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【天使編開始!】黄昏のウェルガリア【累計100万PV突破】  作者: 如月文人
第三十六章 無差別級フィスティング大会
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第二百六話 準々決勝(前編)


---ラサミス視点---


 翌日。

 試合会場である娯楽区の円形状の闘技場は満員御礼だった。

 闘技場の観客席にはびっしりと観客が詰め寄せており、

 闘技場前の露天なども賑わっていた。 


 それだけこの無差別級フィスティング大会の注目度が高い証だ。

 当然その恩恵は出場選手であるオレ達にも返って来る。

 高額な賞金と上級職ハイクラス転職クラスチェンジの資格。


 職業ジョブギルドのカレン曰く、

 この大会で優勝すれば貴族や富豪ともコネクションが出来て、

 後援者パトロンになってくれる事も珍しくないとの話。


 なかなか夢のある話だ。

 だが今は戦いに集中しよう。 

 その後の事はまたその時に考えればいいのさ。


 午前中に軽量と検診が行われた。

 オレを含めた八人、否、七人と一匹全員が無事にそれをパスした。

 その一匹は噂のルーベン・オリスターだ。

 なんかおちゃらけた野郎だな。 まあ今は目の前の試合に集中しよう。


 そして正午を迎え、準々決勝が開始された。

 オレは準決勝第三試合なので、選手控え室で自分の出番を待った。

 そして順調に試合が消化されて、オレの出番がやってきた。


「ただ今より第二十回四大種族混合・無差別級フィスティング大会の準決勝第三試合を行います。 まずは新進気鋭の新参者ニュービーラサミス・カーマイン選手の入場です!」


 リング上の司会役の妙齢のヒューマンの女が拡声効果のある魔道具を口元に当てて、会場の皆に聞こえるように軽く叫んだ。 そしてオレは控え室から出て、身体を少し揺らしながら入場する。


新参者ニュービーの癖に頑張るじゃねかぁー!!」


「どうせなら優勝を狙えっ! 優勝を!!」


「ラサミス、今日も頑張ってね!」


「ラサミス、今日も稼がせてもらうわよ!」


 観客席から怒声と歓声が沸き立つ。

 エリスやメイリン達の声もよく聞こえる。


「続いて竜人族の希望の星! 上半期の大会のベスト4!!

 デミトリー・アライブ選手の入場です!」


 俺の対戦相手は竜人族か。 しかも前大会のベスト4。

 体力面では向こう分がありそうだ。 こいつは警戒した方がいいな。


「頑張れ、デミトリー! ヒューマンなんかに負けるんじゃねえぞ!」


「デミトリー! お前はオレ達、竜人族の誇りだぁっ!」


「そんな小僧なんぞ瞬殺しちまえ! 得意のフリッカーでKOだ!」


 あら、あら。 観客席の竜人族が沸いているな。

 というかこのリアーナにこんな多くの竜人族が居たのか?

 まあ注目度の高い大会だ。 各地から集結した可能性もあるな。


 オレの対戦相手であるデミトリー・アライブは短髪の赤髪。

 そして頭部に短い漆黒の二本の角と、何処から見ても竜人族という姿で、

 身長は185くらいありそうな筋骨隆々の肉体。

 上半身は裸で下半身は黒いトランクス姿という格好。


「よろしくな」と、デミトリー。


「ああ、お互い良い試合をしようぜ」


「……ああ」


「――ではラサミス・カーマイン対デミトリー・アライブによる

 準決勝第三試合開始! レッツファイトッ!!」


 レフェリーがそう宣言すると、試合開始のゴングが鳴らされた。

 オレ達は軽くにらみ合いながら、すり足で動き出した。

 上下左右に身体を揺らせて、オレはリング中央へと進む。

 しゅしゅしゅっ、という音と鳴らして、オレは左ジャブを繰り出した。


 だがデミトリーは慌てる事無く、最小限の動きで攻撃をかわす。

 オレはそれでもめげずに中間距離から右ストレートを真っ直ぐに突き出す。

 しかしまたも空を切る。 デミトリーが口元に微笑を浮かべた。


「どうした? 貴様の力はこんなものか? ……だとしたら幻滅だな」


「ふん、奥の手は最後まで取っておくものさ……」


「ほう、面白い。ならば貴様の本気見せてもらおう、……行くぞ!」


 デミトリーが笑みを消して、眼に殺気を籠める。

 それと同時に閃光のような左ジャブの連打が飛んできた。 

 オレは二発、三発と躱したが、四発目がオレの顔面にヒット。

 重くて芯に響くジャブ。 更に一発、二発と喰らった。

 ちっ、ジャブでも結構キツいな.

 オレはそこから巧みな足捌きで距離を取り、左ジャブで応酬する。


 オレは速くて鋭い左ジャブ連打。

 ガードするデミトリーの手にも確かな重みが伝わるが、命中までには至らない。

 逆にデミトリーのジャブは面白いように決まる。

 五月雨のような怒涛の攻撃。


 オレはパーリング、ヘッドスリップ、

 ダッキングなどの防御技術ディフェンス・テクニックを駆使して防御、回避する。

 だが全てを防御するのは不可能。 デミトリーの左は更にキレが増す。


 すると不意にデミトリーが左ガードを大胆に下げた。

 デミトリーは左腕をだらりと下げながら、ゆさゆさと振り子のように動かす。


「も、もしかして……ヒットマンスタイルか!?」


 オレは思わずそう叫んだ。

 この構えはオフェンス、ディフェンス共に有効な攻防一体のスタイルだ。

 あのだらりと下げた左腕からフリッカージャブと呼ばれる

 変則的な左ジャブを放ち、相手の突進を食い止めるのだ。


 そしてフリッカージャブを避けて、懐に飛び込んだとしても、

 次に待ってるのは右のチョッピングライトだ。

 離れていたらフリッカージャブ、接近すればチョッピングライト。

 この二つのパンチで常に主導権を握るのが、このファイトスタイルの特徴だ。


 だがこのファイトスタイルはリーチが長くないと成立しない。

 更にディフェンスに関しては、並外れた目と反射神経の良さが求められるので、

 並の拳士フィスターでは、このファイトスタイルを使いこなす事は不可能だ。


 クソッ、これは厳しい戦いになりそうだぜ。

 でも考えてみれば、この試合は準々決勝。

 ここまで勝ち残った連中が弱いわけがない。

 だがオレも遊びでこの大会に参加したわけじゃない。

 オレはそう思いながら、闘志を高めてゆっくりとした歩調で前へ進んだ。


次回の更新は2021年3月24日(水)の予定です。



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