ミネルバに光の加護を与えたまえ! 属性強化アトリビュートエンハンスメント!!」


 ナース隊長がそう呪文を紡ぐと、ミネルバの身体が白光に包まれた。

 これでミネルバの光属性は強化されたが、魔導騎士ルーンナイト固有魔法ユニーク・マジック属性強化ぞくせいきょうかは、一度に一人にしか使う事が出来ない。 更には再び呪文が使えるまで、約五分の時間を要する。 故にミネルバに与えられた役割ロールは重要であった。


「――『アルケイン・ガード』」


 アイラも手はず通り、職業能力ジョブ・アビリティ『アルケイン・ガード』を発動する。

 これによってアイラ自身を含めた残り七人の防御力や魔法防御が一時的に強化された。 そしてドラガンも作戦通り、付与魔法エンチャントを発動させた。


「我は汝、汝は我。 我が名はドラガン。 猫神ニャレスよ、 我らに力を与えたまえ! 『ライトニング・フォース』ッッ!!」


 これで作戦通り、強化魔法は十分にかけられた状態となった。

 そしてここからは耳錠の魔道具(イヤリング・デバイス)を使って、念話テレパシーで意思の疎通を図る。

 

『よし、一通り支援、強化魔法をかけ終えたな。

 『暁の大地』の皆はこの女吸血鬼との戦闘を経験済みだな?

 なにか助言とかはあるかね?』


『あの女の肩に乗る白猫には注意してください。

 あの白猫は猫の妖精(グリマルキン)です、魔力を吸収したりするので、

 あの白猫も敵の一匹と思った方が良いでしょう』


 ナース隊長の言葉にドラガンがそう返す。


『成る程、となると魔法攻撃の類いは控えた方がいいな。

 それ以外には何かあるかね?』


『アイツは物理攻撃も魔法攻撃も得意とするタイプです。

 特に至近距離の無詠唱の魔法攻撃には注意してください。

 前の戦いの時はアイザックさんや兄貴がそれでやれました』


 と、ラサミスがあの時の記憶を思い出しながら、そう告げた。


『そうか、ならば接近戦も厳しいな』


 ナース隊長の云う事は事実である。

 近接戦闘においては、プラムナイザーよりアルバンネイルやザンバルドの方が上であるが、魔法戦に限っては、彼女はザンバルドを上回り、アルバンネイルと比べてもそれ程遜色はない。 要するプラムナイザーは攻防のバランスが取れたタイプなのだ。 故にこの一対八という不利な状況下でも、慌てる事無く冷静に対応している。


 だからアイラやミネルバも盾や武器を構えながら、

 ジリジリと前進と後退を続けるが、なかなか攻撃を仕掛ける事は出来ない。


『ラサミス、何かいいアイデアはないか?』


『えっ? オレが云うの?』


 ドラガンの言葉にラサミスは少し戸惑い気味にそう云った。

 するとドラガンが二の句を継いだ。


『前回の戦いでも最後はお前の一撃で奴を致命傷に追いやった。

 更には最近のお前は成長著しい、だから団長としてお前の意見を聞きたい』


 するとラサミスは少し考えてから、こう返した。


『そうだなぁ。 まずはアイラがブルーミラーシールドを持って、職業能力ジョブ・アビリティ鉄壁アイアンウォール』を発動させて、あの女に接近する。 そしてラモンが前へ出て近距離射撃で攻撃。 そしてあの女が何らかのリアクションをして、隙あればミネルバが攻める。 というのはどうかな? 但し相手に間を与えては絶対駄目だ。 とにかく連続攻撃でアイツを追い詰めて、戦闘法を引き出す。 そしてあの女が弱腰になったら、オレも前へ出て攻撃参加する!』


 ラサミスの出したアイデアは単純シンプルだが、理にかなった戦術であった。

 故にドラガンは「うむ」と答え、ナース隊長も「悪くない策だ」と返した。


「よしならばアイラ、ミネルバ。 それにラモン殿。

 この役割を引き受けて貰えないか?』


『了解よ』


『ええ、いいわ』


『オーケー、オーケー、構わないぜ』


 と、アイラ、ミネルバ、ラモンも了承する。


『では拙者は基本的に中衛に待機して、誰かの魔力が減れば『魔力マナパサー』で仲間の魔力の補給をする。 ナース隊長とラサミスは状況に応じて、回復ヒールを! 後衛のメイリンとクロエ殿は対魔結界などで味方を守って欲しい』


 ドラガンの言葉にラサミス達は『了解』と快く頷いた。

 そして作戦が決まるなり、アイラとミネルバがゆっくりと前進して――


『では私がアイツを引きつけるから、後はお願い!』


『了解よ、アイラさん。 これは女の戦いよ! だから女の意地を見せてやりましょうよ!』


『ああ、そうだな。 では行くぞ、ハアァッ……『鉄壁アイアンウォール』ッ!!』


 アイラが剣と盾を構えながら、職業能力ジョブ・アビリティを発動させて素早く前進する。

 するとプラムナイザーは腰を据わらせて、右手に持った黒刃の片手剣を構えた。

 しかしプラムナイザーが魔法を撃つ気配を見せない。

 そう、彼女も前回の戦いを覚えているのだ。


 故にブルーミラーシールドで反射される事を恐れた。

 そしてそれが僅かの隙となり、その間隙を突くようにラモンが前線に躍り出た。


「さあお仕置きの時間だぜ!」


 そう言うなり、銃士ガンナーラモンは躊躇いなく黒色の拳銃の引き金を引いた。

 パン、パン、パン、パアンという乾いた音が周囲に鳴り響く。 

 だが次の瞬間、カン、カン、カアンという耳障りな音が響いた。


「う、嘘だろ?」


 両眼を見開き驚くラモン。 対するプラムナイザーは全くの無傷。

 一瞬何が起こったか、分からずラサミス達は戸惑った。

 すると後衛で見守っていたメイリンが叫んだ。


「今のは多分、念動系の対魔結界だわ。

 強力な念動系の対魔結界は物理攻撃を防ぐらしいわ!」


「成る程、そういう事か! ならばこれならどうだ!!」


 ラモンは再び右手の拳銃の銃口をプラムナイザーに向けて引き金を引いた。

 乾いた音と共に銃弾がプラムナイザーを襲う。 しかしプラムナイザーは慌てる事なく、左手から強烈な念動波を生み出し、障壁しょうへきを生成して、鮮やかな火花を散らして、ラモンの銃弾を弾き返した。 そしてその弾き返した銃弾の一つがラモンに迫る。


「チッ……ガッデム! ならばバウンス・ショットだァ!!」


 ラモンは弾き返された銃弾を左にサイドステップして回避。

 そこからやや体勢を崩しながらも、もう一発銃弾を放った。

 だが銃弾は大きく外れる。 だが外れた銃弾はプラムナイザーの後ろの支柱に当たって、軌道が変った。

 

「ぐあっ……な、何だっ!?」


 跳弾ちょうだんさせた弾がプラムナイザーの左肩に命中。 

 プラムナイザーは僅かに喘いだ。


『――今だ、このチャンスを生かすんだ!!』


『言われなくても分かってるわ! ――ヴォーパル・スラスト!!』


 ナース隊長が耳錠の魔道具(イヤリング・デバイス)越しに指示が飛ばすと同時にミネルバは猛然とダッシュする。

 そして両手で持った漆黒の魔槍まそうの穂先でプラムナイザーの胸部を狙った。

 決まれば致命傷、という一撃であったが、プラムナイザーも魔王軍の幹部。

 プラムナイザーはミネルバの放った強烈な突きを薙ぎ払いで弾き飛ばした。


「クッ……」


 と、ミネルバは咄嗟に後ろに下がって、軽く呻いた。

 するとプラムナイザーは嘲笑うようにこちらを見ていた。

 そして左手を大きく開いて、ミネルバの頭に照準を合わせる。

 それを阻止するべきく、ラモンが再び前線に躍り出た。


「させるかァっ!!」



 ラモンはまなじりを吊り上げて、腰のガンベルトからもう一丁の拳銃を引き抜いた。

 そして両手に銃を握り締めて、その銃口をプラムナイザーに向けた。


「ヘイ、コレはオレ様からユーへのプレゼントだぜ! ダブル・クイックショットッ!!」


「ふん、甘いわっ! ――念動障壁サイコバリアッ!」


 プラムナイザーは素早く印を結んで左手を前に突き出した。

 するとラモンが放った銃弾がプラムナイザーの前に発生した透明の障壁に弾かれた。

 しかしラモンはそれでも怯まず、立て続けに拳銃の引き金を引き続けた。

 カン、カン、カアン! 透明の障壁がラモンの銃弾を完璧に弾く。

 だが良く見ると透明の障壁に少しづつ皹が入っていく。


「――へいへいへい、いつまで耐えれるかなァ!?」


「――調子に乗るなァ! 重力波じゅうりょくはっ!!」


 プラムナイザーは素早い踏み込みでラモンに接近すると、左手の平から重力の波動を解き放った。 この重力波は無属性に該当する。 

 プラムナイザーは炎や闇属性だけでなく、無属性の魔法も得意としていた。


 プラムナイザーの重力波は大きさを調整できる。

 一番大きくて、普通のゴムボールくらいのサイズ。

 小さくて親指の爪くらいのサイズに調整できる。 小さいサイズなら指弾のように弾く事も可能だ。 そして今離れた重力波は小さなゴムボールくらいの大きさ。

 だがそのサイズでも十二分の破壊力と殺傷力を誇る。


「がふっ!?」


 ラモンの胸部に重力波が命中。 ラモンは堪らず床に片膝をついた。


わたくしを愚弄した事を後悔させてやる。 ――ハアアアァッ!!」


 プラムナイザーがそう叫ぶとその周辺に強烈な魔力が生じた。

 後方で待機していたメイリンが「……コレはヤバいわ、注意して!!」と叫んだ。


「――食らうが良い、連続重力波れんぞくじゅうりょくは!!」


 プラムナイザーの左手の平から重力波が連射される。


「シットッ……これはヤバいぜ」


 そう言いながらラモンは、気力を振り絞って必死な形相で迫り来る重力波を避けた。 一発、二発と交わしたが、外れたと思った三発目の重力波が地面で跳弾のように跳ねる。 そして無防備なラモンの背後から命中する。


「ガ、ガ、ガッデムゥゥゥッっ!!」


 という呻き声を上げてラモンは体勢を崩した。

 プラムナイザーはそれを待ちかねていたように、左手の指の間に小さな重力弾を生み出す。

 そしてその親指の爪くらいの大きさの重力波を指弾のように指で弾く。

 一発目がラモンの右足に、二発目が胸部に、そして三発目が腹部に命中。

 ラモンは「ゴホッ」と口から鮮血を吐くと、同時に背中から床に倒れ込んだ。


「御主人様ナイスショット!」


 プラムナイザーの近くに浮遊する猫の妖精(グリマルキン)のミアンがそう云う。

 ラモンは死んでいないようだが、これでは戦線に復帰は無理だろう。

 早くも仲間が倒れて、中衛で陣取るラサミス達の背中に戦慄が走った。


 ――こりゃマジで厳しい戦いになりそうだな。


 ラサミスはそう思いながら、引きつった笑いを浮かべるのであった。



次回の更新は2021年6月9日(水)の予定です。


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― 新着の感想 ―
[良い点] 魔法が得意なものは、接近戦が苦手な事が多い中、幹部は凄いですね。 プラムナイザー侮れない。……これで、マリンからの魔力吸引とで多少の回復が出来るのなら攻防の隙がない。それに、腰に携えた短剣…
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