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【天使編開始!】黄昏のウェルガリア【累計100万PV突破】  作者: 如月文人
第三十五章 荒馬(あらうま)の轡(くつわ)は前から
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第二百三話 暗黒(あんこく)の森人(もりびと)


「なんか随分と薄暗いところね」


「まあダークエルフは暗黒あんこく森人もりびとだからな」


 エンドラとグリファムは薄暗い暗黒の森を進みながら、

 そう言葉を交わす。 薄暗い原因の大半は、

 所々に生えた樹木の生い茂っている葉が太陽の光を遮っているからだが、

 樹木から放たれる濃い魔力が不気味さを助長していた部分はある。


「ねえ、アンタ。 え~となんて名前だったけ?」


「私は情報部隊の隊長マーネスです。

 そしてこちらは半人半魔はんじんはんま部隊の頭目とうもくワイズシャールです」


「ふうん、半人半魔はんじんはんま部隊ねえ。 まあよろしく~」


「……よろしくお願いします」


 エンドラの言葉に半人半魔はんじんはんま部隊の頭目であるワイズシャールは、

 漆黒のフーデットローブを目深に被りながら、小さく頭を下げた。

 

 半人半魔はんじんはんま

 その名の通り魔族と人間の混血児こんけつじの事を指す。

 しかし彼等、彼女等の魔族社会における序列カーストは最下層に近い。


 だが見た目は人間と然程さほど変わらない。

 故に斥候や偵察、密偵役に向いている為、

 半人半魔で構成された半人半魔はんじんはんま部隊が何十年も前から存在している。

 

 エンドラとグリファムもその部隊の存在は知っていたが、

 二人は半人半魔はんじんはんま部隊に対して然程、興味を持ってなかった。

 だからこの場で彼等の頭目と同行することに、

 対しても不平不満を漏らすことはなかった。


 エンドラはマイペース、グリファムは生真面目な性格だったので、

 この場でワイズシャールを見下したり、

 侮蔑するような真似はしなかった。


 二人としてはさっさと任務を終わらせたかった。

 今回の任務はダークエルフの里を訪れ、そのおさと談判すること。

 その最中で相手と何らかの駆け引きをする必要がある。

 そして二人はそういう駆け引きがあまり得意ではない。


 だから同行者は何人か居た方がいい、

 という事で今回の任務も、いつもと変わらぬ気持ちで挑んだ。


 しかし実際この目で見る暗黒の森は、

 今まで直に観たどんな森より暗かった。

 木々が風で揺れる音、足元の木の枝が折れる音。

 それ以外は自分達の会話と呼吸しか聞こえない。


 そんな感じで森を進むこと、三十分。

 ようやくダークエルフの集落らしき場所を発見。

 だがするとエンドラ達の前に黒い物体が突如現れた。


「――オマエ等、ナニモノダ?」


 と、甲高い声が聞こえてきた。

 だが聞き覚えのない言語だ。

 ヒューマン語でも魔族語でもない。


 よく観るとその黒い物体は、蝙蝠のような漆黒の両翼を持ち、

 その顔はネコ科の動物のように少し愛嬌があった。


「コイツってグレムリンでしょ?」と、エンドラ。


「ああ、そのようだな。 

 ダークエルフが使い魔として使ってるようだな」


 と、グリファム。


「――ワイズシャール、通訳を頼む!」


「はっ!」


 情報隊長マーネスにそう命じられたワイズシャールは、

 何歩か前へ出て、グレムリンにエルフ語で話しかけた。


「ナルホド、オマエ等――イヤアナタ達ガ魔族ノ特使とくしナノネ!

 ヨウコソ暗黒ノ森ヘ、少シソコデ待ッテテクダサイ!」


「はいはい、でも出来れば早くしてね~」


「――善処シマス!」


 と、エンドラがグレムリンと言葉を交わす。 

 そしてグレムリンが全身から魔力を発すると、

 周囲の森の茂みから、武装したダークエルフの一団が現れた。


「……何? もしかして、アタシ等とやり合う気?」


 エンドラはそう言って、身構えながら全身から魔力を発した。

 するとダークエルフの一団の一人がゆっくりと前へ出て来た。


「いえそんなつもりは毛頭ありませんよ。

 ただ我々も魔族の特使の方を迎えるのは、

 初めての事なんで少し強めの警備体制を敷いていたのです」


 と、魔族語で話し掛けてきた。


「ふうん、なら戦う気はないのね?」


「はい、今から長老の所へ案内するのでついてきてください」


「はい、はぁ~い。 んじゃグリファム、さっさと用件済ませよう」


「……そうだな」


 エンドラ達は言われたまま、案内役のダークエルフの一団のあとについていった。

 それから歩くこと、三分。

 エンドラ達はダークエルフ達の集落に到着。

 そして集落の入り口で身体検査されてから、中へと入った。

 

「長老はこちらです」


 そう言われて、エンドラ達は再び案内役の後をついていく。

 するとこの集落では、一番立派と思われる建物の姿が見えた。

 木造建築の三階建ての館。


 この暗黒の森は非常に強い魔力を含んでおり、

 このレリーとう全体に非常に強い結界が張られている。

 そして集落の奥の方に暗黒大樹と呼ばれる大樹が立っていた。

 ダークエルフはこの暗黒大樹のふもとを拠点として暮らしていた。


「それでは中にお入りください」


 そして館の二階に通されると、

 部屋の奥に護衛らしき若者を傍に、

 連れた長老と思われる男のダークエルフが座っていた。

 その男の顔は見事なまでに整っており、

 薄い若草色わかくさいろの法衣を身にまとっていた。

 端整な顔立ちをしているが、無表情で感情が読みづらかった。


「魔族の特使の皆様、遠路はるばるご苦労様です。

 わたくしはダークエルフの長老を務めているリーンバッシュと

 申します。 どうか楽な姿勢でおくつろぎください」


「いいわよ、立ったままで、で悪いけど早速本題に入るわよ?

 ぶっちゃけ聞くけど、アンタ等、ダークエルフは魔王軍に忠誠を誓うわけ?」


「これまた性急ですな」


「まあね。 かったるい駆け引きとか嫌いなのよねん♪」


 するとリーンバッシュは「コホン」と軽く咳払いした。

 そして表面上は丁寧だが、やや険のある声でこう返した。


「確かに我々、ダークエルフはここ数十年以上に及んで、魔族の方々と懇意にさせてもらってますが、明確な主従関係を結んだわけではありません。 そして我々、ダークエルフにも誇りというものがあります。 その辺をご考慮していただけないのであれば、この場にて話すことはありません」


 リーンバッシュはやや突き放す口調でそう言う。

 するとエンドラは「むう」と唸り、柳眉を逆立てた。

 やや険悪な空気が両者に流れたが、その空気を変えるべく、

 情報隊長マーネスが一石を投じた。


「エンドラ殿、ここは私にお任せください」


「あっそ、んじゃアンタに任せるわ」


「はい、……リーンバッシュ殿が言われるように

 我々、魔族とダークエルフは明確な主従関係を

 結んだわけではありません。 ですが今後の双方の

 立場を考えたら、もっと歩み寄る必要があると思います」


「ええ、わたくしもそう思っております」


 マーネスの言葉に、リーンバッシュが軽く同調する。

 そしてマーネスは更に譲歩するようにこう付け加えた。


「とはいえ魔族もダークエルフも長い歴史を持つ種族。

 故においそれと共存するのは難しいでしょう。

 ですが状況に応じて、協力関係を結ぶことはできます」


「はい、……それで今回の魔族――魔王様は、

 我々ダークエルフに何をお望みなんでしょうか?」


「……端的に申し上げます。 近々、敵――四大種族連合軍が

 艦隊を率いて、大猫島に攻勢をかけようとしてます。

 ですが我々、魔族の海上戦力はあまり高くはありません」


「ふむ、それで?」と、リーンバッシュ。


「ですので貴方方あなたがたの配下であるダークエルフの海賊達の

 お力を借りたいのです。 勿論、それ相応の対価は払います」


「ふむ、やはりその件でございましたか」


「……我々の意図にお気づきだったのですか?」


「ええ、我々も数百年の歴史を持つ種族です。

 こう見えてあらゆる方面に情報網を持っています」


「……でお返事の方は?」


「ええ、構いませんよ。 ただし我々とは別に海賊達が

 貴方方あなたがたに何かを要求すると思いますが、

 それを御承知の上で我々の協力を仰ぎますか?」


「ええ、それで構いません」


「分かりました。 ――今すぐアナーシアを呼びなさい!」


「はっ!」


 リーンガッシュの傍に立っていた護衛らしき若者の男が

 命じられるまま、三階に上がって行った。

 それから待つこと、二分余り。


 館の三階の階段から、

 海賊服姿の女のダークエルフ降りて来た。

 するとその女は長老の傍に歩み寄り、エンドラ達の方を向いた。


 その女は上半身に、

 白いブラウスの上にふちが金色な黒いロングコートを羽織り、

 下半身は大人の色香が漂う短めの赤いスカートに、

 黒いロングブーツというスタイル。


 他のダークエルフ同様に髪は白銀のやや短めのセミロング。

 肌も同様に茶褐色。 身長は170以上、手足も長い。

 眉目も秀麗で端正な顔立ちだが、その双眸は鋭かった。

 

「こちらがダークエルフ海賊の頭目のアナーシアです。

 アナーシア、魔族の特使の方々にご挨拶なさい!」


 すると長老にアナーシアと呼ばれた女海賊は小さくこうべを垂れた。


「どうも、魔族の皆様方。 あたしがダークエルフの海賊の頭目アナーシアです。

 見ての通り粗忽者そこつものなので、礼儀知らずな部分がありますが、

 腕には自信あるので、その辺は心配しないでください」


「……それで貴方方の要求はなんでしょうか?」


「そうね、この作戦を成功した暁には、

 魔王軍における私掠船コルセアとして、私掠免許をご所望しょうもうします!

 ただし魔王軍及び魔族に対しては、一切の海賊行為は行いません。

 海賊行為、略奪行為の対象はあくまで四大種族に限定します」


 マーネスの問いに女海賊アナーシアは明確に自分の意思を述べた。

 これらの要求は想定内だったので、

 マーネスとしても拒否する理由はなかったが、

 駆け引きとして、考え込むふりをしてみせた。


「これくらいの要求なら問題ないんじゃない?」


「ああ、オレもそう思う」


 エンドラとグリファムがそう言ってきたので、

 マーネスは駆け引きをここでやめることにした。

 そして神妙な表情で「そうですね」と答えてから、こう付け加えた。


「それなら問題ないと思います。

 私の方から魔王陛下にその件を伝えておきましょう」


「ありがとございます。 それと条件はもう一つあります」


 女海賊アナーシアは淡々とした口調でそう告げた。


「……なんでしょうか?」と、マーネス。


 すると女海賊アナーシアは少しばかり柳眉をつり上げながら――


「我々、ダークエルフの海賊団が魔族に協力したら、

 恐らく敵――四代種族側につく海賊という名のネコ共が現れます。 

 そのネコ共の頭目の始末はあたしに任せて欲しい!」


「ネコ共?」と、首を傾げるマーネス。


「ええ、ネコの分際で海賊を名乗るいけ好かない奴等が居るんですよ。

 そいつらの相手は我々に任せて欲しい。 それがもう一つの条件です!」


 どうやらこれに関しては私怨のようだな。

 だが断る理由も特にない。 なのでこの場は条件を呑もう、と思うマーネス。


「いいでしょう、貴方方が云うネコ共が現れたら、

 その時はお好きになさい。 多少の事なら目を瞑りますので!」


「ありがとうございます!

 では我々ダークエルフ海賊団は、魔王陛下と魔王軍に忠誠を誓います!」


 こうしてダークエルフ及びダークエルフ海賊団が魔王軍に加勢することとなった。 これによって大猫島における海戦に大きな影響を与えることになるが、当事者である猫族ニャーマンを初めとする海軍司令官達は、そんなことは露知らず、間近に迫った戦いに向けて奔走するのであった。


次回の更新は2021年3月17日(水)の予定です。


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― 新着の感想 ―
 魔族もダークエルフを取り込み、海軍を強化していますね。魔王も結婚を考え士気を上げようとしている。  ラサミスたちもその間に行動を起こしていますね。  猫族たちはダークエルフ海賊団と戦うようですが、ど…
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