第二百二十八話 第二次大猫島海戦(後編)
---三人称視点---
「――ファルコン・スラッシュ!」
ライルはそう技名を叫んで、手にした白銀の宝剣を振るった。
「グ、グギャアアアッ!!」
断末魔を上げるガーゴイル。
ラサミス達は帆柱を護りながら、迫り来る敵飛行部隊を次々と切り捨てて行く。
「――喰らいなぁっ! 『一の太刀』
ラサミスもライルに続かんと、
手にした日本刀を水平に振るい、半人半鳥のハーピーの喉笛を切り裂いた。
「ア、アアアァァァッ!!」
これで既に三十体以上の敵モンスターを切り捨てたが、上空にはまだまだ敵の姿が見えた。
流石の竜騎士団も敵の飛行部隊相手に手こずっているようだ。
だからラサミス達は周囲だけでなく、上空にも視線を向けていた。
「チッ、これじゃキリがないわ」
「確かに……でもそうこうしている内に前方の敵艦隊が近づいてきたわ」
軽く舌打ちするミネルバに同調する戦乙女のジュリー。
ジュリーの言うように、いつの間にか敵艦隊との距離も詰まっていた。
敵艦隊は女海賊アナーシアが乗る真紅のエルフィッシュ・ガレアスを総旗艦として、右翼、本隊、左翼に分かれながらも、陣形を保ちながら、前方へと進む。
それを迎え討つ猫族海賊側も艦隊を左翼、本隊、右翼の三つに分けた。 本陣が置かれる本隊の総旗艦ブラック・サーベル号が陣営のほぼ中央に陣取る。
本陣をかかえる本隊は、猫族ガレアス二隻、猫族ガレー四隻で構成されている。 各艦隊を他と識別する為に旗の色を本隊は黒、左翼は赤、右翼は水色の三色に分けた。
赤い旗の左翼は、猫族ガレアス一隻、猫族ガレー四隻で構成されており、この左翼部隊の指揮官は、猫族海賊の副頭目 キジトラ白猫のファンが指揮する。
一方、ガレアス船一隻、ガレー船六隻からなる水色の旗の右翼艦隊は、竜人海賊の頭目オルシードが指揮する。 また傭兵隊長アイザックが率いる傭兵部隊もオルシードが乗船する旗艦カルバーリティに同乗している。 既に各艦隊、準備を整えていた。 後は戦いの合図を待つばかりであった。
一方のダークエルフ海賊艦隊も半月を思わせる弓形陣型を取りながら、
魔法部隊の一部が風魔法で、前回の戦いに負けて奴隷となった敗残兵達が鞭に打たれながら櫂を漕いだ。
そして両軍の距離が400Mくらいに狭まるなり、ダークエルフ艦隊の魔法部隊が一斉に魔法攻撃を開始した。
しかし猫族海賊側はキャプテン・ガラバーンの命令通り対魔結界やレジストで相手魔法を防いだ。
「メイリン、相手は風魔法で旋風を巻き起こすつもりだわ! こちらは砂嵐でレジストするわよ!」
「リリアさん、了解ッス!!」
「私も手伝おう! 我は汝、汝は我。 我が名はベルローム。 ウェルガリアに集う土の精霊よ、我に力を与えたまえ! 消え去れっ!! ――砂嵐!!」
賢者ベルロームが素早く呪文を紡いで、英雄級の土と風の合成魔法を唱えた。
激しく渦巻いた砂風が、敵の放った旋風と交わり、激しい魔力反応を起こした。
そしてベルロームの放った砂嵐が敵の旋風を飲み込み、あっさりと無効化した。
「す、凄いッス! ベルロームさん!」
「メイリン、感心してる場合じゃないわ。 私達もレジスト、あるいは対魔結界を張るわ!」
と、リリア。
「りょ、了解ッス!!」
その後もダークエルフ艦隊の魔法部隊は何度も魔法攻撃を仕掛けてきたが、
猫族海賊側も焦らず一回、一回レジスト、あるいは対魔結界で防御した。
しかし短期間に大量の魔力を消費して、疲弊する魔法部隊。
それと同時に魔法戦士などの職業が『魔力パサー』で仲間に魔力を分け与えた。
そういった魔法での攻防戦が続くなか、猫族海賊側の狙撃部隊がマスト上から敵の魔法部隊を狙撃する。 マリベーレをはじめとした魔法銃士部隊が敵の攻撃を躱しながら、的確に敵兵を狙撃する。 だがダークエルフ艦隊は怯むどころか、更に魔法攻撃を仕掛けて、漕ぎ手達に全力で櫂を漕がさせた。
そしてとうとう両軍の距離が200~300Mくらいに縮まった。
するとそれを待ちわびていたように、キャプテン・ガラバーンが再度高らかに叫んだ。
「よし、全軍よく耐えた。 ここからは大砲で攻撃しろ! とにかく撃って、撃って、撃ちまくるんだ! 魔法部隊は後方に下がって今まで通りレジストと対魔結界を張れ。そして各艦隊の白兵戦部隊に告ぐ! ここからはキミ達の活躍の舞台だ。 敵船が接舷してきたら、力業で押し返してやれ! さあ、ここからが本番だぞ!」
そして魔法戦が終わり、砲撃戦が始まるのであった。
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午後三時を少し過ぎた時刻、真紅のエルフィッシュ・ガレアスの総旗艦エスペリオン号から砲音が響き渡った。
それに対して猫族海賊側の海賊船からも大砲が放たれる。
それが砲撃戦の開始の合図となった。
まず最前列に並ぶ総旗艦ブラック・サーベル号の砲台が火を吹いた。
凄まじい轟音と共に櫂を漕いで前進中のダークエルフ海賊艦隊のガレー船数隻に砲弾が命中。
猫族海賊側はガレアス船を「浮かぶ砲台」として、更に大砲を放った。
「全艦隊に告げよ、攻撃準備だ。 砲門を開きありったけの砲弾を敵艦に向けて放て!」
キャプテン・ガラバーンが携帯石版で各部隊の艦長にそう告げると、水夫と海賊達が慌ただしく艦内を走り回り、砲座についた。
「砲につくニャン!」
「砲門を開くニャン!!」
「攻撃ニャ!!」
「大砲発射ニャ!!」
総司令官ガラバーンの指示通り猫族海賊の艦隊は一斉に大砲の轟音を鳴らして撃ち放つ。
するとダークエルフ海賊艦隊の頭目アナーシアも携帯石版を左手で持ちながら、高らかに叫んだ。
「――怯むな! こちらも反撃するのよ! 撃って、撃って、撃ちまくれ!!」
するとアナーシアの言葉に呼応するように海賊達も自らの役割を全うする。
「了解、砲座につきましたぜ。 砲門を開け!!」
「了解!!」
「んじゃ行くぜ! ――くたばれネコ共!」
お互いに激しい砲撃戦を繰り広げるが、徐々に戦局に変化が出始めた。
半月型の陣形は崩れ、ダークエルフ海賊艦隊は一列になって接近してきた。
しかし猫族海賊艦隊は慌てることなく、冷静に大砲で迎撃する。
ダークエルフ海賊艦隊の砲撃は、敵艦のマストや帆を狙うものであった為、多くの弾丸が無駄となったが、猫族海賊艦隊の砲撃は水平射撃で敵艦の船体を狙ったので、木造の船体を著しく損傷させ、 砕け散った木片は砲弾同様、あるいはそれ以上の恐るべき殺傷効果をもたらして周囲に飛散する。
またダークエルフ海賊艦隊の大砲は、点火から発射までに時間がかかる旧式な火縄式点火を採用していたのに対して、猫族海賊艦隊の大砲は、火打ち石を使った撃発式点火を採用していたので照準を決めるとすぐに発射することが出来きた。
このため猫族海賊の砲撃の命中精度はダークエルフ海賊艦隊よりもはるかに上回ったのであった。
「まだだ! もっと撃て!! 魔法部隊は敵の魔法攻撃をレジスト!
あるいは大砲発射後に火炎、あるいは光属性で魔法攻撃をするんだ!!」
と、キャプテン・ガラバーンは右手に持った拡声効果のある魔道具に向かって叫んだ。
「ニャニャニャ、大砲についたニャン!」
と、猫族の砲兵。
「砲門を開いたぞ!!」
と、告げるヒューマンの水夫。
「了解ニャン!!」
「大砲発射っ!!」
次々と面白いように猫族海賊艦隊が放つ砲弾が敵艦隊に命中して、北ニャンドランド海は火の海と化した。
砲弾を受けて帆が炎に包まれ、砕け散った木片が飛び散り海賊達に襲いかかる。
艦の中枢部に砲撃を受けた船は海上で漂流しながら、自爆覚悟で大砲や魔法で反撃したが、最後には撃沈された。
だがそんな中でもダークエルフ海賊艦隊は臆する事無く、前進を続けた。
左翼、右翼、本隊を問わず、両軍の船の櫂はお互いにかみ合い、接近するなり敵船に乗り移った。
敵船に乗り移るのに距離がありすぎれば、かみ合った櫂を伝わり、ジャンプして飛び移った。
漕ぎ手や水夫も櫂を漕ぐのを辞めて、手頃な物を武器代わりにして、戦線に加わった。
そして敵味方ともにガレー船同士が櫂をかみ合わせて、一進一退の白兵戦を繰り広げた。
こうなればガレアス船を「浮かぶ砲台」として使う事も出来なくなった。
敵船を砲撃によって倒すことが出来ても、味方の兵を殺してしまったら意味がない。
「これでは迂闊に動く事は出来ぬ」
ガラバーンは渋面になり、そう呟いた。
「キャプテン! 敵の総旗艦らしき真紅のガレアス船がこちらに急速に迫ってますぜ!」
と、近くで猫族海賊の一員が叫んだ。
「なっ! 間違いない、あれは敵の旗艦――エスペリオンだァっ!」
「……キャプテン・ガラバーン。 どうするおつもりですか?」
山猫騎士団の騎士団長レビンがそう問う。
するとガラバーンは何秒か考え込んでから、こう告げた。
「こうなれば迎え討つべきでしょう! 全員、白兵戦の準備に入るんだ! 基本的に攻撃役が前へ出て、魔法職や回復役は後衛に下がって支援するように! それ以外の職業は臨機応変に動いてくれ! さあ、ここから先の戦いは厳しいぞ! だが臆するな! 皆で協力すれば必ず勝てる!!」
そして周囲の海賊や冒険者、猫騎士達は手にした武器を構えて、臨戦態勢に入った。
それから敵の総旗艦がこちらの船体にぶつかり、甲板上が大きく揺れた。
そこから敵は標的となる船への乗り込みを可能にする固定杭付の跳ね橋をブラック・サーベル号の船体強引に打ち付けた。
「よし、この手でネコ共、ネコと手を組む愚か者達を切り捨てるわよ!
ただし敵のボス猫――ガラバーン・ソシオナイツには手を出すな!
彼奴の首はこのアナーシアが自らの手で跳ねてやる!!」
そして敵の頭目アナーシアは手にした曲剣を頭上に掲げて、声高らかにこう叫んだ。
「――全軍突撃! 目に付く物は全て切り捨てろ!!」
「おおおっ!!」
そして総旗艦と総旗艦による白兵戦が始まった。




