第二百九話 大会運営の思惑
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---ラサミス視点---
翌日の12月25日。
この日も検診と軽量が行われて、オレは無事にそれをパスした。
そして選手控え室へ行き、試合開始までゆっくりフォームアップする。
今日は兄貴とアイラに加えてドラガンにもセコンドについてもらった。
「ラサミス、体調は大丈夫?」
「おうよ。 エリスの回復魔法で完全に癒やされたよ」」
「でも準決勝まで勝ち上がるなんてやるじゃない」
「ありがとよ、メイリン。 この調子で決勝まで勝ち進むよ」
「でも今日の相手の猫族は曲者らしいわよ」
「ああ、ミネルバ。 オレも今日の試合がある意味一番重要と思ってる」
「ラサミスお兄ちゃん、頑張ってね!」
「マリベーレ、応援よろしく頼むぜ」
うむ、なんだかんで皆、気を使ってくれてるな。
こりゃ何としても勝つしかねえな。 ん?
「どうもニャ! ラサミスくんは居るかニャ?」
そう言って現れたのは、猫族の第二王子のマリウス王子だ。
いつものように左右にお供のメインクーンを二匹連れている。
高そうな白い絹のシャツに黒い礼服というスタイルだ。
「え? なんでマリウス王子がここに居るんですか?」
「エルフ領の戦いも一息ついたからニャ。 こう見えてボクも王族。 年末、年始のセレモニーには参加してた方がいいからね。 それに今日は猫族の希望の星、ルーベン・オリスター選手が出るからね。 だからわざわざ観に来たんだニャ」
「はあ……そうッスか。 ん?」
よく見るとマリウス王子の後ろに二匹程、猫族が立っていた。
一匹はマリウス王子同様、
白い絹のシャツに黒い礼服というスタイルのトンキニーズだ。
なんか利発そうな顔つきだ。
もう一匹は真っ白なワンピースドレス姿の白いスコティッシュフォールド。
顔つきと格好からして、雌っぽいな。
「どうも、ラサミス選手。
ワタシは猫族王族の第一王子のアーベルです」
「は、はい……アーベル王太子殿下、お初にお目にかかります。
『暁の大地』のラサミス・カーマインです」
「そう堅くなることはないよ。 もっとリラックスしたまえ」
「は、はい」
なんかこの第一王子はかなりまともだな。
王様や第二王子は少しアレだが、アーベル王太子はなんか感じがいい。
「チェルシー、お前も挨拶なさい」
「はい、アーベルお兄様。 ラサミス選手、それと『暁の大地』の皆様方。 猫族王族の第一王女チェルシーです。 以後、お見知りおきの程よろしくお願いします。!」
チェルシー王女はそう言って、
スカートの裾を両手でつまんで綺麗なお辞儀した。
するとオレだけでなく、
周囲の皆も「どうも」と言ってお辞儀した。
「アーベルお兄様、ワタクシ、オリスター選手にも挨拶したいですわ」
「うむ、そうだな。 では我々は失礼するよ。
ラサミス選手、良い試合を期待してるよ」
「は、はい」
「じゃあボクも行くだニャン。 またねぇだニャ!」
そう言って、猫族の王族三匹と護衛二匹がこの場から去っていた。
……なんか調子を狂わされたなあ。
まあいいや、オレはオレのやれることをやるまでだ。
「じゃあ、わたし達もそろそろ観客席へ行きましょうか」と、エリス。
「そうね、じゃあね」と、メイリン。
「頑張りなさいよ」と、ミネルバ。
「じゃあね、ラサミスお兄ちゃん」
「おうよ、まあしっかり応援してくれよ」
オレはそう言って、エリス達に手を振った。
まだ試合まで時間があるな。
少し寝るか。
「兄貴。 オレ、軽く横になるから時間がきたら起こしてくれよ」
「ああ、分かった」
オレはそう言葉を交わして、
控え室の長椅子の上で仰向けになって、軽く目を閉じた。
---三人称視点---
闘技場のVIPルーム。
VIPルームは光沢感のある耐魔硝子に覆われた豪華な一室だった。
そしてその一室に集結したのが、この大会の運営陣と来賓客、支援者であった。
そこに集まった顔ぶれの種族はまばらだった。
ヒューマンも居れば、エルフ、竜人も居る。
だが種族の比率で言えば、猫族が多かった。
そして全員が高級の黒革のソファに腰掛けながら、
大会の動向に関して、話し合っていた。
「しかし今大会もよく客が入りましたね」
と、恰幅の良いヒューマンの中年男性。
「まあそれはアレだろうね。 やはりオリスター目当ての客が多いのだろう」
と、まん丸と太ったラガマフィンの猫族がそう言った。
「ああ、奴は客の呼べる拳士だ。
奴には是非、優勝してもらいたいものだ」
と、長身痩躯の白髪の男の竜人がそう相槌を打つ。
「そのオリスターの相手が問題だ」
と、黒服に身を包んだ灰色ハイランダーの猫族が神妙な声でそう言った。
「……ほう、天下のドン・ニャルレオーネがそう言うとは、なにやら訳ありの相手みたいだね」
と、白い礼服姿の気取った感じの男のエルフがそう返す。
するとドン・ニャルレオーネと呼ばれた灰色ハイランダーの猫族は、
右手で頬杖を突きながら、低い声でこう告げた。
「オレはめんどくさい駆け引きが嫌いだ。 アンタ等の本音は人気のあるルーベン・オリスターに優勝してもらいたいんだろ? それはオレも同じさ。 オレもこの試合で奴に多額の金を賭けている」
「……ドン・ニャルレオーネ、それはまあ我々も同じです。 奴は客を呼べるスターです。 こういう奴が居ると色々盛り上がる。 ですから我々、大会運営としても奴に勝ち残って欲しいし、その為には多少の不正行為なども目を瞑るつもりです」
と、恰幅の良いヒューマンの中年男性。
「ああ、オルテール。 オレもそれに関しては文句を云うつもりはねえ。 だが準決勝のルーベンの相手が噂に名高い「雷光のライル」の弟らしい」
「そ、それは本当なのですか?」
オルテールと呼ばれた恰幅の良いヒューマンの中年男性がそう聞き返す。
するとドン・ニャルレオーネは小さく欠伸してから、こう付け加えた。
「ああ、事実だ。 だからあまりあからさまな地元判定などは控えるべきだと思うぞ。 云うなら奴は――ラサミス・カーマインは若き英雄の弟だ。 そういう奴を冷遇すると後々面倒なことになりかねん」
「ほう、流石は天下の猫族マフィア。 色々とお詳しいですな」
「うるせえぞ、アラルカン。 一々、冷やかすんじゃねえよ」
と、ドン・ニャルレオーネは白い礼服姿のエルフを睨みながらそう言う。
するとアラルカンと呼ばれた白い礼服姿のエルフはわざとらしく両肩を竦めた。
「怖い、怖い。 そう睨まないでくれよ、ドン・ニャルレオーネ」
「ふん、テメエもオレと同じマフィアじゃねえか。 気取るんじゃねえよ」
と、ドン・ニャルレオーネ。
「ふふっ、最近の我々エルフィッシュ・マフィアは表稼業で稼いでますよ」
「それはオレ等も同じよ。 一々、威張ることじゃねえよ!」
「まあまあ、喧嘩はやめましょうや。 今日は楽しい席ですので!」
と、まん丸と太ったラガマフィンの猫族がそう言って場の空気を和らげた。
するとドン・ニャルレオーネとアラルカンも空気を読んで、
それ以上相手を煽るような言葉は発さなくなった。
「では話を戻しましょう。 結局、我々としてはどうすべきでしょうか?」
と、まん丸と太ったラガマフィンの猫族。
するとドン・ニャルレオーネは「ふむ」と頷いてから、こう付け加えた。
「そうだな、あまり露骨な地元判定や審判は避けるべきだろうが、やはりある程度はオリスターが、優位になるように試合を運ぶべきだろう。 フレディさん、今日の試合のレフェリーには、その辺のところを言い含めているのかい?」
「ええ、その辺は毎試合、上手いこと言い含めております」
と、フレディと呼ばれた太ったラガマフィンの猫族。
「そうか、ならばオレとしても云うことはねえ。 まあ対戦相手の小僧が少々気の毒だが、世の中ってはこういうもんだ。 こういう大会はただの競技大会でなく、興業でもあるからな」
「そうですね。 あっ、猫族の王族の方々が戻ってきたようです。 これ以上、この話はやめておきましょう」」
オルテールがそう言うと、他の者も急に黙り込んだ。
そして何食わぬ顔で猫族の王族を笑顔で迎え入れた。
「ニャ、ニャ。 さあいよいよ準決勝が始まるだニャン!
さあアーベル兄様、チェルシー一緒に観るだニャン!」
と、マリウス王子。
「そうしようか。 チェルシーはワタシの隣に座りなさい」
「はい、アーベルお兄様」
チェルシー王女はそう云って、アーベル王太子の左隣の席に座った。
「猫族王家の皆様に喜んで頂けて、光栄の極みです。
我がオルテール商会も大会を支援した甲斐があります」
「ええ、全くですな。 我々、エルフィッシュ・カンパニーも出資した甲斐があります」
と、微笑を浮かべるアラルカン。
「うむ、そろそろオリスター選手の出番ですな。
ここは皆でオリスター選手が何ラウンドで勝つか、予想しませんか?」
「お、それは面白そうだな」
ドン・ニャルレオーネの言葉に、長身痩躯の白髪の男の竜人が相槌を打つ。
「それは面白そうニャ。 ニャ、でもボクはラサミスくんとも知り合いだからなぁ。 どっちを応援するか、悩むニャ~」
「それは贅沢な悩みですね」
マリウス王子の言葉に、フレディが笑顔でそう答えた。
だがよく見るとそれは何処か小馬鹿したような笑いであった。
そしてそれは猫族王家以外のこの場に居る全員も
同様の笑いを浮かべていた。
そんなことを露知らず、マリウス王子は無邪気にはしゃいでいた。
次回の更新は2021年3月28日(日)の予定です。




