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【天使編開始!】黄昏のウェルガリア【累計100万PV突破】  作者: 如月文人
第三十八章 追風(おいて)に帆を上げる
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第二百十七話 ラサミス、イメチェンする!(後編)


---ラサミス視点---


 そしてオレとメイリンは商業区の高級店を目指して歩き始めた。

 五分ほど歩いて、高級店が建ち並ぶ商業区のメインストリートに到着。

 高級店の周囲はやはり賑わっており、その近くを歩く通行人や

 冒険者の身なりも少し上品な雰囲気を醸し出していた。


 商業区のメインストリートの北側に高級店がずらりと並んでおり、

 剣や槍、弓、盾などの様々な武具をかたどる看板が店の出入れ口に飾られている。

 

「う~ん、とりあえずこの剣の看板の店に入ってみるか?」


「うん、それでいいわよ」と、メイリン。


 そしてオレとメイリンは高級そうな樫の木の扉を開いて、店の中に入った。

 おお、色々と武具が取りそろえられているな。

 奥には工房があるみたいで、

 鍛冶師かじしらしきヒューマンの老人が槌を振るっていた。


「はい、いらっしゃい~」


 と、元気な声が前方から聞こえてきた。

 視線をそちらに向けると、体格の良い中年のヒューマン男性が

 カウンター越しにこちらを見ていた。

 その左隣に20代半ばと思われるヒューマンの女性がニコニコとしていた。


「すみませ~ん、オレ達、初めての客ですが、武具売ってもらえますか?」


「ああ、ウチは客を選ばんよ。 ただし代金はキッチリ払ってもらうよ」


「あ、金ならあります」


 と、オレは右手に持った金貨の入った革袋を店主らしき中年男性に見せた。


「ほう、若いのに稼いでるみたいだな。 いいだろう、何が欲しいんだ?」


「あ、こっちのコは高級な杖が欲しいみたいです。 オレは日本刀にぽんとうが欲しいです。 それなりの物とかなり値が張る物を!」


「了解、パティ、そっちのお嬢ちゃんに杖を見繕ってあげて!」


「はい、は~い。 じゃあ可愛いお嬢ちゃん、こっちに来てお姉さんと話そうか」


「はいッス! 自分、メイリンという名の魔導師ソーサレスッス!」


 どうやらメイリンは瞬く間にあの女店員と打ち解けたようだ。

 メイリンってコミュ力高いよな。 少し羨ましい。


「じゃあ、あんちゃんの相手は俺だな。 俺はスコット、よろしくな」


「自分はラサミス・カーマインと言います。 スコットさん、よろしくです」


「ラサミス・カーマイン? はて? 聞き覚えのある名前だな」


「あ、そいつ、この間あったフィスティング大会の準優勝者ッスよ!」


 馬鹿、メイリン! いちいち相手に教えるな――


「ああぁっ~!? あのルーベン・オリスターに勝ったあのヒューマンのあんちゃんか!? 決勝戦は惜しかったな。 で賞金入ったから装備を買いに来た感じかい?」


「ええ、まあそんな感じです」


「オーケー、オーケー。 欲しいのはポン刀だろ?

 じゃあこれなんかどうだい?」


 するとスコットは黒鞘に収められた一振りの刀を持ってきた。

 そしてスコットはそれを手に取り、抜刀してみせた。

 長さは80セレチ(約80センチ)ぐらいありそうだな。

 白光りする刃がなんともカッコいい。 これは欲しい!


「おおっ。 なんか結構見事な刀身ですね」


「おうよ、でもポン刀は基本片刃だからその事を忘れるなよ。

 それと定期的にウチに刀を研ぎに来い。 それが売る条件だ」


「はい、分かりました」


「了解。 この刀のめいは『霧島きりしま』だ。

 値段は少し高いぞ。 150万グラン(約150万円)だ!」


 150万かぁ~。 確かに少し値を張るな。

 だが何となくだがこの刀が気に入った。 だから買う事に決めた。


「了解です。 では現金キャッシュで一括払いします」


「お、おう」


 オレは革袋に詰まった金貨と銀貨で150万グラン分の代金を支払った。

 するとスコットが少し探りを入れるような口調で訊いてきた。


「……ラサミスの兄ちゃん、結構、いやかなり金持ってるんだな」


「ええ賞金ががっぽり入りましたからね。 

 だから良い品ならば、現金キャッシュの一括払いで買いますよ」


「そ、そうか。 ならばこちらとしても取っておきの品を用意するぜ!」


「そうですね。 とりあえず上限を500万にするんで、そこの所よろしくッス」


「500万!? お、おい……パティッ! 今ウチにある一番高いポン刀って何処にあった!?」


「え~と刀のことは分からないわ。 お義父とうさんに聞いてよ!」


「わ、分かった。 ラサミスくん、ちょっと待っててくれよ」


 そう言ってスコットは奥の工房へ入って行った。

 すると鍛冶師かじしらしきヒューマンの老人と何やら話込んでいた。

 というかあのパティという女性ひとがお義父とうさんって呼んでたな。 つまりこの二人は夫婦であの鍛冶師がスコットの父親なのか? しばらくすると工房の奥から、スコットと鍛冶師の爺さんが激しい口論の声が聞こえてきた。


「馬鹿! 親父は昔気質むかしかたぎ過ぎるんだよ! 売れる時に売る! これが商売の鉄則だろ!!」


「ふん、ワシも安物の武具なら文句は云わんわ。

 だがあの名刀『雪風ゆきかぜ』は一流の刀じゃ。

 だからワシとしては一流の剣士にしか売りたくない!」


 ん? なんか喧嘩しているな。

 要するに爺さんは何処の馬の骨か分からん奴には売りたくないって事か?

 やれやれ、客を選んでいるんじゃねえよ。

 しゃねえ、他の店でもっと良い刀をさが――


「おい、小僧。 お前は何の為に名刀を求めるんだ?」


 と、右手に槌を持った作業服姿の鍛冶師の爺さんが問いかけてきた。

 え? 何? これなんか答えないといけない感じ?

 面倒臭い爺さんだな。 まあでも一応答えておくか。


「今オレのパーティには、三人の剣術使いが居るから、

 オレはあえて刀術とうじゅつ使いになろうと思っててね。

 だからぶっちゃけ名刀が欲しいわけ。 刀術の腕はこれから

 磨く予定だけど、オレも軽い気持ちで刀術使いになるわけじゃないよ」


「……ふむ、ありきたりな理由じゃな」


 悪かったね。 でも理由なんてありきたりでもいいと思う。

 難しい理由やお題を掲げたら、偉いというわけじゃないからね。

 でもこの爺さん、少し……いやかなり偏屈そうだな。

 状況によっては、他の武器屋へ行こうかな。


「しかしお前さん、若いな。 いくつだ?」


「え? 十七歳だけど?」


「それで名刀の為なら五百万出すというのは、

 若者にしては随分大胆だ。 何故そこまでして名刀を求める?」


「ああ、オレ、今は休暇中だけど、四大種族連合軍に従軍してるんだ。

 そしてオレ達が戦うのは魔族さ。 まあとにかく奴等は強いんだ。

 だから奴等に勝つ勝率を上げる為に自己投資している、ってわけさ」


「……そうか、お前は魔族と戦ってるのか」


「なあ、親父。 この若さで刀一本に五百万出すというのは、並の奴じゃできねえ芸当だ。 だからコイツは『雪風ゆきかぜ』を持つのに相応しい剣士と思うぜ!」


「……良かろう、ただし売る条件が一つある。 それは定期的にウチに来て刀をがせろ。 他の剣もそうだが、刀というものは繊細な刃物だからな」


「分かった。 リアーナに戻った時は必ずここへ来るよ」


「うむ、ではちょっと待っておれ」


 そう言って老鍛冶師は奥の工房に引っ込んだ。

 それからしばらくすると、黒鞘に収まった一本の刀を持ってきた。

 そしてその黒鞘に収まった刀を無言でオレに差し出した。


 重さはまあまあってところだな。

 刀身は90セレチ(約90センチ)くらいってとこか?

 そしてオレは刀を手に取り、鞘から抜いて見せた。


「……凄い!」


 オレは白光りする美しい刀身を見ながら、思わずそう呟いた。

 鏡のように光った美しい刃、だがそれでいて何でも切れそうな鋭さがある。

 オレは刀やポン刀の知識は大してないが、

 素人のオレが見てもこの刀が名刀だと一目で分かった。


「……どうじゃ? お前さんにこの雪風が使いこなせるかのう~?」


「正直今は無理かもしれん。 だが必ず使いこなせるようになってみせる。

 だから頼む、親父さん。 オレにこの刀を――『雪風』を売ってくれ!」


 気が付けば、オレは老鍛冶師に向かって頭を下げていた。

 すると老鍛冶師は「うむ」と頷いてから、笑顔で二の句を継いだ。


「お前さんは真っ直ぐな性格みたいだな。

 最近の若い者にしては珍しいな。

 この黒の剣帯けんたいはおまけでやろう。

 だから『霧島』と『雪風』を二本差しにしてみろ」


「はい!」


 オレは爺さんから黒の剣帯を受け取り、腰に巻いてみせた。

 そして『霧島』と『雪風』を腰に巻いた剣帯に二本差しにしてみせた。


「ほう、結構似合ってるじゃないか。

 良かろう、その二本の刀をお前さんに売ってやるよ」


「ホントですか!? ありがとうございます!!」


「ふう、ようやく親父のお許しが出たか。

 じゃあラサミスの兄ちゃん、二本あわせて650万きっかり払ってくれよ!」



 オレはスコットの言葉に「はい」と返事して、

 手に持った金貨がぎっしり詰まった革袋から、金貨と銀貨を取り出した。

 とりあえずこの革袋一個分の金貨でなんとか払えそうだ。

 そして五分程かけて、きっちり650万丁度で支払いを済ませた。


「毎度あり! また来てくれよな!」と、スコット。


「うむ、刀に慣れるまでは、しばらく霧島だけ使っておけ。

 刀は繊細な刃物だから、使いすぎると刃こぼれするからのう~」


 と、老鍛冶師。


「はい、リアーナに戻った時は必ずここに来ます!!」


 とりあえずこれで買いたい物は買えたな。

 ちなみにメイリンも大聖林の聖木で作られた杖を250万で買った模様。

 先端に高純度の翠玉エメラルドがついている白木の杖だ。

 そしてオレ達は拠点ホームに戻る帰り道の間、言葉を交わし合った。

 

「メイリンも随分つぎ込んだんだな」


「まあね、アンタの言うようにこれも自己投資の一貫よ。

 銀行に貯金を残したまま、戦死しても無意味だからね。

 だから勝つ為に、生き残る為にあたしも投資したというわけ」


「まあ確かにな。 でもこれでメイリンの火力も上がるし、オレもアタックヒーラーになったから、パーティのバランスもぐっと良くなったな」


「うん、というか最近のアンタはマジで凄いわよ?

 自分で薦めておいてなんだけど、まさか無差別級大会で準優勝するとはね。

 アンタも自分が思っている以上に強くなってるわよ」


「そりゃどうも。 まあ今後の戦いは更に厳しくなるだろうからな。

 だから悔いが残らないように、自分がやれることはやっておきたいのさ」


「うん、分かる。 あたしも同じよ」


「そうか」


「……そうよ」


「なんかメイリンに褒められると調子が狂うぜ。

 昔はいつも馬鹿にされてたからな」


 と、オレは少しおちゃらけてそう言った。

 だがそれに対するメイリンの言葉は意外なものであった。


「そんな時もあったけど、今は違うわ。

 今のアンタは普通に凄い奴になりつつあるわ」


「え?」


「まあ自分じゃあんまり分からないか。

 とにかく今のアンタは結構凄い奴なのよ。

 そして伸び代もまだまだある。 だからもっと自分に自信を持ちなさい」


「お、おう……ありがとうよ」


 メイリンにこんな感じで褒められるのは初めてだ。

 だが不思議と悪い感じ、否、ハッキリ言おう。

 これは素直に嬉しい。 そっか、オレも成長してるんだな。

 ならもっともっと頑張るぜ。


 そして拠点ホームに到着。

 オレは今日買った新装備を試着して、皆に見せびらかせた。


「ほう、いい感じだな」


「そうね、なかなかカッコいいわよ」


 兄貴の言葉にアイラも同調する。


「うむ、見事なイメチェンだな」


「ウッス、団長。 ありがとうッス!!」


「うんうん、私も凄くカッコいいと思うわ」


「あ、あたしも」


「うん、うん、なかなか良い感じだわさ」


 エリスとマリベーレとカトレアもそう褒めてくれた。


「アンタも黒い格好好きなのね。 あたしも好きだけど」


「おうよ、ミネルバなら分かってくれると思ったよ」


「まあアタシも結構似合ってると思うわ」


「メイリン、ありがとよ!」


「いえいえ~」


 どうやら比較的皆の受けが良いようだ。

 まあなんというか上級職ハイクラスになったから、

 とりあえず格好から入ってみた、って感じだ。


 ちなみにエリスも新たにミスリル製の錫杖を65万で購入したらしい。

 マリベーレの魔法銃の整備も上手くいき、弾の補充も済ませたようだ。

 そんな感じでオレ達は和気藹々と談笑しながら、

 食堂でジャンの美味い料理を皆で楽しく食べた。


 うん、こういう雰囲気は久々だから嬉しいぜ。

 まあもう少しすれば、また戦いに明け暮れる日々が

 来るだろうが、今ぐらいはゆっくり休むぜ。



次回の更新は2021年4月17日(土)の予定です。


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― 新着の感想 ―
[一言] なんと!ボクサースタイルから、 刀術スタイルへと切り替えですか! かなりのイメチェンですね。
2021/08/14 08:13 退会済み
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