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【天使編開始!】黄昏のウェルガリア【累計100万PV突破】  作者: 如月文人
第三十九章 猫族海賊(ニャーマン・パイレーツ)
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第二百二十一話 セントライダー島へ向かえ!(前編)


---ラサミス視点---


 翌日の1月9日。

 オレ達はニャンドランド城の食堂で食事を取った。

 相変わらず料理の味は少し微妙だった。

 まあ食えるレベルだからいいけどね。

 そしてニャンドランドの城下町の冒険者区の瞬間移動場テレポートじょうからリアーナまで一っ飛びした。


 それから拠点ホームに戻り、談話室にオレを含めた八人の団員を集めてドラガンの口から今後の方針が説明された。


 そしてドラガンの方針に異を唱える者も居なかったので、今日は旅の準備に専念して、ゆっくり静養する事となった。 とりあえずオレはエリス達を引き連れて、リアーナの商業区で回復薬ポーションなどの消耗品を買い溜めした。


「買い物も無事終わったな」


「うん、結構買い溜めしちゃったね」と、エリス。


「明日からは忙しくなりそうね」と、ミネルバ。


「だろうな。 ゆっくりできるのは今日で最後だろうな」


「ねえ、ラサミス。 良かったら今晩、娯楽区へ行かない?」


 と、エリスが上目遣い気味にそう言ってきた。

 まあ鈍いオレでもエリスの好意には流石に気付いている。

 だが今日は瞬間移動テレポートしたので、頭が少し痛い。

 だからここは丁重良くお断りしよう。


「悪い、エリス。 今日はちょっと瞬間移動テレポート酔い気味だからパスするわ……」


「……そう、ならいいわ。 ゆっくり休んでね!」


「……ああ」


 結局、エリス達四人は夜十九時に娯楽街の劇場で演劇を観ることとなり、

 オレは一人で拠点ホームに戻り、料理人シェフのジャンが作った夕食を綺麗にたいらげた。 そしてシャワーを浴びて、早い目に床についた。



 翌日の1月10日。

 オレは思いの他、早く目が覚めたのでポン刀『如月』を持って

 拠点ホームの庭で素振りして、汗を流した。


 とりあえず初級から中級の刀術スキルを中心に如月を振るった。

 それと少し気が早いが、刀術による独創的技オリジナル・スキルを模索してみた。 兄貴やアイザックの独創的技オリジナル・スキルは比較的シンプルな技だが、オレとしては連続技に憧れている。


 しかし魔族、特に幹部相手にそんな簡単に連続技は決まらない気がする。

 とはいえ最初から可能性をぜろにする事もないか。

 とりあえずこれからはもっと真剣に刀術を磨こう。


 そしてオレは拠点ホームの浴場のシャワーボックスで汗を流した。

 それから食堂で朝食を早く食い終えてから、自室に戻った。

 とりあえず今度の遠征で持っていく者を選別しないとな。


 ポン刀に関しては、『霧島きりしま』と『雪風ゆきかぜ』を持っていこう。

 出し惜しみして死んでしまったら馬鹿らしいからな。

 後は聖木で出来たブーメラン、それと投石紐スリングも持っていくか。


 回復薬ポーションや解毒剤の類いも忘れてはいけないな。

 そうだな、魔法を使う機会が増えそうだから、魔力回復薬マジック・ポーションも持っていくか。 そんなこんなでオレは準備を終えて、拠点ホームの玄関に向かう。

 すると既に兄貴、ドラガン、アイラ、ミネルバが支度したくを終えて待っていた。


「おう、ラサミス。 早いな」


 と、右手を上げるドラガン。


「もう準備はいいのか?」


「ああ、兄貴。 準備万端さ」


「エリス達はまだなのか?」と、アイラ。


「女の身支度は時間がかかるものさ」


「コラ、ラサミス。 私も女だぞ?」


 と、少し不機嫌になるアイラ。


「悪い、悪い、悪意はないよ」


 などとオレ達は軽口を叩き合った。

 そしてしばらくしてエリス達が合流した。


 ちなみにオレは武器は腰の剣帯に『霧島』と『雪風』を二本差しにして、聖木で出来たブーメランと投石紐スリングも携帯している状態。


 防具は黒のインナーの上に、幻獣の皮の黒灰色のベスト。

 下はブルードラゴンの皮で作られた青いズボンに革製の黒いブーツ。

 両手には、暗黒竜の皮で出来た漆黒の手袋グローブ

 そしてその上から防刃性の漆黒のフーデットローブを羽織るという格好。


 他の皆は大体いつもと同じ格好だ。

 兄貴は黒のインナーの上に緋色の魔法の軽鎧ライトアーマー

 頭にはいつものように、羽根付きの臙脂色えんじいろの帽子を被っている。

 ドラガンも青いコートに、頭上に白い羽根飾りのついた青い帽子という格好。


 アイラやエリス、メイリンもほぼ普段着だ。

 違う点があるとすれば、エリスが白い法衣の上から胸当てを装着しているくらいだ。


 ミネルバは、黒いインナーの上から、黒い軽鎧ライトアーマー

 そしてミスリル製の黒い手甲と鉄靴を装備しており、その上から黒いフーデッドローブを羽織っている。


 マリベーレもいつも純白の軽装に額に眼装ゴーグル

 そして背中に銀色の魔法銃とバックパックを背負っていた。

 というかマリベーレだけでなく各自、それそれ背中にバックパックを背負っている。


「よし、皆集まったな。 では瞬間移動場テレポートじょうへ向かうぞ」


「「「ああ」」」「「「「「はい」」」」


---------


 三十分後。

 オレ達はリアーナの瞬間移動場テレポートじょうから猫族ニャーマン領の中堅都市ホルトピックへ瞬間移動テレポートした。 全員無事に転移てんいを終えた。


 本来ならこのホルトピックから港町クルレーベまで瞬間移動魔法テレポートひとびしたいところだが、先の戦いでクルレーベはかなり深刻な損害を受けた状態らしい。 それでいて軍港は開いており、街の中には海兵マリーンや水夫がたくさん居て少し殺伐とした空気らしい。


 また商売根性に長けた商人なども多く、物資は流通している状況らしいが、もしクルレーベがまた陥落したら、一大事となる。なので万一に備えて、瞬間移動場テレポートじょうは閉鎖している状態との事。


 そういうわけなので、オレ達はホルトピックで三時間程、休んだ。

 オレとドラガン、兄貴はここ数日で瞬間移動魔法テレポートしまくってるからな。

 急に瞬間移動テレポート酔いする危険性があるから、ここはゆっくりと休むべきだ。


 そして休憩が終わり、ホルトピックの冒険者区で馬を借りた。

 ああ、正確に言えばドラガンはポニー、ミネルバは騎乗竜ランギッツを借りていた。

 とりあえず準備も整ったので、オレ達はクルレーベを目指してヒムナート平原へ進んだ。


「ああ、ここでの激戦を思い出すわねえ~」


 と、騎乗竜ランギッツに騎乗したミネルバがそう言った。


「まったくだ。 あの大結界が張られた時はマジで焦ったぜ」


「そうね、アレはヤバかったわ」


 と、メイリンが相槌を打つ。

 あの大結界を張ったのは、あの女吸血鬼に回復魔法をかけたあの女魔族のような気がする。

 アイツはなんというか冷静なタイプだと思う。

 それでいてかなりの魔法の使い手だ。

 そして常識的に考えれば、今度の戦いにあの女魔族も参戦するだろう。


「しかしオレ達は艦隊戦の経験がないからな。 今度の戦いは事前に作戦を立てておかないとヤバい気がする」


「まあそれは拙者も思うが、我々に作戦を決める決定権はない。 だから余計な口は挟まない方がいいぞ。 上に嫌われるだけだ」


「いやさ、それも分かるけどさ。 なんというかオレ達――連合軍の戦いって結構場当たり的だと思うんだよな。 だからここら辺で何か手を打つべきだと思うぜ」


「ラサミス、お前の云わんとする事は分かる。

 だが俺達は所詮、冒険者――雇われ兵に過ぎん。

 ドラガンの云うように何か云っても邪険にされるだけだ」


 むう~。 まあドラガンや兄貴の言う事も分かる。

 しかし既に海戦、艦隊戦では敗北を喫したのだ。

 だから何かを改めないと、前回の二の舞になる危険性が高い。


「でもアタシはラサミスの云う事に同意かな。

 戦いに参加する以上、アタシも死は覚悟している。

 でも最低限納得できる状況じゃないと死にたくないわ。

 だから無駄かもしれないけど、団長やライルさんも一応は上へ意見を言って欲しいわ」


 珍しくミネルバが自分の意見をハッキリ云った。

 そうなんだよ、オレもミネルバとまったく同じ心境だ。

 だけどオレやミネルバが上層部に意見を云っても反発を買うだけだ。

 だから無駄かもしれんがここは団長や兄貴に意見を云って欲しいんだ。

 するとドラガンと兄貴もその辺を察したのか、ゆっくりとした口調でこう返した。


「……まあミネルバも云う事も一理あるな。 分かった、善処しよう」


「……ああ、そうだな。 無駄かもしれんが我々も動いてみるよ。

 だが今からその辺に気をまわしていたら、この先神経が持たなくなるぞ。

 だから今はあまりその辺の事を考えず、気楽にするといい」


「……了解だわ」


 ミネルバは兄貴とドラガンの言葉に一応は納得したようだ。

 そしてオレもその言葉に納得したので、それ以上は口を挟まなかった。

 それからオレ達は殆ど会話せず、ひたすらヒムナート平原を突き進んだ。


 その道中で何度かモンスターと遭遇したが、

 その都度、オレ、兄貴、ミネルバの三人の攻撃役フォワードで蹴散らした。

 そしてひたすら馬で平原を駆けて、数時間後。


 もう既に日も落ちきって、周囲もすっかり暗くなった頃にようやく港町クルレーベに到着した。 オレ達はとりあえず南口から街の中に入り、馬屋に馬を預けた。 そして馬屋で冒険者区の場所を聞き、冒険者区で宿屋を探した。


 しかしなかなか泊まれる宿屋が見つからなかった。

 よく見ると夜の街を歩いているのは、海兵や水夫などの少し荒くれ者風の男達ばかりだ。

 種族に関してはまばらだが、猫族ニャーマン領にしては猫族ニャーマンが少ないと思う。

 やはりあの時の戦いで多くの猫族ニャーマンが亡くなったのだろうか。

 そう思うと胸が痛むぜ。


 結局三十分程、宿を探したが泊まれる場所は見つからなかった。

 だからオレ達は冒険者ギルドに向かい、ギルドの職員に泊まれる場所はないかと相談した。

 だがギルド職員曰く――


「現状ではこの街は復興途中でありまして、

 基本的に海兵や水夫の方を優先して宿泊の場を提供しております」


 と、返された。

 だが兄貴とドラガンがS(クラス)の冒険者と分かると、態度を改めた。

 そしてあまり綺麗ではないが、泊まるには問題ない安宿を紹介してもらった。

 

 こりゃ、風呂もシャワーもついてそうにないな。

 それが分かると女性陣は露骨に不機嫌な表情になったが


「これは団長命令である。 不平は受け付けん!」


 と、ドラガンが云ったので女性陣も不承不承それに従った。

 そしてオレは兄貴、ドラガンと一緒に一階の部屋に泊まった。

 オレは部屋についくなり、武装解除、更にラフな格好になりベッドに寝そべった。


「クルレーベも思った以上に厳しい状況みたいだね」


「そうだな、もし万が一ここがまた陥落したら、色々と不味そうだな。

 コレは次の戦いで負けるわけにはいかんな」


 と、ドラガンが独り言気味にそう呟いた。


「ああ、これは魔王軍を猫族ニャーマン領本土に上陸させるわけにはいかんな。

 そうだな、俺も少し真剣に考えてから、上層部に意見を云ってみるよ」


 兄貴も神妙な声でそう言った。

 どうやらドラガンや兄貴も事態の深刻さに気付いたようだ。

 そうなんだよ、一度でも魔王軍に本土を侵攻されたら街や国中が滅茶苦茶になるんだよ。

 旧文明派のエルフ族を見ればそれが分かる。


 今はギリギリこちらが有利に見えるが、戦況なんてすぐ一転するからな。

 だからこれからの戦いは一戦、一戦気を抜くわけにはいかない。

 と思いつつもオレに出来ることは限られている。

 まあいい、今日は疲れた。 だから今夜は大人しく眠るぜ。



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