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【天使編開始!】黄昏のウェルガリア【累計100万PV突破】  作者: 如月文人
第三十七章 プライドを捨てた戦い
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第二百十四話 プライドを捨てた戦い(後編)


---ラサミス視点---


 しかし本当に酷い試合になったなぁ。

 対戦相手のオリスターも酷いが、レフェリーも酷い。

 ついでに言えば、こんな試合を許してる大会運営はもっと酷い。


 本音を言えば、もうこんな試合など、試合放棄したい気分だ。

 だがこの準決勝に勝てば、上級職ハイクラス転職クラスチェンジできる。

 だからオレは内心で心底うんざりしながらも、試合を続行することにした。


 まあいいや、そろそろ野郎も限界っぽい。

 ならば早いところで勝負を決めるか。


 オレはがっちりとガードを固めて、重心を後ろに置いて構える。

 対するオリスターは両腕を曲げて、ウィービングしながら前進して来た。


 射程圏内に入るなり、オリスターが至近距離から速いワンツーを放った。

 オレはオリスターのワンツーを躱し、逆に鋭い左ジャブを連打する。

 だがオリスターも気力を振り絞り、

 オレのジャブを一発、一発丁寧に回避する。


「……オマエ、やるだニャン!」


「あっそ、オマエはチャンプとしての誇りの欠片もない

 戦いっぷりだな。 違う意味で尊敬してやるよ」


「何とでも云えニャン。 このオリスターにあるのは

 シンプルなたったひとつの思想だ……たったひとつ!

 『勝利する』! ただそれだけだ。 それだけが満足感だニャン!」


「ハンッ! なんだかそれっぽい事を云って誤魔化してんじゃねえぞ!」


「過程や方法なぞ……どうでもよいのだァ――――――ッ!!」


 するとオリスターはその場に大きくしゃがみこんだ。

 またあのローブロウ攻撃か?

 あるいは跳び膝蹴りか?

 どちらでも構わん! 必ず躱す!!


「ハアァァァッ……猫跳びヘッドバット!!」


 オリスターはそう叫びながら、ジャンピングヘッドを繰り出した。

 もうコイツ、ヤケクソに近いな。

 だがある程度こういう事をすることは想定内だった。

 そこでオレはバックステップして、

 オリスターのジャンピングヘッドを綺麗に躱した。


 最早、怒る気もしねえよ。

 とはいえ負けてやるつもりもない。

 オレはそう思いながら、

 左ジャブをカウンター気味にオリスターの顔面に喰らわせた。


「ぎ、ギャニャァァァアッン!!!」


 オリスターは意味不明な悲鳴を上げながら、

 後方に吹っ飛んで背中からキャンバスに倒れ落ちた。

 するとレフェリーがオリスターの方を見ながら、固まっていた。

 そして視線を何処かに移してから、ゆっくりとカウントを数え始めた。


「ワァァァン、ツゥゥゥ、スリィィィィィィ……」


 ん? 相変わらずロングカウント気味だがさっきよりはマシだな。

 するとオリスターが身体を震わせながら、ゆっくりと立ち上がった。

 ほう、まだやる気なのか?

 その闘志だけは褒めてやるよ。


 するとレフェリーはオリスターのグローブを拭いて、

 「ファイト」と試合の続行を告げた。

 このラウンドで既に二回ダウンを取ったな。

 後、一度倒せばオレのノックアウト勝ちが確定する。

 そういうわけだ、ちゃっちゃと……ん?


「フゥゥゥ……ウウウッ……ウウウゥゥゥッ!!」


 オリスターが低い声で唸りながら、

 両眼を充血させながら、こちらを睨んでいた。

 なんか少し危険な感じがする。

 と思った矢先に異変が起きた。

 オリスターは右手のグローブでこちらを指しながら――



「フゥゥゥ……ウウウッ!! ――ニャニャン!!」



 と、叫ぶなり、オリスターの右手の手のひらから、

 ビーム状の気孔波きこうはが放たれた。


「ハァっ!? 何とち狂って……ってアブねえぇぇぇっ!?」


 オリスターが放ったビーム状の気孔波がオレの左頬を掠った。

 おい、おい、おい、ふざけんじゃねえぞ!!

 とち狂って気孔波をぶっ放すのは流石に限度超えているだろ!

 ローブロウや飛び膝蹴り、頭突きよりもっと悪質じゃねえか。

 というか今の急所に貰ったら、死んでいたぞ、間違いなく!


 そしてオリスターが放ったビーム状の気孔波は、

 リングの四方を囲む形で置かれていた吸魔石に魔力を吸収された。


「ビー、ビー、ビーッ!!」


 魔力を吸収した吸魔石が警音を鳴らした。

 するとレフェリーはまた遠くに視線を向けてから、

 何秒か考え込んでから、オリスターを注意した。


「オリスター選手、今のは故意かね?」


「い、いや急に興奮して打っちゃっただニャン!」


「……そうか、以後気をつけるように!」


「はいだニャン!」


 おい、ふざけんなよ、それで終わりかよ!?

 普通に反則負けレベルの反則だろ!!


「へ? 注意だけで減点もないのか?」


 するとレフェリーは困った表情になり――


「……そうだな、罰として減点一にしよう。

 これならばキミも観客も不満は――」


「はぁ? それですませるのかよ!?

 最低でも減点3、いや5だろ!!」


「そうだ、そうだ。 いくら何でも酷すぎるぞ!!」


「テメエ、運営から金でも貰ってんのかよ、クソレフェリー!!」


「さ、流石に減点一はないと思うだニャン!

 というかなんかオリスターを応援する気が失せただニャン!」


「客を舐めるのも大概にしろ!」


 観客席から罵声、怒号が飛び交い、リングに物が投げ込まれた。

 うお、流石にこれだけ物を投げ込まれると全てを避けるのは厳しいぜ。

 

「ただいまのオリスター選手の反則行為は減点五とします。

 後、リング上に物を投げ込まないでください!」


 と、司会役のヒューマンの女がリングに上がり、

 魔道具を片手に大きな声でそう告げた。

 それによって観客の怒りも少しは収まり、物が投げ込まれることはなくなった。

 そして一分程、休憩が挟まれ、

 司会の女やレフェリーがリング上に投げ込まれた物を片付けた。 


 あ~、本当に酷い試合だ。

 なんかもの凄くやる気が失せてきた。

 でも試合は投げないぜ。 

 もういい、後一回倒してさっさと試合を終わらさせよう。


「では試合再開! ファイト!」


 レフェリーがそう宣言して試合が再開された。

 するとオリスターは両手をガードを上げながら、ゆっくりと前進して来た。


「……最早オイラの信用は地に堕ちた。

 だがオイラにも意地がある。 チャンプの座だけは渡さないだニャン」


「自業自得だろ? というかもうオマエと話すのも面倒だ。

 もう言葉は必要ねえ、後は拳と拳で語りあおうぜ」


 オレはそう言って、身構えた。

 するとオリスターもファイティングポーズを取った。


「それもそうだニャン。 では行くニャン!

 ニャンプシー・ロール最大パワーッ!!」


 オリスターは身体で八の字を描きながら、強烈な左右のフックを振るった。

 なかなか重そうな一撃だ。 だが当たらなければなんてことはない。

 オレは慎重にオリスターのパンチを見切りながら、

 時にはガード、ブロック。 時にはスウェイバックなどで回避する。


 オレもオリスターのフックを躱しながら、

 お返しの左右のフックを繰り出したが、オリスターはそれを華麗に回避。

 お互いに左右のフックの連打を繰り出すインファイトを仕掛けた。


 だがオレの左右のフックはことごとく外れた。

 なんだ、この野郎。 まともに戦っても強いじゃねえか。

 ならあんな卑怯な真似するなよ。

 チャンプなら正々堂々と戦え、正々堂々とな。


 そうこうしているうちに刻々と時間が過ぎていく。

 残り時間は二分くらいか。 やべえな、判定勝負になればオレの負けだろう。

 となると後一回倒して、ノックアウト勝ちしたいところだが、

 本気を出したオリスターのスピードは異様に早かった。


「――くっ! せい、せい、せい、せいやぁ!」


 オレは多少強引だが力任せに左右のフックを繰り出した。

 オリスターはそれをウィービングを駆使して回避する。

 ん? あれ? なんかコイツ、パンチを避ける時に

 一瞬、パンチを出した方向に視線を向けたぞ。


 オレは更に左右のフックを連打した。

 するとまたウィービングで回避されたが、

 やはりオリスターはパンチを出した方向に一瞬視線を向けた。

 ……あ、オレ、なんか気付いちゃったかも!


 オレはそこから「あっち向いてホイ」のように、

 左手で左を指さした。 するとオリスターも右に顔を向けた。

 ……。 そこからオレは右手で右を指さした。

 するとオリスターも左に顔を向けた。


 成る程、そういう事か。

 なんだかんだでコイツも猫族ニャーマンなんだな。

 猫の特性が強く残っているようだ。

 そして次の瞬間にオレはとある必勝法を思いついた。


 だがこれを実行すれば、周囲から顰蹙を買うだろう。

 でもこんなクソ試合の最後を飾るには相応しい手でもあった。

 よし、ならばやってみるか!

 オレもプライドを捨てて、勝利を掴みに行くぜ!


 そしてオレはオリスターの目の前で、

 両手を突き出して掌を合わせて叩いた。

 すると「パン!」という音と共にオリスターが後ろに飛び退いた。

 そう、今のは猫騙ねこだましだ。

 まさか猫族ニャーマンにも通用するとはな。


 そしてオレは思いっきり前へ踏み込んで、

 右ストレートをオリスターの腹部に打ち込んだ。


 するとオリスターの顔面は大きく歪み、口からマウスピースが吐き出される。

 オリスターの身体は後方に大きくぶっ飛び、ロープに背をぶつけた。

 それでも衝撃は収まらずに、ロープを振り切って場外へと吹っ飛んだ。

 そしてもんどりうって背中から闘技場の床に倒れるオリスター。


 その眼は虚ろに白目を向いて、口から泡を吹いていた。

 あまりにも壮絶な幕切れに場内の時間がしばらく止まった。

 そして我に返ったレフェリーがまたも遠くに視線に向けた。


 すると無言で何度か頷いてから、こちらに視線を向ける。

そしてレフェリーが両腕を交差させた。


「勝者、ラサミス・カーマイン!!」


 どうやら反則負けにはならなかったようだ。

 まあ当たり前と言えば、当たり前だが一抹の不安はあった。

 すると勝利が確定した為に気が緩んだのか、オレは左膝をマットについた。

 リング外に堕ちたオリスターは、長々と地面の上に横たわっていた。


 第3ラウンド9分23秒。

 それが正式なKOタイムであった。

 そして沸き立つ観客席。 オリスターはまだ地面に横たわったままだ。


 その光景を見て俺は初めて勝利の実感を得た。

 酷い、酷すぎる試合だったが、なんとか勝つ事が出来た。

 だが勝利の喜びより、重圧から解放された気分の方が強かった。


 これで俺はようやく上級職ハイクラスになれるぜ。

 そういや準優勝でも2500万グラン(約2500万円)も貰えたな。

 これはなかなかビッグな報酬だな。


 そう思うと自然と表情と心が和らいだ。

 そして周囲から野次や怒声、拍手を浴びながら、

 オレはやや複雑な心境ながら、勝利の余韻を噛み締めた。



 準決勝戦 ラサミス・カーマイン【ヒューマン♂】 3R9分23秒KO勝ち



---------



 翌日の12月26日の決勝戦。

 ルーベン・オリスターとの死闘?に全てを出し尽くした

 ラサミス・カーマインは続く決勝戦でウソのようなボロ負けをした。







 ――というわけではないが、

 決勝に勝ち進んだことによって満足してたのも事実。

 そしてオレは迎えた決勝戦で竜人族のジョーン・スパイダーを相手に

 果敢にインファイトを挑み、一進一退の攻防を繰り広げた。


 しかしラウンドを重ねるごとに経験キャリアの差がじわじわと出て来て、

 スパイダーが着実にポイントを奪っていった。

 それで焦ったオレは猛攻をかけたが、逆にカウンターでダウンを奪われた。

 

 だが逆にオレはそれで冷静さを取り戻し、

 最終ラウンドまで果敢に前へ出た。

 そして試合終了間際にダウンを奪ったが、時既に遅し!

 

 結局、勝負は判定決着に持ち込まれて、

 スパイダーの僅差の判定勝ちとなり、オレは準優勝に終わった。


 この結果により、オレは黄金の手(ゴールデン・ハンド)転職クラスチェンジの資格。

 それと準優勝の賞金2500万をゲット。

 これで念願の上級職ハイクラスになれるぜ。

 

 なにせよ、これで下準備は整った。

 だが今日くらいはゆっくりしてもいいだろう。

 そしてオレは表彰式を終えて、仲間と共に拠点ホームへ戻った。



 決勝戦 ラサミス・カーマイン【ヒューマン♂】判定負け


 第二十回下半期【四種族混合・無差別級フィスティング大会】

 ラサミス・カーマイン【ヒューマン♂】準優勝


次回の更新は2021年4月10日(日)の予定です。



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― 新着の感想 ―
 ラサミスのボクシング大会は白熱してましたね。魔族の戦いとは別の迫力がありました。  ではまた。
[一言] 準優勝。 まぁ、メインがvsオリスターだったのならしょうがない。 気になったのですが、猫アレルギーの人は猫族の対応をどうするのでしょうか。中の人は重度の猫アレルギーだから、多分死にかけると…
[良い点] 準決勝までの、 純粋なボクシングスタイルの描写。 本物の試合を見ているかのように、 分かり易くかっこよかったです。 [一言] ニャーマンチャンプ、オリスター。 ひどすぎる(笑)まぁ猫族らし…
2021/08/13 07:58 退会済み
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