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【天使編開始!】黄昏のウェルガリア【累計100万PV突破】  作者: 如月文人
第三十五章 荒馬(あらうま)の轡(くつわ)は前から
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第二百二話 対幹部戦に向けて

 

 三週間後の12月16日。

 オレはこの三週間、ひたすらジムや道場で鍛錬に励んでいた。 

 今まで本格的にフィスティングをやった事はなかったが、

 自分で言うのもアレだが、この三週間で実力がかなり伸びたと思う。



 とりあえず各ジム、道場のA(クラス)のランカー相手に

 ひたすら模擬戦スパーリングを重ねて、互角以上に渡り合った。

 またエリス達も買い物や演劇、サーカス観賞に飽きたのか、

 しばらくすると、各々(おのおの)職業ジョブギルドに通い始めた。

 皆、けっこうリラックスできたようだな。 良かった、良かった。




 そして翌日の12月17日。

 兄貴とアイラがようやくリアーナに帰還した。

 エルフ領のエルドリア城の近辺で一ヶ月近く不死生物アンデット部隊と

 やりあっていたが、戦力の補充が行われたので、

 一時的に休暇を与えられたとの事。



 ひさしぶりにリアーナに帰還した兄貴とアイラは、拠点ホームでくつろぎ、

 料理人シェフのジャンが腕によりをかけて、二人に御馳走を振る舞った。

 


 翌朝。

 オレ達は久しぶりに八人揃って、朝食を取った。

 すると兄貴が朝飯を食い終えた直後に――



「ラサミス、ドラガン、アイラ、それとエリス、メイリン、

 ミネルバにマリベーレ。 良かったら少し俺に付き合ってもらえないか?」


 

 と言ってきたので、とりあえずオレ達七人は「了解」と了承する。

 オレ達は小休止してから、拠点ホームの庭へ向かった。

 拠点ホームの庭は相変わらず芝生の手入れが行き届いていた。

 多分、オレ達が居ない間に、誰かが手入れしてくれたのだろう。

 


「で兄貴、何の話しかな?」



「ラサミス、フィスティングの練習の方は順調か?」



「うん、まあ結構良い感じだよ」



「そうか、なら今日はちょっと俺に付き合って欲しい」



「いいけど何をするつもりなんだい?」



「実は奴――ザンバルドを倒したことによって、

 俺のレベルが43から59まで上がったんだ。 だからこの後に冒険者ギルド、

 あるいは職業ジョブギルドに行くつもりなんだが、

 その前にお前達と少し話合う必要がると思うんだ」



 マジかよ、上級職ハイクラスのブレードマスターでレベル59か。

 まさかそんなに一気にレベルが上がるとはな。 

 野郎――ザンバルドはやはりとてつもなく強かったんだな。

 まあそれはいい、とりあえず今は兄貴の話を聞こう。



「この間の戦い――ザンバルド()との一騎打ちでいくつか

 気付いた点があるので、皆で情報を共有シェアしようと思う」



「そうだな、拙者達は直に戦いを観れなかったからな」



「うん、ライルさんがどうやって、アイツを倒したか気になってたのよ」



 ドラガンの言葉にミネルバが相槌を打つ。



「そうよね。 今後の戦いも考えたら、皆で話合っておくべきだわ」と、メイリン。



 すると兄貴は無言で頷いてから、ゆっくりと語り出した。



「まずあの戦いを直に観ていたラサミスとアイラはどういう感想を持った?」



 まあそうだな、この場に居る面子であの場に居たのは、オレとアイラだ。

 アイラは何やら考え込んでいる。 

 ここはとりあえずオレが何か言うか。



「そうだな、兄貴もだがアイザックさんも速攻技で攻めていたよね。

 あれは多分、奴に技の軌道や癖を覚えられる前に倒そうとしたんじゃない?」



「……お前、その事に気付いていたのか?」


 まあオレも少しは修羅場潜ってきたからな。

 だからそれぐらいは分かるようになってきた。



「うん、というか魔族の幹部相手には、あの攻め方が有効だと思う」



「……どうしてそう思うんだ?」


 

 アイラがこちらを見ながら、そう言った。



「なんとうか奴等は非常に戦い慣れしてるんだよね。 でも考えて見れば、それは当たり前。 なにせ奴等は数百年生きているんだ。 その年月を戦闘に費やしてきたんだ。 だから正攻法で戦うのはキツいと思う」



「うむ、拙者はこの間の戦いは観てないが、その前のライルの一騎打ち、それと港町クルレーベでのあの女吸血鬼ヴァンパイアの戦いっぷりを見る限り、ラサミスの言う事は正しいと思う。 正直、拙者じゃ奴等の相手は出来ん。 サポートに回るので手一杯だ」



「ドラさ……団長、そんな気弱なこと言わないでください」



「いやエリス、これは厳然たる事実だ。 それに拙者はもう若くない。

 拙者は猫年齢で七歳だが、人間に換算するば四十を過ぎているんだ」



「……もしかして体力的にキツいんスか?」



 メイリンの言葉にドラガンは「ああ」と小さく頷いた。

 考えて見れば、猫族ニャーマンのドラガンは体格的にも苦しかっただろう。 

 でも表面上は元気だったから、ドラガンのこの言葉は少しショックだ。



「心配するな、普通に戦う分には、まだまだ大丈夫だ。

 だがこれから魔王軍と戦うには、今まで以上にパーティの

 結束を固める必要があると思う。 だからこの場では、

 皆が思った事を云い、それを皆で考えようじゃないか」



 うむ、流石はドラガン。 リーダーに相応しい発言と振る舞いだ。

 すると張り詰めていた場の空気が良い意味で少し緩んだ。



「でもあたしは遠目からしか、魔族の幹部の戦いを観てないけど

 アイツら、接近戦も魔法戦も得意よね。 それが厄介だと思う」



「あ~、それはあたしも思ったわさ。 なんか攻防のバランスが良いのね」



 マリベーレがそう言うと、

 メイリンも両腕を胸の前で組みながら同調する。



「魔法職のメイリンから観て、幹部連中の魔法の実力はどうなんだ?」



「いやあ、もう全然レベルが違いますよ。 あたしから言わせれば、

 アイツらの一番凄い、恐ろしいところは魔法だと思いますよ」



 兄貴の問いにメイリンがやや興奮気味にそう答えた。

 そうなのか? オレは前衛寄りだからどうしても奴等の

 接近戦に目が行きがちだが、魔法職からすれば魔法の方が怖いのか。



「例えばどの辺が凄いと思うんだ?」と、ドラガン。



 するとメイリンは「う~ん」と唸りながら、少し考え込んだ。

 そして考えがまとまったのか、次のように述べた。



「まあやはり一番怖いのは、あの無詠唱ね。 

 アイツらと近接戦闘したライルさんなら、

 これに同意してくれると思うわ」



「ああ、アレは本当にえげつない攻撃法だ。

 とにかく一瞬も気が抜けない。 だが前衛職の魔法レベルじゃ

 奴等と魔法で渡り合うのは厳しい。 だから遠距離戦は駄目だ。

 かと言って接近戦を延々と続けるのもキツいし、精神がすり減る」



「うん、気を抜いたら無詠唱で零距離射撃されるもんね。

 でもあたしが気付いたのは、奴等、短縮詠唱でもかなり

 強力な魔法を撃つわ。 だから魔法職がアイツらと

 やりあうのは厳しい、というか無理と思う」



 まあ魔法職のメイリンがそう言うんだから、説得力あるな。 

 となると理想は接近戦と魔法攻撃が両方得意な職業ジョブが良い、

 と言いたいが生憎そんな都合の良い職業ジョブはない。


 

 前衛職はやはり近接戦闘型のスキルにスキルポイントを割り振るし、

 前衛職で魔法型にスキルを振っても、魔法職には及ばない。

 う~ん、このジレンマ。 

 でも敵はその両方を兼ね備えている。

 改めて考えて見ると、魔王軍の幹部は飛び抜けた存在だと分かる。



「だが私のブルーミラーシールドでは、

 奴等の魔法攻撃を跳ね返すことが出来たな。

 つまり魔法反射力の高い鎧や盾があると戦術の幅が出るのでは?」



「ああ、確かに! それだけでかなり変わってくるな」



 アイラの言葉にオレは思わず納得して頷いた。

 それは他のメンバーも同じだったようだ。



「そうだな、大きな報奨金も入ったからな。

 俺もこれを機に、装備を新調してみるかな」と、兄貴。



「じゃあオレも今度の大会で優勝でも狙うかな。

 確か優勝賞金は5000万だった筈、

 そんだけあれば色々買えるだろうしな」



「そうだな、とりあえず今日の話し合いはこれくらいにしておこう。

 敵を知る事も大事だが、まずは心身共にリラックスしないと、

 身が持たないからな。 それでは本日はこれにて解散とする!」



 オレ達はドラガンの言葉に「はい」と大きな声で返事した。

 まあ確かにそうだよな。 魔族の幹部は確かに強いが、

 奴等のことを考えていると、気が滅入るからな。



 とりあえずオレは目前に迫った大会に向けて、

 最後の追い込みの練習でも重ねるか。

 そしてオレは練習に必要な道具を持って、

 フィスティングジムへと向かった。


次回の更新は2021年3月14日(日)の予定です。


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― 新着の感想 ―
[良い点] 魔族幹部の厄介な部分は、魔法も物理も出来る部分ですよね。 ヴァンパイアクイーンとサキュバスクイーンは、魔法が得意だろうけど。噛みつきと魅了対策は必要だろうし。そう思うとクイーンの魅了に耐え…
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